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石破茂氏の見過ごせない発言(但し、ただいま調査中)

 今晩(2013年9月17日)配信した「メルマガ金原No.1485」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
石破茂氏の見過ごせない発言(但し、ただいま調査中)
 
 去る9月14日(土)の午後、日課通り、NPJ(News for the Pepple in Japan)サイトを閲覧していたところ、以下のニュースの見出しに驚き、すぐにクリックして読んでみました。
 
朝日新聞デジタル 2013年9月14日13時23分
集団的自衛権、必要なら遠くも行く」石破・自民幹事長
(引用開始)
 (集団的自衛権は)誰も米国だけを相手にするとは言っていないし、攻撃する国が極東と限っていない。集団的自衛権は、国連の概念であって、地理的にどうのこうの、相手がどうのこうのじゃない。必要であれば遠くでも行くし、必要でなければ近くでも行かない。
 例えば東南アジア。フィリピン、マレーシア、どこかの国が攻撃を受けた。そこが日本にとって死活的に重要。そういう場合に知らん顔、そういうときは米国が出て行く。そういうことで本当にやれるのか。(読売テレビの番組で)
(引用終わり)
 

 

 NPJサイトで「『集団的自衛権、必要なら遠くも行く』石破・自民幹事長」という見出しを読んだ時は、当然、「必要なら遠くも行く」というのは、日米安全保障条約を締結している米国が「交戦状態」に入った地域であれば、イラクでもシリアでもイランでも、「必要なら遠くも行く」ということなのだろうと推測し、「それにしても、集団的自衛権使を否定する陣営に恰好の批判材料を提供することになるのに、大胆な発言だな」という「驚き」でした。
 ところが、朝日新聞デジタルのごく短い記事を読んだころ、予想は完全に外れました。この発言をどう理解すれば良いのか呆然としました。これが実際に感じた「驚き」の実態です。
 
 このことは既に指摘している方がおられますが・・・というか、一度でも国連憲章を読んだことのある者なら誰でも気がつくことですが、「国家安全保障基本法案」とりまとめの中心を担い、集団的自衛権行使容認への憲法解釈変更を推進しようとしている自民党の幹事長が、国連憲章上の集団的自衛権の概念さえ理解していない、とい
うことに驚かざるを得ないのです。
 
国際連合憲章国際連合広報センターに掲載された日本語訳)
第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。
(以下略)
第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。
また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
 
 「国連の概念」でいうところの「集団的自衛権」というのは、もちろん51条に規定された「(個別的又は)集団的自衛の固有の権利」のことであって、その概念の内容は、歴代内閣が、内閣法制局の補佐の下、以下のように解釈してきました。
 
「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止すること」(1972年10月14日、政府(田中角栄内閣)が参議院決算委員会に提出した資料に記載)
 
 ところが、石破幹事長の理解する「集団的自衛権」とは、「米国だけを相手にするとは言っていない」ものであり、「どこかの国が攻撃を受けた。そこが日本にとって死活的に重要」であれば、「遠くでも行く」というものなのだそうです。
 何をどう考えようが勝手といえば勝手ですが、少なくとも、世界中の政治学・国際の研究者の中で、国連憲章51条の「集団的自衛権」を、「石破説」のように解する者が1人もいないということだけは断言できます。
 
 もしかすると、国際連合安全保障理事会)による集団的安全保障(国連憲章42条以下)のことと混同しているのか、あるいは、52条以下の「地域的取極」のことを言っているのか(日本は多国間地域安全保障協定に加盟などしていないはずだが)とも考えられますが、いずれにしても、もしも朝日新聞が伝えたとおりの発言をしたのだとすると、これはとんでもないことです。
 
 ・・・と思っていたところ、今日(9月17日)の自民党役員連絡会終了後の石破幹事長の記者会見の映像がアップされていました(16分43秒)。
 
 記者からは、さすがに集団的自衛権がらみの質問が多かったものの、上記、読売テレビの番組(調べたところ、「ウェークアップ!ぷらす」でした)での発言の真意を直接問い質したものはなかったようです。
 ただ、11分ころから、石破幹事長は、自民党の「国家安全保障基本法案」においては、集団的自衛権について地域や対象国に制限はなく広く認めている、という趣旨の発言をしていました。
 そこで、「国家安全基本法案」の当該条項を引用します。
 
自由民主党 国家安全基本法案(概要)
第10条 (国際連合憲章に定められた自衛権の行使)
 第2条第2項第4号の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合
には、以下の事項を遵守しなければならない。
一 我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの
武力攻撃が発生した事態であること。
二 自衛権行使に当たって採った措置を、直ちに国際連合安全保障理事会
に報告すること。
三 この措置は、国際連合安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持
に必要な措置が講じられたときに終了すること。
四 一号に定める「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃につ
いては、その国に対する攻撃が我が国に対する攻撃とみなしうるに足る関係性があること。
五 一号に定める「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃につ
いては、当該被害国から我が国の支援についての要請があること。
六 自衛権行使は、我が国の安全を守るため必要やむを得ない限度とし、か
つ当該武力攻撃との均衡を失しないこと。
2 前項の権利の行使は、国会の適切な関与等、厳格な文民統制のもとに行
われなければならない。
第11条 (国際連合憲章上定められた安全保障措置等への参加)
 我が国が国際連合憲章上定められ、又は国際連合安全保障理事会で決議
された等の、各種の安全保障措置等に参加する場合には、以下の事項に留意しなければならない。
一 当該安全保障措置等の目的が我が国の防衛、外交、経済その他の諸政
策と合致すること。
二 予め当該安全保障措置等の実施主体との十分な調整、派遣する国及び
地域の情勢についての十分な情報収集等を行い、我が国が実施する措置の目的・任務を明確にすること。
 
 しかし、国家安全保障基本法案の10条を読んでみても、とても「石破説」のような結論になるとは思えず、また、10条と11条がごっちゃになっているのだと「善意に」解釈したとしても、「そこが日本にとって死活的に重要。そういう場合に知らん顔、そういうときは米国が出て行く。そういうことで本当にやれるのか」という発言には、米国に対する配慮・忖度は「痛いほど」にじみ出ていますが、安全保障理事会決議のことがどれだけ意識されているのでしょうね?
 
 14日に朝日新聞デジタルの記事に驚いてから、YouTubeなどの動画サイトに問題の発言がアップされないものかと注目しているのですが、まだ見つけられません。
 私がこの文章のタイトルに(但し、ただいま調査中)という断り書きを付けざるを得なかったのは、「発言の裏付」がとれていないからです。
 従って、今日書いた内容は、14日の朝日新聞デジタルの報道が正しく発言内容を伝えていれば、という留保付きで書いたものなので、その点はご了解願います。
 
(以前に書いた石破茂氏関連の記事)
石破茂自民党幹事長の『軍法会議』発言と東京新聞こちら特報部の目の付け所」