wakaben6888のブログ

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朴勝俊氏の2003年の業績『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』(大飯原発3号機をめぐって)

 「メルマガ金原アーカイブス」の番外編として、2012年11月10日、「wakaben6888のブログ」に掲載した「朴勝俊氏の2003年の業績『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』(大飯原発3号機をめぐって)」を転載します。
 本稿は、もともと、メルマガ金原No.1097「8/26朴勝俊氏講演会『原発廃炉後の地元経済について』」(2012年9月8日配信)とメルマガ金原No.1098「朴勝俊氏の2003年の業績『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』(大飯原発3号機をめぐって)」(2012年9月9日配信)の内容を再編集したものでした。
 
朴勝俊氏の2003年の業績『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』(大飯原発3号機をめぐって)

 「環境経済学」といえば、京都大学植田和弘教授や立命館大学の大島堅一教授の名前を思い出す人が多いと思いますが、今後は、この方の名前を聞く機会が増えるのではないかと思います。
 関西学院大学総合政策学部の朴勝俊(パク・スンジュン)准教授です。
 
 その朴准教授が、京都産業大学経済学部講師であった時代の研究発表が物議を醸し、ごく一部で脚光を浴びた(?)ことがありました。
 その間の経緯を朴准教授自身が「週刊しんぶん京都民報」2011年6月5日付に書かれた文章がよくまとまっていますので、まずこれをお読みください。

(引用開始)
国の援助が原発の安全を削る
 福島第一原発の事故以来「想定外」という言葉を何度も耳にします。しかし大型原発に含まれる広島原爆1000発分という大量の死の灰が、地震などをきっかけに一部でも放出される事態は、当然に起こりうるものでした。
 日本では、原発黎明期の1960年に当時の科学技術庁原子力産業会議が、熱出力50万キロワット(電気出力約16万キロワット)の原子炉の事故被害を試算しています。しかし、その結果は、最悪の条件下で被害総額は3.7兆円(当時の国家予算の約2倍)と「びっくりする」ようなもので、ただちに非公開とされました。
 以来、国内では原発事故被害の試算は行われず、逆に電力会社や政府の広報により「止める・冷やす・閉じ込める」、「万全の地震対策」などの「安全神話」が地元自治体や一般国民に対し流布されてきました。
 そんな中、私は2003年に、近畿圏で最大級の出力を持つ関西電力大飯原発3号機(電気出力118万キロワット、福井県大飯町)で、チェルノブイリ並みの過酷事故が起こったと想定して試算を行いました。京都大学原子炉実験所の故瀬尾健氏が考案した原発事故の計算モデル(SEOコード)を用いて死者・障害者の数を計算し、さらに避難の費用や居住禁止・農業禁止に伴う所得損失などを加えて、これらの被害を金銭評価したものです。
 結果は、最悪の場合、急性障害や晩発性のガンで最大40万人が亡くなり、およそ200キロ圏内が放射能汚染で居住禁止となる、というもので、被害額は平均で約103.7兆円、最大約457.8兆円に上りました(いずれも事故後50年間の積算値です)。
 これについては、原発推進派専門家らのホームページや雑誌で、主に確率論を根拠に「杞憂(きゆう)といえるほど発生確率の低い事故想定」「荒唐無稽」「常識はずれ」などとする批判がなされていたことを後で知りました。しかし、学会で発表したこの試算が新聞報道された直後、「住民の不安をあおる行為であり、誠に遺憾」「確率論的安全評価(PSA)により、…炉心損傷頻度は、1千万年に1度」などとした抗議の質問状を、当時勤務していた大学宛に送ってきたのは、専門家や関西電力ではなく、住民の安全を守るべき地元自治体でした。
 確率論は安全性の証明にはなりません。それは、万一の事故の際にも電力会社が倒産しないように作られた原子力損害賠償法(原賠法)を見れば明らかです。61年に制定された原賠法は、確かに電力会社に原発事故の賠償責任を負わせています。しかし、賠償に備えた民間の原子力損害賠償責任保険は保険金が1200億円しかなく、しかも地震の場合は保険金が下りません(さすがに保険会社は原発震災の危険性をよく理解していたことが分かります)。代わって政府が原発地震保険のようなものを用意していますが、これもわずか1200億円で、電力会社は数兆円規模の被害を賠償しきれません。しかし原賠法は、その際には国が必要な援助を行うと定めています(第16条)。その上、不可抗力ともいうべき「異常に巨大な天災地変」が原因の場合は、電力会社は損害賠償の責任がなくなります(第3条)。
 現政権は今のところ東京電力を免責していませんが、自民党政権ならあっさりと免責したかもしれません。電力会社は、こうした「援助」や「免責」をあてに、安全対策のコストを削ってきたはずです。次の大事故を防ぐためにも、今すぐ原賠法を改正し、無制限の賠償責任を明らかにすべきです。そうすれば、電力会社自らが最悪の事態を想定し、原発の廃止や、コストのかかる徹底的な安全対策を含め、慎重な経営判断を行うでしょう。
 事故のリスクや被害の大きさを考えれば、原発のコストは相当に高く、経済的価値を生んでいるのかさえ疑われます。脱原発に向かう第一歩として、すでに閣議決定されている「再生可能エネルギーの固定価格買い取り法案」を早急に成立させ、太陽光発電など再生可能エネルギーの比率を高めていくことが必要です。
(引用終わり)

 朴氏の論文自体は、おそらくこれだと思います(神戸大学のホームページに掲載されていました)。
 「レフェリー付き論文」で、「初稿受付日 2003年10月6日」「採択決定日 2004年9月22日」と注記された『原子力発電所の過酷事故に伴う被害額の試算』という論文です。

 論文そのものでは分かりにくいと思いますので、2004年6月9日の「原子力安全ゼミ」で発表した際のパワーポイント資料と思われるもの(『原子力発電所の事故被害試算』)が京都大学原子炉実験所・原子力安全研究グループのホームページに掲載されていましたので、こちらもご参照ください。

 「原発推進派らのホームページ」で批判されたというのは、3.11以降も時々見かける「エネルギー問題に発言する会」のことでしょう。
 ざっと閲覧したところ、以下の5つの「批判」が見つかりました。

石川迪夫氏『朴論文“原子力発電所の事故被害額試算”について」
林 勉氏『朴勝俊氏の「原子力発電所の事故被害額試算」に反論する』
天野牧男氏『朴勝俊氏の原子力発電所の事故被害額試算-筆者の理解を超えるもの』
神山弘章氏『大飯3号の事故被害額に関する論文について』
小笠原英雄氏『朴勝俊氏の「原子力発電所の事故被害額試算」について』
 
http://www.engy-sqr.com/watashinoiken/index.htm

 上記の「批判」に応えた『朴勝俊論文に関するご批判にたいして』という朴氏の文章が、京大原子炉実験所・原子力安全研究グループのサイトに掲載されています。

 なお、当時勤務していた大学(京都産業大学)宛に抗議書を送ってきた「地元自治体」というのは、2006年に旧・名田庄村と合併して「おおい町」になる前の「旧・大飯町」のことでしょう。
 その抗議文を探してみたのですが、見つかりませんでした。

 いまさら、上記「論争」に決着をつける必要もないでしょう(推進派は3.11以降も全く同じ「論理」の使い回しをしています)。
 ただ、福島第一原発事故を経験し、そして大飯原発3,4号機が「再稼働」されている今だからこそ、あらためて朴勝俊さんの業績を振り返り、再評価する必要性が高いのだと思います。
 なにしろ、「被害試算」の対象となっているのが、あの「大飯原発3号機」(!)なのですから。

 最後に、朴勝俊准教授のここ1年ほどの間の講演映像をいくつかご紹介しておきます。

2011年12月19日@桂川相模川流域協議会エネルギー専門部会(2011年度第2回)講演(於:八王子クリエイトホール)原子力発電の経済性 原発事故の被害総額」

2012年5月26日「もう一つの住民説明会(おおい町)」
① 
http://www.ustream.tv/recorded/23000624 (1時間19分40秒)
② 
http://www.ustream.tv/recorded/23002166 (2時間02分47秒)
※ ②冒頭から23分ころまで小林圭二さん(元京大原子炉実験所講師)のお話があり、引き続き39分ころまでが朴勝俊さんのお話です。

2012年7月21日「原発はゼロしかない」(IWJ兵庫チャンネル1)
①講演 
http://199.66.238.68/recorded/24140679 (1時間40分01秒)
質疑応答 
http://www.ustream.tv/recorded/24141982 (1時間00分02秒)

2012年8月26日「原発廃炉後の地元経済について」(於:札幌)
 
http://www.ustream.tv/recorded/24975658 (2時間17分14秒)
※「ぼちぼちいこか。。。」に文字起こしが掲載されています。
(前半)