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内閣法制局長官は“何に”従わなければならないのか?

 今晩(2014年2月25日)配信した「メルマガ金原No.1648」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 

 

内閣法制局長官は“何に”従わなければならないのか?
 
 昨日(2014年2月24日)、体調不良により入院を続けていた小松一郎内閣法制局長官が1か月ぶりに公務に復帰したことがニュースで報じられていました(ぶら下がり記者会見があったようです)。
 しかし、新聞などでその記事を読んで多くの人が非常な違和感を覚えたことと思います。それは、各紙が一様に伝えた以下のフレーズによってです(時事を除く)。
 
(簡略コース) 
「首相の方針に従ってやるべきことをやる」(日本経済新聞
(通常コース)
内閣法制局は内閣の一部局だ。首相の方針に従ってやるべきことをやるということだ」(朝日新聞
内閣法制局は内閣の一部局なので、首相の方針に従ってやるべきことはやる」(毎日新聞
内閣法制局は内閣の一部局なので、安倍晋三首相の方針に従って、やるべきことをやる」(共同通信
(番外コース) 
「内閣に大変な迷惑を掛け、大変申し訳なく思っている。退院したからには誠心誠意やりたい」(時事通信
 
 このような気になる発言が目に付いた時は、実際の映像を探して検証できれば良いのですが、残念ながら今のところ発見に至っていません。そこで、やむなく各社の記事を比較した上で、朝日、毎日、共同が伝えるような趣旨の発言があったのはまず間違いないと判断した次第です(読売や産経も探したのですが見つけられませんでした)。
 
 なお、歳川隆雄氏は、独自ルートで入手した材料があるのか、小松氏の病状を詳しく説明した上で、同氏が病床から安倍首相に対して「命に代えても自分の手で解釈変更を成し遂げたい。どうかしばらくの間、任を解かないで頂きたい」と伝え、この直訴を聞かされた安倍首相が、「小松さんは戦死するつもりなんだ」と痛く感動し、解釈変更の閣議決定の時期を(4月中にも)早めることを決めたと、見てきたような「美談」(?)仕立ての記事を書いています。
 
現代ビジネス ニュースの深層
ZAKZAK 永田町・霞が関インサイド
 
 「美談」の真偽はこの際さておくとしても、「首相の方針に従ってやるべきことをやる」ということを、並の官僚ならともかく(その場合でも大いに問題になり得る場合はあるでしょうが)、内閣法制局長官が言ってはいけないでしょう。
 憲法99条(公務員の憲法尊重擁護義務)を持ち出すまでもなく、内閣の中で、法令等の憲法適合性に最も大きな責任を負っているのが内閣法制局です。小松氏は、まず「憲法」に従わなければならないのです。いかに外交官出身とはいえ(外交官試験にも憲法は含まれています~少なくとも今は)、それ位のことが分からないはずはありません(小松氏も、任官に際しては、憲法を遵守するという「服務宣誓」をしているはずですけれど)。 
 
 ことは、数十年来引き継がれてきた憲法解釈を、一内閣の判断で政府の権限拡大の方向に変更できるかどうかという問題なのですから、仮に腹の中では「首相の方針に従う」つもりであったとしても、公式には「合理的な憲法の解釈の範囲内で適切に対処したい」とでも言うのが当たり前でしょう。ところが、安倍首相の側近や「お友達」には皆共通の傾向があるのですが、「恥を知る」という徳目をどこかに置き忘れてきた(あるいは元々持っていない)としか思えない人々ばかりであって、結局、小松氏の「首相の方針に従ってやるべきことをやる」という発言も、最近物議を醸している「お仲間たち」と同じメンタリティーに支配されてのものと言い得ると思います。
 
 その上、上命下達の世界では「義務の衝突」ということは時に起こり得ることですが、小松氏の場合は、「憲法」と「首相の方針」の板挟みになるのではなく、「憲法」そっちのけで「首相の方針に従ってやるべきことをやる」というのですから、「義務の衝突」すら起こらない、と言うよりも、内閣法制局の部下に対し、「憲法を守るべきか、長官の指示に従うべきか」というジレンマに直面させるのですから、その罪はまことに重大です。
 
 仮に、小松氏が「命」をかけて、憲法規範を無視した「クーデター」に加担し、集団的自衛権行使容認に憲法解釈を変更させようというのであれば、私たちは、将来、日本防衛とは何の関係もない外国であたら戦死することになる自衛隊員や、自衛隊に殺される外国の人々の「命」を守るために今こそ立ち上がるべき時だと言わねばなりません。
 
 今日(2月25日)、安倍晋三首相と公明党山口那津男代表が会談を行い、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更について、安保法制懇が4月に提出を予定する報告を受けて、与党協議を開始することで一致した、と報じられています。
 
 いよいよ正念場が近付いてきました。
 TPP、原発再稼働、特定秘密保護法、教育問題、その他取り組まなければならない課題は目白押しですが、今最も緊急性が高い課題は「集団的自衛権」だろうと思います。
 各種世論調査の結果は、必ずしも安倍政権暴走阻止の方向に国民世論が向かっているとは言えない数値を示しています。
 今、「集団的自衛権行使容認阻止」を、世論に働きかける最重点課題と位置付け、あらゆる資源を活用した運動の組織化が求められています。
 私自身、和歌山にいて自分に何ができるだろうかと考えています。