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曽我逸郎中川村村長(長野県)からのメッセージ

 9月21日付の朝日新聞(朝刊)に、「国旗に一礼しない村長 曽我逸郎さんに聞く」という記事が掲載されました。

(部分抜粋開始)

 ――中国や韓国との間で領土問題がこじれていますね。この穏やかな村からどう見ていますか?
 「人々の愛国心に火をつけて、自分の人気取りや都合のために利用しようとする人たちが問題です。日本も相手国も同じ。私たちも軽率に踊らされず、『国を愛する』とはどういうことか、こんなときこそ冷静に考えるべきだと思います」
 ――村長自身はどう考えますか? 公の式典で国旗に礼をしないことについて、6月議会で答弁していますが。
 「国旗に敬意を示すというのは、国家が上にあり、その下に自分がいるという問題設定です。本当の国民国家であれば、持つべきは敬意ではなく誇りであるはず。『日本は素晴らしい国だ。私は誇りに思う』というのが自然でしょう。これが愛国心だと思います。ただ、私も誇りを持ちたいとは思うのですが、とてもそんな状況でありません」
 「憲法前文で『全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する』とし、『国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成すること』を誓ったわけじゃないですか。それをなおざりにし、周辺国の脅威をあおり、軍事力を増強し、さらには沖縄県民が基地問題で迷惑をこうむっても我慢してもらおうという姿勢です。『そうは言っても……』と、現実を前に妥協してしまっている。問題点と理想の間をどう埋めるかという努力をしていないのです」

(抜粋終わり)

 

 長野県中川村村長である曽我逸郎さんに対する上記インタビュー記事は、朝日新聞デジタル版では有料会員限定配信なので、これ以上の引用は控えますが、何らかの方法で是非全文を読んでいただければと思います。

(注)「無料会員登録」でも、1日3本までは有料記事を閲覧できます。

  → http://digital.asahi.com/info/information/free_member/

 

 ところで、上記インタビューの中でも触れられていた中川村6月議会における質疑をめぐって、曽我村長自身が村の公式ホームページの中の「村長からのメッセージ」で詳細に語っていることが多くのブロガーに注目されて紹介されました。

 私も2012年6月20日に配信した「メルマガ金原No.990」でこれを取り上げましたので、以下に再録します。

 

曽我逸郎中川村村長(長野県)からのメッセージ

 

 長野県上伊那郡中川村という人口5,200人余りの村が、様々なブログで取り上げれています。
 注目されているのは、同村公式ホームページ(http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/の中の「村長の部屋」というコーナーです。もっとも、そういうコーナーなら、他の自治体ホームページでも珍しくはありませんが、同村の「村長の部屋」が注目されるのは、そのコンテンツによります。
 「村長の部屋」は3つのブロックに分かれています。
 
「村長への手紙」
「村長からのメッセージ」
「TPP参加反対コーナー」
 
 「村長からのメッセージ」は多くの自治体HPでも掲載されていますが、まずその前に「村長への手紙」があるというのが、村政に対する村長の姿勢を如実に感じさせてくれます。
 また、「TPP参加反対コーナー」が「村長の部屋」の中にあるというのがまた素晴らしい。
 昨年の2月20日には、全村あげての「TPP参加反対デモ」も実施したそうです。
 
 以上2つのブロックも素晴らしいのですが、今、多くのブロガーが感動して紹介しているのは、曽我逸郎(そがいつろう)村長が自ら書かれている「村長からのメッセージ」です。
 ウイキペディアで調べたところ、1956年生まれの曽我村長(私より2歳年下ですね)は、憲法九条を守る首長の会」にも参加している模様であり、また、そういえば「脱原発ざす首長会議」にも参加していたはずということで、書かれた「メッセージ」をいくつか読でみましたが、いやあ、実に敬服しました。
 「月を指す指はどれか?」(曽我氏の個人ホームページ)
 
 とりあえず、6月12日にアップされた(後に加筆あり)以下の「メッセージ」を是非お読みください。
 
(引用開始)
村議会6月定例会 「国旗と国歌について村長の認識は」との一般質問を頂きました。
 中川村議会6月定例会で、高橋昭夫議員から、「国旗と国歌について村長の認識は」という一般質問を頂いた。
 一問一答方式のため、受け答えはやりとりの流れに応じた“アドリブ”になっていき、正確に再現することは難しいので、頂いた通告と私の答弁原稿を以下に掲載する。

<一般質問通告>
 小・中学校の入学式や、卒業式の席で、村長は(壇上に上る際、降りる際に)国旗に礼をされていないように思います。このことについて村長のお考えをお聞きしたい。

<答弁原稿>
 たいへんありがたい質問を頂戴しました。ご質問の件については、村民の皆さん方の中にも、いろいろ想像して様々に解釈しておられる方がおられるかもしれません。説明するよい機会を与えていただきました。感謝申し上げます。

 私は、日本を誇りにできる国、自慢できる国にしたいと熱望しています。日本人だけではなく、世界中の人々から尊敬され、愛される国になって欲しい。
 それはどのような国かというと、国民を大切にし、日本と外国の自然や文化を大切にし、外国の人々に対しても、貧困や搾取や抑圧や戦争や災害や病気などで苦しまないで済むように、できる限りの努力をする国です。海外の紛争・戦争に関しても、積極的に仲立ちをして、平和の維持・構築のために働く。災害への支援にも取り組む。
 たとえて言えば、日の丸が、赤十字や赤新月とならぶ、赤日輪とでもいうようなイメージになれば、と思います。
 世界中の人々から敬愛され信頼される国となることが、安全保障にも繋がります。

 これは、私一人の個人的見解ではなく、既に55年以上も前から、日本国憲法の前文に明確に謳われています。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 そして、憲法前文は、次のような言葉で締めくくられています。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。

 しかし、現状はまったく程遠いと言わざるを得ません。日本国は、名誉にかけて達成すると誓った理想と目的を、本気で目指したことが、一度でもあったのでしょうか。

 東京電力福島第一原発による災害では、国土も、世界に繋がる海も汚染させました。たくさんの子ども達が、かつての基準なら考えられない高汚染地域に放置されています。そしてまた、安全基準も確立しないまま、目先の経済を優先して、大飯原発の再稼動を急いでいます。放射性廃棄物をモンゴルに捨てようとしたり、原発の海外輸出まで模索しています。
 明治になって日本に組み入れられた琉球は、抑止力のためという本土の勝手な理屈で多くの米軍基地を押し付けられ、さらにまた美しい海岸をつぶして新たな米軍基地を造ろうとする動きがあります。イラク戦争に協力し、劣化ウラン弾で子どもたちが苦しめらることにも、日本は加担しました。兵器輸出の緩和さえ模索しています。
 他にも、福祉を削り落として、貧困を自己責任に転嫁するなど、言い出せばきりがありません。ともかく今の日本は、誇りにできる状態から程遠いと言わざるを得ません。

 しかしながら、誇りにできる状態にないから、国旗に一礼をしない、ということではありません。完璧な理想国家(twitterで誤字を指摘頂いた。多謝)はあり得ないでしょう。しかし、理想を目指すことはできる。しかし、そのそぶりさえ日本にはない。それが問題です。
 
 もっと問題なのは、名誉にかけて誓った理想を足蹴にして気にもしない今の日本を、一部の人たちが、褒め称え全面的に肯定させようとしている点です。この人たちは、国旗や国歌に対する一定の態度を声高に要求し、人々をそれに従わせる空気を作り出そうとしています。
 声高に主張され、人々を従わせようとする空気に従うことこそが、日本の国の足を引っ張り、誇れる国から遠ざける元凶だと思います。
 人々を従わせようとする空気に抵抗することによって、日本という国はどうあるべきか、ひとりひとりが考えを表明し、自由に議論しあえる空気が生まれ、それによって日本は良い方向に動き出すことができるようになります。
 人々に同じ空気を強制して現状のままの日本を肯定させようとする風潮に対して、風穴を開け、誰もが考えを自由に表明しあい、あるべき日本、目指すべき日本を皆で模索しあうことによって、誇りにできる日本、世界から敬愛され信頼される日本が築かれる。日本を誇りにできる国、世界から敬愛される国にするために、頭ごなしに押しつけ型にはめようとする風潮があるうちは、国旗への一礼はなるべく控えようと考えております。
                               <以上、初回答弁の原稿>

<一問一答のやりとりの最後(要旨)>
Q:村長は子供たちが国旗に礼をしないようになる方がいいと考えているのか?
A:教育内容について行政から口を挟むことは控えるべきだと考える。なにをどう教えるかは、教育委員会の管轄である。国旗に対して、どういう態度を取るべき、とか、取るべきでない、とか、これまでも申し上げたことはないし、今後も申し上げるつもりはない。
<新聞記者(信濃毎日新聞、長野日報)との取材でのやりとりの最後(要旨)>
Q:子どもたちには、どうあって欲しいと思っているのか?
A:いろいろな人がいて、いろいろな考え方があるのだな、と感じてもらえれば嬉しい。その上で、自分はどう考えるのか、じっくり検討して欲しい。こういう態度を取らねばならないと、ただひとつの形しか提示しないのは問題。型にはめようとするのはよくない。「まぁ、この場は空気を読んでこう振る舞うのが大人だし…」というような対応を積み重ねた結果、曾て、場の空気に絡め取られ戦争に向けて後戻りできない状況に陥り、後悔したのではなかったか。どういうものであれ、自分の感じ方、思いを気安く表明できる「空気」を創っていくことが大事。それによって、互いに議論が深まり、理想の日本、あるべき日本、目指すべき日本が模索され、その結果が皆に共有されていけば嬉しい。
                             
                               2012年6月12日 曽我逸郎

【 6月18日加筆 】
 思いがけず大きな反響を呼び、驚いています。今日、朝の時点で、役場アドレスには40通のメールを頂いており、一通を除いて、すべて共感・賛同・応援でした。(一通は、「子ども達がかつてなら考えられない高汚染地域に放置されている」とは事実でない。風評被害や差別偏見を助長するので再考と猛省を…との内容⇒これへの反論は下に記載) twitterでもフォロワーが二百数十人急増しました。フォロー即ち賛同ではありませんが、多くのtweetにも、攻撃的なものはこれまで私の見た限りひとつもなく、共感の声ばかりです。
 また、多くの方が軋轢を心配して下さいましたが、それも特にはありません(私が鈍感なだけ?)
 地元紙の報道だけをご覧のおふたりから、私の不在中、役場に批判の電話があったそうです。
 それにしても、これだけ反響があったということは、なにか変だと感じつつ、それを口にしにくいもやもやした雰囲気が日本に漂っているということでしょうか。今後とも、言いたい事を言って、言いたい事を言える「空気」を生み出していきたく、みなさんお互い半歩前へ、頑張りましょう。

 『「子ども達がかつてなら考えられない高汚染地域に放置されている」とは事実でない』への反論
 『図解 原発のウソ』(小出裕章・扶桑社)から引用します。p63

 (放射能管理区域は)子どもを連れ込むなんてことはもてのほか。私の実験着が汚れていれば、管理区域の中で捨ててくる。私の手が汚れていたら、もっと洗って、汚染を落とす。水で洗っても石鹸で洗っても落ちないなら、薬品で、手の皮が少しくらい溶けてもいいから落とさなければ、外に出てはいけない。それが放射能管理区域です。その基準はいくつかというと、1平方メートル当たり4万ベクレルです。この数値を超えて汚染をしているものは、管理区域の外側には持ち出してはいけないというのが、日本の法律なのです。もしこれを厳密に適応するなら、福島県の東半分、宮城県と茨城県の南部と北部、栃木県と群馬県の北部、新潟県の一部、千葉県、埼玉県、東京都の一部を放射線区域の管理区域にしなければいけない……途方もない規模の汚染が生じてしまっています。
(引用終わり)
 
 いかがでしたか?
 長い文章ですが、一気に読み通せたのではないでしょうか。
 いつかも書いたことがあったと思いますが、私は「文は人なり」という格言を信じる者です。
 
 このような首長を選んだのは長野県中川村の「有権者」です(曽我村長は、既に2期に入っています)。
 これに対し、
世界では自らの命を落としてでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ「頑張ろう日本」「頑張ろう東北」「絆」と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています」
とか、
朝日新聞、毎日新聞、弁護士会や反維新の会の役立たず自称インテリは9条を守る大キャンペーンを張れば良い。産経新聞、読売新聞は9条改正大キャンペーンを張れば良い。2年後の国民投票に向かって。そして国民投票で結果が出れば、国民はその方向で進む」
などという言いたい放題の駄文を毎日垂れ流している人物を首長に選んだのも大阪市(府)の「有権者」です。
 
 原発のない未来を作れるのか、憲法9条を守れるのか、全ては私たち「有権者」の責す。
 
(追記)
 なお、中川村6月定例会における高橋昭夫議員と曽我逸郎村長の質疑については、同村議会の公式議事録もご参照ください。
 同議事録中の該当部分については、津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)のブログに抜粋されていますので、こちらをお読みいただくのが便宜かもしれません。