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珍道世直(ちんどう・ときなお)さんの裁判闘争の軌跡と最後のメッセージ「最高裁は抽象的違憲審査権を行使せよ」

 今晩(2017年7月2日)配信した「メルマガ金原No.2861」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
珍道世直(ちんどう・ときなお)さんの裁判闘争の軌跡と最後のメッセージ「最高裁は抽象的違憲審査権を行使せよ」

 元三重県職員の珍道世直(ちんどう・ときなお)さんは、お1人で原告となって以下の2つの訴訟を提起し、いずれも最高裁判所まで闘われました。
 その経緯について、このメルマガ(ブログ)でご紹介したことなどもご縁となり、珍道さんから私宛に、訴訟の記録を送っていただくようになりました。そして、昨日、2件目の訴訟について、最高裁第一小法廷から、「本件上告を棄却する。」という6月29日付の決定が、同月30日に届いたということをメールでお知らせいただきました。
 そのメールには、上告審における訴訟代理人(代表)であった辻公雄弁護士との共同名義による「意見表明」も添付されており、珍道さんの主張が簡潔に要約されており、是非皆さまにお読みいただければと思い、珍道さんを通じて辻弁護士のご了解もいただきましたので、本日のメルマガ(ブログ)で全文転載させていただくことにしました。
 その「意見表明」のご紹介の前に、2次にわたる珍道さんの「たった一人の闘い」の軌跡を振り返っておきましょう。
 
【第1次訴訟(閣議決定違憲無効確認請求事件)】
第一審 東京地方裁判所
提訴日 平成26年(2014年)7月11日
請求の趣旨:2014年7月1日、安倍内閣が行った「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定憲法9条の下で許容される自衛の措置)」は、憲法第9条に違反する決定であり、無効であることの確認を求める。併せて、この閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した各大臣の懲戒処分を求める。
※後に10万円の慰謝料請求を追加
判決日:平成26年(2014年)12月12日 訴え却下・棄却
 
控訴審 東京高等裁判所

控訴日 平成26年(2014年)12月19日
判決日 平成27年(2015年)4月21日 控訴棄却
 
上告審 最高裁判所(第二小法廷)
上告日 平成27年(2015年)5月1日
決定日 平成27年(2015年)7月29日 上告棄却 
 
【第2次訴訟(閣議決定・安保法制違憲確認等請求事件)】
第一審 津地方裁判所
提訴日 平成27年(2015年)11月16日
請求の趣旨:
1.「集団的自衛権」の行使を容認・法定した「閣議決定憲法第9条の下で許容される自衛の措置)」及び「存立危機事態への対処」を定めた「安全保障法制(武力攻撃・存立危機事態法、自衛隊法等)」は、憲法第9条に違反する決定或は法制であり、無効であることの確認を求める。
2.「重要影響事態法」による「後方支援」、「国際平和支援法」による「協力支援」のうち、「軍事支援」については、憲法第9条に違反する支援であり、無効であることの確認を求める。
3.損害賠償請求 「閣議決定」及び「安全保障法制」によって原告は身体的・精神的苦痛を被り、憲法に規定する平和的生存権など諸権利が侵害されたので、国家賠償法第1条の規定に基づき、金10万円の損害賠償を請求する。
判決日 平成28年(2016年)7月21日 却下・棄却
 
控訴審 名古屋高等裁判所
控訴日 平成28年(2016年)7月29日
判決日 平成28年(2016年)12月22日 控訴棄却
 
上告審 最高裁判所(第一小法廷)
上告日 平成29年(2017年)1月4日
決定日 平成29年(2017年)6月29日 上告棄却
 
 ところで、第2次訴訟の最高裁決定の「理由」は、お馴染みの定型文「民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、違憲をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。」なのですが、それにしても、一見極めて明白な憲法違反が主張されているのですから、「これはないだろう」と思いますけどね。

 さて、それでは、第1次訴訟の第一審・東京地裁から、第2次訴訟上告審まで、珍道さんが一貫して主張してきた、最高裁判所は、現行憲法下において、憲法裁判所型の抽象的違憲審査権を行使できるという主張を要約した、辻公雄弁護士との「共同意見表明」をお読みください。
 もとより、この主張は判例のとる立場ではありませんし、少数説であることは間違いありません。
 けれども、判例の立場に立つにしても、明確に具体的争訟性を備えた原告が提訴を決断するまで待っていては、おそらく「手遅れ」となることが明白な場合、違憲立法審査権を柔軟に行使することこそ憲法が裁判所に期待している使命であるはずだと思います。

 「安保法制違憲訴訟の会」の呼びかけに呼応して提訴に至った違憲訴訟は、6月23日の那覇地裁への提訴で、既に全国の20地裁に系属するまでになっていますが、そのような動きに先んじて、1人の市民として司法に違憲審査権の行使を求めた珍道世直さんの闘いは、珍道さんと同じように訴えを起こした多くの人びとの活動とともに、決して忘れられてはならないと思います。
 第1次訴訟(東京地裁)で訴えた安倍首相以下「7.1閣議決定」に関わった全閣僚の「懲戒処分」を求めた請求についても、法的にはどう考えても無理ですが、一市民が、訴訟という形で、全閣僚個々の憲法尊重擁護義務違反に対して責任を追及した事例として、長く記憶する価値はあると思っています。

 昨日、珍道さんから戴いたメールには、「これで、私の裁判闘争は終わりでございます。後は、全国19地裁(注:6月23日に20地裁となりました)に提訴されている「集団訴訟」で、最高裁違憲審査権を行使するかどうかです。司法が歴史的使命を果されるよう心から希求致しております。」とありました。
 珍道さん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

(引用開始)
    最高裁決定に対する上告人珍道世直、訴訟代理人弁護士代表 辻 公雄
               共同意見表明(平成29年6月30日)

                最高裁は「違憲審査権」を放棄
      憲法の条規に基づき、憲法裁判所型「抽象的違憲審査制」の行使を

1.国是(集団的自衛権の禁止・専守防衛)の大転換をもたらす本件「閣議決定」「安全保障法制」について、国会の内外・国民の間に「違憲」「合憲」が対立して国家的大問題となっている時、最高裁が、地裁・高裁が判断して却下した「具体的争訟性」に固執して、上告を棄却し、「憲法適合性」を審査されない決定を下されたことは、正に、「違憲審査権」を放棄したに等しい。

2.裁判所は、憲法の条規により「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」とされており、司法裁判所型違憲審査制(付随的違憲
審査制)のみならず、憲法裁判所型違憲審査制(抽象的違憲審査制)を含め、一切の憲法判断を行う権限が与えられている。
 同時に、裁判所の「裁判」する権限は、国民の「裁判所において裁判を受ける権利」と表裏の関係にあり、国民の訴えに応えて、これをすべき職責を負っている。

(参考)関係法令
憲法32条(裁判を受ける権利)何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
憲法第76条(司法権・裁判所)①すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。②特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。③すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
憲法第81条(司法審査権と最高裁判所最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
憲法第98条(最高法規)①この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
憲法第99条(憲法尊重擁護の義務)天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
・裁判所法第3条(裁判所の権限)①裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

3.しかし、裁判所は今日まで、警察予備隊違憲訴訟に係る昭和27年10月8日最高裁大法廷判決に基づき、「裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律命令などの合憲性を判断する権限を有するものではない」(具体的争訟性がなければ裁判の対象とならない)として、裁判所の実務において、「付随的違憲審査制」のみがとられ、憲法裁判の大部分が「具体的争訟性」がないとして却下、棄却されてきた。

4.「具体的争訟性」については、先に挙げた憲法及び法律に条規されていない。警察予備隊違憲訴訟に係る最高裁大法廷判決が、憲法及び法律の上位に位置づけられ、以来64年間、当該判例が踏襲されてきた。
 これは法理の逆転であり、憲法に違背する。
 裁判所は、この法理の逆転を正し、憲法の条規に基づき、裁判所の実務において、抽象的違憲審査制の行使に取組むべきである。

5.現憲法及び現裁判所法のままでも、その意思さえあれば、「抽象的違憲審査制」を行使することが出来るが、現状、上告件数の膨大さから、実務において行使する事が困難であるなら、裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則を改正し、最高裁判所の組織及び裁判官の定員を拡充するなどして、可能な限り早期に「抽象的違憲審査制」の行使に取組むべきである。

6.裁判所法等改正(案)提言
(1)裁判所法改正(案)
・(現行第5条一部改正)最高裁判所判事の員数(除最高裁判所長官)を14人から18人にする。
・(新設)最高裁判所に、通常の上告事件を審査する「上告部」と憲法適合性を審査する「憲法部」を設ける。(その下に、現行第9条の大法廷・小法廷を置く)
(2)最高裁判所裁判事務処理規則改正(案)
・(新設)「上告部」の判事は9人、「憲法部」の判事は9人とする。
・(現行第8条一部改正)各部大法廷では、最高裁判所長官を裁判長とする。
・「上告部」「憲法部」の小法廷の裁判官の員数、必要出席者数などについて必要な規則改正を行う。                 
                                         (以上)

(付録)
『We Shall Overcome』 日本語詞・演奏:長野たかし