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日本弁護士連合会「「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに対する意見書」(2018年9月7日)を読む

 2018年9月27日配信(予定)のメルマガ金原No.3283を転載します。
 
日本弁護士連合会「「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに対する意見書」(2018年9月7日)を読む
 
  政府が募集するパブリックコメントに、日本弁護士連合会が意見を送るということはよくあることですが、いかに会員とはいえ、その一々をフォローしている訳ではありません。
 今日ご紹介しようとする「「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに対する意見書」も、その表題のとおり、内閣府原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会による「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」についてのパブコメ(締切9月10日)に提出するために作成された意見書ですが、私自身、3週間近く経ってからようやくこの意見書の存在に気がつきました(そもそもパブコメの募集自体に気がついていませんでした)。
 うかつなことですが、そもそもこの議論というのは、「次の原子力事故にどう備えるか?」というものですから、「直ちに全基廃炉」を主張している者からすると、「廃炉すれば大きな事故は起きないではないか」と言いたくなり、どうも気合いを入れて議論する意欲が湧いてこないという面が(私なども)あるのかもしれません。
 
 けれども、本来、原子力事故の被害者に対する損害賠償制度の「あるべき姿」を法定することにより、全ての原発事業者やその関連事業者が、「とてもそんなリスクは負えない」として、原発事業から撤退するように追い込む(もちろん、推進派はそうはさせまいとするのですが)という戦略も重要でしょう。
 例えば、以下の日弁連意見書の第6項は、「原子力事業に起因する損害賠償コストは,原子力事業者とともに原子力機器メーカーも製造物責任を負担すべきであり,原子力機器メーカーについても,製造物責任法の適用を除外せず,製造物責任を負わせる方向での改正がなされるべきである。」と提言しています。
 これは、原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)が「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、(略)製造物責任法(平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。」(第4条3項)としていることを改めるべきとの主張です。なぜ、原子力事故による損害賠償責任が原子力事業者(東電、関電など)に限定され、東芝や日立や三菱電機製造物責任が免除されるのかについて、「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」は、以下のように説明しています。
 
(引用開始)
 現行の原賠法第4条において、原子力損害に係る賠償責任は原子力事業者に責任集中され、また、原子力損害については、製造物責任法(平成6年法律第85号)の規定は適用しないこととされている。
 原子力事業者への責任集中については、機器等の資機材供給を行う事業者(以下「関連事業者」という。)を免責にすることにより資機材供給等の取引を容易にし、資機材の安定供給に資するものである。また、被害者保護の観点からは、原子力事業者に対して損害賠償措置を義務付けるなどの措置により、確実な賠償の実施を図ることが重要である。そのためには、原子力事業者に責任集中することで損害賠償措置に係る保険契約に関して保険の引受能力を最大化することが可能となることから、一定の合理性があると認められる。さらに、被害者にとっては、損害賠償措置が義務付けられている原子力事業者が損害賠償請求の相手方となることが明確になるという利点があり、被害者の迅速な救済にも資すると考えられる。
(引用終わり)
 
 どうでしょうか?納得できましたか?できる訳ないと思いますけど。私としても、別に日本を代表する東芝、日立、三菱電機などの企業が破綻して欲しいなどとは思っておらず、全くその逆です。これらの企業の経営者が、冷静にリスク計算をした上で、原発事業からの撤退という勇気ある決断をし、企業を破綻から救い、従業員や株主の利益を擁護して欲しいと心から願っているのです(東芝はもう手遅れかもしれませんが)。
 
 なお、付言すると、本来この日弁連意見書は、パブコメの対象となった「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」についての意見ですから、まずこの「見直しについて(案)」に目を通した上で、それから日弁連意見書を読んでいただくのが順序ではあるのです。
 けれども、私もやってみましたが、これは時間がかかります。まず、日弁連意見書を通読し(実質9ページです)、気になった点は「見直しについて(案)」の該当箇所を参照するということでもよいかと思います。
 
 それでは、以下に、日本弁護士連合会「「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに対する意見書」全文を転載します。
 
(引用開始)
        「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに対する意見書
 
                                                  2018年(平成30年)9月7日
                                                                  日本弁護士連合会
 
 内閣府原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会において,原子力損害賠償制度の在り方についての検討が行われていたところ,2018年8月10日に「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」(以下「見直し案」という。)が公表され,パブリックコメントに付されている。
 当連合会は,2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」等で意見を公表しており,これまで公表した意見等を踏まえて,見直し案について意見を述べる。
 
1 「1.総論(1)原子力損害賠償制度の見直しに当たっての基本的考え方等①基本的考え方」(3頁)
(1) 意見の趣旨
 「今後発生し得る原子力事故に適切に備えるためには,東電福島原発事故の経験等を踏まえ,被害者保護に万全を期す必要があるため,原子力損害と認められる損害が填補されるべく被害者が適切に賠償を受けられる(以下「適切な賠償」という。)のための制度設計の検討が必要である」としているが,被害者の損害の完全賠償がなされるべきことを明確に記載すべきである。
(2) 意見の理由
 原発事故による被害は,東電福島原発事故で明らかになったとおり,現在及び将来の生命・健康への侵害はもとより,移住を余儀なくされ,住居や生業など生活基盤を失うほか,家族や近隣との協働関係が分断され,帰還や就労,産業の回復になお不透明な状況をもたらすなど多岐にわたる,深刻かつ継続的なものである。よって,原子力損害賠償制度においては,こうした多面的な被害者の損害の完全賠償がなされるべきことを明確にすべきである(2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」等)。
 
2 「1.総論(1)原子力損害賠償制度の見直しに当たっての基本的考え方等③原子力利用の基本的枠組み及びエネルギー政策における原子力の位置付け等」(4頁)
(1) 意見の趣旨
 パリ協定の下で,原子力依存から脱却を図るエネルギー政策に転換すべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案は,「原賠制度は・・・中略・・・,原子力基本法及びエネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画に定められた原子力政策と整合したものとする必要があるため,原子力政策の位置付けや電力システム改革についても留意する必要がある。」とする。
 その上で,エネルギーの需給に関する施策についての基本的な方針は,エネルギー基本計画(平成30年7月3日閣議決定)に定められているとして,第5次エネルギー基本計画において,原子力については,「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源であると位置付けられている」等とする。
 しかしながら,原子力規制委員会が策定した実用発電用原子炉に係る新規制基準では原子力発電の安全は確保されず,原発の新増設はもとより,再稼働への国民の支持は得られておらず,「もんじゅ」廃止に象徴されるように我が国の原子力政策は破たんしているものである。原子力を重要なベースロード電源と位置付けることにはおよそ現実性がない(2018年6月15日付け「パリ協定と整合したエネルギー計画の策定を求める意見書」)。
 
3 「1.総論(2)原子力損害賠償制度の目的等①目的」(5頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)1条の「原子力事業の健全な発達」の文言は削除すべきである。
(2) 意見の理由
 1961年(昭和36年)の原賠法制定時においては, 日本の原子力発電事業は立ち上げの黎明期にあり,「原子力事業の健全な発達」の文言は原子力発電事業を保護・育成して推進するとの当時の政策が反映されたものである。しかしながら,制定から半世紀余りを経て,20の原子力発電事業所に計54基の発電用原子力炉が建設され,世界に輸出が企画されている今日にあっては,原子力発電事業は成熟産業というべきである。そもそも,原賠法は原子力事故による損害の賠償に関する法律である。事業の「健全な発達」は事業活動の普遍的課題であり,損害の完全賠償がその前提である。これまでの専門部会における議論では,有限責任論の論拠の一つとされたのが,原賠法の目的に,「被害者の保護」と並んで「原子力事業の健全な発達」が掲げられていることにあった。
 原賠法の適用場面において「被害者の保護」に欠けることのないよう,「原子力事業者の健全な発達」を削除し,原賠法の目的を,もっぱら「被害者の保護」とすべきである。
 なお,見直し案では,「原子力事業者が適切な賠償を行い,被害者の保護を確実に行うためには,原子力事業者の予見可能性の確保と事業の円滑な運営にも留意する必要がある」とするが,当連合会は,原子力事業からの脱却を強く求めてきたところである。原子力事業者において損害賠償を確実に行うための措置が採られているべきことはいうまでもない。原賠法の目的として,「原子力事業の健全な発達」はもとより「原子力事業の円滑な運営」も,もはや考慮に入れる必要はなく,「原子力事業の円滑な運営」を掲げるべきではなく「原子力事業の健全な発達」という文言は,削除されるべきものである(2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」)。
 
4 「2.原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担(1)原子力損害賠償制度における国の役割」(6頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力事業者による損害賠償の実施に困難がある場合においては,原賠法16条(国の措置)において,国は,原子力事故の収束,被害者に対する損害賠償の立替払等,緊急の対応を行うことができること,及びこれらにかかる費用を原子力事業者に求償することができることを明記すべきである。
 また,原子力事故による損害賠償額が原子力事業者の支払能力を超える場合において,原子力損害賠償・廃炉等支援機構法を活用するほか,原子力事業者の法的整理を必要とする場合に備えて,原子力事故被害者の損害の完全・優先弁済,原子力事故の収束・廃炉にかかる作業の確保等を含む新たな制度を整備すべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案における,国は,「万全の被害者の救済や迅速かつ適切な賠償がなされるようにすることが重要である。」との指摘は適正である。また,東電福島原発事故に関する損害賠償請求では,国家賠償法に基づく国の責任を認める裁判例が多数出されているが,国が原子力事故について国家賠償法上の責任を負うことはいうまでもない。
 原子力損害は甚大であり,原子力事業者の資力では被害弁償を全うできない場合に備えて,事業者に損害賠償措置を講じさせるとともに,損害が措置額を超え,原子力事業者の負担能力を超えると認められる場合には,国は,原賠法16条において,国家賠償法上の責任が認められない場合であっても,必要な援助を行うものとすると定めている。しかしながら,被害者保護という観点からも,事業者のモラルハザード防止という観点からも,現行法の規定は十分とはいえない。そこで,無限責任を負う原子力事業者による損害賠償責任の履行に支障が生じたとき,被害者の損害賠償に欠けることがないよう,これまで少
額に過ぎた賠償措置額を十分な措置額に引き上げるべきである。また,同条に定める援助の具体化として,緊急対応時に,国において被害者保護のために,損害の立替払いを行うことや,事故収束に直接的に関与することができるようにする必要がある。さらに,モラルハザード防止の観点から,原子力事業者にその費用を求償する仕組みを盛り込んでおく必要がある(2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」)。
 
5 「2.原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担(2)原子力事業者の無過失責任」(7頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力事業者の無過失責任を維持することは当然である。
(2) 意見の理由
 見直し案において,原子力事業者の無過失責任にかかる現行規定を維持することが妥当とする点は,原子力利用に内在する危険の甚大さ,被害者における故意・過失の立証が極めて困難であること等に照らせば,無過失損害賠償責任を維持すべきであることはいうまでもない(2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」)。
 
6 「2.原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担(3)原子力事業者への責任集中及び求償権の制限」(7頁)
(1) 意見の趣旨
 経済協力開発機構OECD)が提唱する,公害発生費用発生者負担の原則(以下「原則」という。)に従い,原子力事業に起因する損害賠償コストは,原子力事業者とともに原子力機器メーカーも製造物責任を負担すべきであり,原子力機器メーカーについても,製造物責任法の適用を除外せず,製造物責任を負わせる方向での改正がなされるべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案でも,現行の原賠法4条において,原子力損害に係る賠償責任は原子力事業者に損害賠償責任を集中させ,製造物責任法の適用を除外している点については,「機器等の資機材供給を行う事業者(以下「関連事業者」という。)を免責にすることにより資機材供給等の取引を容易にし,資機材の安定供給に資する」こと,「原子力事業者に責任集中することで損害賠償措置に係る保険契約に関して保険の引受能力を最大化することが可能となること」,及び「損害賠償措置が義務付けられている原子力事業者が損害賠償請求の相手方となることが明確になるという利点があり,被害者の迅速な救済にも資する」として,現行の規定を維持することが妥当とするものである。
 しかし,原子力事業に起因する損害賠償コストは,原則に従い,原子力事業者とともに,関連事業者も製造物責任を負担すべきである。また,損害賠償義務者が増えることは被害者救済に資するとともに,事故の抑止機能も期待されるものであり,関連事業者が製造物責任を負わないことは,これらの者が損害賠償金の支払いによる経営破綻リスクを負わないことになり,関連事業者のモラルハザードを招き,事故防止に対する責任ある取組がおろそかになるおそれがある。原子力施設の安全性の確保及び原則に従い,関連事業者について製造物責任法の適用を除外せず,製造物責任を負わせる方向での改正がなされるべきである(2014年8月22日付け「「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害の補完的補償に関する条約」に関する意見書」,2015年7月17日付け「原子力発電所事故による損害賠償制度の見直しに関する意見書」)。
 
7 「2.原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担(4)原子力事業者の責任の範囲」(8頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力損害賠償制度における原子力事業者の責任について,現行どおり,「無限責任を維持することは妥当」としたことは適切であり,将来的にも,原子力事業者の無限責任は維持されるべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案は,原子力事業者を有限責任とすること(有限責任化)は予見可能性の確保の観点からは利点があるが,国民の理解を得ることは困難と考えられること,安全性向上への投資の減少のおそれという事故抑止の観点に加え,原子力事業者として果たすべき責任を踏まえて責任限度額の水準を決定する必要があり,原子力施設ごとに責任限度額が変わることとなり得ることを挙げて,「無限責任を維持することが妥当」としている。
 当連合会は,原子力事業者の無限責任は維持されるべきであり,原子力損害の賠償において有限責任が導入されるならば,原子力事業者はいかなる重大事故が発生したとしても,それ以上の損害の補償を求められないことになり,被害救済が十分に図られなくなるおそれがあることを指摘してきた。このような有限責任化は原子力事業に対する国民の不信を高めるだけであり,見直し案において,「原子力事業者が一定限度額以上の賠償責任を持たなくなる状況があり得ること」について,「国民の理解を得ることは困難」としたことは適正である。
 また,東電福島原発事故の経験から原子力事業者のリスク評価は既に十分に可能であり,有限責任とすることで原子力事業者にとっては深刻な事故を起こしても倒産の危険はないことになり,原子力災害に対する厳格なリスク評価がなされないというモラルハザードをもたらし,ひいては原子力事故防止のための対策がおろそかになる危険性すらある。
 よって,原子力事業者の無過失・無限責任は,将来にわたって,維持されるべきである(2015年7月17日付け「原子力発電所事故による損害賠償制度の見直しに関する意見書」,2016年8月18日付け「原子力損害賠償の在り方に関する意見書」)。
 
8 「2.原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担(5)原子力事業者の利害関係者の責任の在り方等」(9頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力事業者の法的整理の場合に,被害者救済のために社債権者等の主要なステークホルダー(以下「ステークホルダー」という。)の債権放棄も必要である。
 また,再建型清算手続においても,国が原子力事故の収束,除染,被害者救済等のために資金を投入した場合に,国から当該事業者に対する求償権を確保した制度としておくことが必要である。
(2) 意見の理由
 見直し案では,「損害賠償措置及び原賠・廃炉機構制度は,原子力事業者を賠償債務の弁済主体と考えているが,法的整理の手続に入った場合には,現在の枠組みが機能するかどうかという課題があり得る」とするが,その場合に備えて,「国は,見直し後の原賠制度において対応可能な事項,対応困難な事項等を整理し,万が一の事態に備えておくことが重要」とするにとどまっている。
 今後の原子力事故において,原子力事業者の法的整理の適用が排除されるものではなく,その場合の被害者の保護が優先され,原子力事故の収束等の作業に支障が生じないよう,原子力事故を伴う法的手続を整備検討しておく必要がある。その場合,被害者救済のために原子力事故による損害賠償債権を優先させることが不可欠であり,ステークホルダーの債権放棄も必要である。
 また,再建型清算手続においても,原子力事故による膨大な債務を抱えた原子力事業者を再建するための資金提供者を得ることは困難であるため,国の関与(税金を用いた資金投入)が必要とならざるを得ないが,従来の株主を不当に利しないようにするとともに,国から当該事業者に対する求償権を確保した制度としておくことが必要である(2016年8月18日付け「「原子力損害賠償の在り方に関する意見書」)。
 
9 「3.原子力損害賠償制度における国の措置(1)賠償資力確保のための枠組み」(11頁)
(1) 意見の趣旨
 原子力事業者による責任保険契約等の損害賠償措置の大幅な引上げ等,原子力事業者の損害賠償義務の履行を担保する制度をより一層充実させるべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案は,原子力事業者及び政府の損害賠償責任保険契約を基本とした上で,政府の原子力損害賠償保障契約に係る措置額の引上げを行わず,原賠法16条に基づく国の措置として成立した原賠・廃炉等機構法による措置が今後の原発事故にも適用され,原子力事故の態様及び被害の状況は様々であるとして,原賠法16条の規定は維持することが妥当であるとするものである。
 東電福島原発事故は,原発事故の被害が甚大となり得ることを示したものであり,原子力事業者による賠償措置額の大幅な引上げ等,原子力事業者の損害賠償義務の履行を担保する制度をより一層充実させるとともに,国による原子力事業者への求償などを導入して原子力事業者の経営責任を明確化した上で,国の援助措置を実施することが必要である(2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」)。
 
10 「3.原子力損害賠償制度における国の措置(2)被害者救済手続④和解の仲介等」(14頁)
(1) 意見の趣旨
 和解案の提示に片面的拘束力をもつ裁定機能を付与し,これを法定すべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案では,原子力損害賠償紛争審査会の下に置かれた原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という。)が和解の仲介を行い,高い割合での和解実績をあげるなど重要な役割を果たしていると評価できるとして,「和解の仲介について,現行の規定を維持することが妥当」とするものである。
 東電福島原発事故では,東京電力は,原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき作成した特別事業計画で,和解仲介案を尊重する旨を表明してきたが,近時,和解仲介案の受諾を拒否する事例が多発している。原紛センターの和解案の提示について,東京電力側は裁定案を尊重し,裁定案の内容が著しく不合理なものでない限り,これを受諾しなければならないものとすること及び,被害者は裁定に拘束されないが,東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り,裁定どおりの和解内容が成立したものと見なすことを盛り込んだ裁定機能を付与し,これを法定すべきである(2012年8月23日付け「原子力損害
賠償紛争解決センターの立法化を求める意見書」)。
 
11 「3.原子力損害賠償制度における国の措置(2)被害者救済手続⑦和解仲介手続に係る時効中断(完成猶予)」(17頁)
(1) 意見の趣旨
 和解仲介手続に係る時効中断について必要な法改正を行うことが妥当とする見直し案に賛成する。
(2) 意見の理由
 見直し案では,東電福島原発事故では,原紛センターの利用に際してなされた時効中断の特例に関する特別立法にならい,改正民法151条に加え,原賠法において和解仲介手続に係る時効中断効を導入する法改正を行うことが妥当とされている。
 原紛センターへの申立てについて,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の認証ADRに関する規律にならい,消滅時効中断の法的効果を付与することを求めてきたところであり,同法改正は適切である(2012年8月23日付け「原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を求める意見書」)。
 
12 「3.原子力損害賠償制度における国の措置(2)被害者救済手続⑧原子力事業者の賠償への対応に係る方針の整備」(17頁)
(1) 意見の趣旨
 国は,損害賠償の迅速かつ適切な実施を図るための備えとして,各原子力事業者に対し,あらかじめ,損害の賠償への対応に係る方針を作成し,公表を義務付けるよう,必要な法改正を行うことに賛成する。ただし,法改正に当たっては,方針中に,和解仲介案の尊重を明記させるべきである。
(2) 意見の理由
 見直し案は,「国は,損害賠償の迅速かつ適切な実施を図るための備えとして,各原子力事業者に対し,あらかじめ,損害賠償への対応に係る方針を作成し,公表することを義務付けるよう必要な法改正を行うことが妥当」とするものである。
 原賠法において,原子力事業者に対し,被害者保護に万全を期するために資するよう,損害賠償への対応に係る被害者の被害指針の作成,公表を義務付けることは賛成である。ただし,東京電力は東電福島原発事故について,原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(以下「原賠・廃炉機構法」)に基づき作成した特別事業計画で「和解仲介案を尊重する」旨を表明してきたが,近年,受諾を拒否する事例が相次いでおり,これを損害賠償の迅速かつ適切な実施を図るための備えとするためには,少なくとも,東電福島原発事故に際して東京電力が表明したように,和解仲介案を尊重することを明記するものとすべきである。(2012年8月23日付け「原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を求める
意見書」ほか)
 
13 「3.原子力損害賠償制度における国の措置(2)被害者救済手続⑨国による仮払い・立替払い」(18頁)
(1) 意見の趣旨
国によって仮払いを行う制度を整備すべきである。ただし,その際には,原
子力事業者にその費用を求償する仕組みを盛り込んでおく必要がある。
(2) 意見の理由
 見直し案では,国において「仮払資金の原子力事業者への貸付に係る制度など,本賠償開始前の被害者の賠償の早期実施への需要に対応するため,発災事業者の迅速な仮払いの実施を促すための枠組みを整備することが妥当」としている。
 原子力事業は国が強く推進してきた政策であり,原賠・廃炉機構法において「国は,これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み,原子力損害賠償・廃炉等支援機構が前条の目的を達することができるよう,万全の措置を講ずるものとする。」とされたところであるが,東電福島原発事故による損害賠償や除染,汚染水対策では,東京電力の財政状態から迅速に適切な措置が採られなかったこともあった。
 原子力事業者による損害賠償の実施に困難がある場合においては,原賠法16条(国の措置)において,国は,原子力事故の収束,被害者に対する損害賠償の立替払等,緊急の対応を行うことができること,及びこれらにかかる費用を原子力事業者に求償することができることを明記すべきである。
 また,原子力事故による損害賠償額が原子力事業者の支払い能力を超える場合において,原子力損害賠償・廃炉等支援機構法を活用するほか,原子力事業者の法的整理を必要とする場合に備えて,原子力事故被害者の損害の完全・優先弁済,原子力事故の収束・廃炉にかかる作業の確保等を含む新たな制度を整備すべきである(2016年8月18日付け「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」)。
                                                                              以上
(引用終わり)
 
(参考サイト/日弁連の意見)
〇2012年8月23日「原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を求める意見書」
〇2013年10月4日「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」(人権擁護大会)
〇2014年8月22日「「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害の補完的補償に関する条約」に関する意見書」
〇2015年7月17日「原子力発電所事故による損害賠償制度の見直しに関する意見書」
〇2016年8月18日「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」
〇2018年6月15日「パリ協定と整合したエネルギー計画の策定を求める意見書」
 
(参考サイト/内閣府原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会)
内閣府原子力委員会 原子力損害賠償制度専門部会
〇平成30年8月6日「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」(原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会)
 
(参考サイト/関連法令)
原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)
原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)
原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和三十六年法律第百四十八号)
製造物責任法(平成六年法律第八十五号)
エネルギー政策基本法(平成十四年法律第七十一号)
 
(参考サイト/関連条約)
原子力損害の補完的補償に関する条約(1997年に国際原子力機関で採択)
〇パリ協定(第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されたパリにて、2015年12月12日に採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意))