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辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介

 2018年10月20日配信(予定)のメルマガ金原No.3306を転載します。
 
辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介
 
 8月31日に沖縄県辺野古沖公有水面埋立承認の取消(撤回)を行ったのに対し、防衛省(沖縄防衛局)は、10月17日、国土交通大臣に対し、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てを行いました。
 これについて、どのような視点から取り上げようかと考えているうちに、3日が経ってしまいました。まあ、同じ17日に、最高裁判所岡口基一裁判官を戒告するというとんでもない決定を出したりしたもので、そちらの方に精力をとられたということもあるのですが。
 しかし、これ以上延ばしてしまうとタイミングを逸してしまいそうなので、じっくり考えるための資料を集めておこうと考えました。今日ご紹介する資料は以下のとおりです。
 
資料1 沖縄県による公有水面埋立承認取消(撤回)通知書及び関連法令
資料2 防衛省(沖縄防衛局)による審査請求及び執行停止申立て及び関連法令(申請書類を防衛省は公開していない)
資料3 玉城デニー沖縄県知事による審査請求及び執行停止申し立てについてのコメント
資料4 丸山穂高衆議院議員による「行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書
資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書
資料6 行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2015年10月23日)
資料7 武田真一成蹊大学法科大学院教授「辺野古埋立をめぐる法律問題について」(成蹊法学83号・2015年12月21日)
 
 以上の資料1~7のうち、1~3は、今回の承認取消(撤回)に直接関わる資料です。ただ、防衛省は、審査請求(執行停止)の内容を公開していません。10月17日に行われた野党共同ヒアリングにおいて、「日本共産党井上哲士参院議員は、埋め立て承認取り消しの通知書の内容を公開している沖縄県にならい、国側も申し立て内容を明らかにすべきだと指摘。(略)防衛省側は「これから審査を受けるので内容は示せない」と拒みました。」(しんぶん赤旗/2018年10月18日)ということです。
 
 資料4~7は、3年前(2015年)に国が行った2度にわたる審査請求と執行停止申立て(3月の農林水産大臣宛及び10月に行われた国土交通大臣宛のもの)を振り返るための資料です。
 翁長雄志知事が、2015年3月、沖縄防衛局による作業が岩礁破砕許可を受けた範囲外の海域で岩礁を破砕しており、同許可に付された条件に違反しているとして、防衛局長に対して工事中止を指示したのに対し、防衛局長は行政不服審査法に基づいて農林水産大臣に審査請求及び執行停止の申立てを行い、農水大臣は同月中に工事中止指示の執行停止を決定しました。
 これに対し、丸山穂高衆議院議員(当時、維新の党)が「法(注:行政不服審査法)の趣旨は国民の権利利益の救済であって行政機関相互の紛争や国による審査請求を想定しておらず、国による審査請求と執行停止の申立てについては、法の趣旨を逸脱した違法行為として却下しなければならないのではないか。」という質問趣旨書を提出したところ、安倍内閣は、「国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分については、当該機関又は団体がその固有の資格において処分の相手方となる場合には、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく不服申立てをすることはできないが、一般私人と同様の立場において処分の相手方となる場合には、同法に基づく不服申立てをすることができるものと考える。」との答弁書を提出しました(資料4)。
 沖縄防衛局は、同年10月13日に行われた埋立承認取消に対しても、その翌日、直ちに国土交通大臣に対して審査請求と執行停止の申立てしたのですが、その理論的根拠は、3月の場合と全く同様であったと思われます。
 
 実は、国の答弁書に書かれた一般論は、当時、既に成立していた改正行政不服審査法(2016年4月1日施行)第7条2項(新設規定)「国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。」で明確にされていました(通説をそのまま明文化したものでしょう)。
 問題は、まさに、「国の機関(沖縄防衛局)に対する処分(埋立承認取消処分)で、これらの機関がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの」であるのか否かというところにあります。
 これについて、2015年10月23日に公表された行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(資料6)は、明確に、沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを不適法であるとし、「一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意的に執行停止・裁決を行おうというものである。国民からみれば、国の一人芝居にほかならない。」と断じています。
 さらに、本件埋立承認に関わる沖縄防衛局の立場が、私人と同様のものなどではありえず、その固有の資格において当該処分の相手方となるものであることを詳細に論じた論文として、武田真一成蹊大学法科大学院教授による「辺野古埋立をめぐる法律問題について」をご紹介しました(資料7)。
 実はこの論文を知ったのは、色々情報を検索していた際、安倍首相の母校である成蹊大学ホームページに掲載された以下のような短信に気がついたのがきっかけでした。
 
成蹊大学   News & Topics   メディア掲載 2018年10月19日
法科大学院 武田真一郎教授の解説記事が東京新聞毎日新聞に掲載
(引用開始)
法科大学院 武田真一郎教授(専門分野:行政法)の解説記事が10月18日、東京新聞朝刊1面、毎日新聞朝刊3面にそれぞれ掲載されました。
武田教授は記事のなかで、「沖縄県辺野古の埋立承認を撤回したことに対し、国が国土交通大臣行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申立てをしたが、行政不服審査法は国民の権利を救済するための制度なので、国はこの制度を利用することはできない。原告と裁判官が同じ裁判のようなもので、きわめて不公正だ」と解説しています。
(引用終わり)
 
東京新聞 2018年10月18日 朝刊
政府、沖縄県に対抗措置 玉城氏「民意踏みにじる」
毎日新聞の記事は会員限定有料記事でした。
 
 日本国民は、国が愛用する行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申立てという手法が、実は、対沖縄ケースだけで用いられているということを認識しておくべきでしょう。
 このことは、【資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書】の内、2015年7月に行われた「国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問主意書」に対する答弁書の中で、その時点での先例(国が審査請求を行った)として、「漁港漁場整備法(昭和二十五年法律第百三十七号)第三十九条第一項本文に規定する行為に当たるとして沖縄防衛局が同条第四項の規定に基づき行った海域生物調査のための辺野古漁港区域内の占有及び調査に係る協議に対し、これを不許可とする旨の名護市長の回答について、平成二十三年一月に同局が同法第四十三条第一項の規定に基づき農林水産大臣に対して行った事例」しか挙げられなかったことから明らかです。
 つまり、今回(2018年10月)の事例を含め、国が審査請求を行った全4件(農林水産大臣宛2件、国土交通大臣宛2件)は、全て沖縄、それも辺野古がらみの案件ばかりであるということです。
 
 あらためて、行政不服審査法第1条1項「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」の趣旨をかみしめなければと思います。
 
【資料1 沖縄県による公有水面埋立承認取消(撤回)通知書及び関連法令】
沖縄県ホームページ 辺野古問題 最新情報 平成30年8月31日
(抜粋引用開始)
沖縄県達土第125号 
沖縄県達農第646号
                          公有水面埋立承認取消通知書
                                     沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納 290 番地9
                   沖縄防衛局
                   (局長 中嶋 浩一郎)
 公有水面埋立法(大正10年法律第57号。以下「法」という。)第42条第3項により準用される法第4条第1項の規定に基づき、次のとおり法第42条第1項による承認を取り消します。
 平成30年8月31日
                    沖縄県副知事 謝花 喜一郎
1 処分の内容
 貴殿が受けた普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認(平成25年12月27日付け沖縄県指令土第1321号・同農第1721号)は、これを取り消す。
2 取消処分の理由
  別紙のとおり
(教示)
 この決定があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内に、沖縄県を被告として(訴訟において沖縄県を代表する者は、沖縄県知事となります。)、処分の取消しの訴えを提起することができます(この決定があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内であっても、この決定の日の翌日から起算して1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。
                                取消処分の理由
(略)
(引用終わり)
※参照条文
公有水面埋立法(大正十年法律第五十七号)
第四条 都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ
一 国土利用上適正且合理的ナルコト
二 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
三 埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト
四 埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト
五 第二条第三項第四号ノ埋立ニ在リテハ出願人ガ公共団体其ノ他政令ヲ以テ定ムル者ナルコト並埋立地ノ処分方法及予定対価ノ額ガ適正ナルコト
六 出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スルニ足ル資力及信用ヲ有スルコト
2 (略)
3 (略)
第四十二条 国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ
2 (略)
3 第二条第二項及第三項、第三条乃至第十一条、第十三条ノ二(埋立地ノ用途又ハ設計ノ概要ノ変更ニ係ル部分ニ限ル)乃至第十五条、第三十一条、第三十七条並第四十四条ノ規定ハ第一項ノ埋立ニ関シ之ヲ準用ス但シ第十三条ノ二ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クベキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ノ承認ヲ受ケ第十四条ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クヘキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ニ通知スヘシ
行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)
 (出訴期間)
第十四条 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 (略)
 
【資料2 防衛省(沖縄防衛局)による審査請求及び執行停止申立て及び関連法令】
防衛省ホームページ お知らせ 平成30年10月17日
普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取消処分に対する審査請求及び執行停止申立てについて
(引用開始)
 本年8月31日の沖縄県による普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取消処分について、本日、沖縄防衛局長から国土交通大臣に対し、審査請求及び執行停止の申立てを行ったので、お知らせいたします。
(引用終わり)
※参照条文
行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)
 (目的等)
第一条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
2 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
 (処分についての審査請求)
第二条 行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
 (適用除外)
第七条 (略)
2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。
 (執行停止)
第二十五条 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
3 処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をとることはできない。
4 前二項の規定による審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
5 審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
6 第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。
7 執行停止の申立てがあったとき、又は審理員から第四十条に規定する執行停止をすべき旨の意見書が提出されたときは、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。
 
【資料3 玉城デニー沖縄県知事による審査請求及び執行停止申し立てについてのコメント】
沖縄タイムス+プラス 2018年10月17日 17:39
「ぶれることなく、県民の思いに応えたい」 玉城デニー知事のコメント全文
知事コメント
 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取り消しについて、本日、沖縄防衛局長が、国土交通大臣に対して、行政不服審査法に基づく審査請求及び執行停止申し立てを行ったとの報告を受けました。
 私は、法的措置ではなく、対話によって解決策を求めていくことが重要と考えており、去る10月12日の安倍総理や菅官房長官との面談においても、直接、対話による解決を求めたところであります。
 しかし、そのわずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるものであり、到底認められるものではありません。
 行政不服審査法は、国民(私人)の権利利益の簡易迅速な救済を図ることを目的とするものであります。
 一方、公有水面埋立法の規定上、国と私人は明確に区別され、今回は国が行う埋め立てであることから、私人に対する「免許」ではなく「承認」の手続きがなされたものであります。
 そのため、本件において、国が行政不服審査制度を用いることは、当該制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為と断じざるを得ません。
 平成27年10月13日の前回の承認取り消しの際も、沖縄防衛局は、国の一行政機関であるにもかかわらず、自らを国民と同じ「私人」であると主張して審査請求及び執行停止申し立てを行い、国土交通大臣は、約2週間で執行停止決定を行いました。
 しかしながら行政不服審査法第25条第4項では、「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」が執行停止の要件とされております。
 政府は、3年前の前回の承認取り消しに対しては、翌日には執行停止の申し立てを行っていますが、県が本年8月31日に行った承認取り消しから既に1カ月半以上が経過しており、「緊急の必要がある」とは到底認められません。
 仮に、本件において国土交通大臣により執行停止決定がなされれば、内閣の内部における、自作自演の極めて不当な決定といわざるを得ません。
 私は、安倍総理に対し、沖縄の声に真摯(しんし)に耳を傾け、安全保障の負担は全国で担うべき問題であり、民主主義の問題であるとの認識の下、早急に話し合いの場を設けていただきたいと訴えたところであり、引き続き、対話を求めてまいります。
 国民の皆さまにおかれましては、これまで日本の安全保障のために大きな役割を果たしてきた沖縄県において、辺野古新基地建設反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、その民意に対する現在の政権の向き合い方があまりにも強権的であるという、この現実のあるがままを見ていただきたいと思います。
 私は、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向けて、全身全霊で取り組んでまいります。
 私はぶれることなく、多くの県民の負託を受けた知事として、しっかりとその思いに応えたいと思いますので、県民の皆さまの御支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
  2018年1017日
(引用終わり)
 
【資料4 丸山穂高衆議院議員による「行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書」】 
平成二十七年四月一日提出 質問第一七九号
行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書
提出者 丸山穂高
(引用開始)
 沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題で、沖縄県より海底ボーリング調査などの作業停止指示を受けた沖縄防衛局が行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てを行ったことに関連して、以下、質問する。
一 行政不服審査法に基づく審査請求について、同法を所管する総務大臣が過去の委員会答弁において「国や自治体が私人と同じ立場で法の適用を受ける場合は申し立ての主体になり得る」旨の発言を行っているが、政府見解もこれと同じか。
二 平成二十三年一月に沖縄防衛局が行った、名護市による辺野古漁港における生物調査不許可に対する審査請求について、防衛大臣が「一事業者としての立場で申し立てた」旨の発言を過去の委員会答弁において行っているが、政府見解もこれと同じか。
三 今回の沖縄防衛局による審査請求も、右記の両見解に基づき、国が一事業者の立場で行ったものか。
四 行政不服審査法以外の法律において、国が一事業者としての立場で行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立てについて直接行うことの出来るものがあるか。ある場合には、具体的な法律名とその申請内容について伺いたい。
五 行政不服審査法の第一条第一項において「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」とされている。法の趣旨は国民の権利利益の救済であって行政機関相互の紛争や国による審査請求を想定しておらず、国による審査請求と執行停止の申立てについては、法の趣旨を逸脱した違法行為として却下しなければならないのではないか。政府の見解について伺いたい。
 右質問する。
(引用終わり)
 
平成二十七年四月十日受領 答弁第一七九号
内閣衆質一八九第一七九号
(引用開始)
衆議院議員丸山穂高君提出行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問に対する答弁書
一から三まで及び五について
 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分については、当該機関又は団体がその固有の資格において処分の相手方となる場合には、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく不服申立てをすることはできないが、一般私人と同様の立場において処分の相手方となる場合には、同法に基づく不服申立てをすることができるものと考える。
 御指摘の「発言」は、いずれもこの考え方に基づき行われたものであり、御指摘の「今回の沖縄防衛局による審査請求」についても同様である。
四について
 国の機関に対する処分であって、当該国の機関が一般私人と同様の立場において処分の相手方となるものについて、当該国の機関が当該処分に対し不服申立てをすることができない旨を特に定めた法律はないものと承知しており、一般に、このような処分については、法律上、国の機関が一般私人と同様の立場において不服申立てをすることは可能であると認識している。
(引用終わり)
 
【資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書】
 在職中、非常に積極的に質問主位書を提出された仲里利信議員は、当然ながら、国が行政不服審査請求を行うことについての質問主意書も出されていました。質問主意書にしても、答弁書にしても非常に長いものが多く、一々引用できませんが、そのいくつかにリンクしておきます。
〇平成二十七年三月二十六日提出 質問第一六九号
沖縄防衛局長が沖縄県知事の停止指示を不服として農林水産大臣に提出した執行停止申立書と審査請求書に関する質問主意書
●内閣衆質一八九第一六九号 平成二十七年四月三日
衆議院議員仲里利信君提出沖縄防衛局長が沖縄県知事の停止指示を不服として農林水産大臣に提出した執行停止申立書と審査請求書に関する質問に対する答弁書
〇平成二十七年七月十三日提出 質問第三二二号
国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問主意書
●内閣衆質一八九第三二二号 平成二十七年七月二十一日
衆議院議員仲里利信君提出国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問に対する答弁書
〇平成二十七年九月八日提出 質問第四一一号
国が公有水面埋立法行政不服審査法において公益を理由としながら私人と同様の立場を主張していることに関する質問主意書
●内閣衆質一八九第四一一号 平成二十七年九月十八日
衆議院議員仲里利信君提出国が公有水面埋立法行政不服審査法において公益を理由としながら私人と同様の立場を主張していることに関する質問に対する答弁書
 
【資料6 行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2015年10月23日)】
声明 辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う
2015年10月23日 行政法研究者有志一同
(引用開始)
 周知のように、翁長雄志沖縄県知事は去る10月13日に、仲井眞弘多前知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋立承認を取り消した。これに対し、沖縄防衛局は、10月14日に、一般私人と同様の立場において行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対し審査請求をするとともに、執行停止措置の申立てをした。この申立てについて、国土交通大臣が近日中に埋立承認取消処分の執行停止を命じることが確実視されている。
 しかし、この審査請求は、沖縄防衛局が基地の建設という目的のために申請した埋立承認を取り消したことについて行われたものである。行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず(参照、行審57条4項)、かつ、来年に施行される新行政不服審査法は当該処分を明示的に適用除外としている(新行審7条2項)。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申立てもまた不適法なものであって、国民の権利救済を目的としている行政不服審査制度を濫用するに甚だしいものがある。
 また、沖縄防衛局は、すでに説明したように「一般私人と同様の立場」で審査請求人・執行停止申立人になり、他方では、国土交通大臣が審査庁として立ち現われ、執行停止までも行おうとしている。これでは、一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意的に執行停止・裁決を行おうというものである。国民からみれば、国の一人芝居にほかならない。
 このような政府がとっている手法は、国民の権利救済制度である行政不服審査制度を濫用するものであって、じつに不公正極まりないものであり、法治国家に悖るものといわざるを得ない。
 法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に従事している私たち行政法研究者にとって、このような事態は極めて憂慮の念に堪えないものである。国土交通大臣においては、今回の沖縄防衛局による執行停止の申立てをただちに却下するとともに、審査請求も却下することを求める。
※ 声明賛同署名 世話人
岡田正則(早稲田大学) 紙野健二(名古屋大学) 白藤博行(専修大学
本多滝夫(龍谷大学) 山下竜一(北海道大学) 亘理格(中央大学
(引用終わり)
 
【資料7 武田真一成蹊大学法科大学院教授「辺野古埋立をめぐる法律問題について」(成蹊法学83号・2015年12月21日)】
成蹊法学83号 論説
辺野古埋立をめぐる法律問題について」 武田 真一郎
(抜粋引用開始)
3 防衛局長による審査請求の問題点
 前述の1で見たように、知事は2015年3月に防衛局による作業が岩礁破砕許可を受けた範囲外の海域で岩礁を破砕しており、同許可に付された条件に違反しているとして、防衛局長に対して工事中止を指示した。これに対して防衛局長は行審法に基づいて農水大臣に審査請求および執行停止の申立を行い、同大臣は同月中に工事中止指示の執行停止を決定した。知事はさらに埋立承認を取り消す手続を開始したが、埋立承認の取消しが行われた場合にも防衛局長は埋立法を所管する国交大臣に対して行審法に基づいて審査請求と執行停止申立てを行い、同大臣はこれらを認容する可能性が高いものと思われる。
 なお、これらの審査請求等が行われるのは、岩礁破砕許可や埋立承認に関する事務は地方自治法2条9項1号の法定受託事務(第1号法定受託事務)とされており、同法255条の2第1号によって法律を所管する大臣に審査請求できることを根拠としている。
 以下、より影響が大きいと思われる埋立承認の取消しに対する審査請求や執行停止の可否についてまず検討する。既に行われた工事中止指示に対する審査請求の可否は同じ考え方に基づいて判断することができる。
 国や地方公共団体などの行政主体の行為には、私人の行為と同様に私人の資格で行われるものと、国や地方公共団体固有の資格で行われるものがある。契約の締結や営業許可、建築確認の申請などは、行政主体が行う場合であっても私人が行う場合と何ら異なるところはないから、私人の資格で行われるということができる。他方で行政処分や国の地方公共団体に対する関与などはごく一部の例外を除いてもとより私人が行うことができるものではなく、国や地方公共団体固有の資格で行われる。
 私人の資格で行われる行為であれば、国や地方公共団体は私人と同様に民事訴訟行政訴訟、行審法による不服申立てをすることができる。例えば、国と売買契約を締結した相手方に債務不履行があれば国は民事訴訟で履行を請求したり損害賠償請求をすることができるし、地方公共団体が食堂の営業許可を申請したが不許可処分を受けた場合には行審法に基づく不服申立てや不許可処分の取消訴訟を提起することができる。
 これに対して、国や地方公共団体固有の資格で行われる行為は私人の行為ではなく、行政権の行使に当たるから、国や地方公共団体は固有の資格で行った行為について民事訴訟取消訴訟、行審法による不服申立てをすることはできないのが原則である。例えば、市長がした生活保護の支給拒否処分に対して申請者が都道府県知事に審査請求をしたところ、知事が支給拒否処分を取り消す裁決をした場合において、市(市長)が行審法に基づく不服申立てをしたり行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)に基づいて取消訴訟を提起して取消裁決の取消しを請求することはできない。また、市町村長が総務大臣に対して法定外普通税の新設の同意を求めたところ同大臣が同意を拒否した場合において、当該市町村(長)が行審法に基づく不服申立てをしたり行訴法に基づいて取消訴訟を提起して不同意の取消しを請求することはできない。
 それは市長のした支給拒否処分や市町村長のした同意の申請は私人の行為ではなく、地方公共団体固有の資格で行った行為であり、行政権の行使に当たる行為であるから、これに関する市と県および市と国の間の紛争は「国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争」(行訴法6条)であり、特別な法律の定めがある場合に限って争訟を提起できる(同法42条)と解されるからである。あるいは行政権は法令で認められた権限に基づいて行使されるものであり、私人としての権利や法的利益に基づいて行使されるものではないから、国や地方公共団体はそもそも私人の法律上の利益を保護するための制度である民事訴訟取消訴訟、行審法による不服申立てによって保護を求める法律上の利益を有しないということもできる。
 では、本件における国の埋立申請はどちらの資格で行われたのであろうか。埋立法は、私人による埋立申請と国による埋立申請を区別し、私人の申請には埋立免許を行い(2条)、国の申請には埋立承認を行うものとしている(42条)。そして、同法42条2項は、申請手続(2、3条)、免許基準(4条)、損害(損失)の補償(5~10条)などの規定を国による埋立に準用しているが、工事の竣工認可(22条)、埋立地の所有権の取得(24条)、
埋立免許の取消しや条件の変更、原状回復命令等の監督処分(32、33条)、免許の失効(34条)などの規定を準用していない。
 このように埋立法が私人による埋立と国による埋立を区別しているのは、両者の性質が異なるからであろう。私人の埋立は工場用地造成やリゾート施設建設など私的利益の実現を目的とするのに対し、国の埋立はインフラの整備による公益の実現を目的としている。国と都道府県知事はともに公益の代表者として相互に協力し合うことを前提としているのであり、埋立免許の取消しや監督処分の規定が準用されていないのは、相互の協力を前
提とすればこれらの規定を適用する必要がないためであると解される。
 よって、私人による埋立と国による埋立は異なっており、前者は私人の資格で行われるのに対し、後者は国固有の資格で行われると解すべきである。実際にも私人が軍事基地造成のために埋立を申請することなどあり得ないであろう。したがって、国による埋立申請は国固有の資格で行われたものであり、知事が埋立承認を取り消した場合において、国は行審法による審査請求や執行停止の申立てはできないと解される。
 仮に審査請求ができるとすると、国の機関による審査請求や執行停止申立てを同じ国の機関である国交大臣が審理することになり、一方的に国に有利となって不公正である。また、審査請求に対する裁決や執行停止決定を処分庁(本件では沖縄県知事)が争うことは困難であるから、この面から見ても不公正である。さらに、国による埋立については知事が事実上国の監督に服することになり、このような事態は国の地方公共団体に対する関与は必要最小限度とし、地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければならないとする地方自治法の原則(245条の3第1項)に違反するおそれがある。
(略)
(引用終わり)