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ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 後編

 2017年8月5日配信(予定)のメルマガ金原.No.2895を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 後編
 
中編から続く
 
超訳 5 今までの家庭生活から新しい家庭生活へ】
5 今までの家庭生活から新しい家庭生活へ
 大東亜戦争の目的を完遂させて、天皇の国の永遠の発展を期するためには今までの家庭生活ではダメです。新しい家庭生活へと刷新することが急務です。そのために以下のことに注意してください。
イ 情勢を認識してください
 昔から国のベースは家庭にあります。なので、大東亜戦争の目的の達成において家庭生活が密接な関連を持っていることを自覚してください。同時に、今の情勢についてちゃんと理解して、情勢に即応するために主婦にはどんな義務があるかについて、家庭がちゃんと把握してください。
ロ 倹約によって大東亜戦争に協力する
 大東亜戦争の重要性について理解するとともに、倹約することが戦争遂行に大きな意味を持つことを自覚し、積極的に戦争に協力してください。
ハ 家庭生活に科学を活用してください
 家庭生活についての科学的知識を持ち、家庭生活の隅々に科学を生かし、今までのねじ曲がった生活を是正してください。本能的な愛情は、非科学的で不合理で、真実の愛情ではありません。また、情勢に即対応できる生活態度を習得してください。
ニ 家族みんなで勤労してください
 勤労の精神が家に浸透し、家族それぞれが進んで働けば健全な家庭生活が維持でき、さらには国が栄えていきます。そして、戦時下で人材が不足している今日にあっては、特に家族全員の協力よって軍事産業などの労働力が補強されることが国にとって重要です。そのことを強く自覚し、実行に移してください。
ホ お隣さん同士で助け合ってください
 新しい家庭生活を実現するためには、それぞれの家が孤立していてはいけません。お隣さん同士での助け合いを通じて、特に軍事を援護するために協力一致して、自分の家だけではなく、人の家にも新しい家庭生活を実現してください。
へ 国を守ってください
 国で一丸となって大東亜戦争を遂行するために、防空訓練、防火訓練、スパイ対策が重要であることを自覚して、必要に応じて訓練をして国防を完璧にしてください。
ト 娯楽は健全さの範囲で行ってください
 家庭での娯楽は、それが健全なものであれば家生活を明るく豊かなものにするし、子供の性格にも影響します。だから、家庭での娯楽が健全になるようための指導に意を用いることで地方の実情にあった、個々の家庭にあった娯楽に興じて、健全な家庭生活を送ってください。
 
【五、家生活ノ刷新充実~『動員される母親たち 戦時下における家庭教育振興政策』所収版】
五、家生活ノ刷新充実
 大東亜戦争ノ目的ヲ完遂シ皇国永遠ノ発展ヲ期スル為家生活ノ刷新充実ヲ図ルハ正ニ今日ノ急務ト謂フベク特ニ左記各項ニ留意スルヲ要ス
イ、時局認識
 国家活動ノ基礎ハ家ヲ斉フルニアルハ古今ノ通則ニシテ大東亜建設ノ目的完遂ニ家生活ガ如何ニ大ナル関連ヲ有スルカヲ自覚セシムルト共ニ絶エズ時局ニ関スル綜合的認識ヲ深メ時局ニ即応スル主婦ノ責務ニ関シテ常ニ正鵠ナル識見ヲ養成セシム
ロ、家庭経済ノ国策ヘノ協力
 国策ヲ理解セシムルト共ニ家庭経済ノ国家的意義ヲ十分自覚セシメ之ガ国策ヘノ積極的協力ヲ為サシム
ハ、家生活ニ於ケル科学ノ活用
 家生活ニ関スル実際ノ科学的知識ヲ与ヘ家生活ノ各般ニ亘リ其ノ整斉ニ対シテ科学ノ活用ヲ十分円滑ナラシメ偏曲セル生活ノ科学化ヲ是正スルト共ニ時局ノ進展ニ即応スル生活態度ヲ修得セシム
ニ、家族皆労
 勤労ノ精神ガ家二漲リ家族ノ全員ガ夫々分ニ応ジテ進ンデ勤労ニ従フコトハ健全ナル家生活ヲ維持シ延イテハ国家ノ興隆ヲ図ル所以ナリ戦時下労力不足ノ今日ニ在リテハ特ニ家族全員ノ協力ニヨル労力ノ補塡並ニ増強ガ国家ニ極メテ重要ナル所以ヲ強ク自覚セシメ之ガ実行ニ力メシム
ホ、隣保相扶
 家生活ノ刷新充実ヲ図ランガ為ニハ各家互ニ孤立シテハ到底其ノ実現ヲ期スベカラズ隣保相扶ケ有無相通ジ特ニ軍事援護ノ実ヲ挙ゲ協力一致以テ家ノ内外ヲ通ジテ生活ノ刷新充実ニ力メシム
ヘ、国防訓練
 国家総力戦ノ一翼トシテ防空、防火、防諜ノ重要ナル所以ヲ自覚セシメ必要ニ応ジ其ノ訓練ヲ実施シテ国防ノ完璧ヲ期セシム
ト、家庭娯楽ノ振興
 健全ナル家庭娯楽ハ家生活ヲ明朗且ツ豊カナラシムルト共ニ子女ノ性格陶冶ニ影響スルトコロ甚大ナリ仍テ健全ナル家庭娯楽ノ指導ニ意ヲ用ヒ地方ノ実情ニ応ジ個々ノ家庭ニ適合スル娯楽ヲ奨励シテ健全ナル生活ノ維持増進ニ寄与セシム
 
五、家生活(いえせいかつ)ノ刷新充実(さっしんじゅうじつ)
 大東亜戦争(だいとうあせんそう)ノ目的(もくてき)ヲ完遂(かんすい)シ、皇国永遠(こうこくえいえん)ノ発展(はってん)ヲ期(き)スル為(ため)、家生活(いえせいかつ)ノ刷新充実(さっしんじゅうじつ)ヲ図(はか)ルハ正(まさ)ニ今日(こんにち)ノ急務(きゅうむ)ト謂(い)フベク、特(とく)ニ左記各項(さきかくこう)ニ留意(りゅうい)スルヲ要(よう)ス。
イ、時局認識(じきょくにんしき)
 国家活動(こっかかつどう)ノ基礎(きそ)ハ家(いえ)ヲ斉(ととの)フルニアルハ古今(ここん)ノ通則(つうそく)ニシテ、大東亜建設(だいとうあけんせつ)ノ目的完遂(もくてきかんすい)ニ家生活(いえせいかつ)ガ如何(いか)ニ大(だい)ナル関連(かんれん)ヲ有(ゆう)スルカヲ自覚(じかく)セシムルト共(とも)ニ、絶(た)エズ時局(じきょく)ニ関(かん)スル綜合的認識(そうごうてきにんしき)ヲ深(ふか)メ、時局(じきょく)ニ即応(そくおう)スル主婦(しゅふ)ノ責務(せきむ)ニ関(かん)シテ常(つね)ニ正鵠(せいこく)ナル識見(しきけん)ヲ養成(ようせい)セシム。
ロ、家庭経済(かていけいざい)ノ国策(こくさく)ヘノ協力(きょうりょく)
 国策(こくさく)ヲ理解(りかい)セシムルト共(とも)ニ、家庭経済(かていけいざい)ノ国家的意義(こっかてきいぎ)ヲ十分(じゅうぶん)自覚(じかく)セシメ、之(これ)ガ国策(こくさく)ヘノ積極的協力(せっきょくてききょうりょく)ヲ為(な)サシム。
ハ、家生活(いえせいかつ)ニ於(お)ケル科学(かがく)ノ活用(かつよう)
 家生活(いえせいかつ)ニ関(かん)スル実際(じっさい)ノ科学的知識(かがくてきちしき)ヲ与(あた)ヘ、家生活(いえせいかつ)ノ各般(かくはん)ニ亘(わた)リ、其(そ)ノ整斉(せいせい)ニ対(たい)シテ科学(かがく)ノ活用(かつよう)ヲ十分(じゅうぶん)円滑(えんかつ)ナラシメ、偏曲(へんきょく)セル生活(せいかつ)ノ科学化(かがくか)ヲ是正(ぜせい)スルト共(とも)ニ、時局(じきょく)ノ進展(しんてん)ニ即応(そくおう)スル生活態度(せいかつたいど)ヲ修得(しゅうとく)セシム。
ニ、家族皆労(かぞくかいろう)
 勤労(きんろう)ノ精神(せいしん)ガ家(いえ)二漲(みなぎ)リ、家族(かぞく)ノ全員(ぜんいん)ガ夫々(それぞれ)分(ぶん)ニ応(おう)ジテ進(すす)ンデ勤労(きんろう)ニ従(したが)フコトハ、健全(けんぜん)ナル家生活(いえせいかつ)ヲ維持(いじ)シ、延(ひ)イテハ国家(こっか)ノ興隆(こうりゅう)ヲ図(はか)ル所以(ゆえん)ナリ。戦時下(せんじか)労力不足(ろうりょくぶそく)ノ今日(こんにち)ニ在(あ)リテハ、特(とく)ニ家族全員(かぞくぜんいん)ノ協力(きょうりょく)ニヨル労力(ろうりょく)ノ補塡(ほてん)並(ならび)ニ増強(ぞうきょう)ガ国家(こっか)ニ極(きわ)メテ重要(じゅうよう)ナル所以(ゆえん)ヲ強(つよ)ク自覚(じかく)セシメ、之(これ)ガ実行(じっこう)ニ力(つと)メシム。
ホ、隣保相扶(りんぽそうふ)
 家生活(いえせいかつ)ノ刷新充実(さっしんじゅうじつ)ヲ図(はか)ランガ為(ため)ニハ、各家(かくいえ)互(たがい)ニ孤立(こりつ)シテハ到底(とうてい)其(そ)ノ実現(じつげん)ヲ期(き)スベカラズ。隣保(りんぽ)相扶(あいたす)ケ有無(うむ)相通(あいつう)ジ、特(とく)ニ軍事援護(ぐんじえんご)ノ実(じつ)ヲ挙(あ)ゲ協力一致(きょうりょくいっち)以テ(もって)家(いえ)ノ内外(ないがい)ヲ通(つう)ジテ生活(せいかつ)ノ刷新充実(さっしんじゅうじつ)ニ力(ツト)メシム。
ヘ、国防訓練(こくぼうくんれん)
 国家総力戦(こっかそうりょくせん)ノ一翼(いちよく)トシテ、防空(ぼうくう)、防火(ぼうか)、防諜(ぼうちょう)ノ重要(じゅうよう)ナル所以(ゆえん)ヲ自覚(じかく)セシメ、必要(ひつよう)ニ応(おう)ジ、其(そ)ノ訓練(くんれん)ヲ実施(じっし)シテ国防(こくぼう)ノ完璧(かんぺき)ヲ期(き)セシム。
ト、家庭娯楽(かていごらく)ノ振興(しんこう)
 健全(けんぜん)ナル家庭娯楽(かていごらく)ハ家生活(いえせいかつ)ヲ明朗(めいろう)且(か)ツ豊(ゆた)カナラシムルト共(とも)ニ、子女(しじょ)ノ性格陶冶(せいかくとうや)ニ影響(えいきょう)スルトコロ甚大(じんだい)ナリ。仍テ(よって)健全(けんぜん)ナル家庭娯楽(かていごらく)ノ指導(しどう)ニ意(い)ヲ用(もち)ヒ、地方(ちほう)ノ実情(じつじょう)ニ応(おう)ジ、個々(ここ)ノ家庭(かてい)ニ適合(てきごう)スル娯楽(ごらく)ヲ奨励(しょうれい)シテ、健全(けんぜん)ナル生活(せいかつ)ノ維持増進(いじぞうしん)ニ寄与(きよ)セシム。
 
【五、家庭生活ノ刷新充實~奈良県立図書情報館版】
五、家生活ノ刷新充實
 大東亞戰争完遂ノタメ、皇國永遠ノ發展ノタメ、家庭生活ノ刷新充實ヲ圖ルコトハ正ニ今日ノ急務ト云フベク特ニ左記各項ニ留意スルヲ要ス
イ、家庭經濟ノ國策ヘノ協力
 國策ヲ理解セシムルト共ニ家庭經濟ノ國家的意義ヲ十分自覺セシメ、コレガ國策ヘノ積極的協力ヲナサシム
ロ、家庭生活ノ科學化
 家庭科學ノ知識ヲ與ヘ、時局ノ進展ニ應スル家庭生活ノ調整並ニ合理化ヲ圖ラシム
ハ、家族皆勞
 勤勞ノ精神ガ家二漲リ家族ノ全員ガ夫々分ニ應ジテ進ンデ勤勞ニ從フコトハ健全ナル家庭ヲ維持シ延イテハ健全ナル國家ノ發達ヲ圖ル上ニ於テ最モ肝要ナリ、戰時下勞力不足ノ今日ニアツテハ特ニ家族全員ノ協力ニヨル勞力ノ補塡竝ニ增強ノ國家的重要性ヲ強ク自覺セシメコレガ實行ニ力メシム
ニ、隣保相扶
 家生活ノ刷新充實ヲ圖ルタメニモ各家互ニ孤立シテハ到底ソノ實現ヲ期スベカラズ、茲ニ於テ隣保相扶ケ有無相通ジ、協力一致以テ家ノ内外ヲ通ジテ生活ノ刷新充實ノ實ヲ擧クルニ力メシム
ホ、國防訓練
 防空、防火、防諜ノ重要ナル所以ヲ自覺セシメ、必要ニ應ジソノ訓練ヲ實施シテ國防ノ完璧ヲ期セシム
ヘ、家庭娯樂ノ振興
 健全ナル家庭娯樂ハ明朗ニシテ豊カナル家庭ヲ維持シ更ニ子女ノ性格陶冶ノ上ニモ影響スルトコロ大ナルニ鑑ミ、健全ナル家庭娯樂ノ指導ニ意ヲ用ヒ、地方ノ實情ニ應ジ個々ノ家庭ニ適合スル娯樂ヲ生活ノ間ニ加ヘ以テ健康ナル生活ノ維持增進ニ寄與セシム
 
五、家生活(いえせいかつ)ノ刷新充實(さっしんじゅうじつ)
 大東亞戰争(だいとうあせんそう)完遂(かんすい)ノタメ、皇國(こうこく)永遠(えいえん)ノ發展(はってん)ノタメ、家庭生活(かていせいかつ)ノ刷新充實(さっしんじゅうじつ)ヲ圖(はか)ルコトハ、正(まさ)ニ今日(こんにち)ノ急務(きゅうむ)ト云(い)フベク、特(とく)ニ左記各項(さきかくこう)ニ留意(りゅうい)スルヲ要(よう)ス。
イ、家庭經濟(かていけいざい)ノ國策(こくさく)ヘノ協力(きょうりょく)
 國策(こくさく)ヲ理解(りかい)セシムルト共(とも)ニ、家庭經濟(かていけいざい)ノ國家的意義(こっかてきいぎ)ヲ十分(じゅうぶん)自覺(じかく)セシメ、コレガ國策(こくさく)ヘノ積極的協力(せっきょくてききょうりょく)ヲナサシム。
ロ、家庭生活(かていせいかつ)ノ科學化(かがくか)
 家庭科學(かていかがく)ノ知識(ちしき)ヲ與(あた)ヘ、時局(じきょく)ノ進展(しんてん)ニ應(おう)スル家庭生活(かていせいかつ)ノ調整(ちょうせい)並(ならび)ニ合理化(ごうりか)ヲ圖(はか)ラシム。
ハ、家族皆勞(かぞくかいろう)
 勤勞(きんろう)ノ精神(せいしん)ガ家(いえ)二漲(みなぎ)リ、家族(かぞく)ノ全員(ぜんいん)ガ夫々(それぞれ)分(ぶん)ニ應(おう)ジテ進(すす)ンデ勤勞(きんろう)ニ從(したが)フコトハ、健全(けんぜん)ナル家庭(かてい)ヲ維持(いじ)シ、延(ひ)イテハ健全(けんぜん)ナル國家(こっか)ノ發達(はったつ)ヲ圖(はか)ル上(うえ)ニ於(おい)テ最(もっと)モ肝要(かんよう)ナリ。戰時下(せんじか)勞力不足(ろうりょくぶそく)ノ今日(こんにち)ニアツテハ、特(とく)ニ家族全員(かぞくぜんいん)ノ協力(きょうりょく)ニヨル勞力(ろうりょく)ノ補塡(ほてん)竝(ならび)ニ增強(ぞうきょう)ノ國家的重要性(こっかてきじゅうようせい)ヲ強(つよ)ク自覺(じかく)セシメ、コレガ實行(じっこう)ニ力(つと)メシム。
ニ、隣保相扶(りんぽそうふ)
 家生活(いえせいかつ)ノ刷新充實(さっしんじゅうじつ)ヲ圖(はか)ルタメニモ各家(かくいえ)互(たがい)ニ孤立(こりつ)シテハ到底(とうてい)ソノ實現(じつげん)ヲ期(き)スベカラズ。茲(ここ)ニ於(おい)テ、隣保(りんぽ)相扶(あいたす)ケ、有無相通(うむあいつう)ジ、協力一致(きょうりょくいっち)以テ(もって)家(いえ)ノ内外(ないがい)ヲ通(つう)ジテ生活(せいかつ)ノ刷新充實(さっしんじゅうじつ)ノ實(じつ)ヲ擧(あ)クルニ力(つと)メシム。
ホ、國防訓練(こくぼうくんれん)
 防空(ぼうくう)、防火(ぼうか)、防諜(ぼうちょう)ノ重要(じゅうよう)ナル所以(ゆえん)ヲ自覺(じかく)セシメ、必要(ひつよう)ニ應(おう)ジ、ソノ訓練(くんれん)ヲ實施(じっし)シテ、國防(こくぼう)ノ完璧(かんぺき)ヲ期(き)セシム。
ヘ、家庭娯樂(かていごらく)ノ振興(しんこう)
 健全(けんぜん)ナル家庭娯樂(かていごらく)ハ、明朗(めいろう)ニシテ豊(ゆた)カナル家庭(かてい)ヲ維持(いじ)シ、更(さら)ニ子女(しじょ)ノ性格陶冶(せいかくとうや)ノ上(うえ)ニモ影響(えいきょう)スルトコロ大(だい)ナルニ鑑(かんが)ミ、健全(けんぜん)ナル家庭娯樂(かていごらく)ノ指導(しどう)ニ意(い)ヲ用(もち)ヒ、地方(ちほう)ノ實情(じつじょう)ニ應(おう)ジ、個々(ここ)ノ家庭(かてい)ニ適合(てきごう)スル娯樂(ごらく)ヲ生活(せいかつ)ノ間(かん)ニ加(くわ)ヘ以テ(もって)健康(けんこう)ナル生活(せいかつ)ノ維持增進(いじぞうしん)ニ寄與(きよ)セシム。
 
 
                           戦時家庭教育指導要項の成立とその背景
 
                                                                   大久保秀俊(弁護士)
                                                                   久保木太一(弁護士
 
第1 はじめに
 戦時家庭教育指導要項の超訳文を作成する上で、同要項の成立背景や目的が重要と考えた。訳文作成において、あえて明言していない部分について、背景や目的から言葉を補っている。
 また、3から5に出てくる「皇国民」あるいは「大東亜戦争」といったキーワードについても趣旨を補って訳している。
 重要なキーワードは「皇国民ノ錬成」であり、母親を錬成体制に巻き込んだ点に特色がある。
 なお、「錬成」とは当時の文部省によれば、練磨育成の意であり、皇国の道に則って、児童の全能力を正しい目標に集中させて、国民的性格を強化するという意味である。
 
第2 成立背景 
1 「家庭教育ニ関スル要綱」
 1937年(昭和12)年に内閣に設置された教育に関する審議会「教育審議会」により、社会教育に関する答申を構成する要綱の一つとして家庭教育の振興策「家庭教育ニ関スル要綱」が作成された。
 もともと、家庭教育は教育制度の範疇とはとらえられていなかったが、家庭教育の政策化に国家が本格的に乗り出していく戦時下の動向の起点をなす。
2 年表
1938年 文部省主催「家庭教育講座」開始。「新東亜建設」を支える家庭の樹立を目的とし、家庭を皇国民錬成の実施組織として位置づけ
1941年 文部省が家庭教育振興に関する予算を特別に計上し、教育審議会が「家庭教育ニ関スル要綱」を答申
「臣民の道」刊行。「家」における錬成のあり方が提示
以後、第5期国定教科書
1942年 「戦時家庭教育指導ニ関スル件」
 かかる文部次官通牒所収の「戦時家庭教育指導要項」に基づき、大日本婦人会との共同主催の下、以後、毎年地方別に「家庭教育指導者講習会」が開催。同会において、その指導者を中心講師として、市町村に「家庭教育講座」が開催。開設箇所は約1千か所
 文部省が直轄学校に委嘱して開催する「母の講座」や、「文部省家庭教育指導指定町村」を指定することを通じて戦時下家庭教育の研究と振興が図られた
3 「家庭教育ニ関スル要綱」から「戦時家庭教育指導要項」へ
 国民統合のイデオロギーとしての家族国家観に基づき、「家」を大東亜建設に結び付ける。
 大東亜戦争の目的完遂のために、母親を戦時下生活に奉仕させるねらいがある。母親が戦時動員体制を支えるうえで不可欠の、家庭生活固有の特質の理解とその実践に努めることが重要と考えられていた。   
4 道場型の錬成から生活型の錬成へ
(1)    家における錬成の理念の確立
(2) 家の任意に任せていた家庭教育に対し国家による根本方針の提示
 これにより家における錬成の基本的なあり方が枠付けされる。
(3) 家における錬成体制の完成
 学校における錬成は計画的かつ集団的な訓練に伴い実施される。
 他方、家においては、すべての日常生活の場面での親の無意識的な一挙手一投足に教育効果を認める「感化」という方式。
 家における錬成の特質として「健全ニシテ豊カナル母ノ感化ヲ子ニ及ボ」すこと。
 家における錬成については、学校における錬成と異なり、命令服従といった関係に基づく画一的教育は逆効果であり、子供の自発性に応じた手立てが必要となる。そのため、「子女ノ自発的活動性ヲ徒ニ阻止スルコトナク自律自制ノ訓練ヲ加ヘ日常生活ノ間カラ良習慣ヲ習得セシム」となる。
 ただし、ここで言う自発性とは幼い頃から天皇に尽くすという信念を自ら固めさせるという意味での自発性であることに注意が必要である。
        
第3 皇国民錬成と家庭教育
1 家ニ関スル調査報告書(1943(昭和18)年8月)
 「『家』ハ第二ノ国民ノ養成所ナリ。日本人ノ真ノ国民的性格ハ伝統ノ『家』に於テ養ハル。総テノ子女ハ『家』ニ於テ為人ヲ得、彼等ノ全生涯ヲ通ジテ其ノ家庭ノ感化ヨリ偉大ナルハナシ。日本精神ノ具体トシテノ『家』ハ無二ノ健兵健民ノ母胎タリ。他ニ比肩スルモノナキ好個ノ皇国民錬成ノ道場タリ」
2 家庭教育が皇国民錬成体制の根源として位置づけられた要因
(2)    「家庭ハ実ニ修養ノ道場」
 家庭という最も日常的な生活を通じての感化や、両親が模範となることこそが教育効果を有するという考え方があった。
 当時の社会教育局長関屋龍吉によれば、この時期大きな社会問題となった左傾問題といった思想悪化に関し、左傾学生を「転向」させた最も大きな要因こそが、「家庭の愛」「母の涙」であるとの指摘がある。
 司法省行刑局の統計による転向動機の調査結果によれば、家庭関係による場合が圧倒的多数である。
 ① 宗教関係 45名
 ② 家庭関係 203名
 ③ 理論的清算 46名
 ④ 国民的自覚 90名
 ⑤ 性格健康等の身上関係 33名
 ⑥ 拘禁生活に後悔 49名
 ⑦ その他 20名
 このような結果から、家庭における教育機能を国家の意図のもとに再編成することが政策課題となる。
(2) 母親の教育
 思想的な背景として、三田谷啓の母親教育構想がある。
ア 背景にある女性認識
 子供を産むという身体的機能と、子のためには母の身は棄ててもいとわないという我が子に対する母の愛に見られるような、本能ともいうべき普遍的な「女性性」という認識がある。
イ なぜ母親の教育が必要なのか
 国家の改造のためには、子供の改造から始めなければならず、そのためには、子供を生み育てる母親の改造から始めなければならないと考えた。
 また、母親の本能的な愛情はそのままでは子供を損なう危険性のある「不合理な愛」と考えられており、合理的で科学的な育児法と実践によって、子供をより善く育てることの出来る方向へと導く必要があると考えられた。
(3) 家庭教育と学校教育の接合
 児童の全生活を見通し、24時間の教育体制をどう作るのかが「錬成」における重大な課題であった。学校教育における錬成だけでは足りない。
 そこで、「家」を場とする錬成が皇国民錬成体制の根源として位置づけられることとなる。
 学校教育を中心とした道場型の錬成から生活型の錬成へと変貌していく。
 
第4 家庭教育支援法との類似性
1 「我が国の伝統」というレッテル貼り
 新しいイデオロギーを植え付ける際に、新たなものとして導入するのではなく、所与のもの、本来の意味がそうであった、現状の認識が誤っているだけという切り口で語られる。
「戦時家庭教育指導要項」における「闡明」「自覚」「本来」といった文言からも明らか。あくまで現状認識を誤っており、それを正すというスタンスが透けて見える。
2 家庭教育における私事性の否定
 当時の教育審議会委員の下村寿一の問題意識が家庭教育支援法においても妥当する。
(1) 家庭の教育力が低下しているという勝手な現状認識
 青少年の逸脱行動の責任は家庭にあるから、家庭教育の機能強化が急務だと考えられていた。
(2) 教育内容への干渉
 教育振興を図るためにその振興手段を定めるにとどまらず、実質的に教育内容について規定してしまうことになる。
 「家庭教育ニ関スル要綱」の答申の際、審議会委員であった佐々井信太朗は、個々の過程の教育に文部省が干渉することはありえないだろうと述べていたが、結局、介入を認めることになった。
3 運用による変化
 教育勅語は発布当時、特に問題視されていなかった。
 しかし、その後、利用されるに至ったように、規程自体は抽象的かつ問題のなさそうなものであっても、その後の解釈によってゆがめることは容易であることが指摘できる。
                                                                            以上
 
(付記)
 上記「戦時家庭教育指導要項の成立とその背景」の執筆者の1人である大久保秀俊弁護士から、「本稿では子どものことを、あえて「子供」と記載しています。学習会において、なぜ「子供」と記載したのかとの指摘をうけましたので、下記のような注を入れることにしています。」というメールをいただきましたので、お送りいただいた「注」をそのままご紹介します。
 
(注)
「子供」との表記に対しては、子どもが大人に従属するものであるかのような印象を抱かせるとの指摘がある。もっとも、同要項は、国や天皇への奉仕者としての子どもを育て上げることを目的とするものであるから、むしろその意に沿うものとして、あえて本稿では「子供」という表記で統一している。
 
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/家庭教育支援関連)
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