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タカ派こそ「和平」を進められる~けれどもタカ派にも色々ある

 202022日配信(予定)のメルマガ金原No.3441を転載します。

タカ派こそ「和平」を進められる~けれどもタカ派にも色々ある

 本稿は、昨日(2月1日)書いた「テキスト(印刷教材)は捨てられない」の続編ともいうべきものであり、まずFacebookに投稿し、それを転載することとしたものです。

タカ派こそ「和平」を進められる~けれどもタカ派にも色々ある】

 放送大学の2020年度第1学期で新規に開講される放送授業の中に「中東の政治('20)」(高橋和夫放送大学名誉教授)という科目が含まれており、是非受講しようと考えているのですが、その代わり、4年前から開講されている同教授の「パレスチナ問題('16)」が閉講となるため、「中東の政治」の予習をかねて、録画してある「パレスチナ問題」全15回を再視聴しています。今日は「第11回 ラビン/その栄光と暗殺」と「第12回 ネタニヤフとバラク」を視聴しました。

 思い返せば、2016年度2学期に私が受講した「パレスチナ問題」の単位認定試験で高橋先生が出題された問題は、
「【設問】以下のうちから1問を選び750字以上800字以内で答えなさい。
問1 ラビンについて論じなさい。
問2 エルサレム公開大学について論じなさい。」
というものでしたので、私は①を選び、第三次中東戦争の英雄(参謀総長だった)で、2度イスラエルの首相を務め、2度目の首相在任中の1993年、PLOとの間でいわゆる「オスロ合意」を結び、パレスチナ和平の扉を開きながら、1995年、銃弾に倒れたイツァーク・レビンについて回答し、高橋先生から合格点をいただいて2単位取得したのですが、イスラエルにはもう1人、2度首相を務めた政治家がいます。それが、今も同国の首相の地位にあるベンヤミン・ネタニヤフ氏(1949年10月生)です。

 同氏の最初の首相在任が1996年6月から1999年7月まで。そして、2009年3月に首相に返り咲き、何と2020年の今もまだ首相にとどまっています。もっとも、先月(1月)末にはイスラエルの検察当局がネタニヤフ首相を収賄や背任の容疑で起訴したことが伝えられており、そろそろ年貢の納め時が近いのかもしれませんが。

 ところで、今日視聴した放送授業「パレスチナ問題('16)」は2016年4月に開講されたもので、海外取材を含む番組作りはその前年には終わっていたと思いますが、その中で、イスラエルの平和活動家として高名なウリ・アブネリ氏に対するインタビューが何回分かの授業で使われており、「第12回 ネタニヤフとバラク」においても、同氏のネタニヤフ氏に対する(辛辣な)評価が聴けます(アブネリ氏は、惜しくも2018年に94歳の高齢で逝去されました)。
 私は視聴していて、(インタビューは英語で行われているのですが)思わず日本語字幕を書き写してしまいました。以下に、高橋先生によるウリ・アブネリ氏インタビューの(字幕)書き起こしをご紹介します。

高橋和夫氏「ベンヤミン・ネタニヤフについてお話しを」
〇ウリ・アブネリ氏「ネタニヤフですか・・・。ネタニヤフ氏はイスラエルにとり災いです。
非常に右翼的です。
父親は歴史家でしたが、さらに右翼的でした。極端すぎて右翼の政治指導者とも敵対していましたがね。
そして父親はネタニヤフを高く買わなかった。父親が目をかけていたのは兄の方で、この兄はアフリカでの軍事作戦で戦死しています。
ネタニヤフは政治家として非常に有能です。非常にテレビ映りがよいのです。現代の政治家には必要な資質です。
でもネタニヤフにはビジョンがない。戦略上の現実的な見通しを持ち合わせていないのです。
その取り巻きと言えば、非常に野卑な―右翼の扇動家たちです。ライバルになりそうな人は党から追い出したのです。」

 補足すれば、アフリカで戦死したネタニヤフ氏の兄というのは、1976年に発生したハイジャック事件の人質救出作戦(何度も映画化されたエンテベ空港奇襲作戦として知られる)の指揮官で、作戦に従事したイスラエル軍の中で唯一戦死したヨナタン・ネタニヤフ中佐のことです。

 私が、以上のインタビューをご紹介しようと思い立ったのには、おそらく国民にとっても「意外」なほど長期化した政権を持つことになってしまったイスラエルの事情が、わが国とどのような点で近似しているのかを考えるよすがになるのでは、ということももちろんありました。
 しかし、それだけではありません。
 本講義を受講していると、パレスチナ問題というのはイスラエル問題であるということが否応なく見えてきます。
 そして、高橋先生が強調されているとても印象深い一節を「第11回 ラビン/その栄光と暗殺」から書き起こしてみたいと思います。

「(高橋和夫先生)ラビンの生涯を見ていて、私は2つのアイロニーのようなものを感じます。
 その1つは、「和平」というのは、やはり平和主義者にはできなくて、タカ派であるという人が向いてるんだなあということですよね。
 アルジェリアに独立を与えたのは第2次大戦の英雄ド・ゴール大統領でしたよね。オスロ合意を始めたのもラビン将軍ですよね、67年戦争の英雄です。エジプトと和平を結んだのもタカ派として知られたベギンさんです。
 ですから、タカ派こそが「和平」を進めるというのは、歴史の用意したアイロニーなんでしょうかね。」
(註:もう1つのアイロニーは、ラビンが勝利に導いた第三次中東戦争の結果、多くの占領地を獲得したことが、イスラエル内部に宗教的高揚をもたらし、これが結果的にラビンを倒す銃弾を用意したということ)

 平和主義者(ハト派)ではなく、タカ派こそが「和平」を進めるというのは、ある意味、普遍的真理を含んだテーゼであると思いますが、タカ派なら誰でも「和平」を進めることができる訳ではないということも事実ですよね。
 トータル14年近くイスラエル首相の座にありながら、ネタニヤフ氏が、「和平」を進めるためにどれだけの貢献をなし得たかを思うと、「タカ派にも色々ある」と思わざるを得ません。
 私がネタニヤフ政権の対パレスチナ政策でまず思い出すのは、2014年のガザ侵攻で2000人以上の犠牲をパレスチナ側に強いたことですからね。

 さて、日本の安倍政権です。逆説的に、安倍政権こそ中国や韓国・北朝鮮との関係を劇的に改善することが可能と主張する向きがない訳ではありませんが、私は非常に懐疑的です。
 そのように解する根拠を説明するために、ネタニヤフ氏についてのウリ・アブネリ氏の評価がとても参考になると思ったというのが本稿を書くことにした狙いなのです。
 平和主義者にも色々あるように、タカ派にも色々あるということでしょう。

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