2018年7月2日配信(予定)のメルマガ金原.No.3196を転載します。
朝日新聞デジタル 2018年6月27日13時24分
(抜粋引用開始)
国民投票法改正案は、2007年の国民投票法成立後の改正公職選挙法の内容を反映するもので、大型商業施設などに共通投票所を設置できるようにすることなどを盛り込んだ。改憲そのものに反対する共産、社民両党を除く与野党は5月末、テレビCM規制などを検討することを前提に、大筋で合意していた。
(引用終わり)
立憲民主党が、当初の「大筋合意」から提出反対に舵を切ったについてはそれなりの理由はあるのですが、一般には少し分かりにくいかもしれませんね。
この問題について、真正面から提出に反対した改憲問題対策法律家6団体連絡会の緊急声明をブログでご紹介していますので(改憲問題対策法律家6団体連絡会「『日本国憲法の改正手続に関する法律』の一部を改正する法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明」を読む/2018年6月8日)、是非ご参照いただければと思います。
とはいえ、改正案が提出されてしまったのですから、まずは改正案の中身がどんなものか、知っておく必要があるでしょう。
ただ、この法案は閣法(内閣提出法案)ではないため、主務官庁のホームページで新旧条文対照表を調べるという訳にもいきません。今のところ、衆議院ホームページの中の、「第196回国会 議案の一覧」⇒「衆法の一覧」⇒「42番 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」⇒「本文」から閲覧できる、「提出時法律案」と「要綱」によって内容を知ることができる程度です。
このうち、法律案そのものについては、新規立法ではなく、既存の法律の改正案なので、一読しただけでは全然頭に入ってこないと思います(弁護士の私が読んでもそうです)。
衆法 第196回国会 42 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案
そこで、とりあえず「要綱」を引用しておきますので、これによって改正案の概要を理解するようにしてください。
日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案要綱
(引用開始)
一 投票環境向上のための公職選挙法改正並びの改正
1 投票人名簿等の縦覧制度の廃止及び閲覧制度の創設(第29条の2、第29条の3等関係)
投票人名簿及び在外投票人名簿の内容確認手段について、個人情報保護の観点から、従来の縦覧制度を廃止し、次のように閲覧できる場合を明確化、限定するなどした新たな閲覧制度を創設すること。
・投票人名簿の抄本等の閲覧をできる事由を法律上明記すること。
・閲覧を拒むに足りる相当な理由があると認められるときは、閲覧を拒むことができるものとすること。
・不正閲覧対策に関する措置(罰則や過料を含む。)を法律上規定すること。
出国時に市町村の窓口で在外選挙人名簿への登録を申請できる制度(出国時申請)が新たに創設されたが、これを利用して、国民投票の投票日の50日前の登録基準日直前に出国した場合に、国民投票の在外投票人名簿に反映されない場合があり得ることから、この「谷間」を埋めるための法整備を行うこと。
3 共通投票所制度の創設(第52条の2関係)
投票の当日、市町村内のいずれの投票区に属する投票人も投票することができる共通投票所を設けることができる制度を創設すること。
4 期日前投票関係
① 期日前投票事由の追加(第60条第1項関係)
期日前投票事由に「天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること」を追加すること。
② 期日前投票所の投票時間の弾力的な設定(第60条第6項関係)
開始時刻(8:30)の2時間以内の繰上げ及び終了時刻(20:00)の2時間以内の繰下げを可能とすること。
5 洋上投票の対象の拡大 (第61条第7項関係)
外洋を航行中の船員について、ファクシミリ装置を用いて投票することができるようにする洋上投票制度について、①便宜置籍船等の船員及び②実習を行うため航海する学生・生徒も対象とすること。
6 繰延投票の期日の告示の期限の見直し(第71条第1項関係)
天災等で投票を行うことができないとき又は更に投票を行う必要があるときに行う繰延投票の期日の告示について、少なくとも5日前に行うこととされていたものを少なくとも2日前までに行えば足りることとすること。
7 投票所に入ることができる子供の範囲の拡大(第72条第2項関係)
投票所に入ることができる子供の範囲を、「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大すること。
二 施行期日等
1 施行期日(附則第1条関係)
この法律は、公布の日から起算して3月を経過した日から施行すること。
2 適用区分(附則第2条関係)
3 その他
その他所要の規定を整備すること。
(引用終わり)
今次の「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」についての私の意見は、基本的に、先にご紹介した改憲問題対策法律家6団体連絡会による緊急声明のとおりなので、それを繰り返すことはしませんが、最後に、法案が衆議院に提出された6月27日当日に発表された日本弁護士連合会の会長声明をご紹介しておきます。
日弁連の声明に改正案の提出自体を直接批判する文言はありませんが、「憲法9条の改正など、憲法改正に向けた議論が始まりつつある中、今般提出された憲法改正手続法改正案には、見直すべき重要な課題が取り上げられていない」と指摘した上で、かねて日弁連が提言している「憲法改正手続法の抜本的な改正」を求めています。
2009年11月18日付意見書、2018年5月25日付総会決議と併せてお読みいただければと思います。
(引用開始)
本日、日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案(以下「憲法改正手続法改正案」という。)が国会に提出された。憲法改正手続法改正案は、駅や商業施設に共通投票所を設置するなど、2016年の公職選挙法の改正に伴い導入された投票環境向上のための7項目にわたる規定の整備である。
当初、この7項目に加え、憲法改正手続法改正案では、今国会に提出される予定の公職選挙法改正案の郵便投票の対象拡大も検討するとされていたが、この提案は見送られている。投票環境向上のための方策として、郵便投票の対象拡大も十分に検討されるべきである。
当連合会は、憲法改正手続法に関して、以下の8項目の見直しを求めている(2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」、2018年5月25日定期総会「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」)。①原則として各項ごと(場合によっては条文ごと)の個別投票方式とすること、②公務員・教育者に対する運動規制は削除されるべきであること、③組織的多数人買収・利害誘導罪の設置は削除されるべきであること、④広報協議会は賛成派と反対派の委員を同人数とすべきであること、公費による意見広告は幅広い団体が利用できる制度にすべきであること、有料意見広告については、賛成派と反対派の意見について実質的な公平性が確保されるよう、慎重な配慮が必要であること及び広告禁止が国民投票の期日前14日となることが適切であるか十分に検討されるべきであること、⑤発議後国民投票までの期間は最低でも1年間は必要であること、⑥最低投票率の規定は必要不可欠であり、また、無効票を含めた総投票数を基礎として過半数を算定すべきであること、⑦国民投票無効訴訟の提起期間の「30日以内」は短期にすぎ、また少なくとも全国の各高等裁判所を管轄裁判所とすべきであること、⑧合同審査会や両議院の議決が異なった場合に開くことのできる両院協議会は各議院の独立性に反するので国会法の改正部分は削除されるべきであること。
以上の8項目のうち、とりわけ憲法改正手続法成立時の参議院の附帯決議において、施行までに必要な検討を加えることが求められている、テレビ、ラジオの有料意見広告規制及び最低投票率制度については、上記のような見直しが早急に必要である。
憲法9条の改正など、憲法改正に向けた議論が始まりつつある中、今般提出された憲法改正手続法改正案には、見直すべき重要な課題が取り上げられていない。よって、当連合会は、改めて憲法改正手続法の抜本的な改正を求めるものである。
2018年(平成30年)6月27日
日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎
(引用終わり)
※2009年11月18日付「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」