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「九条俳句」裁判が確定~その成果を糧として

 2018年12月22日配信(予定)のメルマガ金原No.3369を転載します。
 
「九条俳句」裁判が確定~その成果を糧として
 
 「『九条俳句』市民応援団」というWEBサイトの中の「これまでの経緯」というページの冒頭にはこう書かれています。
 
(引用開始)
東京・銀座で、集団的自衛権の行使容認に反対するデモ。それを見たさいたま市大宮区の女性(74・現原告)が
  梅雨空に 『九条守れ』の 女性デモ
と詠み所属する俳句教室で発表しました。
とても良い句だということで、その教室で会員の互選によって、翌月の公民館報に載せる句に選ばれました。
それを三橋公民館が独断で掲載を中止し、公民館報の俳句コーナーを削除して発刊しました。
ここからこの問題が始まりました。
(引用終わり)
 
 以下、詳細な年表が(今のところ、2018年9月2日まで掲載)続くのですが、それによると、女性がデモを見て「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という句を詠んだのが2014年6月上旬、俳句教室の互選によって公民官報掲載句に選ばれたのが同年6月24日、その翌25日、三橋公民館(さいたま市)が「公民館の意見と誤解される恐れがある」として掲載拒否を連絡し、同月30日、同公民館が俳句コーナーを削除して公民官報7月号を発行したという流れとなります。そして、その公民官報が発行された翌7月1日、安倍内閣集団的自衛権を一部容認する閣議決定を行ったという時系列の中で、否応なく、この「九条俳句掲載拒否事件」が、表現の自由を脅かす行政機関の政治的忖度、社会教育の危機という文脈で考えざるを得ないものになっていったのでした。
 
 掲載拒否から1年後の2015年6月25日、女性はさいたま市を被告として、「1 被告は、原告に対し、さいたま市三橋公民館において発行する三橋公民館だよりに、別紙目録の「1 体裁」の項記載のとおりの体裁で、「【●俳句会】 梅雨空に 「九条守れ」の 女性デモ ● 」のとおりの文書を掲載せよ。」「2 被告は、原告に対し、金200万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」との民事訴訟さいたま地方裁判所に提起しました。
 
 その後、昨年(2017年)10月13日にさいたま地方裁判所で、今年(2018年)5月18日には東京高等裁判所で、いずれも被告さいたま市の責任を認め、(低額とはいえ)原告に損害賠償を命じる判決が言い渡されました。
 これらの判決については、既に私のブログでご紹介していますので、ご参照いただければと思います。なお、地裁判決、高裁判決とも、裁判所WEBサイトの裁判例情報のコーナーから判決本文を検索できますので、そのPDFファイルにもリンクしておきます。
 
弁護士・金原徹雄のブログ 2017年10月13日
「九条俳句」裁判、さいたま地裁が画期的判決~思想・信条を理由とした公民館誌への掲載拒否と認定
 
さいたま地方裁判所 平成27年(ワ)第1378号 
(主文を引用)
1 被告は,原告に対し,5万円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを70分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
 
弁護士・金原徹雄のブログ 2018年5月20日
「九条俳句」東京高裁判決(2018年5月18日)と社会教育の危機
 
東京高等裁判所 平成29年(ネ)第5012号
(主文を引用)
1 第1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
 (1) 第1審被告は,第1審原告に対し,5000円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2) 第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 第1審原告の本件控訴を棄却する。
3 第1審原告の当審における追加請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを400分し,その399を第1審原告の負担とし,その余を第1審被告の負担とする。
5 この判決は,1項(1)に限り,仮に執行することができる。
 
 結局、さいたま市も一審原告も、共に上告及び上告受理申立てを行ったのですが、朝日新聞の伝えるところによると、「最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、5千円の賠償を命じた二審判決を支持し、20日付の決定で市と女性の上告を退けた。」とのことです。
 
朝日新聞デジタル 2018年12月21日17時46分
九条俳句、公民館だより不掲載は違法 最高裁で確定
(抜粋引用開始)
 「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」。こう詠んだ俳句が秀句に選ばれたのに公民館だよりに載らず、精神的苦痛を受けたとして、作者の女性(78)がさいたま市に200万円の慰謝料などを求めた訴訟で、不掲載を違法とした判断が確定した。最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は、5千円の賠償を命じた二審判決を支持し、20日付の決定で市と女性の上告を退けた。
(略)
 一審・さいたま地裁は、公民館では3年以上、秀句を公民館だよりに載せ続けていたと指摘。秀句を掲載しなかったことは、思想や信条を理由にした不公正な取り扱いで「句が掲載されると期待した女性の権利を侵害した」として、5万円の慰謝料を認めた。
 二審・東京高裁は、集団的自衛権の行使について世論が分かれていても、不掲載の正当な理由とはならないとし「女性の人格的利益の侵害にあたる」と判断。不掲載の経緯などを踏まえ、慰謝料の額を減額した。
 作者の女性は支援者を通じ「ほっとしました。裁判が長く続いたことに、本当に行政は情けないと思っていた。早急に句の掲載を求めたい」とのコメントを出した。(岡本玄)
(引用終わり) 
 
 これで、「第1審被告は,第1審原告に対し,5000円及びこれに対する平成26年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と命じた東京高等裁判所の判決が確定したわけです。
 2014年6月にこの句を詠んだ時74歳だった第1審原告の女性も、裁判が(実質勝訴で)終結した時点で78歳になっておられたわけで、「よく頑張ってくださいました」と、頭が下がる思いです。
 行政による「政治的忖度」の蔓延に歯止めをかけ、市民の最も基礎的な人権である「表現の自由」を守るため、果敢に闘ってくださった原告、弁護団、そして市民応援団の皆さんに、あらためて心からの敬意を表するとともに、その成果を糧として、私たち1人1人が「不断の努力」(日本国憲法12条)を怠らぬように決意したいと思います。
 そのためにも、確定した東京高裁判決の重要部分を再確認しておきましょう。
 
(抜粋引用開始)
争点(8)(本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことが,第1審原告の人格権ないし人格的利益を侵害し,国家賠償法上,違法であるか)について
(1) 公民館は,市町村その他一定区域内の住民のために,実際生活に即する教育,学術及び文化に関する各種の事業を行い,もって住民の教養の向上,健康の増進,情操の純化を図り,生活文化の振興,社会福祉の増進に寄与することを目的とした施設であり(社会教育法20条),国及び地方公共団体が国民の文化的教養を高め得るような環境を醸成するための施設として位置付けられている(同法3条1項,5条参照)。そして,公民館は,上記の目的達成のために,事業として①定期講座を開設すること,②討論会,講習会,講演会,実習会,展示会等を開催すること,③図書,記録,模型,資料等を備え,その利用を図ること,④体育,レクリエーション等に関する集会を開催すること,⑤各種の団体,機関等の連絡を図ること,⑥その施設を住民の集会その他の公共的利用に供することとされ(同法22条),さらに公民館は,住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)として,普通地方公共団体は,住民が公民館を利用することについて,不当な差別的取扱いをしてはならないと解される(地方自治法244条3項)。
 公民館の上記のような目的,役割及び機能に照らせば,公民館は,住民の教養の向上,生活文化の振興,社会福祉の増進に寄与すること等を目的とする公的な場ということができ,公民館の職員は,公民館が上記の目的・役割を果たせるように,住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の実現につき,これを公正に取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきである。
 そして,公民館の職員が,住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき,その思想,信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをしたときは,その学習成果を発表した住民の思想の自由,表現の自由憲法上保障された基本的人権であり,最大限尊重されるべきものであることからすると,当該住民の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法となるというべきである(最高裁平成17年7月14日第一小法廷判決・民集59巻6号1569頁参照)。
(2) これを本件についてみると,前提事実(3)及び(5)のとおり,三橋公民館は,本件合意に基づき,平成22年11月から平成26年6月まで3年8か月間にわたり,本件句会が提出した秀句を一度も拒否することなく継続的に本件たよりに掲載してきており,本件たよりに掲載する俳句の選定を基本的に本件句会に委ねていたと認められるところ,従前と同様の選考過程を経て本件句会が提出した本件俳句については,それまでの他の秀句の取扱いと異なり,その内容に着目し,本件俳句の内容が,その当時,世論を二分するような憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものであるとの解釈に反対する女性らのデモに関するものであり,本件俳句には,第1審原告が憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想,信条を有していることが表れていると解し,これを本件たよりに掲載すると三橋公民館の公平性・中立性を害するとの理由で掲載を拒否したのであるから,第1審被告の上記掲載拒否行為は,第1審原告の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき,第1審原告の思想,信条を理由に,これまでの他の住民が著作した秀句の取扱いと異なる不公正な取扱いをしたものであり,これによって,第1審原告の上記人格的利益を違法に侵害したというべきである。
(3) 第1審被告は,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載することは,世論の一方の意見を取り上げ,憲法9条集団的自衛権の行使を許容すると解釈する立場に反対する者の立場に偏することとなり,中立性に反し,また,公民館が,ある事柄に関して意見の対立がある場合,一方の意見についてのみ発表の場を与えることは,一部を優遇し,あるいは冷遇することになり,公平性・公正性を害するため,許されないから,本件俳句を本
件たよりに掲載しなかったことには,正当な理由がある旨主張する。
 しかし,前提事実(3)エのとおり,本件俳句を本件たよりに掲載する場合、原判決別紙俳句目録1記載のように,本件句会の名称及び作者名が明示されることになっていることからすれば,本件たよりの読者としては,本件俳句の著作者の思想,信条として本件俳句の意味内容を理解するのであって,三橋公民館の立場として,本件俳句の意味内容について賛意を表明したものではないことは,その体裁上明らかであるから,本件俳句を本件た
よりに掲載することが,直ちに三橋公民館の中立性,公平性及び公正性を害するということはできない。また,前記(1)で説示したとおり,公民館の職員が,住民の公民館の利用を通じた社会教育活動の一環としてなされた学習成果の発表行為につき,その思想,信条を理由に他の住民と比較して不公正な取扱いをすることは許されないのであるから,ある事柄に関して意見の対立があることを理由に,公民館がその事柄に関する意見を含む住民の学習成果をすべて本件たよりの掲載から排除することは,そのような意見を含まない他の住民の学習成果の発表行為と比較して不公正な取扱いとして許されないというべきである。
 以上によれば,本件俳句が詠まれた当時,集団的自衛権の行使につき世論が大きく分かれていたという背景事情があったとしても,三橋公民館が本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことにつき,正当な理由があったということはできず,三橋公民館及び桜木公民館の職員らは,本件俳句には,第1審原告が憲法9条集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきではないという思想,信条を有していることが表れていると解し,これを理由として不公正な取扱いをしたというべきであるから,上記職員らの故意過失も認められ,第1審被告の主張は採用することができない。
(4) したがって,三橋公民館及び桜木公民館の職員らが,第1審原告の思想や信条を理由として,本件俳句を本件たよりに掲載しないという不公正な取扱いをしたことにより,第1審原告は,人格的利益を違法に侵害されたということができるから,三橋公民館が,本件俳句を本件たよりに掲載しなかったことは,国家賠償法上,違法というべきである。
(引用終わり)