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上田文雄札幌市長の“見識”と国連社会権規約(朝鮮学校への補助金をめぐって)

 今晩(2013年4月13日)配信した「メルマガ金原No.1324」を転載します。
 
上田文雄札幌市長の“見識”と国連社会権規約(朝鮮学校への補助金をめぐって)
 
 全国各地に存在する「朝鮮学校」は、学校教育法1条に基づく「小学校」「中学校」「高等学校」等の「学校」(一条校)には該当しない各種学校であるため、当然には公的助成が受けられず、各地方公共団体が独自の判断で補助金を支出するとどまっていました。
 そして、その自治体独自の補助金についても、北朝鮮による拉致問題や核実験などの余波により、支給打ち切り、予算計上しないなどとする自治体が続出していることはご承知のとおりです。
 
 そのような憂慮すべき事態が進行する中、去る4月11日(木)、札幌市の上田文雄市長が、定例記者会見の中で、記者(読売でした)からの質問に答えて以下のような見解を表明しました。
 
(引用開始)
読売新聞
 もう1点、別件で、今、北朝鮮が、核実験といいますか、軍事的な威嚇を強めてきております。この件についてなのですけれども、こういった不安を与える北朝鮮と関わりが深いとされているいわゆる朝鮮初中高級学校に対して、札幌市はことしも引き続き180万円の予算を補助金として付けました。ただ、一方で、全国の自治体中には、これでは市民の理解が得られないということで、昨年度の予算は執行凍結して、さらに今年度については予算計上を見送るなどの動きも出ていますが、この件について、札幌市としての考え方をあらためて伺いたいと思います。
市長
 北朝鮮との関係は、もちろん、国籍上といいますか、ルーツも含めて、あることは当然認識しておりますけれども、札幌で学ぶ子どもたちのためでございますので、子どもと大人の政治の世界とは分けて考えるべきであるというふうに私は思います。札幌市の朝鮮学校で学んだ子どもたちが、今後、世界で、日本と北朝鮮を含めた友好関係といったものを築いていく礎になっていただける、そういう人格者に育っていただきたいという期待を込めて、私は、補助金の支出については従前どおり継続するべきである、そんなふうに考えております。
(引用終わり)
 
 当たり前のことを当たり前に表明しているだけといえばそうなのですが、そうでない事例を次々と突きつけられている中でこのような“見識”に出会うと、心底ほっとしますね。
 上田市長は弁護士ですが、市長を務める弁護士にも色々いるということで・・・(上田氏は元日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長)。
 ちなみに、上田市長は「震災がれき」も受入を拒否しました。
 
 なお、上田市長が表明した“見識”が、法的な観点から見ても、当然そうでなければならないものだということを述べておきたいと思います。
 
 国連人権規約には、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)があり、もちろん日本も両規約の締約国となっています。
 その社会権規約に以下のような条文があることをご存知でしょうか?
 
第十三条
1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約
国は、
教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。
2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
(a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。
(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべて
の適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入
により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
(d) 基礎教育は、初等教育を受けなかった者又はその全課程を修了しなかった
者のため、できる限り奨励され又は強化されること。
(e) すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金
制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。
3 この規約の締約国は、父母及び場合により法定保護者が、公の機関によっ
設置される学校以外の学校であって国によって定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児童のために選択する自由並びに自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。
4 この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する
由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行なわれる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。
なお、日本は2項(b)、(c)のうちの「無償教育の漸進的な導入により」に拘束さないという留保を付していましたが、2012年9月、この留保を撤回する旨の通告を行っています(高校授業料無償化というのは、もともと国連社会権規約によって締約国に要請されていたのです)。
 
 この規定の解釈にあたっては、社会権規約の総則規定、とりわけ2条を参照す必要があります。
 2条3項によれば、「の規約において認められる経済的権利をどの程度まで外国人に保障するかを決定することができる」と認められているのは「開発途上にあ」だけなのです。日本はいつから「開発途上国」に逆戻りしたのでしょうか?
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_003.html
 
第二条
1 この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。
2 この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。
3 開発途上にある国は、人権及び自国の経済の双方に十分な考慮を払い、この規約において認められる経済的権利をどの程度まで外国人に保障するかを決定することができる。
 
 また、社会権規約はその16条1項において、「この規約において認められる権利実現のためにとった置及びこれらの権利の実現についてもたらされた進歩に関する報告」の提出を締約国に義務づけており、この報告は、「経済的、社会的及化的権利に関する委員会」によって審査され、「最終見解」がまとめられることになっています。
 
 1990年に日本から提出された報告ついての審査が2001年に行われ、「最終見解」が公表されていますが(非常に審査に時間がかかっていますね)、の中に「朝鮮学校」について言及された部分がありますのでご紹介します。
 
主な懸念される問題
委員会は、日本社会において、少数者集団、とりわけ部落及び沖縄コミュニティー、先住性のあるアイヌの人々、並びに在日韓国・朝鮮の人々に対する、特に雇用、住宅及び教育の分野で法律上及び事実上の差別が存続していることに懸念を有する
委員会は、少数者の児童が、公立学校において、母国語による、自らの文化についての教育を享受する機会が極めて限られている事実について懸念を表明する。委員会は、少数者の学校-例えば在日韓国・朝鮮の人々の民族学校などが、たとえそれが国の教育課程に沿うものであっても、公的に認められず、それゆえ、中央政府の補助金も受けられず、大学入学試験受験資格も与えられない事実についても懸念を有する
提言及び勧告
締約国が現在、ウトロ地区に住む在日韓国・朝鮮の人々と協議中であるということに留意する一方、未解決の状況を考慮し、委員会は、締約国に対し、部落の人々、沖縄の人々、先住性のあるアイヌの人々を含む日本社会におけるすべての少数者集団に対する、法律上及び事実上の差別、特に雇用、住宅及び教育の分野における差別をなくすために、引き続き必要な措置をとることを勧告する
委員会は、かなりの数の言語的少数者の児童生徒が在籍している公立学校の公式な教育課程において母国語教育が導入されることを強く勧告する。さらに委員会は、それが国の教育課程に従うものであるときは、締約国が少数者の学校、特に在日韓国・朝鮮の人々の民族学校を公式に認め、それにより、これらの学校が補助金その他の財政的援助を受けられるようにし、また、これらの学校の卒業資格を大学入学試験受験資格として認めることを勧告する
 
(余談)
 朝鮮学校とも教育とも関係ありませんが、上記「最終見解」に以下のような言及がありました。
主な懸念される問題
委員会は、報告された原子力発電所事故、及び当該施設の安全性に関する必要な情報の透明性及び公開が欠如していることに懸念を有するとともに、原子力事故の予防及び処理のための、全国規模及び地域社会での事前の備えが欠如していることに懸念を有する
提言及び勧告
委員会は、原子力施設の安全性に関連する問題に関し、周辺住民に対して、全ての必要な情報の透明性及び公開性を促進することを勧告する。さらに、締約国に対し、原子力事故の予防及び事故が起きた際の迅速な対応のための準備計画を策定することを要求する
※ここで言っている「原子力発電所事故」って何でしょうね?「東海村JOC臨界
事故」は1999年9月30日に起こった事故で、「最終見解」の公表はその2年後なので、これかなとも思いますが、審査の対象となった日本の「報告」が提出されたのは1990年だしなあ・・・。いずれにしても、以前から「体質」は少しも変わっていなかったという証拠の一つであることは間違いないですね。