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宮崎駿監督の引退会見と“技術が支える思想性”について

 今晩(2013年9月9日)配信した「メルマガ金原No.1477」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
宮崎駿監督の引退会見と“技術が支える思想性”について
 
 宮崎駿監督が、正式に引退を発表する記者会見を開いたのが(2013年)9月6日のことでした。
 多くのファンが、様々な感慨を持って記者会見の映像を視聴したり、報道を読んだりしたことでしょう。
 
 色々なメディアが中継しましたが(何社が撮影したかよく分からない位)、とりあえず、MaiDiGi(毎日新聞デジタル)の5本分割映像をご紹介しておきます。
 
宮崎駿監督 引退会見1 (15分56秒)

 

宮崎駿監督 引退会見2 (18分58秒)
宮崎駿監督 引退会見3 (23分47秒)
宮崎駿監督 引退会見4 (21分43秒)
宮崎駿監督 引退会見5 完結 (15分13秒)
 
 マスメディアで、このニュースを報じなかったところはないと言っても過言ではありませんが、その一々をご紹介するまでもないでしょう。
 ここでは、韓国「中央日報」が報じた引退記事をご紹介しておきます。
 
2013年09月09日15時40分 中央SUNDAY/中央日報日本語版
宮崎駿監督が引退「1つのジャンル50年もやって、終わらせる時に」(1)
宮崎駿監督が引退「1つのジャンル50年もやって、終わらせる時に」(2)
 
 少年時代をアニメ少年として過ごした記憶がほとんどない私が、宮崎駿さんの名前を初めて意識したのは『風の谷のナウシカ』によってでした。
 私の書架に今でも並んでいる2冊の大判コミックがあります。
 
ANIMAGE COMICS ワイド版(徳間書店
風の谷のナウシカ 新装版 1」 昭和59年3月15日発行(6刷) 330円
風の谷のナウシカ 新装版 2」 昭和59年3月15日発行(5刷) 330円
 
 新装版とあるのは、発行時期から考えて、映画『風の谷のナウシカ』公開に合わせて、装丁を変えて出し直したということだったのでしょうか。
 何しろ30年近くも前のことなので、やや記憶が曖昧ですが、多分このコミックスを買って読み、その直後に映画を封切で観たのだったと思います。
 何しろ、後年全7冊で完結するコミックの最初の2冊といえば冒頭の部分に過ぎず、映画と相当に違う、ということが印象に残ったのですが、映画は映画として、まずその深みのある美術や飛翔シーンの素晴らしさに目をみはりました。また、久石譲の重厚な音楽も印象的でした(TVスポットで流れていた安田成美の歌うイメージソングが映画で全く使われていなかったことは意外ではありましたが好感が持てました)。
 
 ところで、コミック第1巻の表紙裏には、こういう惹句が書かれていました。
 
ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は
数百年のうちに全世界に広まり
巨大産業社会を形成するに至った
大地の冨をうばいとり大気をけがし
生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は
1000年後に絶頂期に達し
やがて急激な衰退をむかえることになった
「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し
複雑高度化した技術体系は失われ
地表のほとんどは不毛の地と化したのである
その後産業文明は再建されることなく
永いたそがれの時代を人類は生きることになった 
 
 多分、宮崎さんご本人ではなく、アニメージュ編集部の人が書いたのではないかと思うのですが、先に書いた技術的な素晴らしさが、このようなテーマ性を支えていることに感銘を受けました。
 
 私にとっての宮崎アニメのベスト1は『千と千尋の神隠し』ですが(何というイメージの奔流!)、その他の作品にしても、最初に観た『風の谷のナウシカ』以来一貫して、卓越した技術が作品の思想性を支えている、いや、より端的に言えば、「技術は思想だ」という印象は変わりません。
 実は、『風立ちぬ』は未見なのですが、おそらくこれまでと全く異なった作品ではないだろうと予想しています。
 
 さて、このような宮崎談義をしていては切りがないので、最後に、知っている人は知っている、宮崎監督が1995年に、CHAGEASKAの楽曲『On You Mark』のプロモーション・フィルムとして監督した7分弱のショートクリップのことを書いておきます。
 
 宮崎監督自身、この作品の成り立ちを雑誌「アニメージュ」で以下のように語ったそうです。
 
(引用開始)
――冒頭の、のどかな田園風景の中に建つ奇怪な建物は何ですか。
宮崎:どう解釈してもらってもかまいませんが。その直後に出てくる放射能注意のマークのついたトラックを見て、何となくわかってもらえればいいと思うんです。地上には放射能があふれていて、もう人間が住めなくなっている。でも緑はあふれていて、ちょうどチェルノブイリの周囲がそうだったようにね。自然のサンクチュアリ(聖地)と、化している。で、人間は地下に都市を作って住んでいる。実際はそんな風には住めなくて、地上で病気になりながら住むことになると思いますが。
――このアニメは「On Your Mark」の音楽映画作品として作られていますね。
宮崎:「位置について」という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。いわゆる世紀末の後の話。放射能があふれ、病気が蔓延した世界。実際、そういう時代が来るんじゃないかと、僕は思っていますが。そこで生きるとはどう言うことかを考えながら、作りました。きっとそういう時代は、ものすごくアナーキーになっていく一方で、体制批判というようなことについて、ものすごく保守化しているんじゃないか。それはまだ失うものがあると思っているから。何にもなくなると、ただのアナーキーになっていって、のたれ死にが始まるんです。そういうものを紛らわ
してくれるのは、「ドラッグ」や「プロスポーツ」や「宗教」でしょう?それが蔓延していく。そういう時代に、言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲と考えてみた。ちょっと悪意に満ちた映画なんです(笑)。
(引用終わり)
 
 3.11の16年前にこのような作品が作られていたということを、多くの人に知っておいていただければと思います。