2018年9月17日配信(予定)のメルマガ金原No.3273を転載します。
もっとも、私がドキュメンタリ―映像を初めて意識したのは、2011年の福島第一原発事故の直後でしたから、まだわずか7年余り前のことです。フクイチの過酷事故の進展に固唾をのんで注目した人は(私もその1人でした)、その何十年も前から、原発の危険性を訴え続けてきた科学者グループが京大原子炉実験所におり、「熊取6人組(その後1人逝去されて5人組)」と称されているということを知りました。そして、この熊取5人組をフューチャーした勇気ある番組が2008年に放送されたこと、その直後、関西電力が放送局に強硬に抗議を申し入れたらしいことなどが、ネット情報として流され、多くの人の知るところとなりました。
3.11からしばらくの間は、どこからともなく出回った画質の良くない録画をネットで視聴するしかありませんでしたが、それを見かねたのか(?)、2012年の元旦に高画質版をYouTubeにアップしてくれた人があり、どこからも著作権侵害通告がなされないからだと思いますが、いまだに視聴できます。もっとも、累計視聴回数がようやく4万5000弱というのは少な過ぎないか?と思いますけどね。
これまでも、私のブログで再々、興味深い番組を事前告知させてもらってきました。
今日も、今月30日(日)深夜に放送予定の番組をお知らせします。
毎日放送 2018年9月31日(月)午前0時50分~1時50分
MBSドキュメンタリ―映像’18
薬草のタイムカプセル~奈良・森野旧薬園の四季(仮)
(番組紹介から引用開始)
奈良・大宇陀のかくれ里に、誰にも教えたくない場所がある。それが、日本最古の市立薬草園である「森野旧薬園」だ。カタクリ、シャクヤク、トウキ、ボウフウなど、日本の漢方薬の材料として使われてきた数々の薬草が、四季折々に花や実をつけ、来園者の目を楽しませてくれる。「吉野葛」製造を本業とする森野家は、江戸時代に当時の当主が幕府から貰い受けた種苗を自宅裏山に植え付けて以来、およそ300年にわたって、この薬草園を守り続けてきた。現在、園内の薬草から実際に薬を作ってはいないが、ここにしか生息しない貴重な品種もあり、大手製薬会社からの見学者も多い。まさに「薬草のタイムカプセル」のような場所だ。
番組では、森野旧薬園でおよそ一年に及ぶロケを敢行。美しい映像で、その魅力をたっぷりと伝える。
(引用終わり)
原発問題とも平和問題とも関係のない「美しい映像」に興味をひかれたことはもちろんですが、私がこの番組をブログで取り上げようと思ったもう1つのきっかけは、「森野旧薬園」を運営する森野家(というよりは株式会社森野吉野葛本舗でしょうが)が「吉野葛」製造を本業とする、というところに目をひかれたことにあります。
それはそれとして、私が「吉野葛」という言葉に反応したのは、私の最も好きな谷崎潤一郎作品の表題だったからです。1931年(昭和6年)の「中央公論」に2回分載された中編小説『吉野葛』は、エッセイかと見紛うようなスタイルで書かれ、しかも作品の前半と後半で主題が入れ替わるような赴きもあり、評価が別れる作品らしいのですが、私は岩波文庫で初めてこの作品を読んだ時から、強く惹き付けられるものがありました。
ストーリーとしては、語り手(一高からおそらく東京帝大に進み、今は作家らしい)が、後南朝の史実に材を採った歴史小説の取材のため、吉野に親戚がいるという一高時代の友人・津村に案内してもらい、吉野を訪れるまでが前半。そして、語り手に同行した津村の、吉野に住む親戚の女性を嫁に迎えることを決意するまでのいきさつが後半に語られるのですが、特に後半に顕著になる「母性思慕」は、谷崎潤一郎の生涯を貫くモチーフであり、それが衒いなく素直に表出されているところに惹かれたのかと思います。
ここで「幸い」と書いたのは、今年、TPP11の関連法が成立し、著作権保護期間の50年から70年への延長が現実のものとなったことをさしています。
(参考サイト)
森野旧薬園(森野吉野葛本舗ホームページ)
日本経済新聞 2015/5/22 6:00
国栖の里観光協会