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司法に安保法制の違憲を訴える意義(21)~東京・差止請求訴訟(第5回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述

 2017年11月5配信(予定)のメルマガ金原.No.2977を転載します。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(21)~東京・差止請求訴訟(第5回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
 
 ご存知のとおり、安保法制違憲訴訟の会は、昨年(2016年)4月26日、東京地方裁判所に2件の訴訟を同時に提起しました。
 1つは、国家賠償請求訴訟、もう1つは差止請求訴訟です。
 
 ところで、今日取り上げる差止請求訴訟は、今年の8月10日、追加提訴を行っていますので、ここで、当初提訴の訴状と追加提訴の訴状の中から、「請求の趣旨」の部分を抜き出し、原告らが、そもそも何の「差止」を求めているのかを確認しておきたいと思います。
 
2016年4月26日提訴「訴状」から
     請 求 の 趣 旨
1 内閣総理大臣は,自衛隊法76条1項2号に基づき自衛隊の全部又は一部を出動
させてはならない。
2 防衛大臣は,重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の実施に関し,
(1)    同法6条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する後方支
援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法6条2項に基づき,防衛省の機関又は自衛隊の部隊等(自衛隊法8条に規定する部隊等をいう。以下同じ。)に命じて,同法3条1項2号に規定する後方支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
3 防衛大臣は,国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律の実施に関し,
(1) 同法7条1項に基づき,自ら又は他に委任して,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法7条2項に基づき,自衛隊の部隊等に命じて,同法3条1項2号に規定する協力支援活動として,自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
4 被告は,原告らそれぞれに対し,各金10万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,被告の負担とする。
との判決並びに第4項につき仮執行の宣言を求める。
 
2017年8月10日追加提訴「訴状」から
     請 求 の 趣 旨
1 防衛大臣は、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律9条4項に基づき、自衛隊の部隊等に、同法3条5号ト若しくはラに掲げる国際平和協力業務又は同号トに類するものとして同号ナの政令で定める国際平和協力業務を行わせてはならない。
2 防衛大臣は、自衛隊法95条の2に基づき、自衛官に、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊の部隊の武器等の警護を行わせてはならない。
との判決を求める。
 
 当初提訴において、差止を求めたのは、①存立危機事態に際しての防衛出動、②重要影響事態に際しての後方支援活動、③国際平和共同対処事態に際しての協力支援活動の3点でした。「請求の趣旨」4項の慰謝料請求は、形式的却下判決のリスクを避けるための「押さえ」でしょうか。
 それに対して、本年8月10日の追加提訴で差止を求めたのは、①PKO協力法に基づく新任務である、いわゆる「安全確保業務」と「駆け付け警護」、②米軍等の武器等の防護であり、今年に入ってから、現に防衛大臣自衛隊に命令を発している業務です。
 以下に、追加提訴の「請求の趣旨」で言及されている条文を引用しておきます。
 
(定義)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
五 国際平和協力業務 国際連合平和維持活動のために実施される業務で次に掲げるもの、国際連携平和安全活動のために実施される業務で次に掲げるもの、人道的な国際救援活動のために実施される業務で次のワからツまで、ナ及びラに掲げるもの並びに国際的な選挙監視活動のために実施される業務で次のチ及びナに掲げるもの(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む。以下同じ。)であって、海外で行われるものをいう。
イ~ヘ 略
ト 防護を必要とする住民、被災民その他の者の生命、身体及び財産に対する危害の防止及び抑止その他特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護
チ~ネ 略
ナ イからネまでに掲げる業務に類するものとして政令で定める業務
ラ ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第二項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護
(国際平和協力業務等の実施)
第九条 協力隊は、実施計画及び実施要領に従い、国際平和協力業務を行う。
2 略
3 略
4 防衛大臣は、実施計画に定められた第六条第六項の国際平和協力業務について本部長から要請があった場合には、実施計画及び実施要領に従い、自衛隊の部隊等に国際平和協力業務を行わせることができる。
5 略
6 略
7 略
   
自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)
(合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条の二 自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(次項において「合衆国軍隊等」という。)の部隊であつて自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であつて、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。
 
 なお、追加提訴後の記者会見の動画は以下のものがアップされています。ちなみに、この日は国賠訴訟の第3次提訴も同時に行われており、その両提訴についての記者会見となっています。
 
安保法制違憲訴訟・国賠第3次提訴・差止追加提訴記者会見(35分)
 
 東京・差止訴訟は、去る10月27日(金)午前10時30分から、東京地裁103号法廷において第5回口頭弁論が開かれました。
 東京・国賠訴訟は、9月28日に第5回口頭弁論が開かれ、次回以降、証拠調べの段階に入る予定であることは既にお伝えしたとおりですが、差止訴訟は、まだそこまで行っていないようです。
 10月27日の口頭弁論終了後の記者会見の模様については、以下の動画をご参照ください(音声レベルが低いのは我慢してください)。
 
安保法制違憲訴訟第5回差止め訴訟記者会見(20分)
 
 その後、衆議院第一議員会館B1第1会議室において報告集会が行われましたが、その動画はまだアップされていません。撮影に来てくれたメディアが無かったため、急遽、事務局が撮影したそうなので、間もなくアップされると思いますから、アップされ次第、ブログには追加でご紹介します。
 以下には、当日の裁判における3人の原告訴訟代理人による陳述の要旨をご紹介します(差止請求訴訟では、前回(第4回)から、原告本人による意見陳述は行われなくなっています)。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 福 田   護
 
 新安保法制法の違憲性、その適用開始とこれによる米軍支援の現実的危険性及び追加提訴の趣旨等について述べます。
 
1 海外で武力行使をする自衛隊は 「戦力」 であること
(1)原告らは、準備書面(9)(10)(11)において、新安保法制法の内容の具体的違憲性、その制定による立憲主義の破壊、これらによるこの国のあり方の変容の危険等について論じました。
 新安保法制法の何が違憲なのか。その問題の核心はやはり、自衛隊が海外に出向いて武
力の行使をし又はその危険を生ずることにあります。これを肯認することによって、日本が戦争当事国となる機会と危険を大きく拡大したのです。新安保法制法は、従来の政府解釈が、そうならないように設けていた最低限の歯止めの、根幹部分を外してしまいました。
 従来の政府解釈とそれに基づく防衛法制の基本原則は、日本の領域が外部からの武力攻撃によって侵害された場合に限って、その武力攻撃を日本の領域から排除するためにのみ、自衛隊による実力の行使を認めるというものでした。だからその活動範囲も、基本的に日本の領域又はその周辺の公海、公空に限られるとされてきました。従来の自衛権発動の3要件は、この原則の表現でした。
 ところが新安保法制法は、自衛隊が海外で集団的自衛権による武力の行使をすることを認め、あるいは海外での武力行使につながる、後方支援その他様々な危険な活動を認めたのです。このように、日本の領域を守るだけでなく、海外を戦場として武力を行使する自衛隊は、もはや他国の軍隊と異なるものではなく、紛れもない「戦力」であり、「交戦権」
の主体にほかなりません。
(2)安倍総理大臣は、国会審議の中などで、繰り返し、新法の下でも、「自衛隊武力行使を目的として、かつての湾岸戦争イラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してありません」「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもので許
されない。これは新三要件の下で集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらない」「他国の領域での武力の行使は、ホルムズ海峡以外は念頭にありません」、などと強調しました。(原告準備書面(10)34頁以下)
 しかし、存立危機事態において「他国に対する武力攻撃」を排除する自衛隊の武力の行
使は、その性質上当然に、当該他国の領域における武力の行使を予定するものであり、もちろん法文上のどこにも、外国の領域を不可として限定する規定はありません。すなわち新安保法制法は、自衛隊の海外での武力の行使を前提とするものです。政府も国会答弁で、「法理上」はそうなることを認めざるをえませんでした(2015年5月28日衆議院安保法制特別委・安倍総理大臣・中谷防衛大臣答弁)。
 安倍総理大臣の海外派兵はしない、できないという答弁は、このような新安保法制法の
最も基本的な違憲性と大きな危険性から国民の目をそらそうとする詭弁というほかはありません。
2 新ガイドラインによる自衛隊の米軍との一体的行動の危険性
(1)2015年4月27日、新安保法制法案の閣議決定・国会提出に先立って、法案の内容を先取りする新たな日米ガイドラインが両政府によって合意され、しかもその際安倍総理大臣が米議会で演説し、新安保法制法の制定を約束してしまいました。そのことの本末転倒、国会無視の問題性は言うまでもありませんが、そのことに象徴されるように、新安保法制法は新ガイドラインの実施法であり、米軍支援法にほかなりません(原告準備書面(11)21頁以下)。
 そして新ガイドラインは、平時から有事まで「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的
な日米共同の対応」を目的とし、その共同対応体制として、平時から緊急事態までのあら
ゆる段階に対処するための「共同調整メカニズム」の整備を定めた上、新安保法制法によ
る新たな、そしてグローバルな自衛隊の諸活動と米軍との共同関係を定めています。
(2)ここで重大なのは、新安保法制法によってこれまでの憲法の制約を破って可能とされた集団的自衛権の行使、戦闘現場近くでの物品・役務の提供、PKOにおける駆け付け警護、米軍の武器等防護などが、この新ガイドラインに基づいてアメリカから要請されれ
ば、これに応じて自衛隊が米軍と共同・連携し、あるいは一体的な行動をとることになる
ことです。日本はもはや、憲法9条によって禁じられているからとの理由で、これらのア
メリカの要請を断ることはできなくなってしまいました。否むしろ、アメリカのこのような要請に応えるために、新安保法制法が制定されたというべきでありましょう。
3 新安保法制法の適用事例の危険性と問題性
(1)原告らは、去る8月10日、追加の提訴をして、PKOにおけるいわゆる安全確保業務と駆け付け警護の実施、及び自衛隊法95条の2に基づく米軍等の武器等防護の実施の差止めを求めました。これは、新安保法制法が制定・施行されてから現実の適用事例が発生し、その危険性が明確な形をとって現れたからです。
(2)PKOの駆け付け警護等については、後ほど相代理人が述べるところに委ねます。
 もう一つの武器等防護は、本年5月、北朝鮮に圧力を加えるために日本海に米空母カールビンソンの艦隊が展開する最中に、防衛大臣の命令により、自衛隊の最大級護衛艦「いずも」ほか1隻が、米軍補給艦の武器等防護のため警護の任務についたものです。これは、米軍艦船に武力攻撃とまではいえない侵害が発生した場合に、自衛官に米軍艦船の防護のための「武器の使用」を認めるもので、場合によってはミサイルの発射までも想定されるものです。
 この武器等防護の発令は、トランプ政権が軍事力を誇示して力による外交を展開し、こ
れに対抗して北朝鮮弾道ミサイルの発射を繰り返すという、米朝関係が極度に緊張する状況の中で、日本が米軍を守るという立場で軍事的にコミットするもので、これによって日本は明確に、軍事的対立の当事者となったことになります(追加訴状45頁以下)。
 さらに、報道によれば、今年5月以降数回にわたり、自衛隊の補給艦が、日本海等で弾
道ミサイル警戒をしている米イージス艦に燃料を補給しているのですが、これは、物品・
役務の提供の機会を拡大した改正自衛隊法100条の6に基づくものと解されます。これもまた、自衛隊が米軍と共同して、北朝鮮弾道ミサイル警戒活動を行っていることになり、日本を米朝の軍事的対立の当事者にしてしまうものです。
(3)もともと日本は、北朝鮮と軍事的対立関係にあったわけではありません。対立当事者はアメリカと韓国であり、北朝鮮のミサイル発射や核実験もアメリカに対する対抗戦略であることは明らかです。上記の自衛隊による米艦防護や物品・役務の提供は、その他国同士の軍事的対立に割り込んで一方に加担し、自ら危険を買って出る行為と言わざるを得
ません。新安保法制法と新ガイドラインは、このようにして日本を戦争の危険に導くものであり、戦力を持たず、武力の行使を抛棄し、平和主義のもとに国民の人権と生存を保障しようとする憲法9条に真っ向から反するものにほかなりません。
4 処分性に関する予備的主張について
 原告らはこれまで、本件における行訴法3条2項にいう「処分」について、集団的自衛権の行使等という事実行為を捉え、これらの事実行為が原告らの平和的生存権等の権利を侵害し、その侵害状態の受忍を強いるものとして、原告らに対する公権力の行使に当たると主張してきました。
 このたび、行政法学の大家であられる兼子仁東京都立大学名誉教授から、このような処分の捉え方は行政法上適法であると考えられるとのご意見とともに、集団的自衛権の行使等に先立つ自衛官に対する関係大臣の命令を処分として捉える方途についてもご示唆をいただきました(甲E5)。
 このようなご意見及び本件請求の趣旨等を総合考慮し、準備書面(13)のとおり、本件処分の捉え方について、予備的請求原因としての主張を追加したく、同書面のとおり陳述するものです。
                                                                            以上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 武 谷 直 人
 
PKO新任務と任務遂行のための武器使用の違憲
 
1 はじめに
 強行採決された新安保法制の一つに、国連平和維持活動協力法いわゆるPKO協力法の改正があります。
 この改正で、自衛隊が行える活動領域が大きく拡大されました。それは、いわゆる「安全確保業務」(住民・被災民の危害の防止等特定の区域の保安の維持・警護などの業務)と「駆け付け警護」(PKO等活動関係者の不測の侵害・危難等に対する緊急の要請に対応する生命・身体の保護業務)が追加され、それと共に、武装勢力等の妨害を排除し、目的を達成するための強力な武器の使用、すなわち任務遂行のための武器使用が認められたことです。
2 国連平和協力法案制定の経緯
⑴ PKO協力法制定に至る論議
 そもそも、PKO協力法は、いわゆる湾岸戦争を契機に湾岸戦争後の国連貢献策の名の
下に成立したものです。
 この審議過程においてもっとも大きな争点となったのは、自衛隊員の武器の携行とその使用についてです。PKO協力法は、自衛隊が平和維持軍に参加する以上は、国連の指揮の下で、組織的な武力行使をせざるを得ないことになり、国連平和維持軍への参加は、武力の行使を禁じた憲法9条に反すると当初から批判されていました。
 しかし、政府は、「平和維持軍(PKF)」への参加は当面凍結され、いわゆるPKO5原則(①停戦合意の成立、②紛争当事者のすべてのPKOへ参加の同意、③PKO活動
の中立性、④これらいずれかが満たなくなったときの部隊の撤収、⑤生命等防護のための必要最小限度の武器使用)を設けることによって、憲法9条には違反しないとして、1992年6月に可決成立させました。
 このように、もともとPKO協力法そのものが、PKO5原則の下でかろうじて、合憲性を維持しようとしていたのです。
3 PKO活動の拡大 (今回の新任務付与) の違憲
⑴ PKOの役割の変化
 さらに、新安保法制においてPKO活動における自衛隊業務の拡大の背景には、国連
PKO活動の変質・変遷があることを指摘しておく必要があります。
 従来のPKOは、PKO5原則のもとで行うことがその活動の中心でした。
 しかし、1994年、ルワンダにおける停戦合意の崩壊、PKO部隊の撤退による大量
の住民が虐殺される事件が発生したことを契機として、国連PKOの性質も変化し、「停
戦や軍の撤退などの監視活動」だけでなく、紛争当事者による住民の虐殺などが発生した場合には、停戦の有無とは関係なく、PKO部隊は、紛争当事者と「交戦」して住民を保護するという「住民保護」もその目的となりました。
 これでは、そもそもPKO5原則すら維持できず、特に必要性最小限の武器使用という
原則も通用しなくなってしまいます。
⑵ PKOにおける新任務及びそれに伴う武器使用の違憲
 今回のPKO業務の追加と武器使用権限の拡大について、政府は、PKO業務において、紛争の一方当事者との抗争に至ることはあり得ないから、憲法9条に違反することはないとしています。
 しかし、南スーダンでPKOに参加していた陸上自衛隊が2016年7月11日から
12日に作成した日報には、「戦闘」という言葉が多用されており、まさに、停戦合意が
崩れ、現地では戦闘状態が現出していることが明らかになりました。  
 かかる状況下において、仮に自衛隊が駆け付け警護のために武器使用をしたとすれば、それは、戦闘行為からさらに政府軍ないし反政府軍に対する武力の行使に至る危険性は明
白であったと言わなければなりません。
4 結論
 以上のとおり、南スーダンの事例を見るまでもなく、今後、再び紛争地帯においてPKOによって派遣された自衛隊が武器を使用する事態が生じる場合には、これは単なる「武器の使用」ではなく、「武力の行使」というべきであります。
 したがって、PKO協力法における新任務は、もはや政府の従来の解釈で正当化することはできないのであり、これは、武力の行使を禁止した憲法9条1項及び交戦権を否定する憲法9条2項に違反することは明白です。
                                                                            以上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 古 川(こがわ)健 三
 
 被告は、準備書面(1)において、本件集団的自衛権の行使等は、行政訴訟法3条2項の処分に当たらない、と主張している。しかし、この主張は、原告らの主張を正解せず、原告らが引用している判例に対する誤った理解に基づくものである。
 
処分性に関する最高裁判例について
 被告は、被告が処分性の一般的判断基準であるとする昭和39年最高裁判決は、何ら変更されておらず、原告が引用する病院開設中止勧告の処分性に関する平成 17年7月15 日の最高裁判例は、事例的な意味しか持たないと主張する。
 しかし、前記平成17年最高裁判例と同種事案である平成17年10月25日の最高裁判例において、藤田宙靖判事は補足意見の中で、昭和39年判決の考え方を「従来の公式」と呼び、「従来の公式」は現代の複雑な行政メカニズムには対応できず、そのような事実関係のもとで「従来の公式」を採用するのは適当でない、との趣旨を述べている。
 そして、前記平成17年判決以外にも、最高裁は、「実効的な権利救済のために当該行為を抗告訴訟の対象として取り上げるのが合理的かどうか」、という事情を考慮すべきと述べて、土地区画整理事業計画決定の処分性を否定していた従来の判例を変更した(最高裁大法廷平成20年9月10日判決)。その後も処分性を拡大する判例が相次いでおり、最高裁が昭和39年判決の考え方をもはや維持していないことは明白である。
 本件集団的自衛権等の行使が、 原告らに不利益な効果の受忍を義務付けることについて
 被告はまた、本件集団的自衛権の行使等は、被告に何ら不利益な効果の受忍を義務付けるものではないとし、その理由として、原告らの主張する「平和的生存権」「人格権」及び「憲法改正・決定権」の具体的権利性を争い、また、原告らの主張は、本件命令等にかかる事実行為が行われることにより必然的に我が国が戦争に巻き込まれるという仮定が成立してはじめて成り立つが、そのようなことは言えない、という。
 原告の主張する権利の具体的権利性についてはすでに他の準備書面で詳しく述べた。被告の後段の主張は、原告の主張を誤解するものである。原告らは、現に戦争が起きる場合はもちろんであるが、戦争が起きる危険性が生じることによっても原告らの権利が侵害される、と主張しているのである。そして、集団的自衛権の行使が行われた場合、我が国が戦争当事国となることを意味することはジュネーブ条約に照らし
明白であるから、戦争の危険は必然的に生じる。
厚木基地訴訟に関する最高裁平成28年判決について
 被告は、最高裁平成28年判決は、本件と事案を異にする、と主張する。
 しかし、最高裁平成28年判決及びその判断の前提とされた最高裁平成5年判決がいう「受忍義務」とは、法的義務とはいえない。厚木基地周辺住民が航空機運行によって受けているのは航空機の運航に伴う不利益な結果を受忍すべき「一般的な拘束」であって、法的地位や権利関係の変動ではない。
 そして、最高裁平成28年判決は、健康被害そのものを認めているのではなく、不快感や健康被害への不安感等の幅広い被害が、処分性及び損害の重大性を基礎づける、という判断をしたものである。
 この判断枠組みは、本件においても当然考慮されなければならず、「事案を異にする」という被告の主張は当たらない。
「行政権の行使」 は民事訴訟の対象でない、 とする被告の主張
 被告は、横浜地裁での主張内容が本件での 主張と矛盾する、との原告らの指摘に対し、「行政権の行使」は民事訴訟の対象でない、という。 
 しかし「行政権の行使」であっても「公権力の行使」に当たらない非権力的行為が住民差止訴訟の対象となることは確立した判例であって、被告の主張は誤りであり、詭弁と言わざるを得ない。
 原告は被告が主張する「当該行為の属性」とは何か、また被告のいう「行政権の行使」が「公権力の行使」と同一であるか否かについて釈明を求める。
まとめ
 処分性判断の核心は、本件集団的自衛権の行使等が、原告らに対し、いかなる不利益をもたらすか、という点にある。そしてその憲法適合性を具体的に検討せずして、処分性の判断をすることはできない。
 被告は、概念的で空虚な反論に終始することなく、集団的自衛権の行使の権利侵害性と憲法適合性について、正面から認否反論すべきである。
                                                                            以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/安保法制違憲訴訟関連)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述
2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述
2017年1月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年1月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(9)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告(田中煕巳さんと小倉志郎さん)による意見陳述
2017年2月14日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(10)~東京「女の会」訴訟(第1回口頭弁論)における原告・原告代理人による意見陳述
2017年3月15日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述 
2017年3月16日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(12)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告(田島諦氏ほか)による意見陳述
2017年4月21日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(13)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述
2017年4月22日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(14)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告による意見陳述(様々な立場から)
2017年6月23日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(15)~東京・国家賠償請求訴訟(第4回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年6月25日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(16)~東京・国家賠償請求訴訟(第4回口頭弁論)における原告による意見陳述(野木裕子さん他)
2017年8月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(17)~東京・差止請求訴訟(第4回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年8月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(18)~東京・差止請求訴訟(第4回口頭弁論)において3人の原告が陳述する予定だったこと
2017年8月20日
「私たちは戦争を許さない-安保法制の憲法違反を訴える」市民大集会(2017年9月28日/日本教育会館)へのご参加のお願い
2017年9月30日
市民大集会「私たちは戦争を許さない」(2017年9月28日)で確認されたこと
2017年11月1日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(19)~東京・国家賠償請求訴訟(第5回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年11月2日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(20)~東京・国家賠償請求訴訟(第5回口頭弁論)における原告による意見陳述(今野寿美雄さん他)