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除本理史(よけもと・まさふみ)氏(大阪市立大学教授)「原発事故集団訴訟と福島復興の課題」(視点・論点)を読む

 2018年3月13日配信(予定)のメルマガ金原.No.3105を転載します。
 
除本理史(よけもと・まさふみ)氏(大阪市立大学教授)「原発事故集団訴訟と福島復興の課題」(視点・論点)を読む
 
 去る1月27日、東京都の文京区民センターにおいて、「国・東京電力の加害責任を断罪し 新たな原発被害救済の枠組みを作る全国総決起集会」という集会が開かれ、3月に判決が言い渡される3つの原告団弁護団などから報告と決意表明がなされ、集会宣言が採択されたことを本ブログでご紹介しました(「国・東京電力の加害責任を断罪し 新たな原発被害救済の枠組みを作る全国総決起集会」が開かれた(2018年1月27日)/2018年1月29日)。
 それから1か月半があっという間に過ぎ、明後日以降、3つの地裁で判決が言い渡されます。
 
3月15日(木) 京都地方裁判所
3月16日(金) 東京地方裁判所
3月22日(木) 福島地方裁判所いわき支部
 
 そのような状況も一因となったのでしょうが、今年のNHKによる3.11企画では、自主避難原発賠償請求訴訟を取り上げたドキュメンタリー番組や論説番組が放送されました(3.11企画として原発事故を伝えるTV番組のご紹介(NHK総合・Eテレ)/2018年3月6日)。
 
 そのうちのハートネットTV「母親たちの原発事故」とETV特集「忘却にあらがう~福島原発裁判・原告たちの記録~」は、明日3月14日(水)の昼間と深夜に再放送があります。
 
再放送 2018年3月14日(水)午後1時05分~1時34分
NHK・Eテレ ハートネットTV
「シリーズ 東日本大震災から7年 第3回 母親たちの原発事故-“消えない不安”の日々-」
東日本大震災からまもなく7年。1万8千人超の犠牲者が出た未曾有の大災害で、とりわけ深刻な被害を受けた人たちがいます。高齢者や障害者、幼い子どもや女性など、いわゆる“災害弱者”と呼ばれる人たちです。そこで、3月は改めて“災害弱者”となりやすい人たちの視点から、防災や被災地の今を見つめるシリーズをお伝えします。
 第3回は、福島第一原発の事故が起きたとき、放射能の影響を受けやすい“子ども”を抱えることから、厳しい立場に立たされた「母親たち」の7年を丹念に振り返る証言ドキュメント。中でも国が避難指示を出さなかった、年間被曝量が20ミリシーベルト以下の場所で暮らしていた母親たちは、「避難するか、しないか」を自ら決断した上で、自主的に避難することを余儀なくされました。この「放射線の影響からわが子を守りたい」という思いから、福島県を離れた“自主避難ママ”たち。その多くが「心配しすぎだ」と主張する夫や家族との深刻な対立を経験し、母子だけで避難。国が避難指示を出した地域の住民と違い、政府や東電による賠償や支援が限られていたことから、二重生活の資金は尽きて困窮。避難先では相談相手もなく孤立するという厳しい状況に追い込まれ、その苦難は避難を終え帰郷した後も続きました。番組では、その知られざる実態を3人の母親たちの証言を軸に描きます。」
 
再放送 2018年3月15日(木)午前0時00分~1時00分(水曜深夜)
NHK・Eテレ ETV特集
「忘却にあらがう~福島原発裁判・原告たちの記録~」
原発事故被害への東電と国の責任を問い3824人が原告となった原発訴訟。原告たちの声から、生活者一人一人にとって原発事故とは何だったのかを7年後の今、見つめる。
 原発事故被害への東京電力と国の責任を問うために、全国でおよそ三十の集団訴訟が提訴されている。そのひとつ、3824人が原告となった訴訟で、去年十月、福島地方裁判所は、国と東電の責任を認め、総額五億円の追加賠償を命じる判決を下した。原発事故から7年が経とうとしている今、この原発裁判の原告たちの声や現在の暮らしの様子から、生活者一人一人にとって原発事故とは何だったのかを見つめてゆく。」
 
 もう1つ、大阪市立大学大学院の除本理史(よけもと・まさふみ)教授が出演された10分間の論説番組「視点・論点」は、再放送はないようですが、幸い、除本先生が「原発事故集団訴訟と福島復興の課題」と題して話された放送用の原稿がそのまま番組ホームページに掲載されています。原発事故集団訴訟が、個々の原告の財産上・精神上の被害の救済を追求するだけではなく、復興政策の問題点を改善することも目指しているのだという、訴訟の意義のポイントが分かりやすく語られています。
 見逃した方はもとより、ご覧になった方も是非通読され、理解を深めていただければと思いご紹介することとしました。
 
 除本先生の論説を十分頭に入れた上で、3月15日から始まる一連の判決についての報道に注目していただければと思います。
 
NHK解説委員室 解説アーカイブス これまでの解説記事 視点・論点
東日本大震災から7年(3) 原発事故集団訴訟と福島復興の課題
2018年03月09日 (金) 大阪市立大学 教授 除本 理史
(抜粋引用開始)
 東日本大震災福島原発事故の発生から、7年がたとうとしています。政府はこれまで、除染やインフラ整備などの復興政策を進めてきました。しかし依然として、被害が収束したとはいえません。その一方、昨年3月には避難者に対する仮設住宅の提供が終了するなど、賠償や支援策は打ち切られつつあります。
 こうした打ち切りの流れに納得できない被害者たちは、全国各地で集団訴訟の取り組みを進めています。提訴した原告の数は1万2000人を超えました。被害者たちはこれらの訴訟を通じて、国や東京電力の責任を追及するとともに、深刻な被害実態を明らかにし、損害賠償や環境の原状回復を行うよう求めています。
 さらに集団訴訟は、原告本人の救済にとどまらず、復興政策のあり方を転換していくこともめざしています。訴訟を提起した人たちが何を求めているのかを考えることで、福島復興の課題もみえてくるのです。
 昨年から、集団訴訟の判決が相次いで出されています。初めての判決は、昨年3月に前橋地裁で言い渡されました。その後、9月の千葉地裁、10月の福島地裁、今年2月の東京地裁と続き、今月もさらに3つの判決が予定されています。
 これまでの4つの判決に共通するのは、東京電力の賠償基準にとらわれず、裁判所が独自に判断して損害を認定するという姿勢が貫かれていることです。
(略)
 集団訴訟の取り組みには、当事者が声をあげることで、こうした賠償制度の問題点を明らかにし、被害の実態を浮かびあがらせていくという意義があります。これについて、4つの判決はいずれも、現在の指針や賠償基準ではカバーされない被害があることを認め、賠償を命じました。
 たとえば、避難元のコミュニティが崩壊したことなどによる「ふるさとの喪失」は重大な被害ですが、現在の基準では慰謝料の対象外とされています。そこで、この被害に対する慰謝料が認められるかが、訴訟の大きな争点になっています。
 昨年9月の千葉地裁判決は、現在の賠償基準よりも広い範囲の原告に、「ふるさとの喪失」被害があることを認めました。南相馬市小高区の住民が起こした集団訴訟でも、今年2月の東京地裁判決は、さらに踏み込んで被害を認定しています。
 しかし、課題も多く残されています。とくに、避難指示区域外の賠償は非常に低額であり、原告の思いとは大きな隔たりがあります。
 たとえば、昨年10月に出された福島地裁の判決では、区域外の慰謝料は1人あたり1万円~16万円にとどまります。ただし、現在の賠償基準から外れている茨城県でも、一部地域で少額とはいえ賠償が認められたことは注目されてよいでしょう。
 いずれにせよ、現在の指針や基準では不十分とする裁判所の判断が続いており、この流れは今後の判決でも定着していくと考えられます。
 次に、今回の事故をめぐる国と東京電力の責任について述べたいと思います。「原子力損害の賠償に関する法律」は、原子力事業者の無過失責任を定めています。これは被害者の救済を図るために、故意・過失の立証を不要とする仕組みです。しかし、この制度によって、東京電力の責任に関する検証が不十分になってきたことも否定できません。
 昨年判決が出された3つの裁判では、この責任の検証が大きな論点になりました。
 国の責任は、千葉地裁が認めませんでしたが、前橋地裁福島地裁はこれを認定しました。また、無過失責任の制度により、東京電力の賠償責任はいずれの裁判でも前提とされています。それにくわえて、前橋地裁福島地裁の判決は、津波対策を行うべきだったのに怠ったという東京電力の対応の問題点を指摘しました。
 事故に至る事実関係と責任の究明は、それ自体が被害者にとって重要な意味をもちます。前橋地裁福島地裁は、津波は予見可能であり事故は防ぐことができた、という判断を下しました。これは原告が待ち望んでいた言葉であり、国と東京電力の責任を明らかにすることは、「金目」ではない精神的な救済につながります。また、今回のような事故を二度と起こさないためにも、責任の検証は不可欠です。
 さらに、国の責任を明らかにすることは、復興政策の問題点を改善する方向に道をひらくことにもなります。現在の復興政策では、個人に直接届く支援策は遅れがちであり、ハード面のインフラ整備などの公共事業が優先される傾向があります。とくに福島では、除染という土木事業が大規模に実施されてきました。
 このような復興政策は、さまざまなアンバランスをもたらします。たとえば、復興政策の「恩恵」を受けやすい業種と、そうでない業種の格差があります。復興需要は建設業にかたより、雇用の面でも関連分野に求人が集中します。また、被災者の置かれた状況によっても、違いが出てきます。避難指示が解除されても、医療や教育などの回復が遅れているため、医療・介護ニーズが高い人や、子育て世代が戻れないという傾向がみられます。避難者が戻れないと、小売業のように地元住民を相手に商売をしていた事業者は、生業(なりわい)を再開するのが難しくなります。
 こうしたアンバランスを克服するためには、被災者それぞれの事情に応じたきめ細かな支援策が不可欠です。しかし、現在の復興政策は、この点で弱さを抱えています。
 復興政策を改善していくうえで、国と東京電力の責任解明が重要な意味をもちます。これは、戦後日本の公害問題を振り返れば明らかです。たとえば、四日市公害訴訟の原告はたった9人でした。しかし、裁判で加害企業の法的責任が明らかになったことから、1973年に公害健康被害補償法がつくられ、10万人以上の大気汚染被害者の救済が実現しました。
 このように公害・環境訴訟は、原告本人の救済だけでなく、それ以外の人たちにも適用される政策をつくりあげていく力にもなります。原発事故被害者の集団訴訟も、この経験に学び、国と東京電力の責任を踏まえた復興政策の見直しをめざしています。
 原発事故の被害はいまだ収束しておらず、復興期間の10年で問題が解決しないのは明らかです。各地の集団訴訟も、解決に至るにはまだ時間がかかるでしょう。その取り組みが復興政策の転換につながるのか、今後の展開が注目されます。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/除本理史氏関連)
2018年1月28日
除本理史(よけもと・まさふみ)教授(大阪市立大学大学院経営学研究科)の講演動画と論文のご紹介~福島第一原発事故による被害の救済と復興