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講演会・「共謀罪」って何?こんなにある問題点!(6/11くまの平和ネットワーク)レジュメ紹介

 今晩(2017年6月11日)配信した「メルマガ金原No.2840」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
講演会・「共謀罪」って何?こんなにある問題点!(6/11くまの平和ネットワーク)レジュメ紹介

 本日(6月11日)午後1時半から、くまの平和ネットワークのお招きにより、新宮市福祉センターにおいて、「「共謀罪」って何?こんなにある問題点!」という演題でお話させていただきました。
 くまの平和ネットワーク主催の講演会にお招きいただくのはちょうど4年ぶりで、前回は2013年6月23日、所も同じ新宮市福祉センターで、「今なぜ、憲法を変えようとしているのか?~危ない!平和と私たちのくらし~」と題し、主に自民党日本国憲法改正草案(2012年)の危険性についてお話したのでした。

 本日のテーマは共謀罪、18日の会期末をにらみながら、来週中の採決を目指す自公両党及び日本維新の会と野党との攻防も最終盤を迎えており、私たちにも、成立阻止に向けた最後の頑張りが求められています。

 ところで、4年前の講演会の際には、和歌山市から車を運転して新宮入りしましたが、今回は特急「くろしお」で往復しました。寄る年波とは言いたくありませんが、どう考えても電車の方が楽ですからね。
DSCN1624 そして、1時半からの講演会に先立ち、念願の「佐藤春夫記念館」を見学できたのも嬉しいことでした。館長の辻本雄一先生直々にご案内いただくことができ、まことに有意義な時を過ごせました。辻本先生ありがとうございました。
 私に先立ち、私の中学時代の同級生である林浩平さん(恵泉女学園大学特任教授・詩人)が、昨年の夏に放送大学・特別講義「文人精神の系譜―与謝蕪村から吉増剛造まで―」取材のために「佐藤春夫記念館」を訪れ、辻本館長に大変お世話になったと聞いており、また、今年の5月1日に放送されたその特別講義を視聴したところ、与謝蕪村吉増剛造をつなぐ近代の文人代表として佐藤春夫が大きく取り上げられていましたので、いよいよ今日の訪問を楽しみにしていたのです。
DSCN1627 なお、上記特別講義の内容については、ブログ「林浩平の《饒舌三昧》」に掲載された「5月1日(月)19時からの「放送大学」に出演します(吉増さんのコメント追加です)」という記事に詳しく書かれています。
 また、この特別講義「文人精神の系譜―与謝蕪村から吉増剛造まで―」は、今学期(平成29年度第1学期)中、あと2回、放送大学(BS231チャンネル)から放送されます(実は今日の20時からも放送されていたのですけどね)。 
  2017年7月22日(土)22:15~23:00
  2017年9月30日(土)13:45~14:30
 「佐藤春夫記念館」の詳細については、同館ホームページをご覧ください。新宮を訪れる機会があれば、是非立ち寄られることをお勧めします。
  
 会場となった新宮市福祉会館では、講演会「「共謀罪」って何?こんなにある問題点!」開始に先立ち、来る7月30日(日)に同じ会場で開催される「第4回 くまの平和の風コンサート」の宣伝を兼ねて、有志による演奏が行われました。歌われたのは、ボブ・ディラン作、中川五郎訳詞による『風に吹かれ続けている(風に吹かれて)』でした。というのも、今年の「くまの平和の風コンサート」では、中川五郎ライブ!が行われるのです。うーん、聴きたい。しかし、和歌山市で「こどもピースフェスタ」があるし・・・困った。
 いずれにしても、近く、今年の「くまの平和の風コンサート」をメルマガ(ブログ)でご紹介します。

DSCN1638 さて、主催のくまの平和ネットワークと後援の「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会の代表を兼ねる二河通夫先生による身の引き締まる開会のご挨拶に続き、質疑応答30分を含め、約2時間のお話をさせていただきました。講演の内容については、
以下にレジュメを転載することでご紹介に代えたいと思います。

 講演会終了後、開催のためにご尽力いただいた、くまの平和ネットワーク事務局(でしょうか?)の皆さんと、かなりの時間、近くのコーヒーハウスで懇談できたことも有意義でした。今回は、車ではなく電車で行ったたため、帰りの特急の発車まで2時間以上余裕があったから(それだけ本数が少ない)ということもあるのですが。

 今年の2月6日からこのメルマガ(ブログ)で始めた共謀罪シリーズの、これが第32
回となりますが、情勢がどう動こうとも、これが最終回とはならないことだけは間違いないでしょう。

2017年6月11日(日) 於:新宮市福祉センター
主催:くまの平和ネットワーク
後援:「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会
 
      「共謀罪」って何?こんなにある問題点!
 
                                弁護士 金 原 徹 雄
  
 
1 現在(6月11日)国会(参議院)で審議されている法案について

(1)共謀罪前史
 2000年11月:国連組織犯罪防止条約(TOC条約) 採択
 2003年 3月:第1回 国会上程
 2004年 2月:第2回 国会上程
 2005年10月:第3回 国会上程
 2006年4月~6月:与野党修正案提出
 2006年 9月:第一次安倍晋三内閣成立
 2009年 7月:第3回法案が衆議院解散にともない廃案に
 2012年12月:第二次安倍晋三内閣成立
 
TOC条約関連条文
第2条(用語)
 この条約の適用上,
 (b) 「重大な犯罪」とは,長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。
第5条(組織的な犯罪集団への参加の犯罪化)
1 締約国は,故意に行われた次の行為を犯罪とするため,必要な立法その他の措置をとる。
(a) 次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
(i) 金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって,国内法上求められるときは,その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
(ii) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら,次の活動に積極的に参加する個人の行為
a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
b組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が,自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)
 
(2)今回の「共謀罪」法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)について
DSCN1648① 2017年2月28日、政府は、自民・公明両党に法案の内容を示した。この段階では、法案のどこにも「テロリズム」や「テロ」という用語は使用されていなかった。
② 「テロ」という用語が使われていないのはおかしいとの与党の指摘を受け、急遽、「組織的犯罪集団」の前に「テロリズム集団その他の」という例示を付加するという修正を行い、3月21日に閣議決定して衆議院に提出した。
③ 衆議院において、日本維新の会の賛成をとりつけるための修正合意に基づく修正を行った上で、5月19日に衆議院法務委員会で、同月23日に衆議院本会議で採決され、参議院に送られた。この修正は、日本維新の会の要請を与党が受け入れる形で、取り調べの可視化(録音・録画)やGPS(全地球測位システム)捜査の制度化の検討を附則に追加した他、共謀罪の構成要件を定める第6条の2(法案提出時には2項までしかなかった)に、3項と4項が追加されている。
 以下に、衆議院での修正後の(現在、参議院で審議されている)第6条の2を引用するが、当初与党に示した際にはなく、法案提出に際して追加された部分は赤色で表示し、衆議院の通過に際して修正(追加)された部分は青色で表示する。
 なお、構成要件をより良く理解するため、現行法の内、今回の改正の対象となっていない第1条及び第2条及び、改正法の別表の一部も併せて引用する。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年八月十八日法律第百三十六号) ※第6条の2及び別表は審議中の「改正案」
(目的)
第一条 この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることにかんがみ、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例等について定めることを目的とする。
 
(定義)
第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。
2~7 省略
 
テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
3 別表第四に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前二項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
4 第一項及び第二項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十八条第一項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。
 
別表第三(第六条の二関係) 略
別表第四(第六条の二関係)
一 別表第三に掲げる罪(次に掲げる罪を除く。) 略
二~六 略
 
(3)2回の「修正」で分かったこと
① 法案提出時にとってつけたように付加された「テロリズム集団その他の」という修飾句は、第6条の2の1箇条だけで4回も繰り返されている。立法技術的には「あり得ない!」。この条項を読むだけでも、今回の共謀罪が、テロ対策とは何の関係もないことは一目瞭然であるが、政権は、終始「嘘でもデマでも押し通す」作戦で来ており、我々としても、空しい消耗戦を強いられている。
② 衆議院で修正された項目の内、第6条の2に付加された3項と4項は見過ごされがちであるが、是非注目されたい。その内3項は、別表に掲載された277の犯罪の中には、親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができないもの)も含まれているが、当初の法案では、既遂でさえ告訴がなければ起訴できない犯罪についても、それが共謀(計画)段階で摘発されれば、告訴がなくても起訴できることになっていたということに気付いた法務省が、「どう考えてもまずい」として潜り込ませた修正(追加)条項であろう。私自身、修正案を読んで初めてこの欠陥に気がついたので、あまり偉そうなことは言えないが、やはり一端白紙にして出直すしかない法案である。
③ もう1つ、第6条の2に追加された4項で引用されている「刑事訴訟法第百九十八条第一項の規定」というのは、「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」というもので、要するに、捜査機関による取調べ権限の根拠規定であるが、そもそも、警察職員や検察官が犯罪捜査を行うにあたって、「適正の確保に十分に配慮しなければならない。」というのは、何も共謀罪に限ったことではなく、全ての犯罪捜査がそうでなければならないものである。にもかかわらず、ことさらこのような規定を追加したということは、立法者自身が、共謀罪については、「捜査が不適正に行われる恐れがある」ことを自認した規定としか解釈できず、衆議院における「修正」によって、いよいよとんでもない法案であることが明らかになったと言える。
 
2 共謀罪が出来たなら~最も重大な3つの問題点
(1)日本の刑事法体系が破壊される

①陰謀(共謀)→予備→未遂→既遂
 陰謀(共謀)罪は例外中の例外
 刑法77条「内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。」
 他に、外患陰謀罪、私戦陰謀罪、爆発物取締罰則等 
 ところが、広汎な犯罪について共謀(計画)を罰することになると、未遂は処罰されないのにその前々段階の共謀(計画)は処罰されるというような犯罪が続出するという不合理な事態が現出する。
※例:横領罪(刑法252条/5年以下の懲役) 未遂処罰規定なし
DSCN1644②未遂罪との均衡がくずれる
 刑法43条「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」
 実行に着手までしながら、自らの意思で中止した場合(中止未遂)には、必要的にその刑が減軽または免除されるのに、その前々段階の共謀(計画)を行ったものの、自らの意思で計画から離脱したとしても、抜け駆けで実行の着手前に自首しない限り、減軽・免除の利益を受けられない(共謀罪法案第6条の2第1項ただし書)という不均衡が生じる。  
③日本の刑事法体系の思想
 罰すべきは「意思」ではなく「行為」である。
 具体的な「法益侵害」またはその「具体的危険」が発生したことが刑罰権発動の根拠であるとする考え方が根本的に変容する。
 
(2)「捜査」のあり方が一変する
・共謀(計画)罪は、2人以上の者の意思の合致によって成立する。
・どうやって捜査するのか?盗聴(通信傍受)、おとり捜査が常態化する恐れがある。
・既に昨年、通信傍受法・刑事訴訟法が「改正」され、通信傍受できる対象犯罪が拡大されており(同年12月施行)、また、従来のように通信事業者の施設内でその立会いの下でやらねばならないという制約も撤廃されている(こちらはまだ施行されていないが)。共謀罪が成立すれば、これも盗聴(通信傍受)の対象とされる(その旨の通信傍受法の「改正」が行われる)可能性が極めて高い。
 
(3)人権が蔑ろにされる息苦しい社会となる
・犯罪構成要件が曖昧過ぎる。
・刑罰法令の人権保障機能が失われる。
・思想・良心の自由、表現の自由などの人権体系の根幹をなす優越的権利が危機に瀕する。
・現在よりも、一層の「監視社会化」が進んだ息苦しい社会が到来することは疑いない。法案(第6条の2第1項ただし書)による密告奨励の自首規定はそれを助長する。
 ⇒昨年の参院選大分県警(別府署)が野党統一候補陣営を隠しカメラで盗撮していたことを想起せよ。
 
3 国連組織犯罪防止条約の批准に共謀罪は不要
・そもそも条約はマフィアなどの国際的組織犯罪集団の効果的な取り締まりのために締結された条約であってテロ対策は無関係。
・日本は全てのテロ対策条約(全部で13)を批准済み。
国連組織犯罪防止条約を批准済みの187カ国のうち、批准のために新たに共謀罪を作ったのはノルウェーブルガリアの2カ国のみと政府も答弁している。
・現行法のままで条約批准は可能。必要であれば留保宣言付きで批准すればよい。 
 海渡弁護士レジュメから引用
「越境組織犯罪条約については、日本政府は異常なほど律儀に条約の文言を墨守して、国内法化をしようとした。むしろ、一部の法務警察官僚は、批准を機に過去になかったような処罰範囲の拡大の好機ととらえた節がある。もしかすると、アメリカ政府との間で、アメリカ並みの共謀罪を作るという合意があったのかもしれない」
 
4 高山佳奈子京都大学大学院教授(刑事法)の衆議院での参考人質疑(4/25)から
(1)「五輪開催のためのテロ対策」などではない
・「単独犯のテロの計画」、「単発的な集団のテロ」が射程外。
東京五輪開催決定(2013年秋)後に出された政府の犯罪対策計画でも、犯罪の準備段階で処罰する立法とテロ対策とはまったく別々の章に規定され、リンクして論じられたことはない。
・2014年改正「テロ資金提供処罰法」により、テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供が包括的に処罰の対象となり、ほとんどのテロ目的の行為をカバーし、五輪のためのテロ対策は完了している。
・最近の最高裁判所の裁判例は、詐欺罪や建造物侵入罪の適用を非常に幅広く解釈している。例えば、通帳を他人に譲渡する目的で自分の名義の銀行口座を開設する行為が通帳を騙し取ったということで詐欺罪、また、飛行機に他人を搭乗させる目的で自分の買った搭乗券を受け取っても詐欺罪が成立するとされている。また、暴力団関係者が、暴力団ではないと偽って自分の預金口座を開設しても通帳を騙し取ったということで、通帳に対する詐欺罪が成立している。さらに、他人の暗証番号を盗撮する目的で、誰でも入れるATMコーナーに立ち入った行為、これが建造物侵入罪の既遂として処罰されている。というように、違法な目的をもって何かを入手したり、ある場所に入る行為が、かなり広い範囲で処罰の対象になっており、テロ対策としても日本は諸外国と比べても広い処罰範囲をすでに有している。
 
(2)国連組織犯罪防止条約(TOC条約)批准のために共謀罪は必要ない

・条約の全体を見れば、各国は組織犯罪対策として、国内法の基本原則に適合するように対処することを求めているのであり、憲法の範囲で対処すればよい。
・日本には明治以来の組織犯罪対策の伝統である「共謀共同正犯」という確立された判例があるが、実行準備行為のところがより限定的で、実質的な危険のある行為でなければならないとされているので、アメリカが(一部の州に共謀罪規定がないことを理由に)留保できるのであれば、日本も留保した上で批准できるはずである。
・日本は、海賊行為の普遍的な処罰を求めている「国連海洋法条約」を1996年に批准したが、国内の対応法である「海賊行為対処法」を制定したのは10年以上後の2009年だった。
・第一次安倍政権下の2007年に「国際刑事裁判所規程」に日本が参加したときにも、国際刑事裁判所規程の中には犯罪の定義が非常に細かく広範囲にわたって規定されていたが、これに対応する国内法の処罰範囲の拡張という改正は一切行っていない。
・国際協力の範囲を他国に合わせるために今般の法案の可決が必要と言われることもあるが、日本の現行法の処罰はすでに他国よりも広範なケースが多い。例えば共謀罪のある国でも、抽象的危険犯や予備罪などの処罰が日本のように広く行われていない国もある。また、結集罪参加型の立法を行っている国で、そもそも団体の結成の当初からの目的が犯罪でなければならないと限定している国、あるいは予備罪処罰がそもそもないといった国では、処罰の対象は大幅に限定されている。
国連が2004年に公表した「各国のための参考資料としての立法ガイド」の監修に当たったアメリカ・ノースイースタン大学のニコス・パスタス教授から聞いたところでも、「条約への参加の仕方はいろいろあるので、まずその条約を締結して、その後で国内法についてより改善していくというやり方も十分認められる」という意見であった。
 
(3)処罰が限定的であるという主張には同意できない
オウム真理教のように、当初は宗教団体として結成されたけれども、一部の構成員が犯罪を始めたというケースに適用をしないのであれば、当初の全体の集団の結成目的が犯罪でなければならないという要件を課すことができるだろうが、適用するのであれば、団体の一部が性格を犯罪的なものに一変させた場合も対象に含めざるを得ず、一般人の通常の団体として結成された場合を適用外とすることはできないことになる。
共謀罪の構成要件たる「計画」の成立自体、「黙示の合意」、「順次的な合意」、「未必的な故意」による合意をすべて含むことが従来の判例から推測される上、「計画」の事実認定としても、従来型の犯罪でも、何月何日何時何分に何が起こったというところまでの厳密な認定が要求されているわけでもない。
・実行準備行為については、構成要件要素ではなく、客観的処罰要件であって、特段の危険性が要求されておらず、外形的な行為であれば、特に限定なく、「その他」の中に含まれる。
 
(4)対象犯罪の選別が恣意的である
・公権力を私物化するような犯罪である公職選挙法政治資金規正法、政党助成法違反は除外されている。公用文書電磁的記録毀棄罪のような重大犯罪も除かれており、また、警察官などによる特別公務員職権濫用罪・暴行陵虐罪も除外されている。
・組織的な経済犯罪が除かれている。一般に「商業賄賂罪」と呼ばれ、諸外国で規制が強化されてきているような、会社法金融商品取引法商品先物取引法投資信託投資法人法、医薬品医療機器法、労働安全衛生法貸金業法、資産流動化法、仲裁法、一般社団財団法人法などの収賄罪が対象犯罪から除外されている。
・主に組織による遂行が想定される酒税法違反や石油税法違反なども除外されており、相続税法違反が除外されているものの、所得税法違反は含まれている。なぜ、このようになっているのか。対象犯罪の選別が著しく恣意的で不合理なものになっている。
 
(5)その他
 近年の犯罪情勢は非常に好転しており、一番犯罪の多かった2002年と最新統計の2015年とを比較すると、犯罪の認知件数は年間あたり200万件以上減少し、40数%にまで落ち込んでいる。これに対し、警察職員の数は、同じ期間に2万人増員されている。本来であれば、増えた警察の人員は適切なマンパワーとして、適材適所で活用されなければならないが、これが乱用されるということになると、仮に司法手続で回復されたとしても、相当な年数がかかってしまう。
 
5 戦争する国づくりの集大成としての共謀罪
2013年 特定秘密保護法
2015年 安保法制(戦争法)
2016年 盗聴法(通信傍受法)拡大
2017年 共謀罪
 国が常時市民を監視し、萎縮させ、戦争に協力させるための体制作りの集大成としての共謀罪。 
 
6 共同の取組で共謀罪阻止を
DSCN1646(1)「共謀罪NO!実行委員会」結成(2017年3月~)
 呼びかけ団体
 ●「秘密保護法廃止」へ!実行委員会(新聞労連、平和フォーラム等)
 ●解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会(憲法会議、許すな!憲法改悪・市民連絡会等)
 ●日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
 ●共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
 ●盗聴法廃止ネットワーク(日本国民救援会等)
 
(2)和歌山でも
和歌山県平和フォーラムと和歌山県地方労働組合評議会が「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の枠組により、共謀罪に反対する共通チラシを作成・配布している。
・3月9日(木)18時~19時、JR和歌山駅前で行われた上記両団体などが参加する緊急行動を皮切りとして、県下各地で街頭でのアピール行動等が取り組まれている。
・県下各団体からも共謀罪に反対する声明が発出されている。
 (例)
  和歌山弁護士会(1月19日、5月29日)
  「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会(4月10日)
 
(3)最後まであきらめない
 

【付記・事前に寄せられた質問について】
 事務局からお知らせいただいた事前質問として、「三権分立について教えて下さい。」というものがあった(付随して様々な質問が書かれていた)。近時の「準強姦」事件もみ消し疑惑などに危機感を覚えてのことのようであり、非常に重要な論点であるとは思うものの、実はこの問題だけで一度の講演会のテーマ足り得るもので、とても時間が足りないので、一言私が普段考えていることを述べておくに留めざるを得ない。
 私は、この問題は、「非立憲」が「立憲」を圧倒したことによる病理現象が、社会の様々なところで噴出しているものと捉えている。
 私の理解するところでは、「非立憲」とは、明確に法令(憲法を含む)に違反しなければ何をしても良いという立場である。現政権の行った、
内閣法制局長官は内部昇格者を任命するという不文律を破り、集団的自衛権容認論者 の外交官を長官に任命した。
〇NHKの経営委員任命を非常に恣意的に行うことによって会長人事をゆがめた。
ことなどは、典型的な「非立憲」現象であった。
実は、日本国憲法の統治機構についての定めを子細に読めば、米国のようなすっきりした三権分立制はとられていない。裁判所の独立(司法権の「独占」)は76条で保障されているが、裁判官の任命権は内閣にある(79条、80条)。
 最高裁裁判官人事における慣例(出身別割り振りなど)や内閣法制局長官の任命についての不文律などは、明文規定はないものの、日本の「国のかたち」を構成する事実上の「憲法」の一部であった。つまり、既に「事実上の改憲」は行われてしまっていると言うべきである。
 過去、これほど「非立憲」に偏った政権は(少なくとも日本国憲法施行後は)なかった。これを是正するには、その権力の源泉である国会における議席過半数割れに追い込み、よりましな(「立憲」に近い)政権を誕生させるしか方法はない。
 その上で、国民の意思を正しく反映する選挙制度改革や内閣に過度の権限を与える要因となっている「内閣人事局」の廃止など、必要な法律改正を目指すということになるだろう。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/共謀罪シリーズ)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年3月31日
2017年4月7日
2017年4月14日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む
2017年4月18日
声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」
2017年4月26日
緊急開催!和歌山弁護士会「共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」(5/10@プラザホープ)
2017年4月27日
高山佳奈子京都大学大学院教授による共謀罪法案についての参考人意見陳述(2017年4月25日・衆議院法務委員会)を読む

2017年5月9日
「共謀罪」阻止のために~5/9WAASA学習会で話したこと、6/11くまの平和ネットワーク講演会で話すべきこと

2017年5月17日
「共謀罪」をめぐる5月16日の動きを動画で振り返る~衆議院法務委員会参考人質疑、日比谷野音大集会、立憲デモクラシーの会シンポ

2017年5月20日
闘いはこれからだ~5/19「安倍政治を終わらせよう5.19院内集会」&5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」
2017年5月22日
「共謀罪」法案の衆議院における修正案(可決)を読む
2017年6月6日
予告・「共謀罪」って何?こんなにある問題点!(講師:金原徹雄弁護士)@新宮市(6/11)と真宗大谷派による共謀罪法案反対声明(5/18)
2017年6月7日
国際ペン会長声明「共謀罪は日本の表現の自由とプライバシーの権利を侵害する」&加藤健次弁護士による現状分析
2017年6月10日

(付録)
『She said No!』 作詞・作曲・演奏:よしだよしこ
 

くまの平和ネットワーク「共謀罪」チラシ