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中川五郎さんのバラッド「関東大震災朝鮮人差別三部作」をあらためて聴く

 2018年11月24日配信(予定)のメルマガ金原No.3341を転載します。
 
中川五郎さんのバラッド「関東大震災朝鮮人差別三部作」をあらためて聴く
 
 小室等さんが「日本で今一番のバラッドシンガーだ。」と評した中川五郎さんについては、これまでにも何度かブログでその楽曲をご紹介してきました(週刊金曜日オンライン
2018年7月1日7:00AM小室等「ピーター・ノーマン2」)。
 巻末に、私のブログで取り上げた中川五郎さん関連の記事にリンクしていますが(多分かなり漏れもあります)、そこでご紹介した曲名をリストアップしてみましょう。
 
『We Sall Oercome~大きな壁が崩れる』
『一台のリヤカーが立ち向かう』
『題不明(ボブ・ディラン『ライセンス・トゥ・キル』の替え歌)』
『Sports for tomorrow』
『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』
『理想と現実』&『西暦20XX年』
『ピーター・ノーマンを知っているかい?』
 
 ブログに付けたタイトルのとおり、今日は、中川五郎さんが「関東大震災朝鮮人差別三部作」として作り歌っている3曲のバラッド(中川さん自身は「長い物語歌」と書かれています)を、YouTubeの画像でまとめてご紹介しようと思います。
 その三部作とは、作られた順に、
  『1923年福田村の虐殺』
  『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』
  『真新しい名刺』
です。
 昨年の9月、中川五郎さんとフォトグラファーの岡本尚文さんによるコラボレーション
Dig Music Gazetteの4年ぶりの新作として『真新しい名刺』がアップされた際、中川さんがこの3部作に込めた思いを文章にまとめておられますので、それを引用したいと思います(全文引用はいかがかとも思いましたが、おそらくお許しいただけるだろうということで転載しました)。
 
Dig-Music Gazette 14
真新しい名刺 中川五郎
原作・金素雲
曲・アメリカ民謡
(引用開始)
 1923年(大正12年)9月の関東大震災の後、朝鮮人たちが暴動を起こすというデマが飛び交い、そのデマに煽られて自警団の男たちが朝鮮人や中国人、あるいは朝鮮人や中国人と間違えて日本人を襲い、殺害したり傷つける事件が各地で相次いだ。そのできごとに関連して、ぼくはこれまでに長い物語歌を3曲作っている。
 最初に作ったのは、1923年9月6日に千葉県の旧福田村で起こった事件のことを歌った「1923年福田村の虐殺」で、その事件は森達也さんの『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』の中に収められていた「ただこの事実を直視しよう」というエッセイを読んで初めて知り、その後様々な資料にもあたって2009年6月に歌にした。
 次に作ったのは、「トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース」で、これは加藤直樹さんの『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』という本を読み、その中の9月2日の夜に東京の千歳烏山で起こった事件のことが書かれた「椎の木は誰のために」という文章をほとんどそのまま歌詞にして歌にしたものだ。
 そして3曲目が「真新しい名刺」だ。これは韓国を代表する詩人、随筆家で、文筆活動を通じて日韓両国の間にある「こころの壁」をうち崩すために大きな役割を果たした金素雲さん(1907~1981)が、1954年9月に『文藝春秋』に書かれた「恩讐三十年」という連作の随筆の中の「真新しい名刺」の文章ほとんどすべてを歌詞にし、ウディ・ガスリーの「Tom Joad」のメロディに合わせて2015年夏に歌にしたものだ。金素雲さんの随筆は一人称で書かれていたが、ぼくは歌にするにあたって三人称に変えた。
 これらの3曲を今のところぼくは「関東大震災朝鮮人差別三部作」として歌っている。しかし朝鮮人の土工たちが殺傷されたことを歌った「トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース」や朝鮮人と間違われて四国の行商人たちが虐殺されたことを歌った「1923年福田村の虐殺」と「真新しい名刺」は、同じ三部作でもその内容は大きく異なっている。舞台は関東ではなく大阪だし、事件も朝鮮人が襲われたり、傷つけられたり、殺されたりしたのではなく、集団リンチされそうになった朝鮮人が一人の日本人の出現によって救われている。
 ぼくが関東大震災直後のできごと、とりわけデマによって朝鮮人や中国人など異国の人たちが敵扱いされ、殺傷されたり、殺傷されそうになったできごとを歌うのは、それから94年後のこの国で、また同じようなデマが飛び交い、「朝鮮人を殺せ」と街中で大声で叫ぶ人たちが現れ、そんな浅ましい行動がみんなの力で駆逐されることもなく、ほとんどの人たちが見て見ぬ振りをして許しているからだ。そして昔と同じような事件がまたもや繰り返されようとしている。そんな状況の中、二度とそんな愚かなことを繰り返さないために、94年前に自分たちの国で何が起こったのか、自分たちの国の人たちが何をしたのか、ひとりひとりがその事実を今一度しっかりと見つめ、よく考えることがとても大切だとぼくは思っている。だからこそ今ぼくは90年以上も前にこの国で起こったことを次々に歌にして歌っているのだ。
 これらの「三部作」で、ぼくは事件を詳しく歌い、激しい怒りをぶつけている。しかし激しい怒りの奥には、人間とは素晴らしいものだ、人と人は信じ合えるものだ、人と人は助け合えるものだという強い思いがあり、ぼくは怒り以上にその思いをみんなに伝えたいがためにこれらの歌を歌っている。
「何だ、ヒューマニズムか」、「けっ、性善説かよ」と見下して言う人もきっといることだろう。それでもぼくは人を信じたいし、人間ってほんとうは素敵なんだと思っている。
 今こんな時代だからこそ、ぼくは「真新しい名刺」の中の金素雲青年を助けた西阪保治さんの「あたりまえ」の言葉が、とても大きな意味を、とても強い意味を持っているように思う。「日本人が」、「朝鮮人が」、「国籍が」、「血が」と大騒ぎする2017年のこの国の中で、ぼくは「人間っていったい何だろう」と繰り返し何度も考えながら、「真新しい名刺」を歌っている。
(引用終わり)
 
 以上の中川さんの文章に私が付け加えることは何もありません。
 YouTubeで公開されている三部作をご紹介します。是非じっくりと耳を傾けていただければと思います。
 
『1923年福田村の虐殺』(23分09秒)
 
『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』(16分55秒)
 
『真新しい名刺』(12分44秒)
 
(関連情報)
 「YouTubeもいいけれど、CDはないの?」という人のための情報です。
 『トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース』はCDシングルになっており、それを入手して私もブログを書いたのでした。 
 
 それから、『1923年福田村の虐殺』と『真新しい名刺』の2曲は、2017年1月にコスモスレコーズから発売された2枚組のライブ・アルバム『どうぞ裸になって下さい』(3,600円+税)に収録されています。
AMAZONでは今、3,440円(税込)で注文できます。
※『どうぞ裸になって下さい』収録曲
ディスク 1
1. 運命 運命 運命 玄侑宗久:詞/中川五郎:曲
2. 言葉 奈良少年刑務所の受刑者:詩/中川五郎:曲
3. 愛情60 金子光晴:詩/中川五郎:曲
4. しきぶとんさん かけぶとん さんまくらさん 高野文子:詞/中川五郎:曲
5. イマジン ジョン・レノン:詞/曲〈中川五郎:日本語詞〉
6. どうぞ裸になって下さい 村山槐多:詩/中川五郎:曲
7. 90センチ 中川五郎:詞/曲
8. 真新しい名刺 金素雲:原作/アメリカ民謡:曲
ディスク 2
1. Sports For Tomorrow 中川五郎:詞/トラディショナル・ブルース:曲[東京五輪招致スピーチにもとづき]  ※スピーチは安倍晋三首相による(金原)
2. 二倍遠く離れたら 中川五郎:詞/曲
3. 消印のない手紙 桜井哲夫:詩/中川五郎:曲
4. 一台のリヤカーが立ち向かう 中川五郎:詞/曲
5. 1923年福田村の虐殺 中川五郎:詞/アメリカ民謡:曲
6. 風に吹かれ続けている ボブ・ディラン:詞/曲〈中川五郎:日本語詞〉
 
 なお、このアルバムを共同プロデュースし、ピアノとコーラスでも参加している沢知恵(さわ・ともえ)さんは、『真新しい名刺』に登場する朝鮮人の若者(金素雲さん)のお孫さんにあたります。
 昨年の9月1日、関東大震災から94年目の日に、『どうぞ裸になって下さい』に収録された2曲について沢さんがFacebookに書かれた文章から一部引用します。是非、このライブ・アルバムも多くの人に聴いて欲しいですね。
 
(抜粋引用開始)
今日9月1日は、関東大震災をおぼえる日。
わがコスモスレコーズから発売された中川五郎さんの最新アルバム〈どうぞ裸になって下さい〉には、関東大震災に関連するうたが2つ入っています。
 
《真新しい名刺》は、《こころ》の訳詩者である祖父、金素雲の随筆を五郎さんがうたにしたもの。
十代半ばで東京を焼け出された祖父は、あえて朝鮮服を着て大阪の市電に乗り、車掌とひともんちゃく。
終点でひきずり出され、おおぜいに囲まれ、殴りかかられそうになったところを、ひとりの日本人に助けられるという実話です。
朝鮮人虐殺とかヘイトスピーチのことはもちろんですけど、何より、人は捨てたものではない、というメッセージが力強く響く一編です。
 
私が好きなのは・・・
 
「悪かったら悪かったとなぜ素直に謝れんのだ。きみたちは一体、どれほど立派な人間のつもりだ。海山越えて遠い他国に来た人たちを、いたわり助けは出来ないまでも、多勢をたのんで力ずくでカタをつけようという、それじゃまるで追剥ぎか山賊じゃないか。そんな了見で、そんな根性で、きみたちは日本人でございと威張っているのか」
 
「どうか許してやってくれたまえ、きょうのことは私が代わってお詫びをする。これから先、またどんなイヤな思いをするかも知れんが、それが日本人の全部じゃないんだからね。腹が立つときはこの私を想い出してくれたまえ」
 
金素雲「真新しい名刺」より)
 
まさかあの随筆をそのままうたってしまうとは。
予告なしで目の前で聞かされた岡山の夜、びっくりして、気がつくと涙があふれていました。
 
祖父を助けた牧師の西阪保治さんがいなかったら、私は生まれていなかったかもしれません。
ときを越え、その西阪さんの息子さんと、偶然おなじ教会に通うことになり、西阪さんが社長をつとめた新教出版社から本を出し、私はいま、息子の盾さんのお連れ合いである90代の道さんと文通しています。
不思議な不思議なめぐりあわせです。
 
もうひとつは、《1923年福田村の虐殺》です。
関東大震災のあと、こんなひどいことが千葉県で起きたなんて。
恥ずかしながら、五郎さんがうたうのを聞くまで知りませんでした。
香川県から来た行商の人たちが、方言がきついと朝鮮人にまちがえられ・・・。
24分の長いうたを、五郎さんと私、二人きりで演じています。
物語にも衝撃を受けますが、五郎さんの淡々とした語りがあつく迫ってくる名演です。
 
(略)
 
つい最近、歴史好きの息子9歳にたずねられました。
「ママ、歴史はなんのために勉強するの?」
 
知るために。
心で受け留め、いまを生きるために。
未来につなげるために。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/中川五郎さん関連)
2012年8月22日(2013年2月11日に再配信)
中川五郎さんの新しい“We Sall Oercome”=『大きな壁が崩れる』
2012年9月25日(2013年2月3日に再配信)
『一台のリヤカーが立ち向かう』~彼は3.11前から3.11後を歌っていた~
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