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読むためのテキスト『日本国憲法』2種類(小学館&講談社学術文庫)のご紹介

 今晩(2013年9月24日)配信した「メルマガ金原No.1492」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
読むためのテキスト『日本国憲法』2種類(小学館&講談社学術文庫)のご紹介
 
 「日本国憲法の条文そのものを本にしたらどうだろう」と最初に考えた編集者が誰であったか、知識不足のために詳らかにできないのが残念ですが、最も有名な例はこれでしょう。
 1982年4月20日、その名も『日本国憲法』という表題の単行本が小学館から刊行されました。「写楽」編集部という、1980年から1985年まで存続した写真雑誌が「編集」名義人となっており、29枚の様々な写真が、大きなポイントの字で組んだ日本国憲法条文(総ルビ付き)と交互に現れるという、写真雑誌編集部ならではの斬新なアイデアが受けて、大きな話題を呼んだものでした。
 この写真集と言ってもよい『日本国憲法』を買った人は、写真と憲法と、どちらにも関心があった、のでしょうかね?
 ちなみに、私が興味をひかれた写真は、冒頭に掲げられたアポロやスペースシャトルから撮影された地球ではなく、「日なたぼっこをする猫」と「温泉に入る親子4人」(お父さんは日本国憲法が施行された昭和22年生まれ)でした。
 
 それから時は移り、2013年、小学館『日本国憲法』は、中身は初版と変わらぬのの、ソフトカバーに版をあらため、コンビニの店頭に並ぶことになりました。
 ブック・アサヒ・コムが、新版刊行の経緯を記事にしています。
 
ブック・アサヒ・コム 2013年6月9日掲載
日本国憲法、コンビニに並ぶ 異色のベストセラー」(石橋英昭)
 
(抜粋引用開始)
 最近は、毎年5千部前後が静かに売れていた。昨年春、自民党が本格的な憲草案を発表。年末には安倍政権が誕生した。自民草案は表現の自由をめぐり、新たな規定を加えた。「公益および公の秩序を害することを目的とした活動は、認められない」
 小学館の編集者たちは、言論や出版の自由が脅かされるのでは、と危惧した。
社の「週刊ポスト」は1月、自民草案の問題点を検証する特集を組んだ。
 改憲論議が進む中、書籍でも何かできないか。出てきた企画が「日本国憲法
今の世代に読んでもらうこと。若者向け書籍の販売に力を入れるセブン―イレンが応じた。
 新しく編集者になった清水芳郎さん(54)は4月、すでに退職していた島本ん(注:初版刊行時の編集者・島本脩二さんのこと)「また出しませんか」と連絡した。島本さんも同じことを考えていた。
(引用終わり)
 
 かつて買った初版はとうに人に譲って手元になかったため、第2版がコンビニでると知って近くのセブンイレブンに行った時には既に店頭になく、パソコンで検索したところ、ネット通販でも買えることが分かったため、すぐに注文しました(500円+税)。
 
 あらためて手にとってみての感想は、ソフトカバーとなってさらに取っつきやすくなり、価格もワンコイン(+税)という手頃感から、再び多くの人に憲法そのものを読んでもらうための有力な手段たり得る、31年経っても古びていない、というものでした。
 私が入手したのは「2013年7月6日 第2版第2刷発行」でしたが、帯に書かた惹句をご紹介しておきます。
 
(表)
読んでから考えませんか?
大きな活字と写真29枚。目にやさしく、読みやすい。
1982年の初版から31年かけて累計100万部
(裏)
一家に一冊必備の「憲法」
永久保存版です!!
 
 ちなみに、小学館版『日本国憲法』には、解説は一切付いていませんが(29の写真説明はしっかり付いています)、付録として、「大日本帝國憲法」と「英訳 日本国憲法」が搭載されています。ただし、旧憲法はまあ読めますが、英訳は字が小さ過ぎてとても読もうという気にはなりません。
 
 ここでもう1冊、日本国憲法の条文を読んでもらうために企画された書籍(文庫本)をご紹介します。
 
『新装版 日本国憲法』 
 2013年8月29日 第1刷発行  300円(+税)
 
 「新装版」というのは、同じ講談社学術文庫から旧版(1985年3月刊)が出ていたからで、私は旧版は所蔵していないので、どこが変わったのか分かりませんが、多分、中身はほとんど変わらず、価格だけ値下げしたようです。
 この講談社学術文庫版に収録されているのは以下の法令です。
 
日本国憲法」(総ルビではないものの、これだけルビがあればほぼ誰でも読めるでしょう)
教育基本法」(「改正」前の旧法)
「児童憲章」
「英訳日本国憲法
「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」
 
 「日本国憲法」が最も大きめの字を使っていますが、その他の法令についても、通常の文庫で使われるものよりは大きめの字が使われており、非常に読みやすいです。
 以上のとおり、小学館版に比べて、収録法令数が多く、しかも、ちゃんと読める大きさの字が使われていますが、写真など、興味をひく要素は全くありまん。もっとも、だから印税を1円も払わなくてもよいので(法令に著作権はない)、値段を安くできるのですが。
 それから、「教育基本法(旧法)」が搭載されているのは、同法が憲法と一体をなすものとして制定された特別な法律であったからであることは、同法を読すれば明らかですが、今度の「新装版」においても、あえて「教育基本法」の「新法」ではなく「旧法」を搭載していることをどう見るかについては、日憲法と一体をなすものであったのはあくまで「旧法」であるから、「新法」掲載するのはそぐわない、と編集者が考えたからという解釈と、旧版に変更を加える手間を惜しんだから、という身も蓋もない解釈とがあり得るところです。さて、どちらでしょうかね? 
 
 この講談社学術文庫版にも解説などは一切ついていませんので、こちらもの惹句をご紹介しましょう。
 
(表)
語るために、
読みたい。
(裏)
戦後日本、最大の争点でありつづけた〈憲法〉。
読まれないまま、語られすぎていませんか。
 
 以上、2冊の帯(腰巻き)の惹句を読めば、小学館の編集者も、講談社術文庫の編集者も、「思い」は同じということが分かります。
 
 さて、私が日本国憲法の条文そのものを読んでもらうことを目的として出版された2冊の本をご紹介したのは、以下のような問題意識からです。
 去る9月8日に開催された「第2回和歌山県『9条の会』交流集会」で私がお話ししたスピーチの原稿をメルマガ&ブログでご紹介しましたが、その一部を抜粋して再掲します。
 
(引用開始)
 さらに、私たちは、従来からも「憲法学習会」に取り組んできましたが、振り返ってみれば、決して十分なものではなかったと思います。これからは、中身についても様々に工夫する必要がありますが、その頻度、対象者、開催方法など、あらゆる面において従来の常識の殻を破り、絶えることなく打ち寄せる波のごとく憲法学習会を開催し続けることが重要だと、私は思っています。
(引用終わり)
 
 これまでの憲法学習会を振り返る時、各地の「9条の会」が企画した場合にはやむを得ないところもあるのですが、あまりに「9条」に偏りすぎていて、「憲法の基本原理」や「日本国憲法全体の中の9条の位置付け」が(私の経験では)手薄だったという反省があります。
 講談社学術文庫の帯にある「読まれないまま、語られすぎていませんか。」というのは、実は、私たち「9条」を守る運動を進めてきた当事者にも突きつけられている「問い」ではないのか、という気がしています。
 もちろん、「憲法なんて知らないよ」という人に対して働きかけ、憲法の重要性を理解してくれる人を1人でも多く生み出していく努力が重要であることは言うまでもありません。
 そのいずれについても、憲法そのものをしっかりと読み込むためのテキストは非常に有用だろうと思います。
 
 実際問題、ただ単に条文を読むというだけのことであれば、講談社学術文庫収録された法令は、すべてインターネットで(無償で)読むことができます。
 

 

教育基本法」(「改正」前の旧法)
「児童憲章」
「英訳日本国憲法
「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」
 
 しかし、一般市民にネットで条文に親しんでもらうことを期待するのは無理というものでしょう。
 その意味からも、小学館と講談社学術文庫が、1980年代に刊行した『日本国憲法』を、憲法に最大の危機が訪れた今年(2013年)、版をあらためて刊行した意義は決して小さくないと思います。
 
 そこで、私の「お薦め」がどちらかということですが、
 
「憲法なんて知らないよ」という人には→小学館版
「9条の会」会員だけど実は「憲法全体を読んだことがない」という人には→講談社学術文庫版
両者の中間という人には→どちらでも良いが値段が安い方が勧めやすいかな
 
といったところです。
 これから憲法学習会を企画される方、知り合いに「憲法を読んで欲しい」と勧めようと思っている方のご参考になれば幸いです。