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『The New Constitution of Japan あたらしい憲法のはなし』(アンドリュー・ヒューズ、山本証編訳/1983年)のご紹介

 2018年1月14日配信(予定)のメルマガ金原.No.3047を転載します。
 
『The New Constitution of Japan あたらしい憲法のはなし』(アンドリュー・ヒューズ、山本証編訳/1983年)のご紹介
 
 日本国憲法が施行された年(1947年)の8月、文部省は、新制中学校1年生社会科用教科書(の一部)として『あたらしい憲法のはなし』を発行しました。
 国立国会図書館デジタルコレクションで、平成23年2月発行版の画像を見ることができます。表紙、目次、奥付などを除いた本文53頁の小冊子です。
 ところで、その奥付をよく読んでみると、「著作兼発行者 文部省」とある前に、書籍名「あたらしい憲法のはなし」の下に括弧書きで、(この本は浅井清その他の人々の盡力でできました。)と付記されています。
 浅井清氏は、当時、慶應義塾大学法学部教授。その後、人事院初代総裁、国際基督教大学駒澤大学の教授などを歴任された法学者であり、浅井氏が中心となって同書を執筆された経緯については、高見勝利氏(上智大学名誉教授)が編集された『あたらしい憲法のはなし 他二篇――付 英文対訳日本国憲法』(岩波現代文庫)の解説に詳しく書かれています。
 
 多くの人は、この『あたらしい憲法のはなし』を、日本平和委員会による復刻版で読まれたのではないでしょうか(私も最初はそうでした)。
 もっとも、現在は、パブリックドメインとなっており、青空文庫をはじめとするネット図書館で誰でも読めるようになっています。
 
青空文庫 あたらしい憲法のはなし(旧字・新かなづかい)
 
全国障害者問題研究会 あたらしい憲法のはなし(新字・新かなづかい)
 
みんなの知識 ちょっと便利帳
あたらしい憲法のはなし[原文/新字・新仮名づかい]
あたらしい憲法のはなし[ふりがな付き/新字・新仮名づかい]
 
 以上に書いたことは、私もかねて知っていましたが、英語版の『あたらしい憲法のはなし』があるとは知りませんでした。英語版というのがやや正確性を欠くとすれば、英語教材用編集版と言い直しましょう。三友社出版という、英語の教科書、教材、教育書などを中心に発行している出版社から、何と1983年に刊行されていたのでした。私が購入したのは初版9刷でした。奥付の一部を引用します。
 
The New Constitution of Japan あたらしい憲法のはなし
1983年7月30日 初版第1刷
2002年5月 1日 初版第9刷
編訳 アンドリュー・ヒューズ/山本 証
発行所 三友社出版
※定価450円(+税)
 
 私がこの本に気がついたのは、最近、書店の学参コーナーでこの本を「発見」し、喜んで買ってきた人の投稿がTwitterに流れているのをたまたま読んだことによります(私もすぐに入手しました)。
 手にとってぱらぱらと眺めただけで、「これは全訳ではない」ことはすぐに分かりました。もともとの『あたらしい憲法のはなし』は全部で15章あるのに、こちらの方は10章しかありませんし、各章の長さも、全訳にしては短めのようでしたから。 
 その辺の編集方針について、編訳者の山本証氏が、「はしがき」で以下のように書かれていました。
 
(引用開始)
 この英文テキストを編集するにあたって、原作の主旨や主要内容をきっちりと英語で伝えるように留意しながらも、次の点でいくつかの変更を加えました。まず、テキストとして適切な長さにまとめるために、省略した章があります(「天皇陛下」「政党」「内閣」「司法」「財政」)。また、章によっては部分的に割愛したり要旨をまとめたりしました。(略)その意味では本書は文部省原作の『あたらしい憲法のはなし』の英文への翻案と理解していただいたほうがよいかもしれません。
(引用終わり)
 
 なお、英文テキストの「全訳」が別冊として添付されています。もちろん、「以下の訳文は、英文にそくして訳したので、文部省原文の原本とは表現上、内容上異なっているとことがあります。」と注記されています。
 
 ここまで読んでくれば、当然皆さんも、「原文と英語テキストを読み比べてみたい」と思われるでしょうね。とはいえ、原文なら青空文庫からコピペすればよいのですが、英語テキストをスペル書き間違いに注意しながら転記するのは大変なので、「読み比べ」はごく一部だけでご容赦ください。
 
原文(あたらしい憲法のはなし) ※青空文庫から引用
六 戰爭の放棄
(略)
 そこでこんどの憲法では、日本の國が、けっして二度と戰爭をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戰爭をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戰力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
(略)
 
英語テキスト(The New Constitution of Japan) ※14頁から引用
4.Renunciation of War
 Therefore, in order that Japan should never again be responsible for the outbreak of war, we Japanese people decided on two items in the new Constitution. The first is that Japan gives up armed forces, warships and war-planes, and everything that can be used to carry on war. Japan will never again maintain an army, a navey or an air force. This is called“renunciation of war potential”. “Renunciation”means“to give up”, but it dose not mean that we are heipless. Japan decided what is right earlier than any other nation. Nothing is stronger in the world than right.      
 
英語テキストの和訳
 それゆえ、日本が2度と開戦の責任をとることがないように私たち日本人は新しい憲法で二つの事項を決めました。第1は、日本が兵隊も、軍艦も、飛行機もおよそ戦争を遂行するのにつかわれるものはいっさい放棄するということです。これからさき、日本は陸軍も海軍も空軍もいっさい保持しないのです。これを「戦力の放棄」といいます。「放棄」することは「すててしまう」という意味です。しかしそれは頼りないということではありません。日本は正しいことをほかの国に先がけて決めたのです。正しいことぐらい強いことはこの世にありません。 
 
 英語を学ぶための教材として編集された本ですから、ところどころに“Exercise”があります。1つだけご紹介しておきましょう。解答はあえて引用しませんが、日本語でなら答えられますよね。
 
Review Exercise
1.What are the three geatest principles of the new Constitution? Answer either in English or in Japanese.
 
 最後に、もう一度、この英語教材『あたらしい憲法のはなし』の「はしがき」から、編訳者の山本証さんが書かれた文章の一部を引用したいと思います。
 私は、この「はしがき」を、文部省『あたらしい憲法のはなし』が作られた時代の精神を、同時代の子どもがどのように受け止めたかについての証言の1つとして読みました。
 そして、私がこの英語教材を、ブログでご紹介したいと考えた理由でもあります。
 
(引用開始)
 このテキストの原作は、日本国憲法が制定された翌年1947年(昭和22年)に文部省が発行した中学生用の教科書『あたらしい憲法のはなし』です。当時わたしは小学校4年生でしたから、直接この教科書では学習しませんでしたが、社会科の授業で先生が感動をこめて「日本は二度とふたたび戦争をしかけない平和を愛する国になりました。これからは民主主義の世のんかです。平和と民主主義、自由党平等を大切にしましょう」と教えてくださったときの、先生の情熱にあふれた表情をいまでもはっきり記憶しています。
(略)
 憲法をめぐる論議はいろいろありましょう。しかし戦後40年近い歳月を経た今日、日本国憲法がわたしたち国民の生活にしっかりと根をおろしました。「前文」に述べられている「国民主権」「恒久平和主義」「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利」など新憲法のなかにつらぬかれた平和を愛し民主主義を大事にしようとする考え方が、国民みんなの財産になってきたことは確かです。若いみなさんが、憲法制定当時の文部省教科書に記された新憲法への熱いおもいと感動をかみしめていただき、わたしたちの憲法を自分たち自身の問題として考えていただきたいと希望します。
(引用終わり)