本日(2014年4月19日)配信した「メルマガ金原No.1701」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
映画『パンドラの約束』と反論書『偽りの約束-原子力推進のウソを撃つ-』
今日(2014年4月19日)から東京渋谷のシネマライズなどで本格公開が始まった『パンドラの約束』(2013年・米国)というドキュメンタリー映画をご存知でしょうか?
私自身、今日までそんな映画が存在することすら知りませんでした。
どんな映画かというと・・・まず、予告編をご覧ください。
『パンドラの約束』 予告編
「映画紹介」に掲載された文章にはこうあります。
(抜粋引用開始)
この、ロバートストーン監督による映画は、まさに“パンドラの箱”を開けてしまった時のように、エネルギーを考えるあらゆる立場の人々にとって衝撃的な内容を持っている。原子爆弾やフクシマ事故は、原子力の安全神話を完全に破壊してしまった。しかし、もしその観念が間違っているとしたら?……観客は、我々が恐れている原子力というテクノロジーこそが、地球を気候変動から守ってくれること、そして途上国に住む何十億人もの人々を貧困から救うということを目撃することになるだろう。
(略)
人類はこの数十年の間に、途上国における人々の生活水準の向上のために、現在の2倍どころか3倍ものエネルギーを必要とすることになる。クリーンで二酸化炭素を排出しないエネルギー源が出現しないかぎり、地球の温暖化は免れない。世界はエネルギー枯渇に直面しつつあり、結果的に環境危機をよぶことから地球単位のサバイバルの始まりとなる。この現状に対して、風力と太陽光しかないというジレンマが、環境運動の主だった潮流を完全にバラバラにしてしまった。この問題に正面から向きあったのがこの映画である。3年の歳月を費やして、海外4カ所でのロケを敢行、こと細かく事実調査を行った本作では、化石燃料に代わる唯一のエネルギー源が環境保護派の最も恐れる原子力であることを描いている。
(略)
(引用終わり)
まあ、引用はこれ位でいいでしょう。あとは、この映画をめぐる周辺的な話題をいくつかご紹介しておきます。
ネットで検索してみたところ、この映画を「推奨」しているのは、いかにもという人々や団体でした。試みにいくつか挙げておきます。
映画『パンドラの約束』特別インタビュー
なぜ環境保護派が原子力を支持するのか ロバート・ストーン(映画監督)
なぜ環境保護派が原子力を支持するのか ロバート・ストーン(映画監督)
東海道新幹線の車内誌というイメージが強い(JR東海グループの出版社が出している)「WEDGE(ウエッジ)」という雑誌の昨年(2013年)9月号に掲載されたインタビューです。この9月号では、「日本経済の最大リスク要因はエネルギー 今こそ原子力推進に舵を切れ」という特集が組まれ、心ある人々から顰蹙を買ったものでした。
msn産経ニュース 2014年2月11日 【東京特派員】
反原発を放棄した人々 冷厳な事実描いた「パンドラの約束」 湯浅博
池田信夫 パンドラの約束 (2014年2月19日)
「この映画の指摘は、むしろエネルギー自給率が4%しかない日本に当てはまる。OECD諸国の中で安いほうだった日本の電気料金は3・11以降、30%以上も上がった。このまま原発を止め続けたら2倍以上になり、逆進的な「電気税」が貧困層の生活を直撃するだろ」というのが池田信夫氏の映画を観た感想だそうです。
映画公開を前に、代表的な夕刊紙2紙が伝えた対照的な報道もありました。
日刊ゲンダイ 2014年4月4日
ひたすら原発礼賛…米映画「パンドラの約束」の危険な中身
「苦し紛れの原発推進派を笑い飛ばしてみますか」というのがこの記事のまとめでした。
夕刊フジ 2014年4月17日
原発推進映画「パンドラの約束」公開 反対派はなぜか沈黙…
「原子力発電所を応援する異色のドキュメンタリー映画が今週末から順次、全国公開される。原発こそ地球を破局的な気候変動から救えると訴えるマジメな“反・反原発映画”の内容に、反原発派はぐうの音も出ないようなのだ」などと、何の根拠もなくうそぶいている記事です(フジ、産経の記事ではいつものことですが)。
日刊ゲンダイの言うように「笑い飛ばして」も良いのですが、安心して「笑い飛ば」せるのは、それなりに理論武装が出来ている人であって、何となくもやもやしたままでは気持ちがよくないでしょうし、この映画を観て「そうなんだ」と納得してしまう人がいないとも限らないので、それなりに反論を行う必要があるでしょう。
(抜粋引用開始)
「福島のがんのリスクはゼロ。今後もリスクは増えない」
「フランスの電力の80%を担う50基の原発が生み出す廃棄物は部屋1室分にも満たない」
(引用終わり)
(引用開始)
BEYOND NUCLEAR報告書「偽りの約束―原子力推進のウソを撃つ―」翻訳
版公開中
4月から、「パンドラの約束」と題した、原子力推進のドキュメンタリー映画が全国ロードショーされています。
当室では、米国の反原発団体”Beyond Nuclear“が作製したこの映画に対する反論書「偽りの約束―原子力推進のウソを撃つ―」を邦訳して、ダウンロードできるようにしております。
是非、この報告書をお読みください。
(引用終わり)
当室では、米国の反原発団体”Beyond Nuclear“が作製したこの映画に対する反論書「偽りの約束―原子力推進のウソを撃つ―」を邦訳して、ダウンロードできるようにしております。
是非、この報告書をお読みください。
(引用終わり)
上記報告書のPDFファイルは以下でダウンロードできます。
『偽りの約束―原子力推進のウソを撃つ―』
リンダ・ペンツ・ガンター著
監訳: 松久保肇(原子力資料情報室)
翻訳: 岡山文人
翻訳: 岡山文人
この論考の執筆経緯や概要を知っていただくために、「目次」と「はじめに」の部分を引用します。
『パンドラの約束』に限らず、原発推進派の一般的な主張に対する論理的な反撃ともなっているようなので、是非ご一読をお勧めしたいと思います。
(引用開始)
目次
はじめに
気候変動
ベース負荷伝説
「新世代」高速炉
廃棄物
コスト
原子力発電と健康リスク
多方面の調査・研究
チェルノブイリによる健康被害
フクシマ事故による健康被害
バナナは安全か、飛行機は安全か
フランスの事情
ドイツの事情
結び
謝辞
はじめに
気候変動
ベース負荷伝説
「新世代」高速炉
廃棄物
コスト
原子力発電と健康リスク
多方面の調査・研究
チェルノブイリによる健康被害
フクシマ事故による健康被害
バナナは安全か、飛行機は安全か
フランスの事情
ドイツの事情
結び
謝辞
はじめに
このレポートのきっかけは『パンドラの約束』というドキュメンタリー映画だ。ロバート・ストーンが監督した原子力推進派の映画が 2013 年の夏に公開される。映画の登場人物はだれもが、実際の発言や著述と同じように、原子力産業に関しておおざっぱで肯定一方の意見を述べている。
映画の宣伝文句は始めのうち「反原発活動家から次々と転向した人たちによる生の声を伝える」となっていたのだが、そもそも映画の登場人物たちはその範疇にまったく当てはまらない。しばらくすると宣伝や広告シーンが少しずつ変わってきて、映画の内容も詳しくは語らなくなっていった。この変遷は Beyond Nuclear のブログにまとめてある。
映画の広告によると“原子力を推進する環境保護論者たち”をテーマにしているという。言葉の意味を考えれば完全な矛盾だ。環境保護を主張するなら持続不可能で地球から鉱物を絞り取る産業などとても支持できないし、特に原子力のように環境を汚染し、ウラン採鉱の労働者に職業病と死を押しつけ、水資源を汚染し、枯渇させ、がんの原因となる放射性元素を大気と土壌と河川と海洋とにまきちらし、しかも廃棄物には数百年から数百万年にわたって放射線を出しつづける有毒な放射性元素が含まれているのだから、なおのこと推進など主張できない。さらに加えれば、原子力産業のいろいろな段階にどこかひとつでも失敗があれば、広い範囲が永久に居住不能となってしまう可能性さえある。この映画をもう少し正確にいうなら“原子力に転向した元環境保護論者たち”とでも言えようか。
映画『パンドラの約束』やそのパンフレットで語られるまやかしは、この映画やその広報担当者に限ったものではない。どこでも使われている誤解や錯誤だ。中には原子力産業のカネで原子力産業が儲けるために意図的に作り、作為的に浸透させてきたものも含まれている。そのカネでさえ、大部分はアメリカの納税者が60年間も支払ってきたものだ。ここでは、そういうわけで、映画に出てくる誤解や錯誤だけを取り上げるのではなく、出演者などの原子力推進者がいろいろなところで発表している主張も対象にしている。さらに、あまりにも多いのだが、“不作為の罪”も暴いていく。つまり重要な事実を語らないで原子力の利点だけを強調するスタイルだ。もしその事実を含めれば利点など消えてしまうから、彼らは隠し通そうとするのだ。そのためこのレポートでは『パンドラの約束』に限定することなく、原子力推進論者があちこちで流布している偽りに対して反論していくとにする。
気候変動の緩和に原子力がまるで貢献しないばかりか、とんでもないコストが隠れていることもはっきりわかる膨大なデータが蓄積されている。そのデータを厳選し、集大成したのがこのレポートである。レポートはいくつかの章に分かれているが、それぞれの章で関連データや論点のすべてを網羅したわけではないことをお断りしておきたい。
特に再生可能エネルギー関連での技術開発や実施の分野はたいへん活発で、紹介しきれなかった新しい展開も多い。原子力だけでなく他の化石燃料エネルギーもどんどん置き換えていく勢いがある。ぜひこの分野の専門家たちに注目してほしいし、このレポートにも参考文献を挙げてある。原子力発電を続けなければ電力が足りないなどという議論は、技術的にも経済的にも、もちろん環境的にも、再生可能エネルギーの進歩をもって反論できる。
このレポートでは触れることができなかったデータへも参考文献や脚注、あるいは Beyond Nuclear のウェブサイトからリンクをたどって、ぜひ参照してくださることを願っている。
このレポートのきっかけは『パンドラの約束』というドキュメンタリー映画だ。ロバート・ストーンが監督した原子力推進派の映画が 2013 年の夏に公開される。映画の登場人物はだれもが、実際の発言や著述と同じように、原子力産業に関しておおざっぱで肯定一方の意見を述べている。
映画の宣伝文句は始めのうち「反原発活動家から次々と転向した人たちによる生の声を伝える」となっていたのだが、そもそも映画の登場人物たちはその範疇にまったく当てはまらない。しばらくすると宣伝や広告シーンが少しずつ変わってきて、映画の内容も詳しくは語らなくなっていった。この変遷は Beyond Nuclear のブログにまとめてある。
映画の広告によると“原子力を推進する環境保護論者たち”をテーマにしているという。言葉の意味を考えれば完全な矛盾だ。環境保護を主張するなら持続不可能で地球から鉱物を絞り取る産業などとても支持できないし、特に原子力のように環境を汚染し、ウラン採鉱の労働者に職業病と死を押しつけ、水資源を汚染し、枯渇させ、がんの原因となる放射性元素を大気と土壌と河川と海洋とにまきちらし、しかも廃棄物には数百年から数百万年にわたって放射線を出しつづける有毒な放射性元素が含まれているのだから、なおのこと推進など主張できない。さらに加えれば、原子力産業のいろいろな段階にどこかひとつでも失敗があれば、広い範囲が永久に居住不能となってしまう可能性さえある。この映画をもう少し正確にいうなら“原子力に転向した元環境保護論者たち”とでも言えようか。
映画『パンドラの約束』やそのパンフレットで語られるまやかしは、この映画やその広報担当者に限ったものではない。どこでも使われている誤解や錯誤だ。中には原子力産業のカネで原子力産業が儲けるために意図的に作り、作為的に浸透させてきたものも含まれている。そのカネでさえ、大部分はアメリカの納税者が60年間も支払ってきたものだ。ここでは、そういうわけで、映画に出てくる誤解や錯誤だけを取り上げるのではなく、出演者などの原子力推進者がいろいろなところで発表している主張も対象にしている。さらに、あまりにも多いのだが、“不作為の罪”も暴いていく。つまり重要な事実を語らないで原子力の利点だけを強調するスタイルだ。もしその事実を含めれば利点など消えてしまうから、彼らは隠し通そうとするのだ。そのためこのレポートでは『パンドラの約束』に限定することなく、原子力推進論者があちこちで流布している偽りに対して反論していくとにする。
気候変動の緩和に原子力がまるで貢献しないばかりか、とんでもないコストが隠れていることもはっきりわかる膨大なデータが蓄積されている。そのデータを厳選し、集大成したのがこのレポートである。レポートはいくつかの章に分かれているが、それぞれの章で関連データや論点のすべてを網羅したわけではないことをお断りしておきたい。
特に再生可能エネルギー関連での技術開発や実施の分野はたいへん活発で、紹介しきれなかった新しい展開も多い。原子力だけでなく他の化石燃料エネルギーもどんどん置き換えていく勢いがある。ぜひこの分野の専門家たちに注目してほしいし、このレポートにも参考文献を挙げてある。原子力発電を続けなければ電力が足りないなどという議論は、技術的にも経済的にも、もちろん環境的にも、再生可能エネルギーの進歩をもって反論できる。
このレポートでは触れることができなかったデータへも参考文献や脚注、あるいは Beyond Nuclear のウェブサイトからリンクをたどって、ぜひ参照してくださることを願っている。
(引用終わり)