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自民党の緊急事態条項・条文イメージ(たたき台素案)を読む~付・永井幸寿弁護士が訴える緊急事態条項の危険性

 2018年11月18日配信(予定)のメルマガ金原No.3335を転載します。
 
自民党の緊急事態条項・条文イメージ(たたき台素案)を読む~付・永井幸寿弁護士が訴える緊急事態条項の危険性
 
 安倍晋三内閣総理大臣が、自衛隊の幹部会同や観閲式、それに今臨時国会冒頭の施政方針演説で、憲法99条によって課せられた憲法尊重擁護義務もかなぐり捨て、改憲に強い意欲を示しているのが「憲法への自衛隊の明記(9条の2の新設)」であるため、自民党改憲すべき項目として絞り込んだ4項目中、どうしても自衛隊明記に注目が集まるのは仕方がないことですが、緊急事態条項(自民党は「緊急事態対応」と呼称)も、なかなかどうして、自衛隊明記に匹敵する危険性をはらんでいます。
 
 もともと、2012年4月27日に公表された自民党日本国憲法改正草案」では、「第九章 緊急事態」という章(98条及び99条)を新設するということになっていました。その条文案を引用しておきます。
 
   第九章 緊急事態
 (緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
 (緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
(引用終わり)
 
 内閣の判断で緊急事態宣言を発すれば(国会の承認を要するということになっていますが、一般的に個々の議員が自立していない日本の政党政治の実態からすれば、過半数を有する与党の賛成多数で承認されるに決まっています)、ほぼ内閣が独裁権を手中にするという恐ろしい条項であるということで強い批判を浴びたものです。
 
 それが、今般、自民党がとりまとめた改憲4項目ではどうなったのでしょうか?
 実際に読んだことのある人がどれくらいいるのか、2012年草案の98条、99条に比べても、それほど多いようには思えませんので、自民党憲法改正推進本部が、党大会の翌日(2018年3月26日)に公表した「憲法改正に関する議論の状況について」に掲載された「緊急事態対応について」の全文(含「条文イメージ(たたき台素案)」)を引用します。
 
自由民主党 憲法改正推進本部 2018年3月26日
憲法改正に関する議論の状況について
(抜粋引用開始)
1 これまでの議論の経過 (略)
2 各テーマにおける議論の状況と方向性
(1)自衛隊の明記について (略)
 
(2)緊急事態対応について
【緊急事態対応が立法化された背景】
 諸外国の憲法の緊急事態条項は、各国の歴史や隣国との関係などに応じて発展してきた。例えば、ドイツ憲法では、ナチスの反省や東西ドイツの分断を背景にした詳細な緊急事態条項が設けられている。また、フランス憲法では、ナチスの侵略経験を踏まえ「大統領の緊急措置権」などの簡潔な緊急事態条項のみを憲法に規定するものの、具体の対応は「緊急状態法」を制定して、内乱・テロに対応している。
 日本国憲法では、制定時には「国家緊急権」の実定化を提案したものの、民主主義を徹底する観点から、緊急時の「参議院の緊急集会」の制度のみを設け、具体的な緊急事態対応は、個別の法律により対応してきた。具体的には、自然災害については、伊勢湾台風の発生を契機に、災害対策基本法を制定し「災害緊急事態」の章を設けるとともに、阪神・淡路大震災東日本大震災など、大災害に対応して改正を行い、緊急事態に対応した災害対策法制を整備してきたところである。また、いわゆる「有事」における国民の生命と財産の保護についても、武力攻撃事態対処法を踏まえた「国民保護法」が制定され、緊急事態に対応する枠組みが整備された。
憲法改正の必要性】
 わが国では有史以来、巨大地震津波が発生しており、南海トラフ自信や首都直下型地震などについても、想定される最大規模の地震津波等へ迅速に対処することが求められている。
 このため、憲法に「緊急事態対応」の規定を設けることにより、「国民の生命と財産の保護」の観点から、①緊急事態においても国会の機能を可能な限り維持すること、②国会の機能が確保できない場合に行政権限を一時的に強化し迅速に対処する仕組みを設けることが、適当であると考える。具体的には、①選挙実施が困難な場合における国会議員の任期延長等、②個別法に基づく緊急政令の制定の規定を設けることができる旨規定しておくことが、立憲主義の精神にもかなうと考えられる。
 以上を踏まえれば、「緊急事態対応」についての「条文イメージ(たたき台素案)」として、次のようなものが考えられるのではないか。
第七十三条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
 (※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
第六十四条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
 (※国会の章の末尾に特例規定として追加)
【その他の意見】
 なお、緊急事態の対象を「大地震その他の異常かつ大規模な災害」に限定せず、「外部からの武力攻撃」や「大規模テロ・内乱」も対象にすべきとの意見もあった。
 
(3)合区解消・地方公共団体について (略)
(4)教育充実について (略)
3 憲法改正の発議に向けて
 憲法改正は、国民の幅広い支持が必要であることに鑑み、4テーマを含め、各党各会派から具体的な意見・提案があれば真剣に検討するなど、建設的な議論を行っていく。
 現在議論中の「条文イメージ(たたき台素案)」は、完成された条文ではなく、この案をもとに衆参の憲法審査会で党の考え方を示し、憲法審査会で活発な議論が行われるよう努める。
 「条文イメージ(たたき台素案)」をたたき台とし、衆参憲法審査会や各党・有識者の意見や議論を踏まえ、「憲法改正原案」を策定し国会に提出する。そのため、衆参憲法審査会では、これまでの丁寧な運営方針を継承し幅広い合意形成を図るとともに、国民各層への幅広い理解に努める。
(引用終わり)
 
 どうでしょうか、2012年草案と比べれば、少しは「ましになった」と思いますか?私には全然そうは思えませんが。
 上記の「緊急事態対応について」を読んだ上での私の雑駁な感想をいくつか書き留めておきます。
 
〇まず、文章の構成が全然論理的ではありません。【緊急事態対応が立法化された背景】が縷々説明されていますが(ドイツ憲法やフランス憲法の緊急事態条項についての説明は簡略過ぎて不適切だと思いますが、それはさておき)、それに続く【憲法改正の必要性】を述べるための論理的前提に全然なっていません。
 【憲法改正の必要性】の冒頭で、「わが国では有史以来、巨大地震津波が発生しており、南海トラフ自信や首都直下型地震などについても、想定される最大規模の地震津波等へ迅速に対処することが求められている。」という文章が来ても、災害対策法制に不十分な点があれば必要な改正をし、大規模災害に対応するための予算や訓練を充実すれば良いではないか、ということになるのが当然の論理であるにもかかわらず、これに続いていきなり、「このため、憲法に「緊急事態対応」の規定を設けることにより、(略)ことが、適当であると考える。」と何の説明もなく主張するのですから、無茶苦茶です。
〇「条文イメージ(たたき台素案)」は、2012年草案に比べて短くなっていますので、控え目な内容になったと誤解する人がいるかもしれませんが、それは実質的な中身をあげて法律に委任してしまっているからであり(法律で定めるところにより)、これで「立憲主義の精神にもかなう」というような主張がどうしてできるのか(真逆ではないか)、呆れざるを得ません。
〇2012年草案では「法律と同一の効力を有する政令」となっていたのが、たたき台素案では単に「政令」となっていますが、実質的には同じ内容のものを企図している規定と考えておいた方がよいでしょう。
〇問題は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」が、自然災害に限定されるのか、それ以外のものも含むのかという点です。【その他の意見】を読むと、自然災害に限られるような気もしますが、条文というのは、いったん成立してしまえば一人歩きするものであることを忘れてはなりません。また、国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)では、「武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害」のことを「武力攻撃災害」と定義しており(同法2条4項)、日本の実定法上、「災害」という用語は「自然災害」よりも明らかに広い概念として使用されていることも念頭に置いておかねばなりません。
 
 ところで、元日弁連災害復興支援委員会委員長であり、弁護士の中でも災害分野における第一人者であった永井幸寿(ながい・こうじゅ)弁護士(兵庫県弁護士会)は、いまや緊急事態条項の危険性を語っては右に出る者がいないというくらい、大きな危機感をもって講演活動などをされています。
 
 その永井先生が、昨日(11月17日)、神戸市勤労会館(神戸市中央区)で開かれた「緊急事態条項はいらない!市民集会 in 神戸」(主催:こわすな憲法!いのちとくらし!市民デモHYOGO)において、「憲法に緊急事態条項は必要か」と題して講演され、その模様がIWJによって中継され、全編動画が視聴できます。
 とても分かりやすくお話されていますので、是非1人でも多くの方が視聴されますよう、拡散にご協力ください。
 
緊急事態条項はいらない!市民集会 in 神戸 ― 永井幸寿弁護士 講演「憲法に緊急事態条項は必要か」ほか 2018.11.17
記事公開日:2018.11.17取材地:兵庫県 動画(1時間19分)
 
 なお、永井先生は、改憲4項目のうちの緊急事態対応・条文イメージ(たたき台素案)がとても危険なものになっていることへの理解が進まぬことに危機感を抱き、IWJの岩上安身氏に企画を持ち込み、今年の5月21日にインタビューが行われました(全編動画は、今はサポート会員でないと視聴できませんので、ハイライト動画を併せて紹介しておきます)。
 
いつでも独裁が可能!? いつまでも独裁が可能!? 憲法で堂々と独裁を肯定!? より危険性が高まった自民党改憲の緊急事態条項!~5.21岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー 2018.5.21
記事公開日:2018.5.22取材地:東京都 動画独自
 
ハイライト動画(12分)
 
 以上のハイライト動画だけでも、十分に視る価値はあると思いますよ。
 
 なお、このインタビューをテキスト化したものが、有料ですが入手できますのでご紹介しておきます。
 
ほとんどの日本人が気づいていない!! 自民党改憲4項目の #ヤバすぎる緊急事態条項で、より高まったファシズムへの危険性!安倍総理臨時国会の所信表明で改憲への強い執念を表明!全国民必見必読の岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー 2018.10.30
記事公開日:2018.10.30 テキスト