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中島岳志氏が解き明かす日本政治の見取図~リベラリズムとパターナリズム、再配分と自己責任

中島岳志氏が解き明かす日本政治の見取図~リベラリズムパターナリズム、再配分と自己責任
 
 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の中島岳志(ナカジマタケシ)さんは、保守主義者であると自己規定しつつ(『「リベラル保守」宣言』という著書もあります)、「週刊金曜日」の編集委員でもあるという、なかなか興味深い位置取りをされながら、積極的な発言をされている方です。
 ですから、中嶋さんが、「週刊金曜日」で日本共産党山下芳生(ヤマシタヨシキ)副委員長(参議院議員)と対談しても別に不思議はないのですが、10月6日に行われた緊急対談「衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、リベラル陣営のリアリズムとは」が、「週刊金曜日」10月13日号に掲載され、10月14日に週刊金曜日・公式ブログ「週刊金曜日ニュース」にアップされたというタイミングは見逃せません。
 今回の選挙ほど、「リベラル」とか「保守」という政治用語が飛び交ったことはかつて無かったように思います。しかも、その意味内容についての理論的裏付けを持ったしっかりした認識なくしては、とても今の日本の政治状況を正確に把握することなどできず、うっかりすると、とんでもない選択に陥る危険さえあります。
 その意味から、投票日まであと1週間と迫ったこの時点で、頭の整理のためにこの対談をお読みいただく意義は大いにあると思います。以下に、中島教授の意見の主要部分を抜粋してご紹介しますが、是非、リンク先で全文をお読みになることをお勧めします。
 
緊急対談 衆院選で問われる日本政治の新しい対決軸、リベラル陣営のリアリズムとは(山下芳生×中島岳志
2017年10月14日4:40PM|カテゴリー:政治
(抜粋引用開始)
中島岳志 私はこれまで、保守思想に基づいての思考や議論をしてきましたが、今の自民党をはじめ日本で「保守」を掲げる人たちには強い疑念を持っています。これは従来の「保守vs.革新」という枠組みが崩れているからで、衆院選を前に、その枠組みを見直す必要があると思っています。
 保守の立場から自分自身の話をすると、私は今まで共産党に投票したことはありません。けれど、自民党を選択する可能性はどんどんなくなっていて、このところは民進党をさまざまな面からサポートしてきました。この中でここ数年間、面白い現象が起きています。新聞社などがやっている、自分の考えと各政党のマニフェストとの相性診断をしてみると、どれをやっても結果は共産党になるんです。保守の論理を追求すると、内政面では共産党の政策と近くなる。
(略)
中島 安保法制に対して本来の保守が最も怒っているのは、その決め方です。保守は、懐疑主義的な人間観を持っている。それは、理性は不完全で万能でないという考えからくるもので、「多くの庶民たちによって形成されてきた良識や経験値を大切にして、徐々に変えていこう」という考えが保守思想の王道だからです。
 それゆえに保守の言う民主主義とは、単純な多数決ではない。少数者にも理があるので意見を汲み取りながら合意形成をして、前に進めていくというもので、大平正芳さんなどの保守政治家が実践してきたことです。大平さんは共産党とも社会党ともさまざまな議論をしながら合意形成をしていた。それが政治における保守の人間の肌感覚、人間観なんです。
 しかし、安倍晋三首相には決定的にそれが欠如している。国会というものを非常に軽視し、議論というよりは単に時間をクリアすれば安保法案は通るんだという姿勢を取り続けた。これに対して保守は、「あいつはデタラメだ」と感じているし、違和感を持っています。自民党の重鎮の方々にも、同じ感覚を持っている人が多くいると思います。
(略)
中島 それで現在の政治状況を把握するために、<図>を見て考えていきたいのですが、縦軸はお金、つまり再配分の問題です。税金を集めて、それをどこに使うかという非常に強い権限を政治は持つわけですが、下に行けば行くほど小さな政府になります。つまりリスクの個人化が図られ、自己責任にされてしまう社会。上に行けば行くほど、それを社会みんなで支え合うというセーフティーネット強化型の大きな政府になる。
 横軸はリベラルとパターナルという価値観の問題です。リベラルは、基本的に個人の内的な価値の問題について権力は土足で踏み込まないという原則を持つ。これは寛容ということです。その反対語は、保守ではなくてパターナルで、価値を押しつける権威主義父権制といった観念のこと。これは夫婦別姓、LGBT(性的少数者)の権利、歴史認識の問題などに現れやすい。
 明らかに今の自民党は〈ローマ数字4〉の一番下のラインに位置すると思います。日本は、租税負担率や全GDP(国内総生産)に占める国家歳出の割合、公務員数などあらゆる指標がOECD経済協力開発機構)諸国最低レベルとなっていて、もはや自己責任がいきすぎている社会です。
 小池百合子さんも〈ローマ数字4〉に属します。彼女はかつて夫婦別姓に大反対しており(編集部注・「希望の党」は「寛容な保守」をアピールするために選択的夫婦別姓の導入に取り組んでいくとしている)、完全に思想的にはパターナル。極右的で歴史認識もひどい有様です。
(略)
山下芳生 永住外国人地方参政権反対を希望の党の公認候補になるための踏み絵にもしていましたよね。
中島 そうなんです。小池さんはリスクの個人化や規制緩和を促進してきた。生活保護の受給に厳しい発言を行ない、自助を強調してきた。それなので、現在「安倍vs.小池」と言われていますが、これは〈ローマ数字4〉という狭いコップの中の争いでしかありません。パターナルかつリスクの個人化が極まった〈ローマ数字4〉の一番下のラインに位置する日本を〈ローマ数字2〉の方向に向かわせるためには、〈ローマ数字2〉の軸をしっかり作ること、つまり野党共闘ということになる。
 ただ、〈ローマ数字2〉は部分的には〈ローマ数字1〉や〈ローマ数字3〉と連携ができるかもしれないけれども、(ローマ数字4)と組むことだけは絶対にしてはいけない。しかし民進党は小池都知事を代表とする希望の党と組んでしまったので、わけがわからないことになっています。民進党の前原誠司さんがやったことは政治の問題以前の話で、保守って最後はシンプルに「仲間を裏切ってはならない」という常識を重視しますが、それすらも守れていない。
 自民党もかつては、田中角栄さんなど旧経世会が〈ローマ数字1〉で、大平さんなど宏池会が〈ローマ数字2〉でした。このバランスでやってきたはずでしたが、1990年代後半から一気に下のラインにきている。ここを取り戻したい。公明党は本来〈ローマ数字2〉ですが、政権にすり寄ることで生き残りをかけようと、〈ローマ数字4〉であることに甘んじています。
(略)
中島 そこで<図>の〈ローマ数字2〉の軸、野党共闘について考えてみると、保守である私の考えと共産党の挙げる政策には一致点が非常に多い。最近、面白い論考が『中央公論』10月号に出ていて、世論調査をしたところ、共産党を保守の側だと位置づける若者が多いというんです。これは、国民の生活を守る、地方における零細企業の雇用を守る、グローバル資本主義経済の餌食にならないよう農家の所得を守るなど、共産党が「生活の地盤を守る」ということを非常に強く言っているからだと思います。それが若者にとっては大変保守的なものだとうつる。
 私はこの若者の感覚はするどいと思っていて、私自身もここ5年ほど、保守を考えれば考えるほど共産党の主張と近くなっていくという現象を体験しています。「大切なものを守るためには変わらないといけない」というのが基本的に今の共産党の政策だとするならば、保守の哲学者エドマンド・バークが言ってきた「保守するための改革」ということとまったく同じなんです。
 共産党はTPP反対であり、日豪EPA(経済連携協定)や日米FTA(自由貿易協定)についても非常に厳しい立場ですので、グローバル資本主義新自由主義の暴走への対峙というその姿勢も私と一致します。さらに、大企業に課税し、引き下げられすぎた所得税最高税率を元に戻すべきだとする共産党の姿勢も当然の話で、安倍さんの言う消費税増税より先に手をつけないといけない。内部留保を社会に還元して、最低賃金を上げるという共産党の政策もその通りだとしか言いようがなく、保守的な政策に見える。
(略)
中島 アベノミクスも保守としてどうおかしいのか考えると、企業の内部留保の問題に行きつきます。アベノミクスは一時的な現象であって、未来は不安定だと考えているから、企業は内部留保を貯める。数十年先の安定的なビジョンと政策があってこそ、思い切った投資や企業の活性化というものができるわけで、それがない以上、みんな内向きに縮小していく。中小の零細企業まで政治が支えていくという体制がなければ、経済の循環は生まれません。
 アベノミクスは年金をさまざまなマーケットにつぎ込み、結果、そのお金はグローバル企業に流れていっており、これが日本の土台をどんどん潰していっています。こんなことをしている人間に保守を名乗ってほしくない。
(略)
中島 私は自民党ではなく共産党のほうが、正しい意味での「愛国者」だと思っているんですよね。愛国というものはもともと「民主」という概念とともに生まれてきたものなんですが、少なくとも困っている国民がいたら、ちゃんと助けましょうという連帯意識が含まれている。もちろん排外主義にならないようにリベラルな規制がなければいけないんですが、それがまっとうな愛国。日本共産党という名前の意味は、多分そこにあるんですよね。
山下 はい、「国民の苦難軽減」が立党の精神です。
中島 自己責任という観念についても、ちゃんと乗り越えていかなければいけない。社会的な弱者として位置づけられる人たちが自己責任論に魅了されてしまうケースもあります。維新の橋下さんが典型で、「自分はこんなに頑張って這い上がってきたんだから、この人生を認めてほしい」という承認欲求や実存的アピールが自己責任論になっている。この構造をうまくほぐさないといけない。
 批評家の小林秀雄が面白いことを言っていて、伝統がどういう時に現れるかというと、大きな破壊の嵐に見舞われた時だというんです。これを現在に当てはめて考えると、自民党や維新、希望の党の人たちが破壊者であり、それに対して伝統を大切にせよと言うのが共産党と本来の保守ということになる。
山下 競争と分断を特徴とする新自由主義の政治の暴走に抗う中で、私たちと保守の方々との接点が広がり、地域での連帯がむしろ再生されてきたと感じます。
中島 おっしゃる通り、破壊者が出てきた時にようやく、共産党と保守の溝が埋まった。なんだ、同じこと考えていたんじゃないかって(笑)。
中島 原発についても同じで、保守の人間は原発なんてそう簡単に推進できない。少なくとも福島における伝統、慣習っていうものの総合体を失っているわけですよね。大量破壊兵器原発は慎重に避けるべきであるというのが保守の叡智であると思うんです。つまり原発は廃止したほうがいいということになる。ここの考えも現在の共産党と一致していると思いますが、それは、ある種の科学万能主義っていうところから、共産党も変わってきているからだと思います。
(略)
中島 日米関係については、本来の保守は基本的に、米国の従属に対して主権を取り戻せという立場です。日本の国土の中に実質的な治外法権の場所があるというのは、半独立国であるということ。さらに現状のまま集団的自衛権を認めるとなると、日米安保は完全な不平等条約になります。日本は米国を守らなくていい代わりに、基地を提供し、思いやり予算を提供してきた。
 しかし、集団的自衛権が双方向的なものであるということになると、バーターが成り立たなくなる。日本に米国の軍事基地が残るという不平等性が顕在化する。なんで保守派を称する人たちが、喜んで不平等条約を抱きしめているのか。
(略)
中島 自民党希望の党の人たちは、リアリズムというものが日米安保にあると言うんですけども、これはまったくリアリズムを欠いている。冷静にリアリズムという観点に立つのであれば、これから10年、20年のスパンで考えるべきで、そこを見据えると、日米安保こそヤバい。米国のトランプさんが大統領選の時に、「在日米軍の経済的負担を日本が担わなければ、米軍を撤退させる」と言っていたのは米国人の本音で、さらに今は米国で日本は核武装すべきだという議論やデカップリング論(引き離し論)が非常に強い形で出てきている。
 これはなぜかというと、北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)が大陸間弾道ミサイルICBM)を完成させると、防衛構想がかなり変わるからです。ICBMが飛んでくるとなると、米国も大きな被害を受けるので、北朝鮮の日本への攻撃に対する報復に慎重になる。集団的自衛権は割に合わなくなる。日本をサポートすることによって、ワシントンやニューヨークが核攻撃の対象となり、火の海になるかもしれない。
 米国ではどんどん日米の切り離し論が現実味を帯びているんです。そうした時に、日本の安全保障はどうするのかというと、アジア諸国のアライアンス(連携)を強化しながら、アジアの国々となんとか緊張緩和を図っていくいくしかない。これがリアリズムだと思うんです。
山下 北朝鮮の核ミサイル問題をリアリズムで見ると、米朝間で軍事的緊張がエスカレートする中、最も懸念されるのは、当事者たちの意図にも反して偶発的な事態や計算違いによって軍事衝突が起こることです。このことはペリー元米国防長官も、ジェフリー・フェルトマン国連事務次長も指摘しています。これを避けるには米朝が直接対話をするしかない。もし戦争が起こればその時は核戦争ですから。そうなれば、安倍さんが言っている「国民の命と安全を守る」なんてことはできるはずがない。本当に「守る」ということに責任を持つのだったら、米朝の軍事衝突の危険をなくすことです。それには対話しかないんです。
 同時に、米国も核保有国なので、北朝鮮に核放棄を説得しようがありません。やはり北朝鮮の問題を根本的に解決しようと思ったら、7月7日に採択された核兵器禁止条約を米国や日本が率先して批准すべきです。
中島 完全に同意します。さらに北朝鮮問題を考える上でも、原発廃炉に決まっていると思います。ミサイルを撃ち込まれたら終わりですから。なぜそのリアリズムを軽視するのか。「保守」を掲げる人たちは、共産党が最終的には自衛隊廃止と言っているので国防問題について無責任だと言いますが、私はこの議論は違うと思います。共産党は即時の自衛隊廃止は謳っておらず、当面自衛隊というものは必要であるとしている。しかし長期的な理想的ビジョンとしては、それを縮小しながら廃止に持っていくんだと。そういう二段構えなわけです。
 これは基本的に保守と同じ発想です。福田恆存さんは、現実的な防衛論を説く自分の超越的な観念には、絶対平和という観念があると言っている。哲学者カントの言う統整的理念と構成的理念で考えるとわかりやすいのですが、前者は、絶対平和、まったく武器のない世界など、おそらく人間が不完全である以上そう簡単には実現しないような理念で、後者は、現実的な政治の場面におけるマニュフェストのような一個一個の理念です。理念というものは二重の存在でなければ成立しない。共産党の理念はこの構造になっている。
山下 安倍さんが変えたがっている憲法9条も、悲惨な戦争への反省から生まれてきた人類社会が進むべき理想ですから、統整的理念ですよね。
中島 9条には、自衛隊の縛りをどう考えるのかという構成的理念も含まれるべきだと私は考えていますが、これを具体化するのは安倍さんのもとでではない。
山下 「安倍政権のもとでの憲法9条改悪に反対する」というのが、野党の党首合意で、市民連合ともそういう一点で野党共闘が再生されているわけです。今は一致する点を大事にし、相手のことをよく知り、相手の立場に立って考える、これが共闘だと思っています。
中島 その姿勢が基本的な民主主義であり保守的態度だと思います。日本が〈ローマ数字2〉の方向に向かってほしいです。
(引用終わり)
 
(参考動画/編集委員が語る 日本国憲法と私 中島岳志
 「週刊金曜日」では、10月8日から、「編集委員が語る 日本国憲法と私」というシリーズの動画をYouTubeで配信しています。ここでは、中島岳志さんの回をご紹介します。
編集委員が語る 日本国憲法と私 中島岳志(5分10秒)