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石埼学龍谷大学教授「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続を読む

 2020年4月12日配信(予定)のメルマガ金原.No.3456を転載します。

石埼学龍谷大学教授「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続を読む

 龍谷大学法学部教授の石埼学(いしざき・まなぶ)先生には、2016年4月2日に、私も運営委員を務める「守ろう9条 紀の川 市民の会」総会での記念講演をお願いしたことをきっかけに、主としてFacebookを通じて交流させていただいています。
 おかげで、歴代プリキュアについてのマニアックな知識・見識に接することが出来た他、石埼先生に一命を救われた子猫のミー君の成長記録に目を細めたりしてきました。
 もちろん、そのような身辺雑記的なテーマだけではなく、石埼先生が小林武先生と共に編集された憲法の教科書『いま 日本国憲法は 原点からの検証(第6版)』(法律文化社)を入手して勉強させていただく貴重な機会を得たりということもありました。実際、入院という不測の事態があったからでもありますが、司法試験に合格した1986年以来初めて(!)憲法の教科書を通読(精読)し、ブログに感想を書き留めることが出来たのは、私にとっても得難い経験となりました。

 今日取り上げようと思うのは、その石埼先生が、日本共産党中央委員会理論政治誌と銘打たれた「前衛」5月号に発表された論考「続・議院内閣制から診た安倍内閣」及びその正編(「前衛」2019年5月号所収)です。

 そもそも、「前衛」の昨年5月号に掲載された石埼先生の論考「議院内閣制から診た安倍内閣」は、「安倍政権が、日本国憲法が採用した議院内閣制の趣旨を軽視ないし愚弄し、もって日本における国民主権原理に基づく統治の根幹部分を破壊しつつある」ことを、具体例を検討することを通じて明らかにしようとしたものでした。

 そして、そのための方法論として、安倍内閣の特徴を、
(1)国会に対して説明責任を果たしていない。
(2)国会における審議および議決の意義を軽視し、それらにおける野党の存在意義を理解していない。
(3)国会に属する立法権を形骸化し、それを実質上内閣に移譲させようとしている。
という3項目に分類した上で、それぞれについて主要な具体例を取り上げるという構成で論述が組み立てられていました。
 とはいえ、第二次安倍政権が発足した2012年12月から、同稿の執筆を終えた2019年3月までの6年余における安倍政権の「悪行」は数知れず、上記の基準に従って主要なものを選別し、内容を信頼できる出典にあたって確認するだけでも大変な手間であったと思います(私などとても根気が続かない)。

 2019年5月号の正編「議院内閣制から診た安倍内閣」に取り上げられた具体例を列挙すると以下のとおりとなります。

一 国会への内閣の説明責任
1 議院におけるヤジ
〇2015年2月19日・衆院予算委員会 玉木雄一郎議員(民主)に「日教組どうするの、日教組!」
〇2015年5月28日・衆院安保特別委員会 辻元清美議員(民主)に「早く質問しろよ」
〇2015年8月21日・参院安保特別委員会 蓮舫議員(民主)に「そんなこといいじゃないか」
 以上は安倍首相によるヤジであるが、この他にも閣僚等による不規則発言や不適切答弁が4例紹介されています。
2 不誠実な答弁

〇根拠もなく断言する。
〇質問をしている野党議員も熟知している制度や法案の条文を繰り返す。
〇質問されたことに正面から答えない。
〇言葉の意味を限定してはぐらかす。
 安保関連法案、森友学園問題、加計学園問題などに関わる不誠実答弁の実例が指摘されています。
3 公文書の偽造
南スーダン派遣陸上自衛隊部隊作成の「日報」隠蔽
労働基準法改正(裁量労働制対象拡大)のための政府(厚労省)説明資料におけるデータの異常さ
森友学園問題に関わる財務省決裁文書の改ざん
入管法改正(特定技能)のための入管資料(失踪特定技能実習生からの聞き取り調査結果)データの虚偽公表
〇「毎月勤労統計」偽装疑惑

二 議院内少数派(野党)
1 強行採決
〇2015年9月17日 参議院安保特別委員会 安保法制法案
〇2017年6月14日~15日 参議院本会議 共謀罪法案(委員会採決省略)
〇2018年12月8日 参議院本会議 入管法改正案(特定技能)等
2 質疑時間
  野党議員による質問時間の割合の減少

3 五三条要求の無視
〇2015年10月21日 野党が憲法53条に基づき臨時会の召集決定を要求⇒翌年の常会まで国会を開かなかった。
〇2017年6月22日 野党が憲法53条に基づき臨時会の召集決定を要求⇒98日経過後の9月28日に召集したが所信表明演説すらせずに衆院を解散した。

三 立法権の簒奪
1 文言の不明確な立法
特定秘密保護法
共謀罪 特に「準備行為」
2 委任立法
〇2016年 統合型リゾート実施法(カジノ規制基準を省令等に委任する授権規定あり)
〇2018年 働き方改革法(高度プロフェッショナル制度の対象となる業種や収入を省令に委任)
〇2018年 改正入管法(「特定技能」の在留期間、在留資格の有無の認定方法、受け入れ業種や分野等の根幹部分を省令等に委任)

 「どのように、どの程度、議員内閣制から逸脱しているか?」という視点から、安倍内閣を「診断」するというユニークな論考の概略をご理解いただけたでしょうか?

 そして、発売されたばかりの「前衛」2020年5月号に掲載された続編は、「安倍内閣の「政治手法」の議院内閣制からの逸脱をこの1年間(2019年3月中旬から2020年3月中旬)の出来事を振り返って明らかにするもの」というものであり、つまりは正編に増補する内容となっています。
 もっとも、増補といっても、ページ数は正編と同じ14ページが費やされており、それだけ「悪の種は尽きない」だけではなく、1つ1つの論点に費やす分量が多めになっており(正編は紙幅の制限から、箇条書き的にならざるを得なかった面があると思います)、それだけ読み応えがあります。

 「続・議院内閣制から診た安倍内閣」も、正編の構成を基本的に踏襲しています。
 以下には、各項目で取り上げられた問題事例の「見出し」だけご紹介しておきます。

一 国会への内閣の説明責任
1 議院におけるヤジ
〇2019年11月6日・衆院予算委員会 今井雅人議員(無所属)に対し「あなたじゃないの」
〇2020年2月12日・衆院予算委員会 辻元清美議員(立憲)に対し「意味のない質問だよ」
2 理解不能な、または虚偽の答弁
〇2019年11月~ 「桜を見る会」及び「前夜祭」関連の安倍首相答弁
〇2020年2月~ 黒川弘務東京高検検事長定年延長問題についての森雅子法相らによる一連の答弁
3 公文書の廃棄
〇「桜を見る会」招待者名簿の廃棄。過去の招待者名簿の違法な管理。一部改ざんした資料の国会への提出。

二 議会内少数派(野党)の存在意義の軽視
1 与党による予算委員会の開催拒否
野党からの開催要求があったにもかかわらず、
〇第198国会(常会) 2019年3月1日以降、衆院予算委員会を事実上開かず。
〇同 2019年3月27日以降、参院予算委員会を事実上開かず。
〇第200国会(臨時会) 2019年11月6日意向、衆院予算委員会を事実上開かず。
2 麻生大臣の答弁
〇2020年1月28日 衆院予算委員会 「マーケットに与える影響はきわめて大きいので、我々はマーケットと仕事をしていますので、野党と仕事をしているんじゃない。マーケットとやらなきゃいかぬと思う」と答弁。

三 立法権の簒奪
1 東京高検検事長定年延長問題
2 閣議決定による自衛隊の中東派遣

 以上、石埼学先生による「議院内閣制から診た安倍内閣」正編・続編で取り上げられた安倍政権による問題事例をご紹介してきました。
 一読、全ての項目について「ああそういうことがあったな」と思い出していただけた方はどれほどおられたでしょうか。
 ここ1年間の出来事を取り上げた続編ですら、与党による予算委員会の開会拒否って憶えていました?

 私は、石埼先生が取り上げた問題事例は(程度の濃淡はあれ)一応全て記憶していましたが、これは、私が2013年1月(第二次安倍政権発足の翌月です)から昨年1月までの丸6年間、「ブログ毎日更新」を続けていたという特殊事情によります。
 普通の人は、7年半近くも経てば、「安倍批判疲れ」に陥るのも無理はないし、細かなことまで一々憶えていられませんよね。

 けれども、安倍政権のひどさは度を超えているというか、あり得ないレベルのものです。最近におけるその代表例は検事長定年延長問題(及びそれに付随する検察庁法「改正」問題)ですが、そのタイミングで発生した新型コロナウイルス禍すら、政権延命に役立てようとしているかのようです。

 そのような状況の下、「安倍内閣に、国民のための政治など望むべくもない」ことを理論的に指し示すため、日本の統治機構の根幹である議院内閣制からの常軌を逸した「逸脱」という確かな視座を提供することが、「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続の重要な役割であろうと思います。

 その上で、この論考をどう活用していくかが、今後の私たち一人一人が担うべき課題でしょう。

(余談)
 石埼先生の論考(正・続とも)では、私のブログを後注の中で参照先として紹介してくださっており、大変光栄です。

[正編]安倍首相による「私は立法府の長」発言について    
 http://kimbara.hatenablog.com/entry/2018/11/03/175437 (wakaben6888のブログ)
  ※弁護士・金原徹雄のブログ http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/52635022.html 
[続編]注ⅴ 東京高検検事長定年延長問題について  
 http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/54300679.html 
 ※最新の(9) http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/54468459.html 

(弁護士・金原徹雄のブログから/石埼学氏関連)
2015年5月29日
龍谷大学・石埼学教授による日本国憲法講義「平和主義と安保法制」を受講しよう 
2016年2月10日 
石埼学(いしざきまなぶ)龍谷大学法科大学院教授(憲法学)講演会へのお誘い~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」@和歌山市 
2016年4月2日 
石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演をレジュメから振り返る~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」第12回総会から 
2016年4月5日 
石埼学龍谷大学法科大学院教授の【設問】に答える~「安保法制」講師養成講座2 
2016年9月11日 
治安維持法と自民党改憲草案~石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演レジュメで学ぶ(9/8国賠同盟近畿ブロック会議より) 
2018年8月4日 
『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』(石川裕一郎、石埼学、清末愛砂、志田陽子、永山茂樹共編著)を読む 
2019年3月23日 
『いま 日本国憲法は 原点からの検証(第6版)』(小林武・石埼学編)を読む~入院読書日記(1) 
2019年4月10日 
「前衛」5月号の特集「安倍内閣との対決点」に注目した