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平成最後の「全国戦没者追悼式」~安倍内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」を読む

 2018年8月15日配信(予定)のメルマガ金原No.3240を転載します。
 
平成最後の「全国戦没者追悼式」~安倍内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」を読む
 
日本経済新聞(WEB版)  2018/8/15 9:42 (2018/8/15 13:04更新)
平成最後の「終戦の日」 不戦の誓い刻んだ30年 
(抜粋引用開始)
 戦後73年目の8月15日は平成最後の「終戦の日」となった。天皇陛下は皇后さまとともに日本武道館(東京・千代田)で開かれた全国戦没者追悼式に出席。在位中最後の終戦の日のお言葉を述べられた。時代の変わり目、戦争体験者の減少と高齢化で記憶の継承は難しい課題となっている。追悼の祈りには不戦の誓いを次世代へつなぐという強い願いが込められた。
 正午の黙とうに続いて、陛下は「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」と振り返り、今年も先の大戦への「深い反省」に言及。世界の平和を祈念された。
(略)
 式典は午前11時50分すぎに始まり、国歌斉唱の後、安倍晋三首相は式辞で「今日の平和と繁栄が、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは片時たりとも忘れません」と哀悼の意を表明。「戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。歴史と謙虚に向き合い、この誓いを貫いてまいります」と話した。
 アジア諸国への加害責任については6年連続で言及しなかった。
(引用終わり)
 
 今年も巡ってきた8月15日、私がこれから書こうとすることは、上に引用した日本経済新聞WEB版執筆者と問題関心を共有するものであり、この記事をやや詳細に敷衍するものになるでしょう。
 
 巻末リストをご覧いただければお分かりのとおり、私は、2014年から4年連続で、8月15日には全国戦没者追悼式を取り上げ、天皇陛下「おことば」と安倍首相「式辞」を分析してきました。
 特に、一昨年は、2回目の首相就任以来貫徹されてきた“安倍3原則”を確認し、昨年は、践祚以来の29回に及ぶ天皇陛下「おことば」の全てを跡付けるという、いわば総仕上げをしてしまいましたので、おそらく今年も同じことを確認するのだろうという予想は十分についていたものの、さすがに「平成最後の全国戦没者追悼式」となれば、取り上げない訳にはいかないだろうと思います。
 
 まず、式典の公式動画はないか?と探してみたのですが、政府インターネットテレビには首相式辞しかアップされていませんでした。
 そこで、とりあえず、「THE PAGE(ザ・ページ)」チャンネルの動画を借用しておきます。
 
73回目の終戦の日 平成最後の「全国戦没者追悼式」(2018年8月15日)(1時間16分)
23分~ 安倍晋三内閣総理大臣 式辞
30分~ 天皇陛下 おことば
 
 以下に、今年の内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」を全文引用し、それぞれについて簡単なコメントを付しておきます。
 
平成30年8月15日
平成三十年 全国戦没者追悼式式辞
(引用開始)
 天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者のご遺族、各界代表、多数のご列席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行いたします。
 苛烈を極めた先の大戦において、祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃(たお)れた御霊(みたま)、戦禍に遭い、あるいは戦後、遠い異郷の地で亡くなった御霊、いまその御前(おんまえ)にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。
 今日の平和と繁栄が、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは片時たりとも忘れません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます。
 未(いま)だ帰還を果たしていない多くのご遺骨のことも、脳裡(のうり)から離れることはありません。一日も早くふるさとに戻られるよう、全力を尽くしてまいります。
 戦後、我が国は、平和を重んじる国として、ただ、ひたすらに歩んでまいりました。世界をより良い場とするため、力を尽くしてまいりました。
 戦争の惨禍を、二度と繰り返さない。歴史と謙虚に向き合い、どのような世にあっても、この決然たる誓いを貫いてまいります。争いの温床となる様々な課題に真摯に取り組み、万人が心豊かに暮らせる世の中を実現する、そのことに、不断の努力を重ねてまいります。今を生きる世代、明日を生きる世代のために、国の未来を切り拓いてまいります。
 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様にはご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。
     平成30年8月15日
(引用終わり)
 
[コメント]
 安倍首相「式辞」の特色について、日本経済新聞は「アジア諸国への加害責任については6年連続で言及しなかった。」というとても端的な表現でまとめており、まことにその通りなのですが、私は、その点も含め、“安倍3原則”として整理していますので、2016年8月15日のブログ「全国戦没者追悼式で今年も貫徹された“安倍3原則”(付・天皇陛下「おことば」を読む)」から引用しておきます。
 
(引用開始)
 結局、言っていることは2013年以来変わっていません。
 先に述べた安倍「式辞」の3大特徴、すなわち、
① アジア諸国民に対する加害についての反省と哀悼の意は絶対に表明しない。
② 「不戦の誓い」も述べない。
③ 戦没者の犠牲の上に“平和と繁栄”があることを強調しながら、“平和と繁栄”をもたらしたものが「国民のたゆまぬ努力」であるとは言わない。
については、完璧に昨年までの「式辞」を踏襲しています。今やこれを「安倍3原則」と名付けても良いでしょう。
(引用終わり)
 
 どうでしょうか、毎年措辞は少しずつ変更しつつ、基本スタンスは不変です。結局、6年目の今年も“安倍3原則”を変更する必要はありませんでした。このような「式辞」を来年も読み上げるつもりなのでしょうかね?
 
 それでは、次に天皇陛下「おことば」です。
 
全国戦没者追悼式での「おことば」
平成30年8月15日(水)(日本武道館
(引用開始)
 本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来既に73年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。
 戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
(引用終わり)
 
[コメント]
 昨年の8月15日、私は「全国戦没者追悼式における「おことば」(平成元年~29年)を通読して見えてくること」を書き、今上陛下による8月15日の「おことば」を全3期に分類できると指摘しました。その結論部分を再説します。
 
(引用開始)
第1期 平成元年~平成6年
 昭和天皇が「全国戦没者追悼式」で読み上げていた「おことば」が見つからないかと思って探しているのですが、まだ見つけられていません。けれども、即位直後からいきなり内容を変えるとは思いにくいので、この第1期の文章は、前代を基本的に踏襲しているような気がします(確言できませんけど)。
第2期 平成7年~平成26年
 村山富市内閣が成立して1年以上が経過した平成7年の「全国戦没者追悼式」で、初めて第3節に、「歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民とともに」という言葉が挿入され、以後、これが踏襲されています。
第3期 平成27年~平成29年
 政権に復帰した安倍晋三内閣と皇室の対立が外信でも(だからこそ?)報道される中、いわゆる安保法制審議中の平成27年の「おことば」には、異例とも言える表現が盛り込まれました。
 とりわけ特徴的なのは第2節であり、「終戦以来既に70年,戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。戦後という,この長い期間における国民の尊い歩みに思いを致すとき,感慨は誠に尽きることがありません。」に、今上天皇の平和への思いが凝縮していると見るべきでしょう。
 残念ながら、第2節におけるこの表現は、翌年からまた元に戻ってしまいましたが、同じく平成27年「おことば」から第3節に付加された「さきの大戦に対する深い反省と共に」という部分のうち、「深い反省とともに」は生き残り、平成28年、29年の「おことば」に引き継がれています。
(引用終わり)
 
 今年読み上げられた最後の「おことば」も、第3期の流れの中にあり、ほとんど昨年(平成29年)のものを踏襲しています。ただ、よく読み比べてみると、2箇所変更がありました。そのうち、「戦争の惨禍が再び繰り返されない」が「繰り返されぬ」となったのは単なる語調の問題ですが、第3節の冒頭に「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」を付加したのには、それなりの思いがあってのことだろうと思います。私は、平成27年8月15日(あの「安保法制」法案が国会で審議されているただ中でした)の異例の「おことば」で述べられ、翌年から繰り返されることのなかった「戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。」を(分かる者は分かってくれるだろうと)凝縮した表現が「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」なのではないか、と思います。
 安倍首相が常に言挙げする「今日の平和と繁栄が、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものである」というまやかしの論理に対峙する天皇陛下「おことば」の思想については、「「日本傷痍軍人会」最後の式典での天皇陛下「おことば」と安倍首相「祝辞」(付・ETV特集『解散・日本傷痍軍人会』2/1放送予告)」(2014年1月14日)というブログに詳しく書きましたので、ご参照いただけると幸いです。
 
 さて、今上天皇による全国戦没者追悼式「おことば」も、今年の30回目が最後となります。昨年は、退席時に動きが止まり(日テレニュース24参照)、
今年も、「おことば」を述べられた後、皇后陛下の助言によってようやく席に戻る様子が
見られるなど、年齢的な衰えは隠しようがなく、「退位やむなし」との思いを持たざるを得ません。
 来年4月の譲位により、内閣と皇室の関係に変化が訪れるかは定かではないし、私自身の皇室に向き合う気持ちが今と同様かについても正直自信がありません。
 ただ、「平成」という時代(30年間)を思い出す時、今上天皇の存在を抜きにした時代認識はあり得ないだろうとは思います。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/「全国戦没者追悼式」関連)
2014年1月14日
日本傷痍軍人会」最後の式典での天皇陛下「おことば」と安倍首相「祝辞」(付・ETV特集『解散・日本傷痍軍人会』2/1放送予告)
※「全国戦没者追悼式」ではありませんが、十分「関連」がありますので。
2014年8月15日
“コピペ”でなければ良いというものではない~全国戦没者追悼式での安倍晋三首相の式辞を聴いて
2014年8月18日
続 “コピペ”でなければ良いというものではない~“平和と繁栄”はいかにして築かれたのか
2015年8月15日
全国戦没者追悼式総理大臣「式辞」から安倍談話を読み返す(付・同追悼式での天皇陛下「おことば」について)
2016年8月15日
全国戦没者追悼式で今年も貫徹された“安倍3原則”(付・天皇陛下「おことば」を読む)
2017年8月15日
全国戦没者追悼式における「おことば」(平成元年~29年)を通読して見えてくること