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『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』(石川裕一郎、石埼学、清末愛砂、志田陽子、永山茂樹共編著)を読む

 2018年8月4日配信(予定)のメルマガ金原No.3229を転載します。
 
『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』(石川裕一郎、石埼学、清末愛砂、志田陽子、永山茂樹共編著)を読む
 
 先月(7月)はじめ、『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』(現代人文社)という、5人の憲法研究者の皆さんによる共編著になる本が刊行されました。その5人の方々のうちお2人までFacebook友達になっていただいており、事前に刊行予定を知ったことから、ネットで予約注文しており、すぐに入手しました。
 ただ、日々時間に追われる毎日を過ごしていたことから(ブログの更新もあるし)、わずか141頁の本にもかかわらず、一気に読了という訳にいかず、読み終わるまでにえらく時間がかかってしまいました。
 
 5人の共編著者の皆さんは以下の方々です。
 
石川裕一郎(いしかわ・ゆういちろう)氏:聖学院大学政治経済学部教授
石埼 学(いしざき・まなぶ)氏:龍谷大学法学部教授
清末愛砂(きよすえ・あいさ)氏:室蘭工業大学大学院工学研究科准教授
志田陽子(しだ・ようこ)氏:武蔵野美術大学造形学部教授
永山茂樹(ながやま・しげき)氏:東海大学法学部教授
 
 書名からも、この本がどんな目的で刊行されたのか、だいたいの想像はつくと思いますが、以下に、「著者を代表して」永山茂樹先生が書かれた「はじめに」の一部を引用してみましょう。
 
(引用開始)
 ところが困ったことに、今、日本では肝心の国会がうまく動いていないのです。このままだと、平和も男女平等も選挙もなかなか展望が開けません。そこで私たちは、憲法が国会のことをどう書いているのか、現実の国会はどうなっているのか、主権者はどうしたらよいのかといったことを、みなさんに知ってもらおうと思い、憲法を参照しながら問題を整理しました。これがこの本をつくった理由です。
(略)
 この本を手に取ってくれたあなたは、憲法や政治に対する関心がけっこう強いほうなんじゃないかと思います。
 そういう人のために、この本のⅠでは国会制度の基本となる、民主主義の原理・原則について書きました。ここは少し抽象的な議論もあるのですが、あとのほうに進むためにがまんして読んでほしいところです。Ⅱは国会の現状を整理しました(略)。関連する新聞記事を各章の冒頭に置いたので、まずそれを読み、どんな問題があるのかを考えてください。私たちなりに解答も書きました。Ⅲでは、国会と私たちとのかかわりを意識しながら、私たちはどうすればよいのかについて論じました。ここでも新聞記事を手がかりにしてもらいます。
(引用終わり)
 
 永山先生の、読者に直接語りかけ、何が何でも分かってもらわずにはいない、という意気込みが感じられる「はじめに」です。
 このあとは、目次をご紹介すれば(執筆の分担も分かるし)、本書の構成が皆さんにもご理解いただけるだろうと思ったところ、幸いにも版元(現代人文社)ホームページに「目次」が掲載されていましたので、これをコピペすることにします(刊本の目次には各章の見出しも書かれていますが、これは略されています)。
 
(引用開始)
目次
 
はじめに
 
Ⅰ まずは私たちの国のかたちを確認しよう――憲法がもたらしているもの
 1 国民主権
  主人公は私たち……石埼学
 2 直接民主制と間接民主制
  私たちの世界をつくる……石川裕一郎
 3 立憲主義
  国家権力の暴走を防ぐ……永山茂樹
 4 平和と人権
  人々の命と権利を守る……清末愛砂
 
Ⅱ 今の国会おかしくない?――憲法からみてみよう
 1 政治と国民の距離
  議会は民意を反映しているか……石埼学
 2 公的文書の取扱い
  文書の改ざんは許されるのか……石埼学
 3 唯一の立法機関
  立法機能に問題はないか……志田陽子
 4 議会運営のルール
  熟議なしの採決は許されるか……志田陽子
 5 選挙制度
  望ましい選挙制度とは何か……石川裕一郎
 6 議員構成
  弱者の声は反映されるのか……清末愛砂
 7 政治とカネ
  清潔な政治がなぜ正しいか……永山茂樹
 8 外交・条約
  国会は外交にかかわりうるか……永山茂樹
 9 衆議院の解散
  解散は総理の専管事項か……永山茂樹
 10 野党の意義
  野党は国会に必要ないのか……石埼学
 
Ⅲ 私たちにできることは何だろう
 1 自由選挙
  主権者が自由に声をあげること……永山茂樹
 2 言論・集会の自由
  民主主義の基礎体力……永山茂樹
 3 メディアと政治報道
  マスコミの役割……石川裕一郎
 4 選挙制度
  「一票の較差」を正すには……石川裕一郎
  国民投票は信じられるか……清末愛砂
 
本書にかかわる憲法条文
おわりに
(引用終わり)
 
 現状の「国会」に対して、どのような点が特に問題だと考えるか、言い出せば「あれも、これも」と論点が次々と出てきて収拾がつかず、本当に「あれも、これも」説明しようとすれば、とても140頁の本にまとまるはずがなく、憲法コンメンタール「国会」編のような本が出来たとしても一般市民の誰も手に取ろうとせず、「国会を、取り戻す!」という目的の役には少しも立たない、ということから、論点を絞り込むという必須の作業がさぞ大変だったろうと想像します。
 
 そこで工夫されたのが、ⅡとⅢの各章冒頭に、関連する新聞記事を引用したことでしょう。この記事をまず読むことにより、「何が問題なのか」を読者が自ら考えてくれるだろうということが期待されています。
 
 私自身、過去、ブログに書いたことを思いだすだけでも、国会に対して言いたいことはいくらでもあります。
 たとえば、日本国憲法第53条に基づき、野党が臨時会の召集決定を要求したにもかかわらず、安倍内閣は二度にわたってこれを無視しましたが、これほどあからさまに日本国憲法第4章「国会」の規定に違反しても、内閣がびくともしない(?)実例をどう考えれば良いのか?(憲法53条後段に基づく臨時会召集要求と国会の先例について/2015年10月21日)。
 
 憲法第53条は、国会内少数派に対して配慮した条項の1つですが、少数派であっても行使できる手段としての「議員立法」(法案提出権)について考える機会もありました(野党4党共同提案「原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案」を支持する~付・「原発ゼロ基本法案の制定をめざす市民のつどい」を視聴する/2018年7月14日)。
 
 以上2つの論点(臨時会招集決定要求権、法案提出権)については、本書において直接論じられている訳ではありませんが、かねて私が関心を有していた問題について、取り上げられたものももちろんあります。
 一例として、国会会議録の「書き換え」(今なら「改ざん」と言うべきか)問題を取り上げてみましょう。「なかったものがあったことになった」のではないか(?)ということで論議を呼んだ安保法案を可決したということになっている2015年9月17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の「会議録」問題や、安倍首相による「私は立法府の長」発言を取り上げ、国会会議録「訂正」の可否について考えたことがありました(「私は立法府立法府の長」は「私は行政府の長」と書き換えられた~国会会議録を考える/2016年6月9日)。
 
 この問題については、龍谷大学の石埼学先生が、「Ⅱ-2 文書の改ざんは許されるのか」で論じられています(39~45頁)。この章では、民主主義の根幹を支える公文書に対する信頼が大きく揺らいだ森友学園問題に関わる財務省による公文書改ざんが中心的に取り上げられているのですが、併せて、憲法の要請(第57条2項)として「保存」「公表」「頒布」することが求められている衆参両院の「会議の記録」についても、その重要性が指摘されるとともに、国会における不適切発言の安易な会議録からの「削除」について、「大げさかもしれないが、歴史の変造といってもよいのではないか。」と指摘されており、まさに「我が意を得たり」と思いました。
 
 こういう調子で、私の問題関心だけで書いていてもきりがありませんので、最後に、「はじめに」と同じように、永山茂樹先生が「著者を代表して」書かれた「おわりに」から、以下の文章を引用したいと思います。
 
 私は、「おわりに」の「若い読者」への呼びかけを読み、「自分のような年輩の者は対象ではないのか」といじける(?)ことなく、素直に、このメッセージが1人でも多くの若者に伝わって欲しいと共感しました。
 考えてみれば、5人の共著者の皆さんは、それぞれの勤務校において、毎日、十代終わりから二十代前半にかけての若者と接しておられる訳で、その点で私などとは環境が全然違います。
 
 「はじめに」の末尾に書かれていた「こういうこと(注:基本となる理念はどんなものか、今現実がそこからどう離れているか、そして私たちはどうするべきか、ということ)をたくさんの人に考えてもらえれば、『国会を取り戻す』ことはそれほど難しくない、と私たち執筆者はけっこう楽観的にかまえています。」という言葉とともに、「おわりに」の終わりの部分をお読みください。
 
(引用開始)
 この本の副題は「議会制民主主義の明日のために」です。私たち執筆者が「明日」という言葉でイメージしたのは、若い読者のあなたがたがこれから生きていく日々のことです。それが、議会制民主主義のまともに機能する明日であってほしいと思います。
 議会制民主主義を活かしていくには、まず主権者が理念を学び、その理念に基づいている制度をきちんと運用することから始まるでしょう。その認識を、同世代の多くの人とぜひ共有して、あなた方の未来を切り開いてください。さらに「はじめに」のところでお願いしたように、この本を読んだ感想や考えを、あなたの言葉で、周囲の人に伝えてください。
(引用終わり)
 
(付録 本書にかかわる憲法条文)
 『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』の本論のあと、(付録)とは書かれていませんが、「本書にかかわる憲法条文」というコーナーが設けられ、日本国憲法の第4章「国会」(第41条~第64条)はもちろん全て、それ以外にも、前文をはじめ、国会を取り戻そうと考えをめぐらす上で関連する憲法の条項が引用されています。「国会」の章以外では、日本国憲法が議院内閣制を採用していることから、第5章「内閣」(第65条~第75条)が全条文引用されているのは理解しやすいと思いますが、第7章「財政」(第83条~第91条)、第8章「地方自治」(第92条~第95条)の規定も全て引用されており、あらためて国会の果たすべき役割の大きさに気付かせてくれます。
 私は、この「本書にかかわる憲法条文」を「裏目次」として利用する読み方もあるのではないか、などと思いました。つまり、「本書にかかわる憲法条文」を読み進めるということは、「国会」という視点から日本国憲法の様々な条項の意味を考え直すということになり、その途中で、「この条項がどうして『国会を、取り戻そう!』と関係があるの?もっと詳しく知りたい」と思えば、目次に戻り、該当する論考を探して読んでみるということができるからです。
 最初から最後まで、普通に読み通しても勉強になると思いますが、より深く問題意識を持って、自分で考えながら読むために、この「裏目次」利用法をお薦めする次第です。
 ということで、以下には「本書にかかわる憲法条文」(同書132頁~138頁)を前文引用します。幸い(?)法令には著作権はありませんので。
 なお、同書の引用条文では、数字がアラビア数字で表記されていますが、引用にあたり、総務省法令データベースを利用した関係から、以下の引用条文では漢数字が使われています。
 
本書にかかわる憲法条文
 
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
 
第一章 天皇(抄)
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五~十 略
 
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 
第三章 国民の権利及び義務(抄)
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2・3 略
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
 
第四章 国会
第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第四十五条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第四十八条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
第四十九条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
第五十条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
第五十一条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
第五十二条 国会の常会は、毎年一回これを召集する。
第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
第五十五条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十六条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第五十七条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
第五十八条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十九条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
第六十条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算について、参議院衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十一条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
第六十二条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
第六十四条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
 
第五章 内閣
第六十五条 行政権は、内閣に属する。
第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
2 衆議院参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十八条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
第七十一条 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。
第七十四条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣連署することを必要とする。
第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
 
第六章 司法(抄)
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
 
第七章 財政
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
 
第八章 地方自治
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
 
第九章 改正
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
 
第十章 最高法規(抄)
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
 
第十一章 補則 (略)
 
(付記)
 『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』のタイトルの内、「国会を、取り戻そう!」の部分は、活字ではなく手書きとなっています。最初に手に取ってから、「どなたが書かれたのだろうか?」と思っていましたが、やはり「著者を代表して」永山茂樹先生が書かれたのでしょうか?