wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

安田純平氏バッシング問題から自問する~情報の「選好」という宿痾

 2018年11月17日配信(予定)のメルマガ金原No.3334を転載します。
 
安田純平氏バッシング問題から自問する~情報の「選好」という宿痾
 
 2015年6月にシリアで消息を絶ち、今年の10月下旬に解放されるまで、3年4か月もの長期間の身柄拘束に耐えたフリージャーナリストの安田純平さんに対し、日本国内で異常なバッシングが行われていることが大きな話題となったりしています。
 その原因を考究する論説記事を、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんが発表しており、一読、納得する部分も多くありましたのでご紹介しようと思います。
 ただし、私が抜粋して引用した箇所は、私の問題関心から選んだものですから、執筆者の中心的問題意識からは外れている可能性が十分あります。皆さまには、是非、リンク先で全文を通読していただきたいと思います。
 
JBPRESS 2018.11.17(土)
安田純平氏はなぜ「異常」にバッシングされるのか
黒井文太郎(軍事ジャーナリスト)
(抜粋引用開始)
 シリアで3年4カ月拘束されて帰国した安田純平さんに対するバッシング現象が起きている。考え方は人それぞれだが、筆者自身は、危険地報道に限らず、記者が取材の手法の是非、あるいは書いた内容などで読者・視聴者から厳しい批判を受けるのは当然だと思っているし、記者という職業についても、とくに特別なものとも思っていない。なので、今回の安田さんの件に関しても、行動の是非が問われても仕方ないとは思う。
 しかし、今の状況は、そうした正当な「批判」を越えた、個人攻撃の域に達している。こうした「誘拐された記者」を個人攻撃でバッシングするというのは、世界でも日本独特の現象だ。諸外国では基本的に「報道とはそういうもの」と認識されており、取材手法への批判はあっても、誘拐被害者をバッシングするという発想そのものが存在しない。そこは日本独特の風潮であり、そんな人々が熱中するパワーワードが「自己責任」である。
(略)
 実は日本は、もとからこうした批判が活発だったわけではなかった。これは報道の話ではないが、筆者の知るかぎり、人質をバッシングする最初の契機となった事件は、1991年に大学生サークルがパキスタンで川下り冒険中に山賊集団「ダコイト」に誘拐された事件だった。有名大学だったこともあり、「無謀」との文脈で非難されたが、不確かな情報からの誤解に基づく非難も多かったようだ。
(略)
 他方、現在のような、一般的な世論の中から、その一部として個人攻撃バッシングが出て来るという流れは、比較的最近の傾向である。
 決定的だったのが、2004年のイラク人質事件だろう。日本人3人を人質にした犯人グループが、日本政府に対し「自衛隊イラクからの撤退」を要求したことで、政治化した。単純な「日本人が犯罪者に拉致された」事案ではなく、政治的な主張をする人々の間で、「政府は同胞を助けろ(つまり自衛隊撤収せよ)」という主張と「捕まったのは自己責任だ(つまり自衛隊は撤収するな)」という主張がぶつかったのである。
 そして、「捕まったのは自己責任だ(つまり自衛隊は撤収するな)」派は、敵対論調と論戦するために、当の人質への激しいバッシングを開始する。人質という犯罪被害者に対する★政治的な★バッシングが、日本ムラ社会で「普通の論調」になったのは、この時だ。これこそが日本の特殊事情である。
(略)
 むろんネットにはさまざまな情報が飛び交っている。安田さんに関しても、攻撃する論調もあれば、擁護する論調、評価する論調もある。しかしネットのユーザーは概して、多様な見方を得るよりも、一部の見方に偏向する。バッシング論調をネット上で目にする人は、どこまでもバッシング論調を目にし、バッシング論調が当たり前と感じるようになる。今回の件で筆者もスタジオ出演した某番組で、司会者がバッシング論調を「こちらのほうが国民の声だ」と断言したが、それはつまり、この人がバッシング論調だけに偏向して接していることを表している。
 問題は、こうした人々が接しているバッシング論調を誘導するネット情報に、前述したようにフェイク情報をちりばめたネガティブ印象操作が多く存在することだ。
(略)
 このようにネット上で世論誘導を意図し、偏向した情報を拡散する行為を「トロール」と呼ぶが、トロールの影響力の拡大は世界的な傾向で、日本だけの問題ではない。アメリカ大統領選ではロシアが組織的に仕掛けて、トランプ政権誕生を後押しするなど、大きな政治問題化していることは周知のとおりだ。こうして誘導されたネット世論は、もはや現実社会に大きな影響を与えており、特に社会を対立構造で分断させる多大な効果が実証されている。
 しかし、日本が他の国とは違うもう1つの特殊事情は、こうしたネット発で伝播する論調の影響を受ける人々の中の一部の人が、マスメディア内で大きな発言力を持っていることだ。
 テレビ番組でニュースを扱う芸能人が典型例だが、他にも日本のドメスティックな分野を専門とする政治家や言論人、報道人も含まれる。中には国際政治の専門家もいたようだが、そうした人を含め、紛争報道やシリア事情ではみんな「素人さん」だ。これは何も彼らが劣っているということではなく、紛争報道やシリア事情という分野が日本ではきわめてレアな特殊分野であり、ほとんどのメディア言論人にとって馴染みのない分野だということである。かくして発言力のある人がネット発で拡散された誘導情報を元に「素人の感想」としてメディア内でバッシング発言を行い、そうした言説がネットのトロールと相乗効果を発揮して、バッシングが拡大していく。それが今回、起きている異常なバッシング騒動の基本的な構図である。
 かくして発言力のある人がネット情報を元に「素人の感想」としてメディア内でバッシング発言を行い、そうした言説がネットのトロールと相乗効果を発揮して、バッシングが拡大していく。それが今回、起きている異常なバッシング騒動の基本的な構図である。
(略)
(筆者からのお知らせ) 今回の安田純平さんの「事件」について、11月12日にBS11の「インサイドOUT 安田純平さん単独取材 拘束・解放の裏側」(キャスターは岩田公雄氏)という番組に高橋和夫氏(国際政治学者/放送大学名誉教授)とともに出演して議論した。バッシング騒動の捉え方、紛争地報道について、さらには今のシリア情勢について、ネットのトロールとは対極の、専門的な視点からの有意義な議論ができたと感じている。同局で11月21日まで無料アーカイブ配信されているので、興味のある方はぜひご覧になっていただきたい。
(引用終わり)
 
 ビックカメラ連結子会社が運営するBS11では、放送終了後の番組を、一定期間インターネットで無料配信しているのですね。黒井文太郎さんの文章の末尾で紹介されていた「インサイドOUT 安田純平さん単独取材 拘束・解放の裏側」は、調べてみると、放送後2週間(2018年11月26日まで)無料で視聴できるようになっていました。
 とても冷静に視ることができて勉強になりました。是非26日までに視聴されることをお勧めします。
 
BS11 オンデマンド
報道ライブ インサイドOUT「安田純平さん単独取材 拘束・解放の裏側」 
2018年11月12日放送分(2018年11月26日配信終了)
 
 ところで、私が「インサイドOUT 安田純平さん単独取材 拘束・解放の裏側」を是非視てみようと思ったのは、「安田純平氏はなぜ「異常」にバッシングされるのか」という記事を読んで、執筆者の黒井文太郎さんが信頼できる方だと感じたこと、さらに、放送大学名誉教授の高橋和夫先生については、同大学の学生として多くの講義を受講させていただき、とても尊敬している方であったからに違いありません。
 これに対し、安田さんバッシングをしていた番組にどんなものがあったのか知りませんが、辛坊治郎司会の「そこまで言って委員会NP」で仮に取り上げられたとしても、私がその番組を視ることは絶対にないでしょうね。
 
 実は、このような視聴態度は、黒井文太郎さんが書かれている「ネットのユーザーは概して、多様な見方を得るよりも、一部の見方に偏向する。」ということと基本的には同じことなのです。
 要するに、多くの人は(私自信ももちろんそうです)、自らが好む情報を選好して収集するものであって、見たくない、聞きたくない、読みたくない情報は、意識的、無意識的に排除するものであることは、かなり普遍的な現象と言って良いと思います。
 従って、黒井さんが指摘されている「バッシング論調をネット上で目にする人は、どこまでもバッシング論調を目にし、バッシング論調が当たり前と感じるようになる。」ということの逆もまた真なりであって、安田さんを擁護したいと考える者は、あえてバッシング情報を集めるというようなことはしないものです。
 
 私が、今日のブログのサブタイトルを「情報の「選好」という宿痾」としたのは、知らず知らずのうちに行っている情報の「選好」が、私たちが、「なぜ安倍政権を打倒できないのか」、「なぜ原発ゼロを実現できないのか」、「なぜ憲法改悪を本気で心配しなければならないのか」というような課題に直接繋がっているのではないか、という問題意識からなのです。
 
 いちいち、安田純平さんをバッシングするネットやテレビの情報を積極的に集める必要はないでしょうが、少なくとも、自分の態度や得ている情報が「偏っている」という自覚は必要なのだろうと思います。
 
 なお、最後に、安田純平さんによる日本記者クラブと日本外国特派員協会での記者会見の動画を、それぞれオフィシャルサイトからご紹介しておきます。
 「インサイドOUT」からのインタビューに、安田さんは、いまだに自宅に戻れず、友人宅などを転々としていると答えておられましたが、司会の岩田公雄さんが言われていたとおり、1日もはやく自宅でゆっくりと休養していただきたいものですね。
 
日本記者クラブでの記者会見動画(オフィシャル)
ジャーナリスト 安田純平氏 会見 2018.11.2(2時間41分)
 
日本外国特派員協会での記者会見動画(オフィシャル)
Jumpei Yasuda: Journalist, being held as hostage by militants in Syria for 40 months(1時間27分)