立山良司氏(防衛大学校名誉教授)「イスラエル建国70年とパレスチナ問題」を読み(視点・論点)かつ視聴する(日本記者クラブ)
2018年4月27日配信(予定)のメルマガ金原No.3130を転載します。
今日(4月27日)午後6時から、和歌山県民文化会館大ホールにおいて、青年法律家協会和歌山支部主催による憲法記念行事「憲法を考える夕べ2018 これからの日本 憲法と教育の危機」を開催しましたところ、県外からも、また、県内遠隔地からも、多数の参加者においでいただくことができました(約1,500人!)。主催者の1人として、心からお礼申し上げます。
そのレポートなども書きたいとは思うものの、会場での後片付けを済ませた後、講師を囲んでの懇親会に参加などしていたため、書いている時間がありません。それはまた明日以降のこととして、今日は、昨日のうちに下書きを書いていた以下の記事をお送りします。
昨日ご紹介した鼎談は、昨年11月13日に放送されたラジオ番組(とその文字起こし)でしたから、現在の最新情勢まではカバーできていませんが、今日ご紹介するのは、一昨日(4月25日)、日本記者クラブで行われた記者会見の動画ですから、まさに最新のパレスチナ情勢を踏まえた専門家のお話がうかがえます。
実は、日本記者クラブでの演題「イスラエル建国70年とパレスチナ問題」と同じタイトルで、立山さんは、NHKの「視点・論点」で10分間のお話をされており、その放送用原稿が、NHK解説委員室のホームページに掲載されているのです。
ということで、以下に、その順序でご紹介します。
NHK解説委員室 2018年04月24日 (火)
(抜粋引用開始)
パレスチナをめぐるユダヤ人とパレスチナ・アラブ人の対立は、1世紀以上に及んでいます。このため双方のカレンダーは、沢山の記念日で埋められています。多くの記念日は、一方にとって祝日ですが、他方にとっては苦しみや怒りを象徴する日です。
しかしパレスチナ人から見れば、イスラエルの独立によって、パレスチナ社会は崩壊し、多くの人が難民となりました。このためパレスチナ人はイスラエルが独立を宣言した翌日の5月15日を、アラビア語で「大破局」や「大惨事」を意味する「ナクバ」の日として記憶し、自分たちの苦しみを再確認しています。
さらに今年は、新しい問題が加わりました。イスラエル独立70周年に合わせて、アメリカが5月に、イスラエルにあるアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを計画しているからです。トランプ大統領は4月18日、イスラエルの独立記念日を祝福するメッセージとともに、「大使館のエルサレム移転を楽しみにしている」とツイッターに書き込みました。
ガザ地区は2007年以来、すでに10年以上もイスラエルによって封鎖されています。集会は封鎖に抗議するとともに、パレスチナ難民の帰還実現を求めたもので、主催者は「ナクバ」の日、つまり5月15日まで集会を続けると宣言しています。
実際、最初の集会があった日がイスラム教の礼拝日に当たる金曜日だったため、それ以降、金曜日ごとに抗議行動が行われ、すでに合計で30人以上の死者が出ています。
(略)
和平プロセスをめぐるもう一つの変化は、イスラエルのユダヤ人も、占領下に住むパレスチナ人も、いずれも和平への期待を失ってしまったことです。現在の和平プロセスは1993年に結ばれたパレスチナ暫定自治合意、通称、オスロ合意に基づいています。しかし25年を経て、和平プロセスはすでに破たんしたと見られています。
昨年12月に、イスラエルのユダヤ人と、占領地のパレスチナ人の両方を対象に実施された世論調査結果によれば、イスラエルとパレスチナ国家との共存を目指す二国家解決案に関し、パレスチナ人、ユダヤ人ともに賛成と反対がほぼ同数で、大差はありません。さらに二国家解決案の実現可能性については、両方の社会で「もはや不可能」という回答が多く、しかもパレスチナ人の場合、60%が悲観的な見方をしています。
オスロ合意以降の和平プロセスが破たんした背景には、暴力の応酬や相互不信、入植活動の継続、パレスチナ側の分裂など、さまざまな理由が指摘できます。トランプ大統領のエルサレム政策が象徴しているように、アメリカがずっとイスラエル寄りの姿勢をとってきたことも、破たんの一因です。
このグラフはパレスチナ中央統計局が2015年に発表した、二つの民族の人口推移の予測を示しています。これによれば、2016年まではユダヤ人がパレスチナ人を上回っていました。しかし、2017年にはほとんど同数となり、2018年以降はパレスチナ人の人口がユダヤ人を上回り、しかもその差が次第に広がると予想されています。
今年3月、占領地行政を担当しているイスラエル軍当局がこのデータをもとに、人口数ではすでにパレスチナ人がユダヤ人を上回っていると報告し、議論となりました。特に右派政党は、パレスチナ中央統計局の数字は、信用できないとして、軍の報告を批判しました。
(略)
イスラエルはこの70年間で素晴らしい発展を遂げてきました。ハイテク技術は世界をリードし、多くの日本企業がイスラエル企業と提携しています。その一方で、パレスチナ人の苦しみの象徴である「ナクバ」もまた、70周年を迎えています。二国家解決案に基づく和平実現の可能性が遠のく中、パレスチナ問題は今後、人口問題を焦点に新しい展開をしていくように思われます。
(引用終わり)
会見レポート
(引用開始)
「二国家解決の実現性はない」と断言
立山氏は、新聞記者ののち国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)職員も経験し、研究者に転じた。さまざまな立場から中東和平問題にかかわってきた第一人者である。その立山氏が「二国家解決の実現性はない」と断言したのにはドキッとさせられた。
最近の世論調査によれば、イスラエルのユダヤ人で「まだ可能」と答えたのは42%に対し「もはや不可能」が46%。パレスチナ人に至っては、「もはや不可能」が60%で、「まだ可能」の37%を大きく上回っている。
大きな要因が、イスラエルが占領地のヨルダン川西岸などで進める入植だ、と立山氏は指摘する。オスロ合意が結ばれた1993年に30万人弱だった入植者は倍増。西岸で見ると10万人程度から40万人と4倍になっている。
自治とは名ばかりで、西岸の6割はイスラエルが管理。入植地を避けて群島のように散らばる自治地域の間を移動するためには検問所を通らねばならない。炎天下で何時間も待たされ、イスラエル側の都合で認めらないこともある。抗議すれば逮捕される。これではオスロ合意は何だったのか、とパレスチナ人の間には鬱屈した気分が広がる。
一方、イスラエル人にとって入植地はもはや既定事実。撤退を実現しようとすれば反発を招き、右派、左派に限らずどの政権も持たない。ネタニヤフ首相は、イスラエルが「違法」とする入植者100人程度を強制退去させる代わりに、新しい入植地建設を約束したそうだ。
イスラエルと共存共栄するパレスチナ国家の建設。この二国家解決こそが長年の紛争を終わらせる手立てだと国際社会は考えてきた。私もそうだが、日本のメディアもその基本姿勢は変わらないはずだ。だが、肝心の当事者が後ろ向きであれば、その主張はどれだけ説得力を持ち続けうるのだろうか。
(引用終わり)
上記の会見レポート氏と同じ箇所で私もドキっとしました。「二国家解決」は不可能という立山さんの断言に、「そうなのか」と納得する気持ちと、「まだ望みはあるのでは」という希望とが相半ばしたというところです。
ただ、高橋和夫先生も強調されているパレスチナ・イスラエルにおける人口動態(パレスチナ人がユダヤ人を人口で既に上回り、その差は今後ますます拡大していく)が続くとすると、短期的には、少数派のユダヤ人が多数派のパレスチナ人を支配するという、かつての南アフリカ共和国と同様のアパルトヘイト政策をとらざるを得なくなり、イスラエルが、名実ともに「非民主主義国家」になってしまうというところまでは私の想像力は及んでいたのですが、立山さんのお話を聞いていると、あと200年もすれば、占領地(ガザとヨルダン川西岸)を含むイスラエルは、パレスチナ人の国家になってしまうのではという遠大な見通しもあり得る、あるいは、本気でそういう展望を持っているパレスチナ人がいるということを知りました。歴史的にものごとを見るということのスケールをあらためて認識させられるお話でした。
非常に分かりやすくパレスチナ問題が解説されていますので、是非、動画の視聴をお薦めしたいと思います。