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日本弁護士連合会「災害救助法の一部を改正する法律の早期成立及び被災者支援制度の早期の抜本的な改善を求める会長声明」を読む

 2018年5月23日配信(予定)のメルマガ金原No.3156を転載します。
 
日本弁護士連合会「災害救助法の一部を改正する法律の早期成立及び被災者支援制度の早期の抜本的な改善を求める会長声明」を読む
 
 弁護士会の活動の中心を担うのは、日弁連でも各単位会でも、各分野ごとに設けられた委員会ですが、特に比較的会員数の少ない地方の弁護士会の場合(和歌山弁護士会もそうです/現在会員数146名)、1人の会員が、いくつもの委員会をかけ持ちすることになります。
 当然私もいくつかの委員会に配属されていますが、その1つに災害対策委員会があります。
 別に希望もしていないのに、執行部の判断で配属された委員会もありますが、この災害対策委員会については、自ら配属を希望しました。
 私自身、これまで災害対策に特段熱心に取り組んだおぼえはなく、強いて言えば、福島第一原発事故からの避難者を支援する活動を少しお手伝いしてきたくらいです。
 けれども、南海トラフ地震も近いと言われる中、災害時に弁護士として何が出来るのか、何をやらなければならないのか、ということをしっかりと考え、準備する必要を思い、希望して配属してもらいました。もっとも、今のところ、自分として委員会活動にこれといった貢献もできていませんけどね。
 ちなみに、和歌山弁護士会災害対策委員会は、他の単位会(大規模被災地の単位会を除く)の同種委員会と比べて著しい特色があります。それは、正副委員長がいずれも3.11東日本大震災の「被災者」であるということです(3.11当時、九鬼委員長は福島県弁護士会の、柳川副委員長は岩手弁護士会の会員でした)。
  
 今日ご紹介する日本弁護士連合会「災害救助法の一部を改正する法律の早期成立及び被災者支援制度の早期の抜本的な改善を求める会長声明」も、皆さんの理解を求めたいということと併せて、自分自身の勉強のために取り上げたという側面もあります。
 まず、その会長声明をご一読ください。
 
災害救助法の一部を改正する法律の早期成立及び被災者支援制度の早期の抜本的な改善を求める会長声明
(引用開始)
 政府は、本年5月8日、大規模災害時の避難所運営や仮設住宅整備などの都道府県の権限を指定都市の中から指定された救助実施市に移すことなどを内容とする「災害救助法の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に改正案を上程した。この改正により、全国20指定都市の総人口である最大2、700万人の被災者の救助を迅速かつ円滑に行えるようになるなどの効果が期待できる。
 当連合会は、2012年4月20日付け「防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書」の中で、市町村の「地域防災計画の独自性の尊重」を提言している。現場主義の見地に鑑みれば、市町村が災害救助の実施権限を持つことは支持されるべきであり、改正案は、上記意見書中に述べている内容と同趣旨の内容となっており、高く評価できる。早急にかかる改正を果たした上、次なる抜本的な制度改革の作業に着手すべきである。
 また、被災者生活再建支援法は、公布から本日で20年が経過した。同法は阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた被災者の生活再建に資する法律として成立し、災害救助法及び災害弔慰金の支給等に関する法律と共に、被災者支援の基本的な法制度として定着している。
 しかし、これらの法制度には課題も多い。当連合会は、東日本大震災発生直後から、多数の法律相談から浮き彫りになった問題を解決するために、上記3法の制度改善を求める意見書を公表するとともに、2016年2月19日付けの「被災者の生活再建支援制度の抜本的な改善を求める意見書」では、一人ひとりの被災者に対する災害ケースマネジメントの実施を提言したところであるが、今なお抜本的な制度改善は行われていない。被災者生活再建支援法は5年ごとの見直しが行われないまま既に6年以上経過している。災害関連死や災害援護資金に関する諸問題を改善するため、災害弔慰金の支給等に関する法律についても見直しを図らなければならない。
 当連合会は、被災者支援制度が改善されないまま首都直下地震南海トラフ地震などの大災害が起きると、被災者が制度の不備による無用の苦難を背負う事態が繰り返されるのではないかとの懸念を抱いている。制度改善の取組に一刻の猶予もなく、被災者支援制度の早期の抜本的な改善を求めるものである。
 
  2018年(平成30年)5月22日
 
    日本弁護士連合会      
      会長 菊地 裕太郎
(引用終わり)
 
 以上の会長声明の前段で言及されている災害救助法改正案については、何がどう変わるのかを押さえておきましょう。
 
 現行の災害救助法の第2条は、以下のように規定しています。
 
災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)
 (救助の対象)
第二条 この法律による救助(以下「救助」という。)は、都道府県知事が、政令で定める程度の災害が発生した市町村(特別区を含む。)の区域(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、当該市の区域又は当該市の区若しくは総合区の区域とする。)内において当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して、これを行う。
 
 つまり、災害救助法に基づく救助の原則的実施主体は「都道府県知事」なのです。
 
 そして、今回の改正案は、この第2条の次に、以下の二条を追加しようとしています。 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19605065.htm
 
 (救助実施市の長による救助の実施)
第二条の二 救助実施市(その防災体制、財政状況その他の事情を勘案し、災害に際し円滑かつ迅速に救助を行うことができるものとして内閣総理大臣が指定する市をいう。以下同じ。)の区域内において前条に規定する災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対する救助は、同条の規定にかかわらず、当該救助実施市の長が行う。
2 前項の規定による指定(以下この条において「指定」という。)は、内閣府令で定めるところにより、同項の救助を行おうとする市の申請により行う。
3 内閣総理大臣は、指定をしようとするときは、あらかじめ、当該指定をしようとする市を包括する都道府県の知事の意見を聴かなければならない。
4 内閣総理大臣は、指定をしたときは、直ちにその旨を公示しなければならない。
5 前各項に定めるもののほか、指定及びその取消しに関し必要な事項は、内閣府令で定める。
 
 (都道府県知事による連絡調整)
第二条の三 都道府県知事は、救助実施市の区域及び当該救助実施市以外の市町村の区域にわたり発生した第二条に規定する災害に際し、当該都道府県知事及び当該救助実施市の長が行う救助において必要となる物資の供給又は役務の提供が適正かつ円滑に行われるよう、当該救助実施市の長及び物資の生産等(生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送をいう。以下同じ。)を業とする者その他の関係者との連絡調整を行うものとする。
 
 なお、上記第2条の2第1項を読むだけでは、「救助実施市」は「市」でありさえすればよいように読めますが、内閣府の公表した「災害救助法改正案の概要」によれば、「※指定都市を指定、具体的な基準は内閣府令で規定。」とされていますので、救援実施市としての指定を求めることができる「市」は、「指定都市(政令指定都市)」に限るという内閣府令を制定予定なのでしょう。
 
 なお、内閣府「防災情報のページ」の中の「平成30年度災害救助法等担当者全国会議」のページに、本件災害救助法改正案についての資料を始め、災害弔慰金及び災害援護資金貸付金に関する実務、避難行動要支援者名簿及び被災者台帳、避難所運営などについての豊富な資料が集積されていますので、とても参考になると思います。
 
平成30年度災害救助法等担当者全国会議
 
 今、衆議院には、「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律案」、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」、「特定複合観光施設区域整備法案」などの重要問題案件が目白押しで審議中であり、与野党の攻防が激化しています。場合によっては、強行採決のオンパレードという事態もあり得るかもしれません。そのあおりを受けて、与野党対決でも何でもない災害救助法改正案が廃案などにならないよう、日弁連も会長声明を出したのかもしれません(でもないかな?)。
 
(参考サイト)
 日弁連会長声明で言及された法律、日弁連意見書にリンクしておきます。
 
災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和四十八年法律第八十二号)
 
被災者生活再建支援法(平成十年法律第六十六号)
 
日本弁護士連合会「防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書」
 
日本弁護士連合会「被災者の生活再建支援制度の抜本的な改善を求める意見書」
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2018年1月12日
日本弁護士連合会「大規模災害に備えるために公職選挙法の改正を求める意見書」を是非読んで欲しい