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代替わり後はじめての全国戦没者追悼式に注目した~貫徹される「安倍三原則」と新天皇「おことば」

 2019年8月15日配信(予定)のメルマガ金原No.3426を転載します。
 
代替わり後はじめての全国戦没者追悼式に注目した~貫徹される「安倍三原則」と新天皇「おことば」
 
 2013年1月24日から今年(2019年)の1月25日まで、丸6年間にわたって「毎日更新」を続けてきた「弁護士・金原徹雄のブログ」ですが、体調の問題から中断を余儀なくされ、再開後の更新も思うにまかせず、今月に入ってからはまだ一度も更新していないというありさまです。
 ただし、今日(8月15日)という特別な日には、何としてもパソコンに向かってブログを書かざるを得ないと思っていました。そして、幸か不幸か、ちょうど台風10号の西日本襲来のため、予定されていた刑事事件の公判が延期となったため、思わぬ盆休みとなり、ブログを書くための時間的余裕が生まれました。
 
 巻末のリンク一覧をご覧いただければお分かりのとおり、私は、2014年以来過去5年間、毎年8月15日には、その日開催された全国戦没者追悼式での安倍晋三内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」に注目してきました。
 そして、皇室が代替わりして最初の全国戦没者追悼式での首相「式辞」と天皇陛下「おことば」がどのように変わったのか、あるいは変わらなかったのか、跡づけることが自分の義務であるかのような気持ちもあり、本稿を書いてみることにした次第です。
 
 まず、本日、日本武道館で行われた全国戦没者追悼式の中継動画(THE PAGE)をご紹介しておきます。
 
令和最初の「終戦の日」政府が全国戦没者追悼式(2019年8月15日)(1時間13分) https://www.youtube.com/watch?v=GUGSGFwTDV8
 
17分~ 安倍晋三内閣総理大臣「式辞」
24分~ 天皇陛下「おことば」
 
 以下に、首相官邸及び宮内庁ホームページに掲載された「式辞」と「おことば」を全文引用しますが、何の予備知識もなく読み流してしまえば、私の問題意識も全く通じることはないのではと危惧されます。
 安倍首相「式辞」については、村山富市首相以来(ホームページで確認できるのはその後の橋本龍太郎首相以降)歴代の内閣総理大臣が踏襲してきた「式辞」のどの部分を変更したのか、そして、そのどこが問題なのかを考えながら読まねば意味がありません。
 また、天皇陛下「おことば」については、前代(平成上皇)が30年の在位中、8月15日に何を語ってきたか、その変わったことと変わらなかったことを確認した上で、新天皇がそれをどのように継承したかが関心の焦点となります。
 そのためにも、巻末でリンクしている7本のブログに、ざっとでも良いので目を通した上で、今年の「式辞」と「おことば」を読んでいただければ、より理解が深まることは疑いありません。
 とはいえ、皆さんにそのような準備作業を期待するのは難しいだろうと思いますので、以下に、過去5年の間、私が全国戦没者追悼式での「式辞」と「おことば」を研究した成果(?)の一端をまとめておきますので、参考にしてください。
 
【全国戦没者追悼式「式辞」における安倍三原則】
 第2次安倍政権を発足させた後、初めての戦没者追悼式となった2013年(平成25年)8月15日の「式辞」以来、一貫して堅持している原則を私は「安倍三原則」と名付けています。
 
アジア諸国民に対する加害についての反省と哀悼の意は絶対に表明しない。
②「不戦の誓い」も述べない。
戦没者の犠牲の上に“平和と繁栄”があることを強調しながら、“平和と繁栄”をもたらしたものが「国民のたゆまぬ努力」であるとは言わない。
 
 ①、②はわかりやすいかもしれませんが、③は一読しただけでは何が問題なのかわかりにくい「原則」かもしれませんね。ただし、私はこの③が靖国派による「まやかしの論理」の肝だと思っていますので、私の書いたブログの中の特に2014年に書いた3本をお読みいただければと思います・・・と言っても、読んでくれる人はほとんどいないでしょうから、「“コピペ”でなければ良いというものではない~全国戦没者追悼式での安倍晋三首相の式辞を聴いて。」(2014年8月15日)の一部を引用しておきます。
 
(引用開始)
 このような表現(注:「戦没者の皆様の、貴い犠牲の上に、いま、私たちが享受する平和と、繁栄があります。」)に何の違和感も感じないという方も、もしかするとおられるかもしれません。
 確かに、歴代総理大臣の追悼式式辞のように、このようなフレーズが、加害責任の自覚と反省の言葉とセットで語られているのであれば、(私はもっと適切な表現があると思いますが)まだしも理解できないこともありません。
 しかし、安倍晋三という人間はそうではありません。彼は決して加害責任を認めようとはしません(多くの「靖国派」と同様に)。国会でも、「侵略の定義は定まっていない」と言い張っています。
 そのような人間が「戦没者の皆様の、貴い犠牲の上に、いま、私たちが享受する平和と、繁栄があります」という時、そこに「反省」という契機が抜け落ちている以上、戦没者の犠牲をもたらした「戦争」があったからこそ、今の「平和」があるという倒錯した論理の罠にからめとられることになります。
 安倍首相を盛り立てる「靖国派」や「ネトウヨ」の「まやかしの論理」のポイントはこの点にこそあると私は考えています。
(引用終わり)
 
 それでは、今年の「式辞」を読んでみましょう。
 
(引用開始)
 天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者の御遺族、各界代表、多数のご列席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行致します。
 先の大戦では三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行末を案じ、戦陣に散った方々、終戦後、遠い異郷の地にあって亡くなられた方々。広島や長崎での原爆の投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などで無残にも犠牲になられた方々。今、全ての御霊(みたま)の御前(おんまえ)にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。
 今、私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを、私たちは決して忘れることはありません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念を捧(ささ)げます。
 未(いま)だ帰還を果たされていない、多くの御遺骨のことも決して忘れません。御遺骨が一日も早く故郷に戻られるよう、私たちの使命として、全力を尽くして参ります。
 わが国は戦後一貫して、平和を重んじる国として、ただひたすらに歩んでまいりました。歴史の教訓を深く胸に刻み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてまいりました。
 戦争の惨禍を二度と繰り返さない、この誓いは昭和、平成、そして令和の時代においても決して変わることはありません。平和で希望に満ち溢(あふ)れる新たな時代を作り上げて行くため、世界が直面している様々な課題の解決に向け、国際社会と力を合わせて全力で取り組んでまいります。今を生きる世代、明日を生きる世代のために、国の未来を切り開いてまいります。
 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様には、ご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。

(引用終わり)

 基調は昨年までのの「式辞」と変わりませんし、もちろん、「安倍三原則」は貫徹されています。参考までに、昨年の「式辞」にリンクしておきます(引用はしませんので、興味のある方はリンク先をご参照ください)。

平成三十年 全国戦没者追悼式式辞

天皇陛下「おことば」の論理と倫理】
 それでは引き続き、天皇陛下「おことば」に注目します。


 資料がないので、昭和天皇がどのような「おことば」を述べていたのか確認できませんので、今上天皇の今回の「おことば」と比較する対象は前代(平成上皇)による30回の「おことば」ということになります。
 平成天皇による30回の「おことば」を通読してみれば、時期的に3期に区分できることが分かります。
 2017年8月15日に書いた「全国戦没者追悼式における「おことば」(平成元年~29年)を通読して見えてくること」のまとめの部分を(平成30年の最後の「おことば」を踏まえて一部改訂)再掲します。

(引用開始)
第1期 平成元年~平成6年
 昭和天皇が「全国戦没者追悼式」で読み上げていた「おことば」が見つからないかと思って探しているのですが、まだ見つけられていません。けれども、即位直後からいきなり内容を変えるとは思いにくいので、この第1期の文章は、前代を基本的に踏襲しているような気がします(確言できませんけど)。
第2期 平成7年~平成26年
 村山富市内閣が成立して1年以上が経過した平成7年の「全国戦没者追悼式」で、初めて第3節に、「歴史を顧み,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民とともに」という言葉が挿入され、以後、これが踏襲されています。
第3期 平成27年~平成30年
 政権に復帰した安倍晋三内閣と皇室の対立が外信でも(だからこそ?)報道される中、いわゆる安保法制審議中の平成27年の「おことば」には、異例とも言える表現が盛り込まれました。
 とりわけ特徴的なのは第2節であり、「終戦以来既に70年,戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。戦後という,この長い期間における国民の尊い歩みに思いを致すとき,感慨は誠に尽きることがありません。」に、今上天皇の平和への思いが凝縮していると見るべきでしょう。
 残念ながら、第2節におけるこの表現は、翌年からまた元に戻ってしまいましたが、同じく平成27年「おことば」から第3節に付加された「さきの大戦に対する深い反省と共に」という部分のうち、「深い反省とともに」は生き残り、平成28年、29年、そして最後となった30年の「おことば」に引き継がれています。
(引用終わり)

 その父平成上皇の蹟を襲った徳仁天皇の初の「おことば」として注目していました。動画を視聴したところでは、やや緊張の色が見えましたが、その内容は、前代による最後の(平成30年)の「おことば」を基本的に踏襲したものでした。

全国戦没者追悼式
令和元年8月15日(木)(日本武道館)

(引用開始)
 本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来74年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。
 戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

(引用終わり)

 昨年の平成天皇による最後の「おことば」と対照してみましょう。

全国戦没者追悼式
平成30年8月15日(水)(日本武道館)


第1節
(平成30年)
 本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
(令和元年)
 本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
※一字一句同じです。
第2節
(平成30年)
 終戦以来既に73年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。
(令和元年)
 終戦以来74年,人々のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが,多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき,誠に感慨深いものがあります。
※主旨同一でやや修文したといったところでしょう。
第3節
(平成30年)
 戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
(令和元年)
 戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ,ここに過去を顧み,深い反省の上に立って,再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,全国民と共に,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
※この結びの節も前代の「おことば」が踏襲されました。私は「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」がそのまま残されたことにも注目しました。このフレーズは、実は平成30年の最後の「おことば」に至ってさりげなく付け加えられたものだったからです。この部分について、私は昨年こう書きました

(引用開始)
第3節の冒頭に「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」を付加したのには、それなりの思いがあってのことだろうと思います。私は、平成27年8月15日(あの「安保法制」法案が国会で審議されているただ中でした)の異例の「おことば」で述べられ、翌年から繰り返されることのなかった「戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。」を(分かる者は分かってくれるだろうと)凝縮した表現が「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」なのではないか、と思います。
(引用終わり)

 果たして、今上天皇が平成上皇の意図をそのようにくみ取ったかどうかは知るよしもありませんが、私としては、まずはほっとしたというのが偽らざる気持ちです。

(弁護士・金原徹雄のブログから/全国戦没者追悼式関連)
2014年1月14日
「日本傷痍軍人会」最後の式典での天皇陛下「おことば」と安倍首相「祝辞」(付・ETV特集『解散・日本傷痍軍人会』2/1放送予告)

※「全国戦没者追悼式」ではありませんが、十分「関連」がありますので。
2014年8月15日
“コピペ”でなければ良いというものではない~全国戦没者追悼式での安倍晋三首相の式辞を聴いて
2014年8月18日
続 “コピペ”でなければ良いというものではない~“平和と繁栄”はいかにして築かれたのか
2015年8月15日
全国戦没者追悼式総理大臣「式辞」から安倍談話を読み返す(付・同追悼式での天皇陛下「おことば」について)
2016年8月15日
全国戦没者追悼式で今年も貫徹された“安倍3原則”(付・天皇陛下「おことば」を読む)
2017年8月15日
全国戦没者追悼式における「おことば」(平成元年~29年)を通読して見えてくること
2018年8月15日
平成最後の「全国戦没者追悼式」~安倍内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」を読む