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「9条俳句」東京高裁判決(2018年5月18日)と社会教育の危機

 2018年5月20日配信(予定)のメルマガ金原No.3153を転載します。
 
「9条俳句」東京高裁判決(2018年5月18日)と社会教育の危機
 
 一昨日(2018年5月18日)、東京高等裁判所前の路上に、おそらく若手弁護団員と思われる男女2人から旗出しされた内容を読むと、「勝訴」「市の責任 再び認める」と書かれていました。そして、その下には、「『九条俳句』東京高裁 勝利判決へ! 2018.5.18 『九条俳句』市民応援団」と書かれた横断幕が展開され、さらにその両脇には、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ 『九条俳句』市民応援団」という黄色い幟が立てられていました。
 以上は、「九条俳句」市民応援団ホームページのトップに掲載された写真を描写してみたものです。
  ちなみに、この写真には、「青葉光る 我等の轍 刻みゆく」という俳句と、「1審さいたま地裁につづき、東京高裁でも勝訴!!」という見出しが掲載されていました。この俳句、どなたの作なのだろう?と思っていましたが、後にご紹介する報告集会の動画を視聴したところ、集会の最後でまとめをされた佐藤一子(さとうかつこ)先生(東京大学名誉教授・社会教育学)が作られたのだと分かりました(2時間07分~)。
 
 高裁判決を伝えたニュースの中から、弁護士ドットコムニュースの一部を引用します。
 
弁護士ドットコムニュース 5/18(金) 17:18配信
「9条俳句」不掲載、さいたま市が二審も敗訴 原告側「公民館職員の義務にまで踏み込んだ」と評価
(抜粋引用開始)
 「梅雨空に『9条守れ』の女性デモ 」。さいたま市の公民館が、市内の女性(77)が詠んだ俳句の掲載を拒否したことは、憲法が保障する表現の自由にあたるなどとして争われていた訴訟の控訴審判決が5月18日、東京高裁(白石史子裁判長)であった。白石裁判長は、原告勝訴だった一審に続き、「憲法に保障された住民の思想の自由・表現の自由は最大限に尊重されるべき」として、不掲載を違法と断じるとともに、市に作者の女性に対する慰謝料5000円の支払いを命じた。
●「思想や信条を理由に不当な取り扱いをすることは違法」
 「9条俳句」とは、女性が2014年6月に東京・銀座で集団的自衛権の行使容認に反対するデモを目撃して、詠んだ俳句。女性が参加している俳句会では毎月、地元のさいたま市三橋公民館の「公民館だより」に俳句を掲載していたが、女性の句を掲載しようとしたところ、政治的に中立であるべきとして、公民館側から不掲載とされた。
 女性は思想や信条によって不当な取り扱いを受けたとして、さいたま地裁に提訴。表現の自由や不掲載の正当性などが争われていた。昨年10月の一審判決では、女性が掲載に期待するのは法的保護に値するとして、公民館側の違法性を認めたが、女性があらためて俳句の掲載を申し入れたことをさいたま市が受け入れず、控訴していた。
 控訴審判決では、慰謝料の減額はあったものの、一審判決よりさらに踏み込んだ内容となっている。判決文によると、まず公民館とは、住民の福祉を増進する目的で利用されるための公的施設であることから、地方自治体は「住民が公民館を利用することについて、不当な差別的取り扱いをしてはならない」と前提。公民館の職員は、住民の社会教育活動の実現について、「公正に取り扱うべき職務上の義務を負う」とした。
 そのため、住民が公民館での社会教育活動による学習成果を発表した時、その思想や信条を理由に、他の住民と比べて不当な取り扱いをすることは、「違法」であると指摘。「思想の自由、表現の自由」について、「憲法上保障された基本的人格権であり、最大限尊重されるべきものである」と明記している。
(以下略)
(引用終わり)
 
 上記ニュースの伝えるところによると、弁護団長の佐々木新一弁護士は、「一審の判決では慰謝料5万円だったのに対して、控訴審判決では5000円という減額になりましたが、判決の内容については、むしろ一審よりも前進した側面がある」と評価したそうで、まあ、金額は問題ではないと思いますが、しかし、1審が認めた5万円というのは、わざわざ減額するほどの金額か?と思いますけどね。あるいは、裁判所としては、被告さいたま市の顔も立てて、同市が上告断念をしやすいように「配慮」してあげたのかもしれませんけど。
 
 なお、この18日の判決前後の模様を、UPLAN(三輪祐児)さんが収録してYouTubeにアップしてくださっていますので、ご紹介しておきます。
 
20180518 UPLAN【デモ・記者会見・報告集会】九条俳句裁判高裁判決(2時間11分)
冒頭~ 日比谷公園 デモ参加者集合
7分~ デモ出発
24分~ 弁護団・傍聴者入場
27分~ 旗出し「勝訴」
28分~ 記者会見
51分~ 報告集会
 
 特に、報告集会の発言は聴き取りやすいですし、判決を手許に置いて視聴すれば、よりよく判決の内容を理解できると思います。
 判決のPDFファイル(15ページ)は、「九条俳句」市民応援団のホームページからダウンロードできますので、プリンターをお持ちの方は、印刷されることをお勧めします。
 
 今回の高裁判決の肝となるのは、8頁~11頁「争点(8)について」なので、コピペできないので手間ですが、書き写しておきます。ただ、転記ミスもあるでしょうから、引用するのであれば、PDFファイルから直接お願いします。
 
平成29年(ネ)第5012号 九条俳句不掲載損害賠償等請求控訴事件
(原審・さいたま地方裁判所平成27年(ワ)第1378号)
判 決
(抜粋引用開始)
6 争点(8)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが、第1審原告の人格権ないし人格的利益を侵害し、国家賠償法上、違法であるか)について
(1) 公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もって住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とした施設であり(社会教育法20条)、国及び地方公共団体が国民の文化的教養を高め得るような環境を醸成するための施設として位置付けられている(同法3条1項、5条参照)。そして、公民館は、上記の目的達成のために、事業として①定期講座を開設すること、②討論会、講習会、講演会、実習会、展示会等を開催すること、③図書、記録、模型、資料等を備え、その利用を図ること、④体育、レクリエーション等に関する集会を開催すること、⑤各種の団体、機関等の連絡を図ること、⑥その施設を住民の集会その他の公共的利用に供することとされ(同法22条)、さらに公民館は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)として、普通地方公共団体は、住民が公民館を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならないと解される(地方自治法244条3項)。
 公民館の上記のような目的、役割及び機能に照らせば、公民館は、住民の教養の向上、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与すること等を目的とする公的な場ということができ、公民館の職員は、公民館が上記の目的・役割を果たせるように、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の実現につき、これを公正に取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきである。
 そして、公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをしたときは、その学習成果を発表した住民の思想の自由、表現の自由憲法上保障された基本的人権であり、最大限尊重されるべきものであることからすると、当該住民の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁参照)。
(2) これを本件についてみると、前提事実(3)及び(5)のとおり、三橋公民館は、本件合意に基づき、平成22年11月から平成26年6月まで3年8か月間にわたり、本件句会が提出した秀句を一度も拒否することなく継続的に本件たよりに掲載してきており、本件たよりに掲載する俳句の選定を基本的に本件句会に委ねていたと認められるところ、従前と同様の選考過程を経て本件句会が提出した本件俳句については、それまでの他の秀句の取扱いと異なり、その内容に着目し、本件俳句の内容が、その当時、世論を二分するような憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものであるとの解釈に反対する女性らのデモに関するものであり、本件俳句には、第1審原告が憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想、信条を有していることが表れていると解し、これを本件たよりに掲載すると三橋公民館の公平性・中立性を害するとの理由で掲載を拒否したのであるから、第1審被告の上記掲載拒否行為は、第1審原告の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、第1審原告の思想、信条を理由に、これまでの他の住民が著作した秀句の取扱いと異なる不公正な取扱いをしたものであり、これによって、第1審原告の上記人格的利益を違法に侵害したというべきである。
(3) 第1審被告は、三橋公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載することは、世論の一方の意見を取り上げ、憲法9条集団的自衛権の行使を許容すると解釈する立場に反対する者の立場に偏することとなり、中立性に反し、また、公民館が、ある事柄に関して意見の対立がある場合、一方の意見についてのみ発表の場を与えることは、一部を優遇し、あるいは冷遇することになり、公平性・公正性を害するため、許されないから、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことには、正当な理由がある旨主張する。
 しかし、前提事実(3)エのとおり、本件俳句を本件たよりに掲載する場合、原判決別紙俳句目録1記載のように、本件句会の名称及び作者名が明示されることになっていることからすれば、本件たよりの読者としては、本件俳句の著作者の思想、信条として本件俳句の意味内容を理解するのであって、三橋公民館の立場として、本件俳句の意味内容について賛意を表明したものではないことは、その体裁上明らかであるから、本件俳句を本件たよりに掲載することが、直ちに三橋公民館の中立性、公平性及び公正性を害するということはできない。また、前記(1)で説示したとおり、公民館の職員が、住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき、その思想、信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをすることは許されないのであるから、ある事柄に関して意見の対立があることを理由に、公民館がその事柄に関する意見を含む住民の学習成果をすべて本件たよりの掲載から排除することは、そのような意見を含まない他の住民の学習成果の発表行為と比較して不公正な取扱いとして許されないというべきである。
 以上によれば、本件俳句が詠まれた当時、集団的自衛権の行使につき世論が大きく分かれていたという背景事情があったとしても、三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにつき、正当な理由があったということはできず、三橋公民館及び桜木公民館の職員らは、本件俳句には、第1審原告が憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想、信条を有していることが表れていると解し、これを理由として不公正な取扱いをしたというべきであるから、上記職員らの故意過失も認められ、第1審被告の主張は採用することができない。
(4) したがって、三橋公民館及び桜木公民館の職員らが、第1審原告の思想や信条を理由として、本件俳句を本件たよりに掲載しないという不公正な取扱いをしたことにより、第1審原告は、人格的利益を違法に侵害されたということができるから、三橋公民館が、本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは、国家賠償法上、違法というべきである。
(略)
東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 白 石 史 子
      裁判官 大 垣 貴 靖
      裁判官 鈴 木 義 和 
(引用終わり)
 
 報告集会で、佐藤一子先生から、本件判決の意義と併せて、その判決の根拠となっている社会教育(法)自体が危機に瀕しているということが述べられていました。
 「9条俳句」不掲載事件をはじめとする、市民社会を覆う様々な息苦しさと、社会教育の危機とは根は同じところから来ているような気がします。
 是非、上記報告集会の動画を視聴していただければと思います。
 
 なお、報告集会でも紹介されていましたが、佐藤先生と安藤聡彦さん(埼玉大学教授)、長澤成次さん(千葉大学名誉教授)との共編著著『九条俳句訴訟と公民館の自由』(エイデル研究所)が刊行されたばかりですので、ご紹介しておきます。
 刊行前の予約特価でのFAX注文書が見つかりましたが、多分もう「予約受付」はしていないのではと思いますが、詳細目次がこれで分かります。
 
(参考サイト)
 1審さいたま地裁判決についての志田陽子先生(武蔵野美術大学教授・憲法学)による判例評釈をご紹介しておきます。
新・判例解説Watch・憲法No135
社会教育と表現の自由(9条俳句公民館便り不掲載事件)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年10月13日
「九条俳句」裁判、さいたま地裁が画期的判決~思想・信条を理由とした公民館誌への掲載拒否と認定