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司法に安保法制の違憲を訴える意義(17)~東京・差止請求訴訟(第4回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述

 2017年8月7日配信(予定)のメルマガ金原.No.2897を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(17)~東京・差止請求訴訟(第4回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
 
 昨年の4月26日、東京地方裁判所に2件の安保法制違憲訴訟が提起されました。1つは国家賠償請求訴訟、もう1つが差止請求訴訟です。
 国賠請求訴訟は同地裁の民事第一部、差止請求訴訟は民事第二部に系属し、国賠請求訴訟がやや先行しつつ、ほぼ同じようなペースで弁論期日を重ね、今年6月2日の国賠請求事件に続き、7月24日には差止請求事件も第4回口頭弁論期日を迎えました。
 第4回における原告の主張の概要は、以下に紹介する報告集会資料(角田由紀子、古川健三、伊藤真各弁護士による陳述書)をお読みいただくとして(そういえば、「安保法制違憲訴訟の会」ホームページには、訴状以外の訴訟資料は掲載しないという方針になったようです)、今後の本件訴訟の進行予定については、報告集会における福田護弁護士による報告(UPLAN動画の2時間06分~)で説明されています。
 それによると、
〇次回第5回口頭弁論期日(10月27日)までの間に、PKO協力法によって付与された新任務の差止請求、及び自衛隊法95条の2に基づく合衆国軍隊等の武器等防護の差止請求を追加提訴する(現在継続中の訴訟の請求の追加的変更ではなく、別訴の提起とするのは、系属裁判所との協議に基づくものだとか)。
〇次回期日までで原告による基本的な法的主張は出し終わり、来年からは、立証の段階に入っていきたい(金原注:追加提訴に関わる主張はなお必要だろうと思いますが)。
ということでした。 
 
 東京地裁前事前集会、裁判所内司法記者クラブでの記者会見、参議院議員会館講堂での報告集会の模様を、UPLAN(三輪祐児さん)がYouTubeにアップしてくださっていますのでご紹介します。
 
20170724 UPLAN 東京地裁103号法廷を満席に!安保法制違憲訴訟 自衛隊出動差止めの第4回口頭弁論期日 & 報告集会(2時間24分)

冒頭~ 東京地裁前事前集会
23分~ 記者会見
55分~ 報告集会
55分~ 寺井一弘弁護士(共同代表)
1時間03分~ 伊藤 真弁護士
1時間14分~ 角田由紀子弁護士
1時間26分~  古川 ( こがわ ) 健三弁護士
※古川弁護士が冒頭で、今回から原告本人の意見陳述が行われなくなった事情を説明されています。
1時間40分~ 水越淑子さん(原告)「孫たちを守らなければならない」
1時間45分~ 竹中正陽 (まさはる)さん(原告)「「平和愛好国」日本のブランド」
1時間55分 大村芳昭さん(原告)「国際家族法研究者、教育者、学部長として」
2時間06分~ 福田 護弁護士「差止追加提訴について」
2時間22分~ 司会(杉浦ひとみ弁護士)
 
 なお、3人の弁護士による陳述内容をご紹介する前に、上記動画でも語られていたことを2点ほど取り上げてご紹介します。
 
〇私のブログでも事前にご紹介しましたが(近刊予告!『私たちは戦争を許さない-安保法制の憲法違反を訴える-』(8/4岩波書店刊/安保法制違憲訴訟の会 編)/2017年7月23日)、8月4日、岩波書店から、『私たちは戦争を許さない-安保法制の憲法違反を訴える-』(安保法制違憲訴訟の会編)が刊行されました(1300円+税)。
 版元の岩波書店ホームページから、冒頭の24頁分が「立ち読みPDF」として公開されています。
新宿・紀伊國屋3階「私たちは戦争を許さない」 「安保法制違憲訴訟の会」共同代表の寺井一弘弁護士が、早速、新宿・紀伊國屋書店3階まで視察に行かれた際の写真がMLにアップされ、「私としては今週から一気に販売活動を本格化したいと思っております。提訴、若しくは提訴予定の全国各地で位置付けて関係団体や市民の皆様にご購入いただけるよう働きかけくだされば大変嬉しく思います。」ということでしたので、その写真を転載させていただいても支障ないだろうと判断しました。
 それにしても、『私たちは戦争を許さない-安保法制の憲法違反を訴える-』の周りに平積みされているのが、田母神俊雄氏の著書(2冊)や『戦争がイヤなら憲法を変えなさい』(古森義久著)だったりするというのが、いやはや何というか・・・。
 是非、書店が瞠目するほど、『私たちは戦争を許さない-安保法制の憲法違反を訴える-』が売り上げを伸ばして行って欲しいと思います。「安保法制は許せない」という志を共有される皆さんに、「是非お買い求めください」と訴えたいと思います。
 
〇報告集会で、裁判の進行状況を報告した福田護弁護士のお話の最後の方で、少し気になる発言がありました。それは、この第4回口頭弁論の傍聴席に空席が見られたということです。東京地裁における安保法制違憲訴訟は、国賠請求訴訟、差止請求訴訟とも、同地裁最大の103号法廷を使って行われてきましたが、抽選なしで、傍聴席に空席が目立つことが続くようであれば、早晩もっと小さな法廷に移されることになるでしょう。「安保訴訟違憲訴訟の会」としても、訴訟に対するバックアップ力の低下を非常に懸念しているのではないかと思いました。
 名前だけ原告訴訟代理人の私が和歌山の地から気を揉んでも何の力にもなりませんが、時間的に傍聴可能な方は、是非支援のために日程を確保していただければと希望します。
 裁判の日程については、「安保法制違憲訴訟の会」ホームページに、随時掲載されます。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 角 田 由 紀 子
人格権の被侵害利益性と具体的被害について
 
1 原告らは、既に提出した準備書面(7)において、原告らの主張する人格権が差止請求等の根拠となるべきであることを詳しく論じ、これを否定する国の主張が間違っていることを論証しております。
 
2 今日においては、「人格権」と呼ばれる権利が存在し、これが何らかの意味で法的に保護されることは、わが国の判例・学説で疑問の余地なく認められております。
(1) 学説について
 人格権についての議論は、日本でも戦前に始まり今日までに多くの議論が積み重ねられてきております。今日まで、人格権議論に貢献してきたのは、主として、憲法学者民法学者でありますが、社会の変化・進展に伴ってその内容はより豊かなものになってきています。
 人格権を専門的に研究しているある学者は、近年は、環境に関する権利・利益や情報・プライバシーに関する権利・利益などに関連して人格権に含まれる権利が新たに提唱されるなど、権利内容が多様化しており、その現代社会における重要性はさらに高まりつつあると述べております。また、別の学者は、人類はこれからも人格的価値を侵害する思わぬ事態に遭遇することであろうが、その過程で人格権の新しい側面も見出されてくるであろうと述べております。
 多くの権利がそうであるように、人格権も未だ完成されたものではなく、社会の進展・変化に対応して新しい認識を重ねてその権利に含まれるものを広げていくものです。新安保法制法のもとでの新しい人権侵害状況は、今までの学説及び判例によって築きあげられてきた人格権議論の蓄積の上に立って、さらに肯定的に考えられるべきものです。
(2) 判例について
 判例も、非常に重要な権利として人格権を認めております。以下にその一部を紹介します。いずれも、国家賠償請求を含む損害賠償請求事件あるいは差止請求事件を認める根拠として、人格権を明確にしております。
最高裁第二小法廷平成3(1991)年12月21日判決(水俣病認定業務に関する熊本県知事の不作為違法に対する損害賠償請求事件上告審判決)は、県知事による水俣病認定が遅れており、認定を待つ患者の不安や焦りの気持ちは、「いわば内心の静謐な感情を害するものであって、その程度は決して小さいわけではない」として、それが不法行為法上の損害賠償の対象となる権利・利益であることを認めました。この判決は、最高裁として、「内心の静謐の利益」を不法行為法上の保護法益として明確に認めた最初の判決です。本件原告らの人格権侵害という主張の理解に大いに参考になるものです。
 下級審でも重大な判決がいくつも出されております。
②大阪高裁 昭和50(1975)年11月27日判決は、大阪国際空港の夜間飛行禁止等請求事件のものです。「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体を人格権ということができる。」「人格権の内容をなす利益は人間として生存する以上当然に認められるべき本質的なものであって、これを権利として構成するのに何らの妨げはなく、実定法の規定をまたなくとも当然に承認されるべき基本的権利である」と述べました。この事件では、被告国は、学説による体系化、類型化をまたなくては人格権として裁判上採用できないと主張したのですが、大阪高裁は、その主張をはっきりと否定しました。大阪高裁のこの判断は最高裁でも肯定されています。
③福井地裁平成26(2014)年5月21日判決は、大飯原発3,4号機の運転差止を認めたものです。この判決は、人格権は憲法上(13 条、25 条)の権利であり、人の生命を基礎とするものなので、わが国の法制下では、これを超える価値を見出すことができないとして、その重要性が強調されています。これは、本件で原告たちが訴えている、戦争による生命侵害への不安、恐れの重要性に通じるものとして示唆的です。
④最近のものとしては、2017年3月17日、前橋地裁の判決があります。福島・原発被害避難者による損害賠償請求事件です。判決は、平穏生活権が自己決定権を中核とした人格権であって、放射線被ばくへの恐怖不安にさらされない利益や内心の静謐な感情を害されない利益を包摂する権利など、多くの権利を包摂するものであると述べています。
 これらの指摘は、本件原告らの多くが、憲法のもとで築いてきた今までの人生を否定されたと感じ、戦争になるのではないかとの恐怖不安にさらされるなどしていることが、人格権の深刻な侵害であると訴えていることが認められるべき論拠となるものです。
 以上のように今日までの学説・判例によれば、少なくとも人間の尊厳に伴う基本的な法益をその内容とするものであれば、人格権・人格的利益として法的保護の対象になることが明らかにされています。
 
3 終わりに
 今、原告たちに残された救済の手段は司法しかありません。多くの人々の期待が今ほど司法に寄せられたことはなかったのではないでしょうか。ぜひ、憲法が司法に託した責務を果たして下さるよう、改めて裁判所にお願いをする次第です。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 古川 ( こがわ ) 健三
原告らの主張する人格権の内容と人格権にもとづく差止請求権
 
 本件において、原告らが主張している人格権は、(1)生命権、身体権及び精神に関する利益としての人格権、(2)平穏生活権、(3)主権者としてないがしろにされない権利(参政権的自己決定権)の三つです。
 生命権、身体権及び精神に関する利益は、人格の本質であって、これを超える価値を見出すことはできません。原告らは、のちに述べるように、新安保法制法の制定によって、その生命・身体への侵害の危険を感じ、精神的苦痛を受けています。
 また、原告らは、戦後憲法により築かれてきた平和な生活が、新安保法制法により否定され、破壊されることにより、平穏生活権を侵害されています。新安保法制法により、日本は軍事的対立の当事国となりうることとなりました。
 2017年5月1日、新安保法制法により新設された自衛隊法95条の2にもとづく「武器等防護」として、海上自衛隊の艦船が「カール・ビンソン」の米艦防護にあたりました。このことは、新安保法制法の制定により自衛隊と米軍との一体化が進み、原告らの平和な生活が現実に脅かされていることを明らかにしました。米軍基地周辺や、原発周辺、また海外にいる日本人などの生命・安全は脅かされ、平穏生活権は明らかに侵害されています。
 ところで、人格権の本質は、自己決定権であると言われています。自己決定権が法律上保護されるべきであることは、当然です。自己決定権については、医療分野を中心に多くの判例が蓄積されています。そして、自己決定権のうちでも、参政権的自己決定権は最も重要なものであり、そのなかでも、憲法改正手続に参加し、意思表明する機会を与えられる権利は、国民主権原理に由来するもっとも重要な権利として保障されなければなりません。ところが従来の政府見解を覆して憲法改正手続を経ないで、新安保法制法を制定したことは、原告らが主権者として憲法改正手続に参加する機会を奪いました。
 このようにして原告らの参政権的自己決定権としての人格権は侵害され、さらなる侵害の危険に脅かされています。
 このような人格権の侵害の危険を除去し、さらなる侵害を予防するための差止請求は当然に認められなければなりません。人格権にもとづく妨害排除または妨害予防請求としての差止請求が認められることは、昭和50年の大阪国際空港事件大阪高裁判決が認め、最高裁も昭和61年の北方ジャーナル事件で明らかにしています。
 生命権・身体権及び精神的な利益としての人格権、平穏生活権にもとづく差止はもちろん、自己決定権にもとづく差止請求も認められるべきです。人格権にもとづく差止に関する判例としては、廃棄物処理施設の使用や操業の差止を認めたもの、暴力団事務所の使用差止を認めたもの、さらに自己情報コントロール権にもとづく個人情報削除を認めたものなどがあります。
 さらに、個別の原告らが受けている人格権侵害と侵害の危険の内容の一部を説明します。
戦争体験者は、戦争により生死の境をさまよい、肉親を失い、戦後も戦災孤児となったり、戦争のトラウマにさいなまれるなど、過酷な生活を強いられました。憲法9条は、戦争体験者である原告らにとっては、肉親の命と引き換えにようやく手に入れることができた平和であり、不戦の誓いの中に原告らは生きる希望を見出したのです。しかし新安保法制法は、戦争の現実の危険をもたらし、原告らのうちにトラウマを呼び起こし、戦時の過去の追体験を迫っています。そこにはすでに国賠法上賠償されるべき被害があり、またさらなる侵害の予防は不可欠です。一旦戦争に巻き込まれたらもはや後戻りはできないからです。
基地周辺住民の原告や原発関係者である原告の人格権侵害も、深刻です。厚木基地周辺の原告はすでに米軍機の爆音被害を受けていますが、新安保法制法のもと、軍事対立の激化により一層大きな恐怖にさらされることになります。 
 船員、航空労働者、鉄道関係者、医療従事者などの不安も甚大です。戦時中、船員は兵站を担うために徴用され、多くの命が失われました。
 戦後、幾多の国際紛争がありましたが、日本は憲法9条があり、戦争を行わないことにより日本の船員たちの命が守られていました。しかし、新安保法制法成立後、彼らを守るものは失われました。新安保法制法制定後、防衛省が民間フェリーとチャーター契約したことは、原告らに大きな危機を抱かせました。
 子をもつ母、孫を持つ祖父母たちの平穏生活権も著しく侵害され、危険にさらされています。
 ある原告の孫は、安保法制が審議されていた当時、小学校6年生でしたが「戦争はしたくないよ」と言い、その原告の胸は張り裂けそうでした。
 またある原告の子は、金魚が死んでも泣く心優しい子です。その子が新安保法制法により戦場に送られるかもしれないと考えると原告は涙が溢れます。
 このような原告らの訴えはいずれも大きく胸を打ちます。裁判所には、ぜひとも原告らの訴えに耳を傾けていただき、この国の未来のために裁判所の職責を果たしていただきたいと切望します。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士  伊 藤  真
準備書面(8)について(立法不法行為における職務行為基準説と相関関係論)
 
第1 国賠法上の違法性の判断基準について
 原告らは、いわゆる立法不法行為に関する違法性の判断において「職務行為基準説」を採り、かつ、いわゆる「相関関係論」すなわち、侵害行為の態様・程度と被侵害利益の種類・内容との相関関係において違法性が判断されるとする立場を採用している。両者の関係について明確にした上で、「平和的生存権」、「人格権」、「憲法改正・決定権」の具体的権利性を否定する被告の主張が不当なものであることを述べ、これに反論する。
 まず、国賠法上の違法性は、厳密な行政法規違反に限定されるものではないことは、田中二郎博士など行政法の研究者や、平成25年3月26日最高裁第三小法廷判決に付された寺田逸郎裁判官及び大橋正春裁判官の補足意見などでも言及されているところである。
 被告主張のように、侵害行為の態様や被侵害利益の内容を考慮すべきでないと言えるのは、刑事手続上の検察官や裁判官の職務行為の違法性が問題となった事案における「職務行為基準説」(「公権力発動要件欠如説」とも称されるもの)についてであり、これと、一般の行政処分についての「職務行為基準説」を混同してはならない。
 行政処分に関するいくつかの裁判例においても、国賠法上の違法性を、侵害行為の態様・程度と被侵害利益の種類・内容との相関関係において判断している。
 よって、一般に「職務行為基準説」を採用することが、「相関関係論」を否定する理由にはならない。
 では、立法不法行為の場合はどうであろうか。
 立法不法行為の場合には、職務行為基準説を採用しつつも、より一層、侵害行為の態様と被侵害利益の種類・性質との相関関係を考慮するべきと考える。国会議員の職務義務違反という行為態様の違法性の質と量は、侵害行為の態様と被侵害利益の種類・性質等を考慮しなければ、判断できないものといえるからである。特に、憲法の基本原理に牴触したり、国民各人の権利や法的利益を侵害したりする可能性のある法律を制定する場合には、相当慎重に立法内容を検討する注意義務があるといえ、さらに、有識者から違憲と指摘されるような法律を制定する際には、当該立法が憲法違反とはならないことを国民に説得的に説明する法的義務が生じているといえる。このように、国会議員の職務義務の内容・レベルは、侵害行為の態様、当該立法行為によって生じる被侵害利益の種類・性質などを考慮しなければ判断できない。検察官の公訴提起・追行などの公権力発動要件のように明確な要件が予め法定されている訳ではないからである。
 
第2 「『平和的生存権』は、国賠法上保護される具体的権利ないし法的利益とは認められない」 という被告の主張は正当でないこと
 被告の立場は「平和的生存権は抽象的かつ不明確」であり、裁判上の救済の対象となる「具体的権利ないし法的利益と認められない」という論旨で一貫している。被告のこうした主張は、戦争や武力行使の現実を直視しないことから生じるものである。「平和的生存権」の権利性を正確に認識するためには、まずは具体的事実例に真摯に向き合うことが必要となる。
 原告らが、陳述書で述べ、法廷で主張している内容は、あくまでも、原告らの現実である。
 こうした現実に目を向けず、「抽象的かつ不明確」という主張を繰り返す被告の対応は、多くの国民・市民の苦しみに目を閉ざすものと言わざるを得ない。
 平和的生存権については、歴代政府が自衛隊の海外派兵を加速させることに対応して、憲法学会では、その内容も精緻化されてきたし、裁判所でも「平和的生存権」の具体的権利性を認める判決が生まれている。このように「平和的生存権」の内実も確実に進化しているのである。
 こうした時代の変化や学説・判例の進歩を考慮せず、従来どおりの旧態依然の主張を繰り返すことは許されない。被告は、自ら「我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」と認めている。そのような今日においても、平和的生存権という人権の進化を認める必要など全くないというのであろうか。権利ないし法的保護利益は、侵害の具体的な危険性が増加すれば、それに伴って要保護性も増していくものである。
 プライバシー権などの人格権がその最たるものであろう。個人情報が本人の意に反して拡散してしまう危険性が増している現代だからこそ、これを法的に保護する必要性が増しているのである。平和的生存権も同様である。
 付言するが、2016年12月19日、「平和的生存権」と同じような内容を有する「平和への権利宣言」が国連総会で採択された。「平和概念が曖昧」であるとか「司法上の権利となり得ない」という主張をする国も存在したが、そうした見解は国連総会で支持されなかった。平和を権利として認識することは、もはや国際標準なのである。 
 なお、違憲訴訟のあり方に関する被告の主張に対しては、さらに別途準備書面にて反論する。
 
第3 「人格権は国賠法上保護される権利ないし法的利益とは言えない」 という被告の主張は、「人格権」に関する不当な理解に基づくこと
 原告らの主張する人格権について、被告は、「漠然とした不安感を抱いたという域を出るものではなく、かかる内容をもって具体的権利性が認められると解する余地はない」などと述べている。これが誤りであることは、準備書面(7)において詳細に主張する。
 新安保法制法の成立により、基地周辺や大都市、原発周辺の住民、自衛官、海外にいる日本人、NGO関係者などの生命や安全が危険にさらされる。こうした状況はまさに「人格権」の侵害と言わざるを得ない。
 
第4 憲法改正・決定権は「『国家の主権者としての国民』という抽象的な位置づけ」 にとどまるものではなく、 具体的な権利であること
 被告も、国政選挙における選挙権に関しては「国家賠償法上保護された権利」と認めるであろう。そうだとすれば、憲法改正・決定権が問題となる投票の場合には、国政選挙以上に「国家賠償法上保護された権利が存在」すると考えざるを得ない。憲法学説でも、憲法改正・決定権こそが主権者の意見表明であると考えているし、選挙という主権者の間接的な意見表明よりも、国民投票という直接的な意見表明の方が、より強固で明確な意思表示といえるからである。
 また、被告は、「そもそも、平和安全法制関連2法は、憲法の条文自体を改正するもの」ではないことを根拠に、憲法改正手続きに関する原告らの具体的、個別的な権利ないし法的利益に何ら影響を及ぼすものではない旨を主張する(答弁書39頁)。
 しかし、この主張は、ヒトラーナチスによる「授権法」成立(1933年3月23日)により、ワイマール憲法が実質的に廃止されたように、法律の制定によっても憲法の意義が空洞化される事例が存在する歴史を忘れた危険な主張であり、「法の支配」や「立憲主義」の理念を体現する、日本国憲法の基本理念の空洞化を正当化するものであり決して許されるものではない。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/安保法制違憲訴訟関連)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述
2017年1月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年1月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(9)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告(田中煕巳さんと小倉志郎さん)による意見陳述

2017年2月14日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(10)~東京「女の会」訴訟(第1回口頭弁論)における原告・原告代理人による意見陳述

2017年3月15日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述 
2017年3月16日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(12)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告(田島諦氏ほか)による意見陳述
2017年4月21日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(13)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述

2017年4月22日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(14)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告による意見陳述(様々な立場から)

2017年6月23日