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日本学術会議「東日本大震災に伴う原発避難者の住民としての地位に関する提言」他を読む

 2017年12月28日配信(予定)のメルマガ金原.No.3030を転載します。
 
日本学術会議東日本大震災に伴う原発避難者の住民としての地位に関する提言」他を読む
 
 京都大学の山極壽一総長が、日本学術会議の第24期会長(任期は2017年10月から3年間)に選任されたというニュースは、同氏が大学における軍事研究に否定的な見解を公言されていることもあって、好意的に受け止める人が多かったように思います。もっとも、日本学術会議ほどの組織(何しろ、1949年に制定された日本学術会議法によって設置され、「経費は、国庫の負担とする。」(同法1条3項)とされています)ですから、会長の個性が具体的な施策に反映するにはしばらく時間がかかると見なければならないでしょうが。
 
 ところで、巻末のリンク一覧のタイトルをご覧いただければ分かると思いますが、私は過去、日本学術会議による高レベル放射性廃棄物の処分に関する「暫定保管」という提言をフォローしてきました。もともと、この提言は、東京電力福島第一原発事故のほぼ半年前(2010年9月)、原子力委員会から「高レベル放射性廃棄物の処分の取組における国民に対する説明や情報提供のあり方についての提言のとりまとめを依頼」されて検討が始まったものでしたが、その途中で3.11に遭遇し、急遽、議論の方向を大転換したのではないかと私は推測しています。何しろ、求められていたのは、地層処分を前提として、それを国民に納得されるための宣伝方策についてのお知恵拝借だったはずなのに、2012年9月に出てきたのは、地層処分自体をを見直して「暫定保管」すべきという新たな提言だったのですからね。
 
 さて、日本学術会議は、高レベル放射性廃棄物問題以外にも、様々な分科会を設け、東京電力福島第一原発事故から発生した問題への対処についての提言を重ねてきました。
 今日、たまたま、今年(2017年)の9月に日本学術会議東日本大震災復興支援委員会 原子力発電所事故に伴う健康影響評価と国民の健康管理並びに医療のあり方検討分科会)がまとめた「東日本大震災に伴う原発避難者の住民としての地位に関する提言」を通読したのを機に、それに先行する3つの提言と併せ、ご紹介することにしました。
 
 住民は、特定の市町村に住民登録することにより(それにリンクして、と言ってもよいのですが)、様々な権利行使、サービスの享受、負担などの法的効果と結びつけられます。ところが、心ならずも原発事故による放射線被ばくを免れるために避難を余儀なくされた人は、避難元自治体と避難先自治体という2つの自治体と否応なく関係を持たざるを得ないにもかかわらず、我が国の住民基本台帳法は、住民登録について二重登録を認めていません。今日読んだ日本学術会議の「提言」は、住民登録の問題に焦点を当て、具体的な制度についての提案を行うものでした。
 たしかに、住民登録は問題の一端に過ぎなないとも言えますが、子ども・被災者支援法が宣言する「被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。」(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律2条2項)という理念をどう具体化するのかという問題についての重要な一適用場面なのです。
 
 以下に、日本学術会議がこれまでに公表した4つの「提言」にリンクするとともに、各冒頭の「要旨」から、特に避難者・被災者の住民としての地位に関わる提言・提案部分を中心に引用します(今年9月の「提言」は「要旨」全体を引用します)。時間の都合がつけば、是非該当箇所だけでも「提言」本文をお読みいただければと思います。
 
平成25年(2013年)6月27日
日本学術会議 社会学委員会 東日本大震災の被害構造と日本社会の再建の道を探る分科会
原発災害からの回復と復興のために必要な課題と取り組み態勢についての提言
(抜粋引用開始)
4 具体的政策提言
 以上のような一般的提言を踏まえて、五つの具体的政策を提言する。
(1) 低線量被曝の長期影響に対する統合的な科学的検討の場の確立
 低線量被曝の健康影響問題、各地域の長期的な放射線量予測問題、適切な除染方法と除染効果をめぐる問題、健康管理問題などについて、適切な科学的知見を得るために、多様な見解・学説を有する科学者たちが分立するのではなく、一堂に会するような、開かれた統合的な科学的検討の場をつくる必要がある。
(2) 健康手帳の機能も有する被災者手帳
 被災した住民が、生活再建に関わる「元の自治体の住民」としての権利と「移住地の住民」としての権利を有することを明確にするために「被災者手帳」を交付するべきであり、それに、長期的な健康管理のための「健康手帳」の機能も付与するべきである。
(3) 避難住民への継続的訪問調査を住民参加型で実施
 広域に分散している避難住民一人ひとりに対して、県外への避難者も含む形で、個人面接型の調査を長期的、定期的に実施し、それによって、各個人のニーズを把握するとともに、住民間のネットワークを維持し、生活再建の道についての支援のチャンネルを確保するべきである。そのような訪問調査を効果的に実施するためには、国が予算措置を取るとともに、被災者・避難者自身も参加するような住民参加型の共同調査とするべきである。
(4) 長期避難者の生活拠点形成と避難元自治体住民としての地位の保障
 現在、被災住民が避難先での生活基盤確立のためにそこでの住民登録を望むことと、被災元の自治体が人口減少を回避し存続することとが、ジレンマに陥っている。そのようなジレンマを解決するためには、現在、居住している地域において住民登録を行った場合にも、避難前に住んでいた自治体の住民としての地位を有し、当該自治体の今後のあり方や復興のあり方の検討・決定などに参画出来るような特別の仕組みを整えることによって、原発災害による長期避難者に二重の保障をしていくべきである。また、長期避難者の生活拠点形成とネットワーク形成を促進し、避難元の自治体のアイデンティティが維持出来るようにするべきである。
(5) 被災住民間のネットワークの維持
 被災者・避難者が、中心的な担い手となって、自分たちを結ぶネットワークを形成していくように支援するべきである。話し合いのための集会や様々なイベントを通して、被災者・避難者自身がネットワークを形成しやすくするために、行政は、物心両面でそれを支援するべきである。
(引用終わり)
 
平成26年(2014年)9月25日
日本学術会議 社会学委員会 東日本大震災の被害構造と日本社会の再建の道を探る分科会
東日本大震災からの復興政策の改善についての提言
(抜粋引用開始)
3 復興のための「第三の道」の提案
 このような条件整備の下、原発災害被災地と、津波被災地のそれぞれに即した、復興のための「第三の道」を構想するべきである。
(1) 原発災害被災地域の再建のためには、政策に沿った「早期帰還」という第一の道と、自力による移住という第二の道の二者択一が強制されている問題点を克服するために、「(超)長期待避・将来帰還」という第三の道を政策として打ち出す。すなわち、避難先での被災者の生活再建を長期にわたって政策的に支援するとともに、元の避難自治体のコミュニティを維持し、住民が安心して帰還できる程度にまで長期待避を続け、放射線量が低下した時点で帰還を実施する。待避帰還が5年以上の場合を「長期待避」、30年以上の場合を「超長期待避」と言おう。第三の道を効果的に実現するために、二重の住民登録、被災者手帳、セカンドタウン、初等・中等教育を担う学校の維持、復興まちづくり公社などの「政策パッケージ」を実施する。
(2) 略(津波被災地についての提案)
(引用終わり)
 
平成26年( 2014年)9月30日
日本学術会議 東日本大震災復興支援委員会 福島復興支援分科会
東京電力福島第一原子力発電所事故による長期避難者の暮らしと住まいの再建に関する提言
(抜粋引用開始)
提言等の内容
 原子力災害による放射線被曝は、長期的に健康被害をもたらさないように、できる限り避けなければならない。一方で、避難生活に関わる帰還、移住、避難継続の選択については、誰からも強要されることなく、避難者個人の判断を尊重する必要がある。また自主避難者や避難指示解除後の避難者に対しても、強制避難者と同様の政策対応を保障することが必要である。このような個人の多様な選択を保証する「複線型復興」の立場から、各種の制度・施策の改善・創設に関わる提言を、以下に述べる。
(1) 早急に個人や家族の生活再建を図るために基金立て替え方式による賠償を進めること
 原子力災害による長期避難者の生活再建には、直接帰還するケース、移転するケース、避難を継続するケースなど、多様な方法がある。国は被災した個人や家族の生活再建を早急に進めるために、これらのケースに柔軟に対応しながら、労災保険制度のように、東京電力に代わって避難者への賠償の立て替えを直ちに行うことが必要である。
(2) 帰還をする住民への支援を具体化すること
 ふるさとへの帰還を希望する住民は、避難に伴う人口減少、地域産業・商店街の空洞化など、生活・暮らしの面で困難な状況に置かれる可能性が高い。帰還後の行政・医療・福祉・教育サービスや買物サービスなどにおいて、住民支援の具体策が必要であるが、地元自治体や住民自身の努力だけでは限界がある。相談員制度の拡充など国による支援策を強化し、その際、地域主体が柔軟に運用できる仕組とすることが必要である。
(3) 帰還を当面選択しない住民も公平な取り扱いをすること
 たとえ空間放射線量が低くても、被曝の危険を恐れるなどの事情でふるさとへの帰還をためらう被災者もいる。これらの被災者は、「自主避難者」と扱われる可能性もある。そのため避難指示解除後も、借り上げ住宅を一定期間、継続的に使用できるなど住居の確保を行うべきである。原子力災害による長期避難者には、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下、「原発事故子ども・被災者支援法」という)において、「住宅の確保に関する施策」を具体化し、現在の応急仮設住宅等への入居の判断が都道府県知事にゆだねられ、全国一律ではないことを解消し、強制避難者も自主避難者も同等に扱う必要がある。
(4) 長期避難者の住民としての市民的権利を保障すること
 原子力災害による被災者には、被災者生活再建支援法など、他の自然災害において認められる制度活用が保障されていない。長期にわたって町外コミュニティなどに居住しなければならない被災者は避難先の地域において住民の一員として、地域づくりや政治参加が認められるべきであり、納税制度、参政権、地域づくり参画など「二重の住民登録」制度の導入に向けての具体的な検討が必要である。
(5) 自治体間の広域連携を推進すること
 原子力災害による避難者のふるさとへの帰還が長期にわたって困難になるという状況の中で、被災自治体により災害公営住宅を含む長期避難者の生活拠点整備が進められている。この場合、避難先は各地に分散していることから、現在の自治体職員だけでは十分対応しきれないのが現状である。医療・介護・教育などの最も身近な住民サービスにおいては、自治体間の広域連携を進めることにより、行政事務の効率化などを図ることが必要である。
(6) 現行法制の不備を検証し改善する場を設置すること
 原発事故から既に3年半が経過しており、当面は原子力損害の賠償に関する法律、原子力災害対策特別措置法原発事故子ども・被災者支援法三法の内容充実を図り、現実の問題の解決に即した法改正を行うべきである。その上で、総合的・包括的な「原子力災害対策基本法」(仮称)の制定について検討する場を設けるべきである。また原子力災害被災地の復興に関する関連分野の研究者によって実施される学際的な調査研究、政策立案の拠点を被災地に常設することが必要である。
(引用終わり)
 
平成29年(2017年)9月29日
日本学術会議 東日本大震災復興支援委員会 原子力発電所事故に伴う健康影響評価と国民の健康管理並びに医療のあり方検討分科会
東日本大震災に伴う原発避難者の住民としての地位に関する提言
(抜粋引用開始)
要旨
1 問題の所在
 日本学術会議は、これまでの提言において、2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」)における事故の結果、避難することを余儀なくされた被災住民について、避難元への帰還か移住かの二者択一を迫るのではなく、被災住民の意向を尊重しつつ、より柔軟な政策をとるべきことを主張してきた。その一環として提案してきたのが、避難した被災住民が避難元自治体と避難先自治体の双方との結びつきを維持する(その意味で「二重の地位」をもつ)ことを可能にする制度を設けることである。本提言は、この提案が今なお重要性を失っていないという認識のもとで、住民登録の問題に焦点を当て、具体的な制度についての提案を行うものである。
2 避難住民の現状と「二重の地位」
 政府は、2017年3月をめどに避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示を解除する方針を決定し、解除はこのスケジュールにしたがって順次実施された。しかし、避難指示が解除されても、ただちに帰還した人の数は限られ、従来の強制避難者の少なからぬ部分が、避難指示が解除されたにもかかわらず自らの判断で帰還していないという意味で「自主避難者」化し、支援の対象外になる恐れが高まっている。各自治体は、帰還か移住かの二分法には収まらない住民の選択を想定し尊重する姿勢を示している。このように、避難住民の現状を考えると、避難者が避難元自治体と避難先自治体の双方との結びつきを維持することを可能にする方向で、住民としての地位の制度化を図ることが必要となっている。
3 現行法とその問題点
 原発避難者の地位について定めている法律のひとつは「原発避難者特例法」(2011年)である。同法は、「指定市町村」からの「避難住民」に対して必要な行政サービスを提供するうえで重要な役割をはたしている。同時に、適用される住民の範囲や制度の実効性などの問題点も存在する。その中には運用によって改善される余地のあるものもあるが、改善を確かなものとするためには、「支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還について」「被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」という基本理念を謳った「子ども・被災者支援法」の理念に立ち返りつつ避難住民の法的地位をいっそう明確かつ安定したものとし、そのことによって避難元および避難先の自治体のなすべきことを明らかにすることが望ましい。
4 2つの制度の新設
 避難者という場合、原発事故からすでに6年を経過した現在では、次の2つの場合を区別しておくことが必要である。ひとつは、避難元自治体に帰還することを前提にその時期を待っている、あるいは帰還するか避難先その他の土地に移住するかについての判断をさまざまな理由でなお留保しているという意味で暫定的な状態にある場合であり、もうひとつは、移住するという選択をしたうえで、将来における帰還の可能性を含め、避難元とのつながりを維持することを希望するという場合である。
 前者については、避難元市町村に住民登録を残している避難住民を、住民基本台帳法の改正により、避難先市町村における「特例住民」(仮称)として位置づける、という制度を設けることが考えられる。また、後者については、東電福島第一原発事故の被災者で避難先市町村に住民登録を移した住民のうち、避難元市町村との制度的つながりを維持することを希望する者を「特定住所移転者」(仮称)として位置づけ、各避難元市町村が、「特定住所移転者」に関わる施策や、まちづくり等に関してその意見を聴取するための制度を、それぞれの自治体の実情に応じて条例により定めることとすることが考えられる。
5 2つの制度と健康管理・医療の課題
 避難者が直面している健康管理・医療上の問題は、①原発事故にかかわりなく、国または自治体の制度にもとづき、住民としてもともと受けることのできる保健関連サービス、②原発事故の結果としての放射線被ばくにともなう健康管理、③避難にともなう心身の健康への負荷、の3つに整理することができる。「特例住民」制度および「特定住所移転者」制度、とりわけ前者は、避難住民が避難先自治体において住民に準ずる地位において地域共同体を構成する者としての自己認識を明確にもつことを可能にし、避難者に対する否定的なレッテルや孤立化を解消し、避難にともなう心身への追加的な負荷を軽減する方向に向かわせる一要因となることが期待される。
6 提言
(1) 帰還か移住かについての被災者の選択の尊重
 東電福島第一原発事故の結果、元の居住地から避難することを余儀なくされた住民について、「支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」という子ども・被災者支援法の理念を再確認すべきである。とりわけ、避難指示の解除にともない、期限を区切ることによって、帰還するか移住するかの判断を事実上強いることのないようにすべきである。また、少なくとも当面のあいだ、原発避難者特例法にもとづく「指定市町村」の指定を維持すべきである。
(2) 避難先(移住先)と避難元の双方の自治体との結びつきを維持することを可能にする制度の新設
 東電福島第一原発事故の結果、元の居住地から避難することを余儀なくされた住民が、
避難先(移住先)と避難元の双方の自治体との結びつきを安定的に維持することを可能にするために、国は、今後生じうる類似の事態をも念頭に置きつつ、避難元に住民登録を維持している者を対象とする「特例住民」(仮称)制度、および避難先に住民登録を移した者を対象とする「特定住所移転者」(仮称)制度を立法措置により設けることを検討すべきである。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/「日本学術会議」関連)
2012年10月1日(2014年1月18日にブログに再アップ)
2012/9/11 日本学術会議による高レベル放射性廃棄物の処分に関する「提言」
2012年12月31日(2013年2月13日にブログに再アップ)
12/2日本学術会議 学術フォーラム「高レベル放射性廃棄物の処分を巡って」
2013年3月27日
日本学術会議チェルノブイリ原発事故による環境への影響とその修復:20年の記録』の翻訳を公開
2014年10月3日
日本学術会議・分科会が公表した高レベル放射性廃棄物問題についての2つの「報告」
2015年2月19日
「核のごみ」をめぐる注目すべき動き~国の「基本方針」改訂と日本学術会議の「提言」
2015年5月7日
日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」をこれから読む
2015年11月17日
長谷川公一氏「日本学術会議 暫定保管提言を考える」講演と意見交換(11/16原子力資料情報室 第88回公開研究会)