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憲法尊重擁護義務を土足で踏みにじった安倍晋三内閣総理大臣の訓示(第52回自衛隊高級幹部会同にて)

 2018年9月5日配信(予定)のメルマガ金原No.3261を転載します。
 
憲法尊重擁護義務を土足で踏みにじった安倍晋三内閣総理大臣の訓示(第52回自衛隊高級幹部会同にて)
 
 昨日、西日本を襲った台風21号で被害に遭われた皆さまにお見舞い申し上げます。
 私の住む和歌山市でも、観測史上最も強い最大瞬間風速57.4m/秒を記録しました。私は、昨日は事務所を臨時休業とし(和歌山地裁も前日のうちに期日を変更)、自宅で台風に備えたのですが、秒速50mを超えたかどうかはともかく、建物自体が風でぐらぐら揺すぶられる感覚というのは、そうそう経験するものではありません。
 おかげで、屋根の一部とカーポートが破損し、ケーブルテレビ会社と契約しているインターネットが接続できないという不具合も生じていますが、幸い、私の住むところでは、停電も一瞬だけですぐに回復し、断水もしておらず、ガスはもともとプロパンなので、日常生活に不自由を来していないのが幸いです。
 FB友達の投稿などを見ると、和歌山市内では、今日になっても停電が続く世帯も少なくないようで、関西電力のホームページによると、5日の15時現在で、和歌山県下で未復旧(停電中)の家は、約6万3000軒(兵庫や京都より多いし奈良や滋賀とは1桁違う)とか。
 やはり、それだけ強風が吹き荒れたということなのでしょう。
 
 このような大きな災害に見舞われなければ、もう少しは注目を浴びたかもしれないニュースがあったのにお気づきの方はおられたでしょうか?
 
毎日新聞 2018年9月3日11時31分(最終更新9月3日15時10分)
安倍首相 自衛隊幹部を前に憲法改正に意欲
(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相は3日、防衛省で開かれた自衛隊高級幹部会同で訓示し、「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは、今を生きる政治家の責任だ。私はその責任をしっかり果たしていく決意だ」と述べた。憲法自衛隊の存在を明記する改正に取り組む考えを改めて示した形だ。
 会同は毎年行われており、今回は自衛隊幹部ら180人が出席した。首相は、自衛隊西日本豪雨への対応などをたたえた上で「自衛隊員の歩みを振り返ると、心ない批判にさらされ、悔しい思いをしたこともあったかもしれない。自衛隊の最高指揮官、同じ時代を生きた政治家として、じくじたる思いだ」と述べた。具体的には言及しなかったが、憲法改正への意欲をにじませた。
(略)
(引用終わり)
 
産経ニュース 2018.9.3 21:36
憲法改正】共産・小池晃書記局長、首相の自衛隊訓示を批判 「憲法尊重擁護義務を踏みにじる暴言」
(引用開始)
 共産党小池晃書記局長は3日の記者会見で、安倍晋三首相が自衛隊高級幹部会同で「全ての自衛隊員が強い誇りをもって任務を全うできる環境を整える」と訓示したことに関し「憲法9条自衛隊を明記する自らの主張を述べた。憲法尊重擁護義務を土足で踏みにじる暴言だ」と批判した。立憲民主党枝野幸男代表は同日の会見で「自衛隊員が誇りを持てるように環境を整えるのは全く同感だ。ことさら憲法につなげる方が不自然だ」と語った。
(引用終わり)
 
 実際、「しんぶん赤旗」は別として、マスメディアで、3日の安倍首相「訓示」が、日本国憲法99条の憲法尊重擁護義務に違反すると指摘したところは(私が探したところでは)見当たらず、わずかに小池晃共産党書記局長の記者会見における発言を紹介したのは、産経と東京新聞共同通信の記事を配信した地方紙くらいでしたかね。
 
 なお、産経が紹介した枝野幸男立憲民主党代表のコメント(これも記者会見での発言)は、要約の仕方がまずいのか、ほぼ意味が通じないと思いますので、会見動画をご紹介しておきます。
 この7分55秒~が産経が紹介した部分ですが、結論として「お答えを差し控えるべきだと思います。」と言っていますね。
 
9月3日 #枝野定例会見08(22分)
 
 それから、明確に安倍首相の憲法尊重擁護義務違反を批判した、9月3日の小池晃日本共産党書記局長の定例会見の動画もご紹介しておきます。記事で引用されているのは、冒頭から2分30秒ころまでの部分です。
 
大企業内部留保経済のゆがみ進行(18分)
 
 さて、数少ないながら、毎日や産経の記事を読み、小池書記局長や枝野代表の会見動画を確認したら、当然、安倍晋三首相による自衛隊高級幹部会同での「訓示」そのものを読んでみたくなりますよね。批判するにせよ、賞賛するにせよ(私が賞賛するはずがありませんが)、無視するにせよ、いずれにしても、報道が伝えるところを鵜呑みにせず、可能な限りの裏付けを取るべきは当然です。実際、枝野代表は、会見までの間に「訓示」を読んだ上で、「無視する」ことに決めた可能性があります。
 
 もっとも、その裏付けが困難を極めることもあるのですが、首相が公式の場で行った訓示ですから、首相官邸ホームページの「総理の演説・記者会見など」に掲載されているのではないか?というのが、まず真っ先に当たりをつけるべき先です。
 で、どうだったかと言うと、ありました。しかも、動画付きで。
 全文は引用先で読んでいただくとして、日本国憲法99条による公務員の憲法尊重擁護義務との関連で注目すべき部分のみ引用します。
 
平成30年9月3日
第52回自衛隊高級幹部会同 安倍内閣総理大臣訓示
(抜粋引用開始)
 本日、我が国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するに当たり、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。
(略)
 つねに国民の心を自己の心とし、一身の利害を越えて公につくす。50年以上受け継がれる自衛官の心構えの精神を実践し、国民の負託に全力で応える諸君を、私は大変頼もしく誇りに思います。
 国民のために命をかける。これは全国25万人の自衛隊員一人一人が自分の家族に胸を張るべき気高き仕事であり、自分の子や孫たちにも誇るべき崇高な任務であります。
 幹部諸君。それにもかかわらず、長きにわたる諸君の自衛隊員としての歩みを振り返るとき、時には心無い批判にさらされたこともあったと思います。悔しい思いをしたこともあったかもしれない。自衛隊の最高指揮官、そして同じ時代を生きた政治家として、忸怩(じくじ)たる思いです。
 全ての自衛隊隊員が、強い誇りを持って任務を全うできる環境を整える。これは、今を生きる政治家の責任であります。私はその責任をしっかり果たしていく決意です。
(略)
 幹部諸君。国民の命と平和な暮らしを守るという重責をかみしめ、気骨を持ち、前例にとらわれることなく絶えず自らを変革し続けることで、この難局に立ち向かってください。私と日本国民は、常に、諸君を始め全国25万人の自衛隊と共にあります。その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、ますます精励されることを切に望み、私の訓示といたします。
                          平成30年9月3日
                          自衛隊最高指揮官
                     内閣総理大臣 安倍 晋三 
(引用終わり)
 
 さて、小池晃書記局長が「憲法尊重擁護義務を土足で踏みにじる暴言である」と批判したその前提をおさらいすると、以下のとおりかと思います。
 
前提1 9月3日の自衛隊高級幹部会同における安倍首相の訓示の内、上記引用部分において、「私はその責任をしっかり果たしていく決意です。」とあるのは、安倍首相自身による昨年5月3日のいわゆる「安倍改憲メッセージ」をきっかけとして、自民党憲法改正推進本部がとりまとめた改憲4項目のうちのいわゆる9条1項、2項を存置して自衛隊を明記するという「憲法改正を実現する決意です。」という意味であることは、訓示を聴いていた高級幹部自衛官はもとより、誰にでもそうだと分かるものである(そうとしか解釈のしようがない)。
 
前提2 日本国憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」という規定は、内閣総理大臣が、その立場において(その職務を行うにあたって)、憲法を改正すべきという意見を述べることを禁止している。
 
 小池晃氏は、以上の2つの前提は優に満たされており、許しがたい発言であると批判したのであり、枝野代表は、この首相発言にこだわって批判しても、得るものはないと見切ったということではないかと思います。
 
 それでは、私自身の考えはどうかといえば、もちろん、小池書記局長の意見に同意します。
 
 まず、前提1についてですが、ここで、昨年5月3日、「第19回公開憲法フォーラム」(主催:民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会)に送った安倍晋三自民党総裁のビデオメッセージを振り返っておきましょう。
 
憲法9条に第三項を追加しては…?安倍晋三自民党総裁メッセージ(9分41秒)
3分12秒~「例えば、憲法9条です。今日、災害救助を含め、命懸けで、24時間、365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊違憲とする議論が、今なお存在しています。「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です。
 私は、少なくとも、私たちの世代の内に、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊違憲かもしれない」などの議論が生まれる余地をなくすべきである、と考えます。
 もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと、堅持していかなければなりません。そこで、「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という考え方、これは、国民的な議論に値するだろう、と思います。」
 
 これと、「訓示」を読み比べてみれば、これが「同一のことを言っている」という解釈のどこにも不自然、不合理な点はないと思いますけどね。
 
 あと、前提2について言えば、安倍内閣は、昨年の1月及び2月、民進党(当時)の逢坂誠二衆議院議員質問主意書に対し、「政府としては、憲法第九十九条は、日本国憲法最高法規であることに鑑み、国務大臣その他の公務員は、憲法の規定を遵守するとともに、その完全な実施に努力しなければならない趣旨を定めたものであって、憲法の定める改正手続による憲法改正について検討し、あるいは主張することを禁止する趣旨のものではないと考えている。」と明言していることは踏まえておくべきでしょう(安倍内閣は「憲法99条は内閣総理大臣憲法改正を主張することを禁止する趣旨のものではない」と断定した/2017年2月18日)。
 
 しかし、今回の発言は自衛隊高級幹部会同での「訓示」ですからね。国会で改憲議論を促す、というシチュエーションとは相当に異なっています。
 第一、この「訓示」を聞かされた高級幹部自衛官は、みんなあの「服務の宣誓」を行って自衛隊員になったはずなのですから。安倍首相がそのことに思いを致していたとは到底思えませんけど。
 
自衛隊法施行規則(昭和二十九年総理府令第四十号)
 (一般の服務の宣誓)
第三十九条 隊員(自衛官候補生、学生、生徒、予備自衛官等及び非常勤の隊員(法第四十四条の五第一項に規定する短時間勤務の官職を占める隊員を除く。第四十六条において同じ。)を除く。以下この条において同じ。)となつた者は、次の宣誓文を記載した宣誓書に署名押印して服務の宣誓を行わなければならない。自衛官候補生、学生、生徒、予備自衛官等又は非常勤の隊員が隊員となつたとき(法第七十条第三項又は第七十五条の四第三項の規定により予備自衛官又は即応予備自衛官自衛官になつたときを除く。)も同様とする。
  宣 誓
 私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
 
 以上、いずれの観点からしても、今回の安倍晋三首相による「訓示」は、憲法99条違反でしょう。
 もっとも、安倍首相やスピーチライターが、ついうっかりしていた、というはずはないでしょうから、これは確信犯と思わざるを得ません。
 憲法53条に基づく臨時会召集決定を請求されながら、任期中、2度にわたって無視し続けた内閣総理大臣ですから、99条など眼中にないのでしょう。枝野幸男立憲民主党代表が「お答えを差し控えるべきだと思います。」として、事実上スルーした気持ちも分からないではありません。
 けれども、私としては、この問題については、小池晃日本共産党書記局長の態度の方を支持すべきだと思います。
 「憲法を守る気のない者に憲法改正を語る資格はない」という当たり前のことは、たとえ相手が聞く耳を持たないとしても、言い続けるしかないでしょう。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/自衛隊員の服務宣誓関連)
2013年8月29日
自衛隊員等の「服務宣誓」と日本国憲法
2014年7月3日
今あらためて考える 自衛隊員の「服務宣誓」
2015年5月31日
もう一度問う 自衛隊員の「服務の宣誓」~宣誓をやり直さねばおかしい
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/立憲主義憲法尊重擁護義務)
2012年5月3日(2013年1月26日に再配信)
憲法記念日に考える(立憲主義ということ) 前編
2012年5月3日(2013年1月26日に再配信)
憲法記念日に考える(立憲主義ということ) 前編
2013年4月3日
日本国憲法「第10章 最高法規」を読む 前編
2013年4月3日
日本国憲法「第10章 最高法規」を読む 後編
2014年9月27日
地方議会の「国会に憲法改正の早期実現を求める意見書」は憲法尊重擁護義務に違反する
2017年2月18日
安倍内閣は「憲法99条は内閣総理大臣憲法改正を主張することを禁止する趣旨のものではない」と断定した