立憲デモクラシーの会「見解」を学び活用する
今晩(2014年6月11日)配信した「メルマガ金原No.1754」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
立憲デモクラシーの会「見解」を学び活用する
今月(6月)22日の会期末などという一方的な「期限」を勝手に設定する安倍政権のやり口に公明党ともども振り回されている気がしないこともない今日この頃ですが、事態がどう展開しようと、私たちの主張や運動の「基本的方向性」が動揺することがあってはならないわけで、「学びかつ訴える」ことをおろそかにすることはできません。
今日は、一昨日(2014年6月9日)、立憲デモクラシーの会が「安保法制懇報告と安倍首相記者会見に関する見解」を公表し、記者会見を開いたことを取り上げます。
私たちと危機感を共有する学者の皆さんが叡智を集めた「見解」に「学び、活用する方法を考えましょう。
「見解」の「要点及び本文」は以下のとおりです。
「安保法制懇報告と安倍首相記者会見に関する見解」
同英語版
以下に、「要点」を引用します。
(引用開始)
1 内閣の憲法解釈の変更によって憲法9条の中身を実質的に改変する安倍政権の「方向性」は、憲法に基づく政治という近代国家の立憲主義を否定するものであり、「法の支配」から恣意的な「人の支配」への逆行である。
2 首相が示した集団的自衛権を必要とする事例等は、軍事常識上ありえない「机上の空論」である。また、抑止力論だけを強調し、日本の集団的自衛権行使が他国からの攻撃を誘発し、かえって国民の生命を危険にさらすことへの考慮が全く欠けている点でも、現実的ではない。
3 「必要最小限度」の集団的自衛権の行使という概念は、「正直な嘘つき」と同様の語義矛盾である。他国と共同の軍事行動に参加した後、「必要最小限度」を超えるという理由で日本だけ撤退することなど、ありえない。また、集団的自衛権行使を可能とした後、米国からの行使要請を「必要最小限度」を超えるという理由で日本が拒絶することなど、現実
1 内閣の憲法解釈の変更によって憲法9条の中身を実質的に改変する安倍政権の「方向性」は、憲法に基づく政治という近代国家の立憲主義を否定するものであり、「法の支配」から恣意的な「人の支配」への逆行である。
2 首相が示した集団的自衛権を必要とする事例等は、軍事常識上ありえない「机上の空論」である。また、抑止力論だけを強調し、日本の集団的自衛権行使が他国からの攻撃を誘発し、かえって国民の生命を危険にさらすことへの考慮が全く欠けている点でも、現実的ではない。
3 「必要最小限度」の集団的自衛権の行使という概念は、「正直な嘘つき」と同様の語義矛盾である。他国と共同の軍事行動に参加した後、「必要最小限度」を超えるという理由で日本だけ撤退することなど、ありえない。また、集団的自衛権行使を可能とした後、米国からの行使要請を「必要最小限度」を超えるという理由で日本が拒絶することなど、現実
的に期待できない。
4 安全保障政策の立案にあたっては、潜在的な緊張関係を持つ他国の受け止め方を視野に入れ、自国の行動が緊張を高めることのないよう注意する必要がある。歴史認識等をめぐって隣国との緊張が高まっている今、日本政府は対話によって緊張を低減させていく姿勢をより鮮明にすべきである。
(引用終わり)
4 安全保障政策の立案にあたっては、潜在的な緊張関係を持つ他国の受け止め方を視野に入れ、自国の行動が緊張を高めることのないよう注意する必要がある。歴史認識等をめぐって隣国との緊張が高まっている今、日本政府は対話によって緊張を低減させていく姿勢をより鮮明にすべきである。
(引用終わり)
さらに「本文」から、キャッチコピーに使えそうな印象的な章句を含む主要部分引用します。
(抜粋引用開始)
1 立憲主義と法の支配の否定
「5月15日に安倍首相は、正式の審議会ではなく私的懇談会に過ぎない(である)安保法制懇の報告書を参考に、集団的自衛権の行使容認を含む憲法解釈変更の「方向性」を示したが、これは憲法解釈の枠を逸脱する「憲法破壊」、あるいは「憲法泥棒」ともいうべき暴挙である」
「安倍首相は、自由主義や基本的人権と並んで「法の支配」を、日本を含む民主主義陣営の基本的価値として称揚し、「人の支配」が残る一部の国を批判する。しかし、今回のような憲法解釈の変更が許されるなら、そこで言う「法の支配」とは、行政府が恣意的に権力を行使する「人の支配」となる」
1 立憲主義と法の支配の否定
「5月15日に安倍首相は、正式の審議会ではなく私的懇談会に過ぎない(である)安保法制懇の報告書を参考に、集団的自衛権の行使容認を含む憲法解釈変更の「方向性」を示したが、これは憲法解釈の枠を逸脱する「憲法破壊」、あるいは「憲法泥棒」ともいうべき暴挙である」
「安倍首相は、自由主義や基本的人権と並んで「法の支配」を、日本を含む民主主義陣営の基本的価値として称揚し、「人の支配」が残る一部の国を批判する。しかし、今回のような憲法解釈の変更が許されるなら、そこで言う「法の支配」とは、行政府が恣意的に権力を行使する「人の支配」となる」
2 国民の生命・安全を守るという強弁
「安倍首相は、国民の生命・安全を守るためには、今この時期に集団的自衛権の行使を解禁することが必要だと主張する。安全のためには憲法など「二の次」といわんばかりの態度は、憲法を備えることで近代国家が成立するという、立憲主義の原則を無視するものである」
「日本が紛争当事国に加われば、日本は攻撃対象となり、敵対国から原発に数発のミサイルを撃ち込まれただけで、壊滅的な被害を受ける。日本海側に多数の原発を置く日本にとって、通常兵器による攻撃は直ちに核戦争を意味するのである。そのような可能性にまったく考えが及ばないとすれば安倍首相はこの問題を論じる能力がないし、あえてその可能性を隠蔽しているなら、彼には民主政治の指導者としての資格がない」
「安倍首相は、国民の生命・安全を守るためには、今この時期に集団的自衛権の行使を解禁することが必要だと主張する。安全のためには憲法など「二の次」といわんばかりの態度は、憲法を備えることで近代国家が成立するという、立憲主義の原則を無視するものである」
「日本が紛争当事国に加われば、日本は攻撃対象となり、敵対国から原発に数発のミサイルを撃ち込まれただけで、壊滅的な被害を受ける。日本海側に多数の原発を置く日本にとって、通常兵器による攻撃は直ちに核戦争を意味するのである。そのような可能性にまったく考えが及ばないとすれば安倍首相はこの問題を論じる能力がないし、あえてその可能性を隠蔽しているなら、彼には民主政治の指導者としての資格がない」
3 必要最小限(いわゆる限定容認論)という詭弁
「安倍首相らは、「必要最小限度」の集団的自衛権行使は憲法上許されると主張するが、国際政治や軍事の常識を無視した空論である。集団的自衛権という概念は、さまざまな意味内容を含むあいまいなものであり、現実の歴史では、米ソなどが自らの覇権的な行動を正当化する際の口実となってきた」
「政府が判断基準を規定したところで、ひとたび憲法の制約さえ外れれば、その後いくらでも拡大的に運用することができる。安倍首相が言うような「武力行使を目的として他国との戦闘に参加するようなことはない」根拠などないのである。また、「密接な関係を有する国」である米国等から協力を依頼された際に、日本が自らの主体的な判断で断ることができるとは、これまでの日本政府の行動様式からして、とうてい信じることができない。合憲なのに断るとすれば、安倍首相らが最も憂慮する日米同盟の崩壊にもつながりうるからである」
「以上の理由から、必要最小限度の集団的自衛権の行使という言葉そのものが、「慈悲深い圧政」や「正直な嘘つき」のごとき語義矛盾と言わなければならない」
「安倍首相らは、「必要最小限度」の集団的自衛権行使は憲法上許されると主張するが、国際政治や軍事の常識を無視した空論である。集団的自衛権という概念は、さまざまな意味内容を含むあいまいなものであり、現実の歴史では、米ソなどが自らの覇権的な行動を正当化する際の口実となってきた」
「政府が判断基準を規定したところで、ひとたび憲法の制約さえ外れれば、その後いくらでも拡大的に運用することができる。安倍首相が言うような「武力行使を目的として他国との戦闘に参加するようなことはない」根拠などないのである。また、「密接な関係を有する国」である米国等から協力を依頼された際に、日本が自らの主体的な判断で断ることができるとは、これまでの日本政府の行動様式からして、とうてい信じることができない。合憲なのに断るとすれば、安倍首相らが最も憂慮する日米同盟の崩壊にもつながりうるからである」
「以上の理由から、必要最小限度の集団的自衛権の行使という言葉そのものが、「慈悲深い圧政」や「正直な嘘つき」のごとき語義矛盾と言わなければならない」
4 国際協調のあるべき方向性
「国際関係においては、いわゆる「安全保障のジレンマ」が存在する。こちらが攻撃する意思を持っていなくても、防衛力を強化すれば仮想敵国は攻撃を受ける危険が高まったと判断して防衛力の強化に走る。それに反応してこちら側も防衛力強化を進め、悪循環が続く。安全保障政策を考える際には、このような悪循環を考慮し、自国の行動が周辺国にどの
「国際関係においては、いわゆる「安全保障のジレンマ」が存在する。こちらが攻撃する意思を持っていなくても、防衛力を強化すれば仮想敵国は攻撃を受ける危険が高まったと判断して防衛力の強化に走る。それに反応してこちら側も防衛力強化を進め、悪循環が続く。安全保障政策を考える際には、このような悪循環を考慮し、自国の行動が周辺国にどの
ように受け取られるかに注意を払う必要がある」
「安倍首相はアジア近隣諸国のみならず、アメリカの警告さえ無視して靖国神社への参拝を行い、各国の批判を招いた。また、首相や閣僚、政権幹部は戦争中の日本の行動を正当化する言動を繰り返し、日本が不戦の決意を本当にもっているのか疑われるような状況を自ら作り出している。無謀な戦争によって自国民とアジアの人びとの多大な犠牲を招いた歴史を否定することは許されない」
(引用終わり)
「安倍首相はアジア近隣諸国のみならず、アメリカの警告さえ無視して靖国神社への参拝を行い、各国の批判を招いた。また、首相や閣僚、政権幹部は戦争中の日本の行動を正当化する言動を繰り返し、日本が不戦の決意を本当にもっているのか疑われるような状況を自ら作り出している。無謀な戦争によって自国民とアジアの人びとの多大な犠牲を招いた歴史を否定することは許されない」
(引用終わり)
当日の記者会見の映像が視聴できます。各発言者の目安時間を含めてご紹介します。
立憲デモクラシーの会 集団的自衛権 2014 06 09
冒頭 司会・杉田敦(法政大学・政治学)
3分 山口二郎(法政大学・政治学)
18分 西谷修(立教大学・思想史)
28分 千葉眞(国際基督教大学・政治学)
35分 小森陽一(東京大学・日本文学)
41分 小林節(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)
45分 坂口正二郎(一橋大学・憲法学)
49分 中野晃一(上智大学・政治学)
59分 杉田敦(法政大学・政治学)
67分 質疑応答
3分 山口二郎(法政大学・政治学)
18分 西谷修(立教大学・思想史)
28分 千葉眞(国際基督教大学・政治学)
35分 小森陽一(東京大学・日本文学)
41分 小林節(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)
45分 坂口正二郎(一橋大学・憲法学)
49分 中野晃一(上智大学・政治学)
59分 杉田敦(法政大学・政治学)
67分 質疑応答
みんな視聴する時間がないという方には、とりあえず49分からの中野晃一教授の発言を視聴することをお勧めします。決して「元気が出る」話ではなく、より「絶望が深まる」かもしれないのですが、正確な現状認識のために非常に有益なコメントであると思います。
なお、この記者会見の模様はIWJによっても中継されました。
2014/06/09 「国民主権の観点」から解釈改憲を「許さない」と主張していた野党時代の自民党の変質が明るみに(会員限定)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/145810
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/145810
最後に、立憲デモクラシーの会が準備している公開講演会の内容をご紹介しておきます。
記者会見冒頭で司会の杉田教授も説明されていましたが、第1部の講師・三谷太一郎東京大学名誉教授は、安保法制懇座長代理の北岡伸一氏の師匠なのだそうで、不肖の弟子のふるまいに我慢ならず、意を決して登壇されるのかもしれません。
記者会見冒頭で司会の杉田教授も説明されていましたが、第1部の講師・三谷太一郎東京大学名誉教授は、安保法制懇座長代理の北岡伸一氏の師匠なのだそうで、不肖の弟子のふるまいに我慢ならず、意を決して登壇されるのかもしれません。
公開講演会のお知らせ
2014年7月4日(金)午後6時~8時(5時半開場予定)
司会: 山口二郎(法政大学・政治学)
第2部
司会: 中野晃一(上智大学・政治学)