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「裁判官にも「つぶやく自由」はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」への賛同のお願い~弁護士限定ですが  

 2018年10月2日配信(予定)のメルマガ金原No.3288を転載します。
 
「裁判官にも「つぶやく自由」はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」への賛同のお願い~弁護士限定ですが
 
 一般市民には、直接的には何の関わりもない法律の条文をご紹介します。
 
裁判官分限法(昭和二十二年法律第百二十七号)
第一条(免官) 裁判官は、回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができないと裁判された場合及び本人が免官を願い出た場合には、日本国憲法の定めるところによりその官の任命を行う権限を有するものにおいてこれを免ずることができる。
2 前項の願出は、最高裁判所を経てこれをしなければならない。
第二条(懲戒) 裁判官の懲戒は、戒告又は一万円以下の過料とする。
第三条(裁判権) 略
2 最高裁判所は、左の事件について裁判権を有する。
一 第一審且つ終審として、最高裁判所及び各高等裁判所の裁判官に係る分限事件
二 略
第四条(合議体) 略
第五条(管轄) 略
第六条(事件の開始) 分限事件の裁判手続は、裁判所法第八十条の規定により当該裁判官に対して監督権を行う裁判所の申立により、これを開始する。
第七条(裁判) 第一条第一項の裁判又は第二条の懲戒の裁判をするには、その原因たる事実及び証拠によりこれを認めた理由を示さなければならない。
2 裁判所は、前項の裁判をする前に当該裁判官の陳述を聴かなければならない。
第八条(抗告)~第十二条 略
 
 ちなみに、本法第一条所定以外の理由で裁判官を罷免するためには、裁判官弾劾法という別の法律による手続が用意されていますが(日本国憲法第78条に基づく)、裁判官分限法に基づく懲戒(戒告又は過料)がなされるような事態となれば、通常その裁判官は辞任に追い込まれるというのが普通だと言われています。
 
 今日、わざわざ裁判官分限法の条文などをご紹介したのは(既に気がつかれた方もおられるでしょうが)、東京高等裁判所岡口基一(おかぐち・きいち)判事について、本年7月24日、同法第6条、第3条2項に基づき、東京高等裁判所から最高裁判所に懲戒申立てがなされた件を取り上げたいと思います。
 
 とはいえ、私自信、岡口裁判官の名高い著作『要件事実マニュアル』シリーズ(ぎょうせい刊)は1冊も読んだことがないばかりか、世上を騒がす同裁判官のTwitterをフォローしたこともなく、まあ、ほとんど関わりがなかったのです。
 そんな私でも、さすがに岡口基一裁判官に無関心でいられなくなったのは、上記懲戒申立ての内容を知ってからです。
 
 一体、どんな理由で懲戒申立てされたのか?と思って調べてみると、岡口裁判官自身が、「分限裁判の記録 岡口基一」というホームページで公開されていました。
 
(引用開始)
                                                            平成30年7月24日
                      東京高等裁判所長官  林  道晴
 
                            裁判官に対する懲戒申立書
 
 当裁判所は、裁判官分限法第6条に基づき、下記の被申立人に対し、懲戒の申立てをする。
                                       記
           東京高等裁判所判事
              被申立人 岡 口 基 一   
 
                                  申立ての理由
1 被申立人は、裁判官であることを他者から認識できる状態で、ツイッターのアカウントを利用し、平成30年5月17日頃、東京高等裁判所控訴審判決がされた犬の返還請求に関する民事訴訟についてのインターンネット記事及びそのURLを引用しながら、「公園に放置されていた犬を保護して育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」」、「え?あなた?この犬を棄てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・・」、「裁判の結果は・・」との投稿をインターネット上に公開して、上記訴訟において犬の所有権が認められた当事者(もとの飼い主)の感情を傷付けたものである。
2 被申立人の上記行為は、裁判所法第49条所定の懲戒事由に該当し、懲戒に付するのが相当であるので、本申立てをする。
(引用終わり)
※注 裁判所法第49条
第四十九条(懲戒) 裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。
 
 なお、懲戒申立事件の記録を公開したことについての岡口裁判官の事情説明は以下のとおりです。
 
(引用開始)
2018-08-18
分限裁判の情報の公開について
私は,今年の6月13日に,自身の分限裁判の開始を知りましたが,そのことについては,一切,ツイッター等では明らかにしない意向でした。
それは,当該事件の当事者の方に配慮してのことでした。
ところが,私は,夏期休暇中の7月23日の新聞及びテレビを見て,大変に驚きました。
裁判所当局が,私の了解もなく,本来非公開である私の分限事件について,マスコミにリークしてしまったのみならず,その対象となる行為が,当該事件についてのツイートであることまで明らかにしてしまったのです(ツイートの内容までは公表しないこともできたと思われます)。
そのため,私も,当事者に配慮して自身の分限裁判を秘匿する必要がなくなったため,情報の公開に踏み切ったという経緯です。
すでに,全国の多くの方が,この情報を知ってしまっているからです。 
(引用終わり)
 
 その後の分限裁判の経過については、岡口裁判官が運営している「分限裁判の記録 岡口基一」に資料が集積されており、何人もの学者・弁護士が書かれた「意見書」(被申立人側から提出済み、または提出予定のもの)を読むことができます。
 ざっと眺めただけでも、
 
金尚均(キムサンギュン)龍谷大学教授の意見書(2018年9月23日付)
〇毛利透京都大学大学院法学研究科教授(憲法)の意見書(2018年9月21日付)
神戸大学大学院法学研究科の木下昌彦准教授の意見書(2018年9月25日付)
海渡雄一弁護士の意見書(2018年9月11日付)
〇木村草太首都大学東京教授(憲法)の意見書(2018年9月10日付)
 
 この分限裁判にのぞむ岡口裁判官のため、司法修習同期(46期)による弁護団が結成されたそうです。
 
 そして、裁判官分限法第7条2項に基づく審問の手続が去る9月11日に最高裁判所で行われ、終了後、岡口裁判官と弁護団が記者会見に臨みました。その動画をご紹介しておきます。
 
【ノーカット】岡口基一裁判官、司法記者クラブ会見(2018.9.11)(57分)
 
 さて、上記のような錚錚たる皆さんによる意見書をご紹介しながら、今さら私の意見を述べるまでもないとは思いますが、一言だけつぶやくとすれば、「裁判官に表現の自由を認めない裁判所に、人権を守る砦となることを期待することなどできない」ということでしょうか。
 詳しくは、有志の弁護士が昨日(10月1日)、「裁判官にも『つぶやく自由』はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」という声明を発表し、弁護士限定ではありますが、賛同者を募っていましたので、私も今日「賛同」しました。その声明文をもって、この問題についての私の意見に代えたいと思います。
 
裁判官にも「つぶやく自由」はある
裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール
(引用開始)
1 私たち弁護士は,東京高等裁判所の裁判官が勤務時間外にツイッターで裁判例を紹介するツイート(つぶやき)を行ったことを理由として,裁判所内で同裁判官に対する懲戒処分手続(分限裁判)が進められていることを,心から憂慮しています。
2 今回,問題とされているツイートは,同裁判官が,自分が担当したのではない裁判の判決について「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3カ月くらいたって,もとの飼い主が名乗り出てきて,『返してください』,『え? あなた? この犬を捨てたんでしょ? 3カ月も放置しておきながら…』,裁判の結果は…」とのツイートを行い,ニュース記事のリンクを貼り付けたというものです。
 ツイートに記載された台詞は,あくまでも事例の概要の紹介に止まっており,関係者の名誉を毀損するなどの,裁判所に対する国民の信頼を損なう恐れがある内容ではありません。
3 ところが,東京高等裁判所長官は,このツイートが事件関係者の感情を傷付け,裁判官の「品位を辱める行為」(裁判所法第49条)にあたるとして,懲戒申立を行い,現在,最高裁判所で手続が行われています。2018年9月11日に審問期日が開催され,近々,決定が下される恐れがあります。
4 いうまでもなく,表現の自由は,民主主義を支える重要な基本的人権です。そして,裁判官も個人として表現の自由を有し,とりわけ,勤務時間外の表現行為については自由なのが原則です。もちろん,裁判官としての職責との関連で一定の制約が許されることもありますが,裁判の公正に対する国民の信頼を損なわないため等の必要最小限の制約が許されるに過ぎません。
5 単なる裁判例の紹介に過ぎず,裁判所に対する国民の信頼を損なうような内容を含まない裁判官のツイートに対する,今回の懲戒申立ては,明らかに,裁判官の表現の自由「つぶやく自由」に対する侵害にほかなりません。
 国民の人権を守る「最後の砦」である司法においてかかる人権侵害が生じることは,本件だけの問題に止まらず,司法への国民の信頼を損ないかねない重大な事態です。
6 また,最高裁判所が,勤務時間外のツイートに対する表現の自由の制約を幅広く認めて懲戒を行うことの,社会的影響も心配です。
 例えば,今後,従業員の私的なSNSやブログ等への書き込みが,些細な理由で雇用主から懲戒処分の対象とされるのではないかとの不安が社会に広まるなどして,市民間のインターネットを通じた情報交流が萎縮する恐れがあります。
 このような事態は,ツイッターなどのSNSを利用した市民同士の情報交流の発展にとって著しいマイナスです。
7 私たち弁護士は,基本的人権と社会正義の擁護を使命とする(弁護士法第1条)法律家として,裁判官個人の「つぶやく自由」を奪い,SNSを利用した市民同士の情報交流を通じた民主主義の発展を損なう今回の裁判官の懲戒処分手続に対して,強く抗議し,最高裁判所に対し,裁判官の表現の自由を尊重するよう求めます。
  2018年10月1日 
(引用終わり)
 
 「呼びかけ・賛同登録フォーム【弁護士限定】」が開設されています。上記アピールに賛同していただける弁護士の方は、是非よろしくお願いします。
 
 最後に、上記アピールの記者発表を報じた弁護士ドットコムNEWSの記事を引用します。
 
弁護士ドットコムNEWS 2018年10月01日 17時23分
「裁判官にもつぶやく自由はある」岡口裁判官の分限裁判で声明文、弁護士269人が賛同
(抜粋引用開始)
 有志の弁護士が10月1日、「裁判官にも『つぶやく自由』はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」と題した声明文を発表した。
 Twitterの投稿によって訴訟当事者の感情を傷つけたとして、東京高裁民事部の岡口基一裁判官が裁判官の免官・懲戒に関する「分限裁判」にかけられたことを受けてのもの。弁護士269人の賛同が集まっており、声明文は近く最高裁に提出する。
●「つぶやく自由に対する侵害」
 声明文は今回の懲戒申立てについて「裁判官の表現の自由『つぶやく自由』に対する侵害にほかなりません」と指摘。「今後、従業員の私的なSNSやブログ等への書き込みが、些細な理由で雇用主から懲戒処分の対象とされるのではないかとの不安が社会に広まるなどして、市民間のインターネットを通じた情報交流が萎縮する恐れがある」と社会的な影響を懸念した。
 東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた発起人の島田広弁護士は「基本的人権を守る弁護士が声を上げなくていいのかと思い、まとめ上げた」と説明。賛同者は28日金曜日午後に集め始め、3日間で呼びかけ人46人、氏名を公表した賛同者214人、公表なしの賛同者9人の計269人が集まった(1日午後3時時点)。
 島田弁護士は「基本的人権が損なわれることだけではなく、人権の守り手である裁判所が、人権侵害を行ってしまう。これがどれだけ裁判所に対する国民の信頼を傷つけることになるのか、慎重に判断してほしい」と裁判所を批判。「懲戒申し立てされたこと自体、憤りを感じている。不当な懲戒を阻止するために、弁護士の皆様にご協力いただきたい」と呼びかけた。
 また、賛同者で会見に同席した海渡雄一弁護士は「裁判官自身が口を開いて意見をいうことは独自の価値がある」と話した。
(引用終わり)