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報道機関とファクトチェック~沖縄タイムス、琉球新報の挑戦とそれに続く報道機関への期待

 2018年11月14日配信(予定)のメルマガ金原No.3331を転載します。
 
報道機関とファクトチェック~沖縄タイムス琉球新報の挑戦とそれに続く報道機関への期待
 
 選挙にデマは昔から付きものでしたが、SNSがこれだけ普及し、それと反比例するかのように(特に若い人ほど)新聞を読まなくなった(多分)現在、デマの跳梁は目に余るものがあり、それが現実政治を思わぬ方向に動かすことは、世界的な潮流であるとさえ言えるようです。
 
 このような状況を踏まえ、今年9月に行われた沖縄県知事選挙においてネットを飛び交った悪質なデマを取り上げ、選挙期間中にファクトチェック記事の掲載を行った沖縄の地元2紙に全国的な注目が集まりました。
 ここでは、新聞週間に際し、両紙が掲載した社説をご紹介しようと思います。
 
琉球新報 社説 2018年10月15日 06:01
新聞週間 ファクトチェックは使命
(抜粋引用開始)
 きょうから新聞週間が始まった。71回目の今年は「真実と 人に寄り添う 記事がある」が代表標語だ。
 ネットを中心にフェイク(偽)ニュースがあふれる中、事実に裏打ちされた報道を続けてきた新聞社として、自らの役割と責務を改めてかみしめ、真実を追求する姿勢を持ち続けたい。
 琉球新報は今回の県知事選から「ファクトチェック(事実検証)」報道を始めた。これまで放置されがちだったネット上にはびこるデマやうそ、偽情報を検証し、その都度、記事を掲載した。
 最近の選挙では、明らかに誤った情報や真偽の不確かな情報が、あたかも事実であるかのように会員制交流サイト(SNS)などで拡散していた。投票行動に影響を及ぼす恐れも危惧されていた。
 中には現職の国会議員や元首長など公職経験者が、事実確認もせず、無責任に真偽不明の情報を流布させる事例もあった。公職選挙法では虚偽情報を流せば処罰対象となる。
 本紙は知事選で4本のファクトチェック記事を掲載したが、選挙運動の正常化に一定の貢献はできたと自負する。
 だが、SNSの拡散力は強い。偽ニュースに対しては、取材力と信頼度のある新聞などの既存メディアが正面から取り組んでいかないといけない時代だ。本紙の使命と覚悟も重いと認識している。
(略)
(引用終わり)
 
沖縄タイムス 社説 2018年10月16日 07:36
[「新聞週間」に]偽情報検証 新たな責務
(抜粋引用開始)
 9月30日に実施された県知事選はのちのち、「フェイク(偽)ニュース」が飛び交った初めての選挙として記憶されるかもしれない。
 知事選は事実上の一騎打ち。辺野古新基地建設の是非を巡り、安倍政権が総力を挙げ、政府対県の構図が鮮明になった。熾(し)烈(れつ)な選挙戦になったこともあってフェイクニュースがネット上にあふれた。候補者の人格をおとしめるような誹謗(ひぼう)中傷も出回った。
 今や会員制交流サイト(SNS)によって誰もが情報を発信することができる時代である。フェイクニュースを意図的に流し、それがツイッターリツイートされ、フェイスブックでシェアされる。瞬く間にネット空間に広がり、大量に拡散されていく。
 真偽不明な候補者のネガティブ情報も有権者を惑わす。
 これまでの知事選では見られなかった現象である。
 公正な選挙は民主主義の根幹をなすことを考えればフェイクニュースは社会の基盤をむしばむ重大な問題である。
(略)
 15日から「新聞週間」が始まった。本年度の代表標語は「真実と 人に寄り添う 記事がある」である。
 作者で東京都の友野美佐子さん(59)は「インターネットにはない、ファクトを追求し人間の心を伝える記事をこれからも読みたい」と真実を伝える新聞への期待を語る。
 知事選におけるフェイクニュースの横行は、沖縄タイムスにとってもほぼ初めての経験で専門家の意見を聞き、試行錯誤しながら検証した。ネット上からフェイクニュースの疑いのある68件を抽出。17件をピックアップし、ファクトチェック(事実確認)した3件を記事化した。
 米軍基地に関するフェイクニュースもネット上に多い。事実に基づいて一つ一つ反論し『誤解だらけの沖縄基地』としてまとめている。
 フェイクニュースをどういち早く打ち消していくか。新聞の新たな課題である。
(略)
(引用終わり)
 
 以上、沖縄タイムス琉球新報の社説に加え、「ファクトチェックと報道機関」を考える上で、是非読んでいただきたい記事をご紹介しておきます。
 NHKオンラインの中に、NHK政治マガジンというコーナーがあります。
 中でも、「特集」と銘打たれた記事は読み応えのあるものが多いようです。
 
 「特集」記事一覧を眺めていて、11月6日に配信された「選挙戦をファクトチェック 記者たちの挑戦」という記事に注目しました。
 
NHK政治マガジン 特集 2018年11月6日
選挙戦をファクトチェック 記者たちの挑戦
 
 3人の共同取材による記事のようですが、その内、社会番組部ディレクターの内山拓さん(平成13年入局。沖縄局、報道局、福島局で番組制作に携わる)が書かれた、記事冒頭の以下の部分に注目しました。
 
(引用開始)
沖縄では普通にデマが飛び交っていたのだ。
宿に戻りながら「沖縄県知事選」と検索してみると、「デマっぽい」情報が驚くほどたくさん拡散されていた。
フェイクニュースと対じするのはメディアの使命だ」。確かそんなことを、かっこいいフランス人記者が言ってたっけ。フランス大統領選のさなかでフェイクニュースを巡る複数の新聞社の戦いを追ったNHKのドキュメンタリーだったな…自分は一体何ができるだろう。
そう考えていた私(内山)は、ふだんは「クローズアップ現代プラス」などの報道番組を制作する部署にいる。沖縄知事選は、辺野古への新基地建設の是非を巡って全国的にも注目されており、知事選に関するフェイクニュースを調べ、信ぴょう性を判断して伝える「ファクトチェック」を、選挙期間中(公示日から投開票日まで)にやりたい、と提案した。
(引用終わり)
 
 この内山ディレクターの提案はどうなったのでしょう?もしも採用となっていれば、内山さんはこういう記事(沖縄タイムス密着取材)を書くこともなく、「クローズアップ現代プラス」で放送した自らのファクトチェック番組を事後的に検証する記事を書いていたことでしょう。そう、この記事のタイトルになっている「記者たちの挑戦」の「記者」というのは、沖縄タイムス(及び琉球新報)の「記者」のことなのです。
 
 結局、「クローズアップ現代プラス」で選挙期間中にファクトチェック番組を放送するというディレクターの提案が採用されることはありませんでした。
 その理由は以下のとおりでした。
 
(引用開始)
有権者が正しい情報をもとに投票できるようにするには「選挙期間中にしなければ意味がない」と考えた。世界の報道機関が行っているファクトチェックでは“常識”だが、提案に対する周囲の反応はこうだった。
NHKで選挙期間中に「ファクトチェック」できるか?
懸念のひとつは、公平の原則だ。番組の編集では政治的に公平であること、多くの角度から論点を明らかにすることなどは放送法でも定めているが、多くの意見が対立する選挙期間中は、特にそれが必要になる。
できるだけ公平に、それぞれの候補者に関する記事や映像の分量などに偏りがないようにするのが、NHKが長年続けてきた選挙報道の基本だ。選挙期間中にファクトチェックをしたことで、特定の候補に関するデマや言説が多く取り上げられると結果的に不公平になるのではないか、という懸念が出された。
また「人手や働き方の課題」もあった。選挙期間中は多くの、というよりほとんどの記者が、各候補者への支持がどこまで広がっているのかなどの「情勢取材」に追われる。今回も県知事選の取材に記者たちがあたっているなかで、ファクトチェックをする人手がないという現実を突きつけられた。
(引用終わり)
 
 NHK沖縄放送局で仕事をしていた時期もある内山ディレクターは、地元新聞社の沖縄タイムス社が、選挙期間中にファクトチェックのチームを立ちあげたことを知り、「選挙期間中は難しいといわれたファクトチェックをどう実施するんだろう、舞台裏を取材させてもらいたいと那覇に飛び、沖縄タイムス社を訪れた。9月20日、投開票日まであと10日だった。」というところからこの記事の本論は始まります。
 是非、リンク先のNHK政治マガジンに掲載された記事で全文をお読みいただきたいのですが、そのさわりの部分を引用しておきます。
 
(引用開始)
ファクトチェックプロジェクトを率いる、総合メディア企画局の與那覇里子記者と面会。沖縄タイムス社のファクトチェックの態勢や基準、課題など、こちらが次々に投げる質問に、忙しいにもかかわらず丁寧に答えていただいた。
那覇さんは、選挙戦が本格化し始めた9月初旬から、ネット上で真偽不明の情報が急激に増えて拡散されている状況に、危機感を募らせてきた。「誤った情報が投票行動に結びつけば、民主主義の根幹を揺るがしかねない」と今回のプロジェクトを発案したという。
特に印象に残ったことばがある。
「どう恣意(しい)性を排除できるか」
「タイムスは“ある種の論調のある新聞社”と、ネットなどではみなされています。それだけにファクトチェック自体が、我々の論調を補強するためのものだと思われてしまったら意味がありません。真偽不明の言説を、どちらかの陣営にくみするのではなくフェアに取り上げている。そう感じていただくためにどう公平性を担保し、どう恣意性を排除できるのか、そこが悩ましい」(與那覇里子記者)
那覇さんたちのチャレンジを記録して、過程で見える苦悩を伝えることで、社会全体でフェイクニュースとどう立ち向かえばいいかを問いかけられるのではないか。その取り組みは、これからNHKが選挙期間中にファクトチェックをすることになったときに、大いに参考になるのではないか。
人の褌(ふんどし)で相撲をとるような忸怩(じくじ)たる思いもあったが、沖縄タイムス社の取り組みを密着取材させていただきたいという思いを伝えて、後日、了承をいただいた。
しかし逆の立場だったら、私たちは取材に応じていただろうか。沖縄タイムス社の「度量」と、フェイクニュースに立ち向かうにはメディア間の連携が必要だという意識の高さに、頭の下がる思いがした。
(引用終わり)
 
 いかがでしょうか。この後に続く「沖縄タイムス・ファクトチェックチーム密着取材」の中身も大変興味深いものですが、NHKの報道の最前線にいるディレクターが、ここまで率直な記事を書いて発表していることを知って驚きました。
 正直言って、私が視聴するNHKの番組といえば、一にETV特集、二にNHKスペシャル、三、四がなくて五にハートネットTVといったところであり、7時のニュースも9時のニュースもとんと視たことはなく、ドラマや音楽番組に至っては、どんな番組を放映しているのかも知りません(受信料はずっと払っているのですがね)。
 森友問題を追及して事実上NHKを追われた現大阪日日新聞の相沢冬樹記者のことなどを聞くにつけても、NHKの報道姿勢について言いたいことは山ほどありますが、現場で頑張っている人もたくさんいるのを知ることは嬉しいですね。
 内山さんの取材の成果がNHKで放映されることを期待し、さらに選挙運動期間中に、しっかりしたファクトチェック番組をNHKが放映できる日が来ることを願いたいと思います。
 
(参考サイト)
 今日ご紹介したのは、新聞社や放送局による「ファクトチェック」への挑戦ですが、これを普段から市民レベルで頑張っているグループもあると聞いています。
 そのようなアカウント(Twitter)の一つをご紹介します(私も知人から教えてもらったのですが)。私のブログなど読みそうもない人たちに適切な情報を届けるためには、こういうアカウントを次々と立ち上げて、役割分担していくのが効果的なのだろうと思いますが、「デマを正す」のは手間が大変でしょうね。
 結局、「デマを正す」こともしっかりやりながら、積極的に訴えたいことを「届きやすい言葉」に変換して発信するスキルが求められているということでしょうか。
 
ネトウヨ兄のデマを正す妹bot
「いつも野党攻撃や人種差別のデマを信じ込んでは、周囲にそれを広めようとする困った兄を持っています。私に呟かせたい文面があったら、#ネトウヨ兄のデマを正す妹botハッシュタグで呟いてね☆ #ネトウヨ兄のデマを正す妹ゲーム も出来たよ。遊んでみてね。」