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米国「ジュゴン訴訟」に新たな展開~原告敗訴の一審判決が破棄差戻しとなった

 2017年8月29日配信(予定)のメルマガ金原.No.2919を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
米国「ジュゴン訴訟」に新たな展開~原告敗訴の一審判決が破棄差戻しとなった
 
 しばらく前のことになりますが、このようなニュースが流れたことをご記憶でしょうか?
 
 (引用開始)
 沖縄県名護市辺野古の新基地建設は米文化財保護法(NHPA)に違反するとして、日米の自然保護団体などが米国防総省に同法を順守するまでの工事停止を求めた「沖縄ジュゴン訴訟」の控訴審判決が21日(現地時間)、米サンフランシスコ第9巡回区控訴裁判所であった。同裁判所は「原告には訴訟を起こす資格(原告適格)があり、請求は政治的ではない」と指摘。原告の訴えを退けた一審の同連邦地裁の判決を覆し、審理を地裁に差し戻す判断を下した。
 米サンフランシスコ連邦地裁は2015年2月、日米両政府の合意に基づいた基地建設行為について「裁判所は差し止めたり、介入したりする権限を欠いている」として、原告側の請求を却下した。原告は判決を不服として控訴していた。
(引用終わり)
 
 なお、8月23日付の沖縄タイムス社説([ジュゴン訴訟差し戻し]米世論をかき立てたい)もお読みください。
 
 いわゆる「ジュゴン訴訟」という訴えがアメリカの裁判所に係属しているということ自体は何となく漏れ聞こえていましたが、恥ずかしながら、その具体的な中身までは知りませんでした。
 そういう状態のところに、上記のニュースに接した上に、私が所属する全国的な弁護士・法律家団体のMLに、愛知県弁護士会の籠橋隆明弁護士から上記判決についての報告が投稿され、そこで、
「本件ではJFLF(日本環境法律家連盟)も原告となっています。基地建設差し止めは、実際には基地建設のための立入許可の停止を求めるものです。建設予定地は日米地域協定に基づき、米国政府の許可なしでは立入できません。
 地裁は米国政府は違法状態にあると宣言したものの、途中裁判官が変わった結果、政治問題の法理(統治行為論のようなもの)を理由に原告適格を否定しました。そこで、米国巡回裁判所に控訴しましたが、このたび、控訴審が適格を認め原審に差し戻す判決を出しました。この判決は基地建設差し止めの道を切り開く大きな前進と言えます。もちろん、差し止め自体が尚、難しい問題を含んでいますが、少なくとも原審で違法確認されることにはかなり意味があります。」
と要領良くポイントがまとめられていたため、不勉強な私にも、ようやくぼんやりとながら、全体像をつかむとっかかりが出来ました。
 
 そこで、JFLF(日本環境法律家連盟)のホームページを閲覧してみたところ、既に上記判決についての「声明」が発表されていました。早速、読んでみましょう。
 
(引用開始)
                                 声     明     文
 
                            2017年8月28日
                            日本環境法律家連盟(JELF)
                            理事長 池田 直樹
 
1.2017年8月21日、米国第9巡回高等裁判所は、辺野古基地建設に関し、原告らが、米国政府を相手として、NHPA違反の違法確認と建設関与の差止を求めていた裁判につき、原告適格等を否定した地裁判決を破棄し、審理を差し戻すとの判決を下した。

2.2003年、日本環境法律家連盟(JELF)は、米国環境保護団体(Center for Biological Diversity/ CBD)と共同してNational Historical Preservation Act(NHPA/国家歴史的財産保全法)に基づく訴訟をサンフランシスコ連邦地方裁判所に提訴した。NHPAは、世界遺産条約の執行法でもあることから、米国政府は、自国のみならず他国の文化財も保護する義務を負う。ジュゴンは日本の文化財保護法に基づく国の天然記念物であるから、米国政府は、辺野古基地建設に際し、NHPAに基づき適切なジュゴン保護手続きを行わなければならない。そこで私たちは、本訴訟を通じて、米国政府が、NHPAを遵守し、沖縄ジュゴン及び辺野古新基地周辺の自然的、文化的環境を保護することを求めてきた。 

3.2008年、サンフランシスコ連邦地方裁判所は、米国政府が辺野古基地建設に当たり行ってきたジュゴン保護手続きは違法であるとする画期的な中間判決を下した。しかし2015年の同地裁判決は、米国政府による同時点でのジュゴン保護手続きの違法確認請求につき原告らの原告適格を否定し、また適切なジュゴン保護手続きを履行するまでは基地建設を差止ることを求めた原告らの請求に対しては、司法による政治介入を避ける政治問題の法理を理由に訴訟要件を否定し、いずれの請求についても却下したため、原告らは直ちに連邦第9巡回高等裁判所控訴した。
 このたび、同高等裁判所は、原告適格を認めた上で政治問題の法理は本件に適用されないとして、いずれの請求についても訴訟要件を認め、原審を破棄し原審への差し戻しを命じた。私たちは、法の正義を貫き実体審理への途を開いた今回の判決を歓迎する。
 今後、地方裁判所で審理が再開されることになるが、米国政府によるジュゴン保護手続きが違法であったことは過去にも認められているところであり、差戻審においても、この点は揺るがないと考える。私たちは、米国政府のNHPA違反を根拠に、今後、差戻審において、米国政府にNHPAの遵守を求め、ジュゴン保護手続きが終了するまでの間、ジュゴンに直接影響有る行為を禁じること、すなわち、日本国政府のキャンプシュワブに立ち入りに許可を与え、基地建設行為に加担することを中止するよう、強く求めていく。

4.辺野古沿岸部及び大浦湾は沖縄県内でもたぐいまれな自然度の高い地域であり、そのことはジュゴンの生息やアオサンゴの巨大な群落が存在することにも象徴されている。日本環境法律家連盟(JELF)はかねてより、沖縄の豊かな自然的、文化的環境の保全を求めて辺野古基地建設の中止を求めてきた。
 沖縄には日本全体のアメリカ軍専用施設の約70%が集中し、沖縄本島の18%を占めており、沖縄県は過重な負担を強いられている。更に新たな基地建設によって、環境破壊が進むことは、環境的正義に反するものであり、私たちはこれに断固反対する。

5.私たちは、米国第9巡回高等裁判所の判決を受けて、沖縄における環境的正義を守り抜く決意を新たにするとともに、日米両国政府が、違法な辺野古基地開発を直ちに中止し、沖縄の自然的、文化的環境を守るための最善策をもとめて沖縄県、名護市、地域住民、環境保護団体、研究者など広範な意見を求めて真摯に対応することを求めるものである。
以上
(引用終わり)
 
 なお、これまでの「ジュゴン訴訟」関連の資料は、以下のページに集積されています。
 
 
 訴訟資料は全部英語で書かれており(当たり前ですが)、英語が苦手な私には正直お手上げですが、それだけに、JFLF(日本環境法律家連盟)の皆さんの長年の奮闘に心から敬意を表したいと思います。
 これからも、「ジュゴン訴訟」の行方には注目していきたいと思います。