2017年7月27日配信(予定)のメルマガ金原.No.2886を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
法律や条例がなくても「家庭教育支援チーム」は子育て中の家庭を訪問している
今週のマガジン9に掲載された「この人に聞きたい」は、東京大学大学院教育学研究科教授(教育社会学)の本田由紀さん(の第1回)で、テーマは「国家による「家庭への介入」がはじまっている」であり、興味深く読ませていただきました。
この本田教授へのインタビュー記事自体は、来週「その2」がアップされてから、本ブログでもご紹介しようと思っていたのですが、まだ前編が掲載されただけの段階で(一部なりとも)ご紹介しようと思ったのは、家庭教育支援法や家庭教育支援条例などなくても(和歌山市は昨年の12月にできましたが)、「家庭教育支援」自体は、国の政策として強力に推進されており、各自治体の中には、国が推奨する「家庭教育支援チーム」を設置して活動しているところも少なくないということを知ったことによります。
しかも、少し調べてみると、和歌山県内でも「家庭教育支援チーム」が活動している自治体は結構あり、特にそのうちの湯浅町などは、「全戸訪問」を先駆的に実施している自治体として、全国的に注目されていることが分かりました。
そういえば、私は今年の3月末、家庭教育支援法案のことを調べる過程で、既に昨年12月に、私の住む和歌山市が、全国の政令市・中核市の先頭を切って家庭教育支援条例を制定していたことをようやく知ったという体たらくでしたが、和歌山県内での「家庭教育支援チーム」の活動についても全く無知でした。
まことに遅ればせながらではありますが、「家庭教育支援チームって何をやっているんだろう?」ということを調べてみようと思い立ちました。
まずは、「本田由紀さんに聞いた(その1)」から、「家庭教育支援チーム」、特にその「全戸訪問」の問題性を指摘した部分を引用したいと思います。
(抜粋引用開始)
本田 おそらくそうなるでしょう。同時に、知っておくべきなのはこの法律(金原注:「家庭教育支援法」のこと)ができるかどうかにかかわらず、すでに国による「家庭への介入」は粛々と進められているということです。この法律ができることで介入が始まるのではなく、すでに進んでいるさまざまな動きが、法的な根拠のもとでより表だって進められるようになる、と考えるべきだと思います。
――どういうことでしょうか。
本田 たとえば、今年1月に文部科学省が出した、平成28年度家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会の報告書には、具体的な家庭教育支援の推進策として、「家庭教育支援チーム」による「全戸訪問」が挙げられています。
この「家庭教育支援チーム」というのは、すでに活動している地域も一部あるのですが、教員OBやPTA、民生委員、保健師や臨床心理士といった専門家など、地域のさまざまな人たちによって構成されるもの。その「支援チーム」による、乳幼児や学齢期のお子さんのいる家庭への全戸訪問が、家庭教育支援の「推進方策」の柱として挙げられているんです。私は、これは非常に怖いことだと考えています。
本田 あれは、本当に出産直後の1回だけですし、指導の内容も沐浴のさせ方とか母乳についての相談といった育児手法に限定されていますよね。ところが、こちらは子どもが大きくなるまでずっと続く上に、内容も限定されていない。ずかずかと家庭に踏み込んで「どうなの、ちゃんと子どもを見てるの」と聞いて回るわけですよ。
一応「それぞれの家庭の事情に配慮して」とは言っていますが、そんな「配慮」が、全国津々浦々でさまざまな人から構成されたチームのすべてに行き渡るとはちょっと思えません。部屋にまで入ってこられて「散らかってますね」なんて言われたら、どうですか? あるいは、文科省が「早寝早起き朝ごはん」を「国民運動」として推奨しているように、食事や起床時間などについて指導されるかもしれないですね。
家庭の外にある拠点で相談に乗るというのならまだ家庭の構成員にとって自由度がありますが、全戸訪問ですから…。プライバシーも何もなく、子どもをもつ国民全員が絡め取られていくことになります。ただでさえ家庭のことを担うのは女性、という意識の強い日本ですから、女性への負担もさらに大きくなって、ますます「女性の活躍」なんて難しくなるんじゃないでしょうか。
(引用終わり)
以下には、私が以上の本田先生の発言を読んでから、和歌山県湯浅町の家庭教育支援チーム(呼称「とらいあんぐる」)にたどり着くまでの過程で参照した資料をご紹介します。何しろこれだけでも膨大な内容であり、考えなければならない論点も多岐にわたるため、軽々に感想を述べることは控えた方が良いでしょう。
上記サイトに、文部科学省が把握している全国の「家庭教育支援」関連の情報が集積されているようです。
「家庭教育支援チーム」に絞ってざっと検索してみると、以下のことが分かりました。
新規チームは文部科学省に「登録」するようです(「家庭教育支援チーム」の登録制度について)。
今年の7月11日現在、全国の173チームが登録されています。
もっとも、あえて文科省に登録せずに活動しているところもあるかもしれませんけれど。
YouTubeに広報用動画が5本アップされていました。
1 はじめに(5分20秒)
3 千葉市家庭教育支援チーム「こもんず」~地域における支援のネットワークづくり~
(3分34秒)
4 湯浅町家庭教育支援チーム「とらいあんぐる」~全戸訪問による相談支援~(3分54秒)
5 おわりに(1分28秒)
具体的実践例3例のうち2例が和歌山県の自治体とは!和歌山県は「家庭教育支援チーム」先進県(?)なのかもしれません(取材経費の節約のために同一県内でまとめて取材した可能性もありますが)。
上記動画とセットと考えたら良いのでしょうか、以下のようなリーフレットもありました。
上記動画とセットと考えたら良いのでしょうか、以下のようなリーフレットもありました。
(抜粋引用開始)
Ⅱ 家庭教育支援のための方策
(2)家庭に寄り添う形での支援の推進
<訪問型家庭教育支援について>
家庭教育支援のための家庭訪問を行うことによって、家庭教育講座や相談窓口に出てくることが難しい保護者と接触することのできる貴重な機会を作ることができる。保護者と直接話をする機会を生かし家庭教育支援に関係する情報を提供して交流の場への参加を促したり、困難を抱える家庭の場合は専門的な相談や支援を行い得る機関を紹介するなどの支援を行うことができる。
実際に訪問型家庭教育支援を行うに当たっては、幅広く全ての家庭を訪問の対象とする全戸訪問を行う手法と、一定の家庭に訪問の対象を絞って訪問する手法がある。
全戸訪問は、人口規模の大きな地方公共団体の場合は実施することが難しい面があるが、全戸訪問によって学校が把握する前に不登校の傾向が現れている子供を発見して早期に問題を解決できた事例が見られるなど、大きな効果が期待できる。また、全ての家庭を訪問の対象とすることで、訪問を受けることに対する心理的な抵抗を低くする効果もある。人口規模の大きな地方公共団体の場合には、例えば訪問対象とする学年を限定して訪問を行うなどの工夫をすることで、全戸訪問に近い効果を上げることも考えられる。
また、乳幼児健診の場などの多くの保護者が集まる機会を活用したり、ICTを活用して分かりやすく情報提供を行い、相談をしたいが相談窓口が分からない、相談窓口まで出かけることが難しいので家庭訪問をしてほしい、といった保護者の要望を拾い上げ、家庭教育支援にアクセスしやすい環境を作って多くの保護者の希望に対応することが望ましい。(以下省略)
(引用終わり)
以上の記述から、検討委員会の結論として、「全戸訪問」こそ「あるべき姿」と捉えていることは明らかですね。
(抜粋引用開始)
湯浅町家庭教育支援チーム(呼称: とらいあんぐる )
組織体制 14 人:SSW1人、元保育士1人、元教員(保護司)1人、民生委員1人、母子推進委員1人、管理栄養士1人、ボランティア活動員2名、保護者1人、地域住民5人
具体的な活動内容
・情報誌作成(保育所・幼稚園・小中学校家庭用、町内全住民用)
・情報誌による啓発活動(子育てアドバイスや虐待防止啓発、地域での子どもの見守りの啓発)
・小中学校の子ども家庭の全戸家庭訪問(就学前家庭への拡大予定)
・全戸訪問での相談対応や見守り支援
・未然防止のための情報収集
・講座や講演の実施により親子のふれあいや、保護者どうし地域住民どうし、地域住民と子育て家庭のつながりづくりや居場所づくりの提供
・定例会議などを通して活動の振り返り
(引用終わり)
上記にある「小中学校の子ども家庭の全戸家庭訪問(就学前家庭への拡大予定)」という部分が、全国的な「先行事例」ということなのでしょう。
ここでは、「訪問支援の約束事」というコーナーに掲載されたリーフレットをご紹介しておきます。
今日のところは、「家庭教育支援チーム」について、ごく基礎的な知識を得るための資料を集めるのが精一杯でした。
本田由紀先生もインタビューで述べておられるように、「もちろん、家庭への「支援」すべてを否定するわけではありません。」が、「ただ、支援というものは、そのあり方によっては支援の名を借りた「支配」になりかねない。」ということなのですよね。
当分、この問題から目が離せなくなってしまいました(これも、私のブログでシリーズ化しそうだな)。
(弁護士・金原徹雄のブログから/家庭教育支援関連)
2017年3月29日
2017年6月28日
2017年7月4日