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『外国につながる子どもの学校教育―移民の国アメリカの学力向上を目指す改革―』(「レファレンス」掲載論文)を読む

 2017年11月24日配信(予定)のメルマガ金原.No.2996を転載します。
 
『外国につながる子どもの学校教育―移民の国アメリカの学力向上を目指す改革―』(「レファレンス」掲載論文)を読む
 
 私が放送大学の現役学生であることは、このブログでもたびたび書いてきたことですが、今年(2017年)の第1学期、私は、初めてオンライン科目を履修しました。従来から、放送大学における放送授業は、テレビ科目またはラジオ科目として提供されてきたのですが、最近は、インターネットで提供されるオンライン科目が増えつつあります。
 私が履修したのは、「生涯学習を考える('17)」(主任講師:岩永雅也教授、岩崎久美子教授)でした。
 50代になってから放送大学に入学し(もう60代ですが)、10年計画での卒業も目前という私にとって、生涯学習放送大学は、不即不離というか、ほぼイコールの存在であり、和歌山学習センターでの面接授業も履修した岩永雅也先生の新規開講科目ということで履修を申し込んだものです。
 
 残念ながら、オンライン科目にテキスト(放送大学では印刷教材と称します)はないのですが、PDFファイルで提供された資料はダウンロードしており、その第14回「海外の生涯学習(2)」の中で、岩永先生が担当されたアメリカ合衆国における生涯学習の解説部分から一部引用したいと思います。
 
(引用開始)
 アメリカは、第一に、絶えず言語、文化、習慣、宗教などが異なる成人移民が流入してくる移民国家という社会的条件により、移民に対する米国化のための教育という歴史を持っている。第二に、広大な地域に人々が分散して居住するという地理的条件において、文化的同一性や連帯を形成する試みが生涯学習を通じで行われてきた。移民として流入する成人に対する必要最小限の社会への同化、そしてすでに同化している人々の社会化という成人教育への2つの動機は、その後今日までの米国における生涯学習の規定要因となっている。
 アメリカ社会は、清教徒ピューリタン)に代表されるようなアングロサクソン系のプロテスタント中心の建国から、その後の100万人の餓死者を出した1846年から1847年にかけての「ジャガイモ飢饉」によるアイルランド移民の流入に始まり、労働力としてのラテン系、東欧系、東洋系などの、いわゆる新移民、黒人層など、人種のるつぼであり、それが生涯学習を規定している。
(略)
 19世紀には成人教育に関する大きな3つの動きが相次いで始まる。それらは、今日まで続くアメリカ成人教育の3つの機能に対応している。すなわち、第1に、学校教育の代行もしくはそれを補償するための教育機会の提供、第2に、学校教育とりわけ大学教育の開放・拡張、そして第3に、成人のための独自の教育機会の提供である。
(引用終わり)
 
 上の記述は、米国における「生涯学習」の現状を概観するため、移民の米国化を促進するための成人教育に焦点を当てた説明になっているのですが、それらの移民には、当然ながら、学齢期の(米国の内外で出生した)子どもたちがいる訳です。そのような、そもそも英語を母語としない、あるいは家庭の中で英語が使われない環境で生活する子どもたちの学校教育について、どのような政策が遂行されているのかを論じた論文『外国につながる子どもの学校教育―移民の国アメリカの学力向上を目指す改革―』(ローラー ミカ著)が、国立国会図書館が発行する「レファレンス」第802号(2017年11月)に掲載されており、興味深く読みました。
 「レファレンス」掲載論文は、「調査及び立法考査局内において、国政審議に係る有用性、記述の中立性、客観性及び正確性、論旨の明晰(めいせき)性等の観点からの審査を経たものです。」とあるとおり、国会における立法の参考とすべきテーマについての調査・研究の成果が掲載されるものであり、国民にとっても有用な内容の論文が多く、これまでも、私のブログで何度か紹介してきました。
 「日本では、外国籍の子どもや、両親のいずれかが外国籍であるなどの「外国につなが
る子ども」が増加しており、公立学校に通う日本語能力が不十分な児童生徒の受入れ体
制の整備充実が必要となってい」ます(上記論文の要旨から)。
 人口減少社会に突入した我が国にとって、移民をどう受け容れていくのか、移民の子どもの教育はどうあるべきなのかは、遠い外国の話ではなくなりつつあります。であればこそ、「レファレンス」にこの論文が掲載されたのでしょう。
 米国と日本では国情も違えば移民受け容れの歴史も全く異なりますので、何を参考にするのかについても、くみ取り方は様々であろうと思います。しかし、現在の、そして近い将来の我が国における教育を考える上で、「外国につながる子どもの学校教育」というテーマは、絶対に避けては通れない問題だと思います。
 それでは、以下に当該論文の目次、それと本文から「はじめに」の部分をご紹介します。
 
国立国会図書館 調査及び立法考査局 レファレンス 802 号 2017. 11 29
『外国につながる子どもの学校教育―移民の国アメリカの学力向上を目指す改革―』
 国立国会図書館 調査及び立法考査局 主幹 文教科学技術調査室 ローラー ミカ
 
(引用開始)
目 次
はじめに
Ⅰ ELの概況
 1 EL人口の推移と特徴
 2 学力格差
 3 ELの英語習得等の実態調査
Ⅱ 連邦の法制と教育改革
 2 不法滞在の子どもと学校教育
 3 初等中等教育法による学力向上の教育改革
Ⅲ EL教育の経緯
 1 指導言語をめぐる論争
 2 州の政策変遷
Ⅳ ニューヨーク州の事例
 1 概況
 2 改革の動きとEL教育の方針の公表
 3 新規則とEL支援の強化
Ⅴ EL教育の特徴と課題
 1 ELの多様性と高等学校でのEL教育
 2 特別支援教育とEL
 3 元ELの継続支援・調査
 4 就学前教育とDLL
 5 教員養成と研修
 6 家族との連携
おわりに
 
はじめに
 日本では、外国籍の子どもや、両親のいずれかが外国籍であるなどの「外国につながる子どもたち」が近年増加傾向にあり、こうした子どもの家庭内での使用言語や日本語の能力も多様化している。そして、この子どもたちが「一人一人の日本語の能力に応じた支援を受け、学習や生活の基盤を作っていけるようにすること」が大きな課題となっている。公立の小学校、中学校、高等学校などに通う、日本語の能力が不十分な「日本語指導が必要な児童生徒」は、平成28年5月現在、外国籍の児童生徒数が34,335人、日本国籍(保護者の国際結婚、海外からの帰国などによる。)の児童生徒数が9,612人で、それぞれ 2 年前の調査より、5,137 人(17.6%)、1,715 人(21.7%)増加している。
 「移民の国」とされるアメリカでは、公立学校の児童生徒の1割近くを「外国出身か家庭での使用言語が英語ではない、英語の能力が不十分な子ども(English Learners: EL)」が占めており、この子どもたちの多くが英語はもちろん学力全般に問題を抱えていることが、学校教育政策上の大きな課題となってきた。一方、近年、経済・社会のグローバル化が進む中で、アメリカの繁栄を維持するためにも、初等中等教育での教育水準を高め、全ての子どもが大学等の高等教育・職業生活において成功できることを目指した教育改革が全米各州で展開されるようになった。各州には連邦の「初等中等教育法」に基づき、主として学力テスト結果の改善として示される教育改革の成果を説明する責任(アカウンタビリティ)がある。2015 年の同法の包括的な改正により、この説明責任の5つの指標の1 つとしてELの英語習熟の進捗度が位置付けられることになり、従来に増してELの教育への関心が高まっているところである。改正法は2017年7月から主要部分が施行されている。
 本稿は、アメリカで連邦、各州が進めている学力向上の教育改革の中で、ELの教育支援強化がどのように行われているかに焦点を当てる。あわせて、アメリカのELの現状、連邦の関連法制、これまでのEL教育の経緯等についても整理し、多くのELを有し近年 EL教育の改革を進めているニューヨーク州を事例として取り上げる。最後に、アメリカのEL教育が現在抱える課題を示す。
(引用終わり) 
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/「レファレンス」関連)
2013年11月28日
「レファレンス」掲載論文で学ぶ「集団的自衛権 政府公権解釈の変遷」
2014年4月27日
集団的自衛権の行使事例を学ぼう(「レファレンス」掲載論文から)
2015年9月10日
月刊レファレンス(2015年3月号)の小特集「集団的自衛権」掲載論文4点のご紹介
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む