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日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)を読む

 2018年8月27日配信(予定)のメルマガ金原No.3252を転載します。
 
日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)を読む
 
 昨日に続き、8月23日に日本弁護士連合会が公表したもう一つの災害関連の意見書をご紹介します。それが、「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」です。
 様々な大災害において問題となる「災害関連死」について、「国は、将来の災害関連死を減らすために、災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め、多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で、当該調査機関をして、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに、分析結果を匿名化して公表すべきである。」との意見をとりまとめ、内閣総理大臣内閣府特命担当大臣(防災)、総務大臣、復興大臣宛てに提出したものです。
 
 いつも書くことですが、日弁連「意見書」をこのブログで全文紹介(転載)するのは、まず何よりも自分自身の理解を深めるためです。日弁連・災害復興支援委員会、近弁連・災害対策及び避難者支援に関する連絡協議会、和歌山弁護士会・災害対策委員会などが行う研修を受講した後の復習の意味もあります(今回の「災害関連死」問題についても近畿弁護士会連合会の研修を中継で受講したことを思い出します)。
 そして、私がブログで紹介したのを機に、その「意見書」を読んでくださる方が1人でも2人でもおられれば、望外の幸せというものです。
 
災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書
(引用開始)
                      2018年(平成30年)8月23日
                              日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 国は,将来の災害関連死を減らすために,災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め,多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で,当該調査機関をして,死亡原因,死亡に至る経過,今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに,分析結果を匿名化して公表すべきである。
 
第2 意見の理由
1 過去の災害における災害関連死者数
 災害による死亡には,いわゆる直接死だけでなく,災害と因果関係のある災害関連死があり,両者に災害弔慰金が支給されている。多くの統計でも,直接死の分だけでなく,災害関連死者数を含めて災害による死者数とされている。
 阪神・淡路大震災では,兵庫県の死亡者総数6,402人のうち919人(約14.3%)が災害関連死であり,新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人(約76.4%)が災害関連死であった。
 東日本大震災では,死者19,630人のうち3,676人(うち岩手県466人,宮城県927人,福島県2,227人)(約18.7%)が災害関連死であり,熊本地震では,死者267人のうち212人(約79.4%)が災害関連死である(いずれも2018年4月現在)。
 また,平成30年7月豪雨においても,既に災害関連死が生じており,さらなる災害関連死の増加が懸念されているところである。
2 災害関連死に関する分析の現状
 災害対策の目標の一つは,災害による死を減らすことにある。直接死を減らすための防災対策はもちろん必要であるが,災害関連死者数がかなりの数に及んでおり,その中に,救えたはずの命も含まれていることに照らせば,災害関連死者数を減らすことが極めて重要である。
 将来の災害関連死者数を減らすためには,過去の検証が必要である。災害関連死の審査は,全国の地方自治体で行われているところ,全国に散らばっている事例を一か所に集め,十分に分析する必要があることは明らかである。これができるのは国だけである。
 実際に政府は,東日本大震災における災害関連死について,2012年に「震災関連死に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開き,同年8月21日に「東日本大震災における震災関連死に関する報告」(以下「報告書」という。)をまとめている。しかし,この検討会は,同年3月末時点で明らかになっていた1,632人(うち岩手県193人,宮城県636人,福島県761人)の関連死のうち1,263件を対象に3回開かれたにすぎず十分な分析がなされてはいない。その後,2013年3月29日に,福島県において発災から1年以上経過した後に亡くなった35件を対象とする調査を行っているものの,これ以上の検証はなされておらず,今後行われる予定もない。
 災害関連死の事例を分析するに当たっては,「どうすればその命を救うことができたのか」という視点が最も重要である。救えたはずの命が失われてしまったのはなぜか,どのような対策が採られていればその死を防ぐことができていたのかが,具体的に明らかにされて初めて,悲劇の繰り返しを防ぐことができるのである。
 報告書では,収集された事例を,死亡の原因や死亡時の生活環境といった事情で分類して抽象化した上で,将来の課題を抽出し,今後の対応が検討されている。しかし,「どうすればその命を救うことができたのか」という視点からすると,報告書における課題の抽出や今後の対応の検討は,具体性を欠き,不十分と言わざるを得ない。
 例えば,報告書では,死亡の原因の分類項目の一つとして,「地震津波のストレスによる肉体的・精神的負担」が挙げられている。「地震津波のストレス」といっても,その内容は,個々の被災者の置かれる状況によって千差万別であり,均一化できるものではない。「どうすればその命を救うことができたのか」という視点からすれば,個々の被災者が抱えていたストレスの一つ一つと向き合い,そのストレスを和らげるために,若しくは,そのストレスを死に結びつけないために,いかなる対策を採るべきだったのかが分析,検討されなければ,無意味である。
 災害関連死の事例は,被災後,様々な努力の果てに失われてしまった個々の貴重な命の軌跡である。この貴重な教訓を十分に活かし,将来の災害関連死を一件でも多く減らすことは残された我々の使命である。上記の2回の報告だけでは不十分である。
 東日本大震災から7年が経ち,熊本地震から2年が経った今こそ,徹底した検証がなされなければならない。
3 事例の集積,分析,公表等が重要である理由
 国が,災害関連死の事例を集め,死亡原因,死亡に至る経過等を分析することが重要である理由は,上記にとどまらず,以下の視点からも重要であるから,国は,過去の災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め,十分に分析するとともに,匿名化して公表すべきである。
(1) 防災・減災対策,被災者支援施策の見直しのため
 災害関連死の事例の一つ一つは,命が失われた軌跡である。その中には現代科学では救えない命もあれば,救えたはずの命も含まれている。これらを漏れなく集め,分析してこそ,現在の防災・減災対策の欠点や,被災者支援施策の不十分な点を見いだすことができる。
 報告書は,上記のとおり,1,263件の事例を対象とし,政府が3回だけ行った検討会によるものではあるが,報告書でさえ,①災害時要援護者対策,②安全で確実な避難,③広域避難,④避難所等における生活,⑤救命・医療活動,⑥被災者の心のケアを含めた健康の確保,⑦緊急物資の提供,⑧被災地への物資の円滑な供給,ライフライン等の迅速な復旧,⑨原子力発電所の事故に係る住民避難の在り方等という9つの課題を見いだしている。
 より効果的な防災・減災対策,被災者支援施策の見直しを行うためには,その後の関連死も含めて,より具体的に,より徹底した検証が行われるべきである。
 具体的かつ徹底した検証を行うために,国は,多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置すべきである(なお,調査機関の構成については,医療事故調査制度における医療事故調査・支援センターが参考になる)。
 当該調査機関の構成員としては,防災や災害復興支援分野の学術研究者,被災者支援や災害対応に携わった経験を有する,医師や看護師等の医療従事者,弁護士,カウンセラー,社会福祉士介護福祉士,民間団体職員(NPO法人),行政職員等が考えられる。
 当該調査機関において,地方自治体から提供を受けた災害関連死の認定事例の資料を基に,その死因や,災害が及ぼした影響の種類,災害後の生活環境や生活状況,医療機関の受診の有無や治療状況,被災時の年齢や死亡時期,既往症の有無やその種類等の事実関係について,どうすればその命を救うことができたかという観点から,事例一つ一つを分析することで,実効的な検証が可能となる。また,当該調査機関が,その分析結果を,項目や条件を設定して分類した上で,将来,同様の悲劇を生まないよう,行政機関や医療機関等の関係各機関に向けた運用の改善の提言を行っていくことも考えられる。
 なお,個人情報保護の観点からしても,全国の地方自治体が保有している災害関連死の資料を国に提供することは,解釈運用上可能と考えられているが,明確にするために,立法的措置も検討すべきである。
 その上で,事例の公表も行うべきである。上記の報告書では具体的な事例は公表されず,原因区分別の59の抽象的な例が公表されるにとどまっている。もちろん,死者や遺族のプライバシーに配慮し,十分に匿名化する必要はあるが,余りにも公表の範囲が限定的にすぎる。
 匿名化した具体的な事例を検証した結果をより多く公表してこそ,大学や民間を含め,医療,福祉,土木,法律等様々な分野からの多角的な分析が可能となり,より効果的な防災・減災対策や被災者支援施策の見直しが図られるであろう。
(2) 遺族への制度告知のため
 亡くなられた方や遺族への弔意を漏れなく示し,生活再建の資ともなる災害弔慰金をあまねく支給することはもちろん重要である。遺族に適切な申請を促す制度告知は更にされなければならない。
 しかし,災害関連死の事例を漏れなく把握することの重要性は,これにとどまらない。災害関連死の事例の一つ一つには,貴重な教訓が多数詰まっているところ,将来の災害関連死を一件でも多く減らすためには,災害関連死の事例を漏れなく集め,より多くの教訓を得る必要がある。
 災害関連死の事例は,一般に遺族の申請を端緒に始まっていることに照らせば,災害関連死の事例を漏れなく集めるためには,更なる広報が必要である。当連合会は,2012年5月11日付け「災害関連死に関する意見書」及び2013年9月18日付け「震災関連死の審査に関する意見書」において,災害弔慰金と災害関連死の積極的かつ分かりやすい広報の実施を提言したが,その後,十分な広報がなされたとは言い難い。
 遺族への分かりやすい広報には,災害関連死の具体例が必要である。すなわち,何が災害関連死であるかは一般の人にとっては必ずしも明確ではないところ,遺族に対し,災害関連死に該当した具体例を示し,自分の家族の死は災害関連死ではないかという問題意識を生じさせて初めて申請につなげることが可能となるのである。
 よって,具体例を示した広報のためにも,事例の集積,分析,公表等が必要である。
(3) 適正な審査を担保するため
 当連合会は,上記二つの意見書において,災害関連死の審査体制と認定基準について提言したが,その後,審査体制の見直しや,適切な審査が行われたとは言い難い状況にあり,将来の災害でも同じ過ちが繰り返されるおそれが大きいと言わざるを得ない。
 過酷な環境に置かれている遺族にとって,亡くなった家族が災害による死亡と認められるか否かは,その心情とその後の復興の意欲に大きな影響を与えるところ,実際は災害関連死であるにもかかわらず,そうではないという認定が自治体から下されたときのショックは想像を絶するものがある。将来の震災における遺族にまで,同じような苦しみを生じさせることがあってはならない。
 発災後,過酷な環境に置かれるのは被災地の自治体とて同じである。震災により被災地の自治体は余りに多くの業務を抱えるところ,災害関連死の審査もその一つである。当連合会が「震災関連死の審査に関する意見書」において提言したように,災害関連死の審査は,復興計画の策定等と同様,県等の自治体に委託することなく自らの自治体において行う必要性の高い事務であるところ,明確な審査基準も,参考にすべき前例も十分にない災害関連死の審査という事務は,被災地の自治体に困難を強いているのが実情である。
 将来の災害において同じ過ちを繰り返さないためには,国が設置した調査機関によって分析,分類された事例を,災害関連死に関する裁判例と合わせてデータベース化して,審査の際に検索,参照できるようシステム化すべきである。
 明確な認定基準がない中で,自治体ごとの審査のばらつきを減らし,適正な審査を担保するためには,審査に当たって過去の事例を参照できる仕組みを設けることが極めて重要である。関連する専門家や,審査委員経験者の声などを踏まえ,審査の際に有効に活用できるデータベースを速やかに構築すべきである。
                                                                            以上
 
(参考資料)
東日本大震災における震災関連死に関する報告(平成24年8月21日 震災関連死に関する検討会(復興庁))
災害関連死に関する意見書(2012年5月11日 日本弁護士連合会)
震災関連死の審査に関する意見書(2013年9月18日 日本弁護士連合会)