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平成の「5.15事件」に抗するために~まずは論理的な反撃を

  今晩(2014年6月1日)配信した「メルマガ金原No.1744」を転載します。

 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
平成の「5.15事件」に抗するために~まずは論理的な反撃を
 
 2014年5月15日夕刻、大相撲中継が終わった直後から始まった安倍晋三首相の記者会見を、最初に平成の「5.15事件」と評したのが誰であったか分かりませんが、私が初めて気がついたのは、水島朝穂早稲田大学教授が書かれた「今週の『直言』」によってでした。
 
2014年5月19日 水島朝穂の「今週の『直言』」 
平成の「5.15事件」―戦後憲法政治の大転換
(抜粋引用開始)
 1932(昭和7)年5月15日、犬養毅首相(立憲政友会総裁)が首相官邸において、「昭維新」を唱える海軍青年将校によって殺害された。首相が力によって葬られた日である。の82年後、首相官邸において、首相が憲法を葬る道に踏み出した。午後6時からの記者見(録画)を見ながら、背筋に冷たいものが走った。それは、作家の保阪正康氏によれば、まに「情念的感情的政治」にほかならない。保阪氏はいう。「5.15事件や2.26事件後、軍事導者たちが盛んに『非常時』という言葉を使い、議員も庶民も世の中全体が『非常時』と思うようになった。しかし、両事件も満州事変も軍が自作自演したものだ」(『東京新聞』2014年5月16日付談話「主観的正義繰り返すな」より)。まさに憲法を葬り去る「情念政治」のはじまりを象徴する記者会見だった。
 本来、安全保障政策の転換をはかるというなら、具体的かつ客観的な根拠を示しつつ、論
理的かつ理性的に説明がなされるべきだろう。しかし、安倍首相は冒頭から、イメージと感情に訴え、安保法制懇報告書の極端に単純化されたモデルに基づき、強引な結論に導く強迫的手法を駆使した。
(略)
 首相の思い(情念)は、日米関係を軍事的に対等なものにし、日米安保条約を双務的な
ものにするということである。これは祖父の岸信介の果たせなかったことである。だが、集団的自衛権行使を憲法解釈の変更で可能にするという無理筋を行うことで、それを達成できると本気で考えているところが、安倍晋三安倍晋三たる所以なのかもしれない。あまりにも単純なのである。自らの思いが思い入れとなって一人歩きし、さらに思い込みに転化し、ついには思い違いとなって権力を支配してしまった。その結果、壮大なる勘違いが、この国を82年前のような気分と空気が漂う方向に導いているのである。その一つが極端なまでの「友敵」思考である。
(略)
 湛山が病に倒れたあとに首相になったのが岸信介である。その孫が、父・晋太郎の命日
(1991年5月15日没)をわざわざ選んで、祖父と父に「ボク、とうとうやったよ」と目を潤ませたとしたら、それは、隣国の三代目独裁者が、祖父と父を意識して未熟な暴走をしているのとほとんど変わらないだろう。
(引用終わり)
 
 とにかく、半ば「あちらの世界」に行ってしまった人間との「論戦」など成り立たないとは思いますが、一応、いかにばかげた事例(パネル)であるかについて、誰にでも分かりやすく説明できるだけの知識は身につけておきたいものです。
 
 まずは、批判の対象となる安保法制懇「報告書」とそれを受けた首相記者会見(映像と文字起こし)にあらためてリンクをはっておきます。
 
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会「報告書」(平成26年5月15日)
安倍晋三総理大臣記者会見(同日)
 
 さて、これに対する批判ですが、5月19日に「集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」に招かれた柳澤協二さん(元内閣官房副長官補)の講演については、既に本メルマガ(ブログ)でご紹介済みです。
 
2014年5月22日
柳澤協二さんの「安保法制懇報告書と安倍総理記者会見 徹底批判」(5/19)
 
http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/38246556.html
 
20140519 UPLAN 柳澤協二「安保法制懇報告書と安倍総理記者会見 徹底批判」
 
 そして、「集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」では、5月28日に、半田滋さん(東京新聞論説兼編集委員)を(3月に次いで)再び招き、お話していただいています。28分程度と視聴するにも手頃な時間であり、とても分かりやすいです。
 また、話の要点は、IWJの原佑介記者が要領良くまとめてくれています。
 今のところ IWJ しか映像が見つかっておらず、間もなく「会員限定」になると思いますので、是非「会員登録」をご検討ください。
 
IWJ 2014/05/28 半田滋氏「安倍総理は不勉強か嘘つきか」。朝鮮半島有事に力で邦人と在韓米軍家族を救出するプランが20年前から存在した!?
 
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/142292
 
 なお、5月17日から、東京新聞で「半田滋編集委員のまるわかり・集団的自衛権」という囲み記事が連載されており、今日(6月1日)掲載された第11回までのテーマをご紹介すると以下のとおりです。
 
第1回(5月17日) どんな権利なのか 他国へのケンカ買う
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=393580767446487&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第2回(5月18日) 邦人運ぶ米艦船防護 自力輸送の計画無視
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=394217860716111&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第4回(5月20日) 米艦艇防護 合理性欠き非現実的
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=394437877360776&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第5回(5月23日) 米への弾道ミサイル 迎撃不能 想定に無理
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=395688617235702&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第6回(5月24日) 武器輸送船の阻止 船舶検査 今でも可能
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=396268303844400&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第8回(5月26日) 攻撃受ける米想定 相互防衛 首相の理想
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=396643210473576&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第9回(5月28日) 外国海域での機雷除去 派遣は停戦後で十分
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=397373433733887&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1
第10回(5月30日) 冷戦が生みの親 米ソ 同盟国囲い込み
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=398094793661751&set=a.266648100139755.1073741827.100003837017423&type=1 
第11回(6月1日) 過去の14事例 大国が侵攻の口実に
 
 具体的で分かりやすいQ&A方式で解説されていますので、連載終了後の緊急出版がきっと企画されていると予想(期待)しています。
 
 それから、既に会員限定配信ですが、「国民安保法制懇」のメンバーともなっている孫崎享さんが5月30日に「生かそう憲法!今こそ9条を!世田谷の会」の招きで行われた講演会の模様が視聴できます。
 
IWJ 2014/05/30 集団的自衛権行使に孫崎氏が警告「死者191人、負傷者2000人のマドリッド列車爆破事件が日本でも起き得る」
 
 映像ではなく、文章で読める反論としては、井上正信弁護士による以下の論考が、私たちのよって立つべき基本的な位置取りを提示してくれており、是非読んでいただきたいと思います。
 
【NPJ通信・連載】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信
(抜粋引用開始)
 安倍首相はつくづくデマゴーグ政治家だと思います。彼は昨年9月ブエノスアイレスで開かれたオリンピック招致委員会の席で福島原発は完全にコントロールされている、放射能は港湾内に完全にブロックされていると世界に向けて大ウソをつきました。
 安保法制懇報告書が出された5月15日、政府の「基本的方向性」を説明する記者会見で、子供や年寄りを守るための集団的自衛権だと大ウソをつきました。集団的自衛権は、日本が武力攻撃を受けていない状況でも戦争に参加するもので、それにより、私たちが危険にさらされるかもしれないからです。
 彼はまた、私たちの暮らしが突然危機に直面するかもしれないと、私たちを恫喝しました。その危機とはテロリストのことを挙げました。それに対して抑止力を高めなければならないと述べました。テロリストには抑止力が効かないというのが、安保防衛政策の基本認識なのに、そんなことは意に介さないのでしょう。とにかくどんなウソでも、憲法解釈を変更したいのです。
 集団的自衛権限定容認論も大ウソの類です。しかしこの大ウソは始末が悪い。自民党内にあった慎重論をねじ伏せてしまったし、国民には何となく受け入れやすい論理だからです。毎日新聞が4月19,20日に行った世論調査は、そのことを衝撃的に表していました。「限定的に認めるべきだ」が44%、「全面的に認めるべきだ」の12%を合わせると過半数が憲法解釈変更による集団的自衛権行使を容認しているという結果だったからです。
(略)
 集団的自衛権の限定行使という言葉とそのイメージだけが先行して、私達が安倍首相の大ウソに騙されてはたまりません。彼が記者会見で説明した政府の「基本的方向性」には、「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」「そのためには必要最小限度の武力の行使は許容される」と述べているだけです。集団的自衛権の行使の仕方や地理的範囲などどこにも限定するとは述べていません。「限定」という言葉だけが踊っているのです。
(略)
 限定行使容認論はかえって事態をわかりやすくしてくれました。「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」があるときに、安倍首相が国家安全保障会議の決定を受けて、集団自衛権行使を決断するのです。しかし、どんな事態が「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性」があるのか、それを判断する情報はどのようなものなのかは最も機密度の高い秘密情報になりますので、特定秘密保護法で厳重に秘匿されます。むろん国会へもそのまま提供されないでしょう。すべて安倍首相にお任せするしかないのです。安倍首相が「俺が限定的に行使するといっているのだから限定なのだ。」と言うようなものです。安倍首相が言えば言うほど、集団的自衛権の限定行使といっても、何らの歯止めのないことは明白です。特定秘密保護法は、私達が知らないまま戦争に巻き込まれてしまう仕組みになります。
(略)
 そもそも憲法解釈変更により集団的自衛権行使が必要だとする議論は、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しくなったという現実から出発して、それに対処する必要性から始まった議論です。そしてその必要性の度合いが、憲法改正を待っていては間に合わないくらい切迫しているというのです。わたしにはこの議論は全く理解不能ですが、彼らはそう言うのです(その証明はしていませんが)。
 安全保障上の必要性があれば、立憲主義を否定しても憲法解釈で憲法9条を無意味にできるという議論ですから、今限定的行使といっても、それがいつまた変わるか分かったものではありません。いったん自衛権行使三要件のうちの第一要件(金原注:わが国に対する急迫不正の侵害があること)を踏み越えれば、その先は自在に集団的自衛権を操れるのです。
(略)
 憲法9条の歯止めがなくなったのだからと米国からの要求も次第にエスカレートするでしょう。日米同盟を強化するために憲法解釈を変更するのですから、エスカレートする米国の軍事的要請を日本は断ることはできないでしょう。それこそ日米同盟は崩壊すると安倍首相は考えるからです。見捨てられる恐怖です。限定的行使などと言葉では述べていますが、限定することなど考えてもいないし、できっこないのは安倍首相もわかっているはずです。
 もう一つ安倍首相は大きなウソをついています。「基本的方向性」の中で、憲法解釈を見直して抑止力を高めて我が国が戦争に巻き込まれることがなくなるのだ、と言い切りました。私はこれを聞き、イスから転げ落ちるほど驚きました。集団的自衛権行使は、米国をはじめ他国の武力紛争をわざわざ買って出ることです。日本が武力攻撃を受けていなくても戦争に巻き込まれるからです。
 彼は二つのことを敢えて一緒くたにして説明したと思っています。憲法解釈見直しで日米同盟を強化し、中国・北朝鮮を抑止することと、そのために米国をはじめ他国の武力紛争に集団的自衛権行使で参戦するということです。そして、他国の武力紛争に参戦するというところを敢えて説明せず、あたかも中国・北朝鮮を抑止できると説明しているのだと思います。これをわかりやすく例えれば、尖閣諸島を中国から守るため、米国と世界中で一緒に戦うということでしょう。
 ところが、安倍首相の論法は、二つの仮定を重ねた非現実的な論理です。集団的自衛権を行使すると日本の領土が侵害されそうになったときに米国が日本と一緒に戦ってくれるという仮定と中国が抑止されるという仮定です。この仮定が現実的とは思えません。尖閣ごときで米国が中国と武力紛争を構えるでしょうか。中国が本当に抑止されるでしょうか。極めて危うい仮定です。日本と中国との間で軍事的抑止が機能し、武力紛争が防止できるとは思えません。
(引用終わり)
 
 とりあえず、安倍晋三が引き起こした「5.15事件」に対する論理的反駁を行うための参考資料をご紹介しました。これらの信頼するに足る識者の文章や講演を参考に、自らの言葉で政府によるクーデターの非を訴えるスキルを1人1人が身につけましょう。
 
 しかし、これだけでは十分ではありません。
 人生経験を積んだ方には説明するまでもないと思いますが、人は論理ではなく感情で動く動物です。昔から、人を説得するためには、「情理兼ね備える」ことが必要と言われてきたのはそのためです。
 「理」は、意識して学ぶことにより身につけることができます。
 「情」は、全人格を発露させることのよって初めて人の心に働きかけられるものです。
 「情理兼ね備えた」言葉をどのようにして紡ぐことができるのかは、1人1人に課せられた課題です。