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新版「憲法と自衛権」を読んで

今晩(2014年8月23日)配信した「メルマガ金原No.1826」を転載します。

なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
新版「憲法自衛権」を読んで
 
 従前から防衛省自衛隊公式WEBサイトの中の「憲法自衛権」というページに、「従来からの」政府見解がまとめて掲載されており、そのページが「7月1日閣議決定」から6日を経過した7月7日まで、そのまま掲載され続けていたことについては、既にこのメルマガ(ブログ)でご紹介してきたとおりです。
 
2014年3月31日
政府WEBサイトから削除される前に “武器輸出三原則等”&“憲法自衛権
 
2014年7月3日
今あらためて考える 自衛隊員の「服務宣誓」
 
2014年7月11日
防衛省自衛隊サイトから消えた「憲法自衛権」の運命
 
 さて、(現在、記述を修正しています)と表示されていた「憲法自衛権」のページがどうなったかというと、かなり前から以下のように修正されています(何月何日からかまでは確認できていません)。長くなりますが、資料として全文引用します。

防衛省自衛隊サイト>防衛省の取組>防衛省の政策>憲法自衛権
(引用開始)
憲法自衛権
1.憲法自衛権
 わが国は、第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、平和
国家の建設を目指して努力を重ねてきました。恒久の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。このような考えに立ち、わが国は、憲法のもと、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として実力組織としての自衛隊を保持し、その整備
を推進し、運用を図ってきています。
2.憲法第9条の趣旨についての政府見解
(1)保持できる自衛力
 わが国が憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければなら
ないと考えています。その具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されます。憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」にあたるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の個々の兵器の保有の可否は、それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超
えることとなるか否かにより決められます。
 しかし、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用い
られる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。たとえば、大陸間弾道ミサイルICBMIntercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されな
いと考えています。
(2)憲法第9条のもとで許容される自衛の措置
 今般、2014(平成26)年7月1日の閣議決定において、憲法第9条のもとで許容される
自衛の措置について、次のとおりとされました。
 憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているよう
に見えますが、憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されません。一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容されます。これが、憲法第9条のもとで例外的に許容される「武力の行使」につ
いて、従来から政府が一貫して表明してきた見解の根幹、いわば基本的な論理であり、1972(昭和47)年10月14日に参議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団自衛権憲法との関係」に明確に示されているところです。
 この基本的な論理は、憲法第9条のもとでは今後とも維持されなければなりません。
 これまで政府は、この基本的な論理のもと、「武力の行使」が許容されるのは、わが国に対
する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてきました。しかし、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威などによりわが国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様などによっては、わが国の存立を脅かす
ことも現実に起こり得ます。
 わが国としては、紛争が生じた場合にはこれを平和的に解決するために最大限の外交努
力を尽くすとともに、これまでの憲法解釈に基づいて整備されてきた既存の国内法令による対応や当該憲法解釈の枠内で可能な法整備などあらゆる必要な対応を採ることは当然で
すが、それでもなおわが国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要があります。
 こうした問題意識のもとに、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、わが
国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法
許容されると考えるべきであると判断するに至りました。
 わが国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然ですが、国際法上の
根拠と憲法解釈は区別して理解する必要があります。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合があります。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれますが、憲法上は、あくまでもわが国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、わが国を防衛するためのやむ
を得ない自衛の措置として初めて許容されるものです。
 憲法第9条のもとで許容される自衛の措置としての「武力の行使」の新三要件
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対
する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
(3)自衛権を行使できる地理的範囲
 わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる
地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られませんが、それが具体的にど
こまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概には言えません。
 しかし、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するい
わゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許さ
れないと考えています。
(4)交戦権
 憲法第9条第2項では、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定していますが、ここで
いう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であって、相手国兵力の殺傷と破壊、相手国の領土の占領などの権能を含むものです。一方、自衛権の行使にあたっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のこととして認められており、たとえば、わが国が自衛権の行使として相手国兵力の殺傷と破壊を行う場合、外見上は同じ殺傷と破壊であっても、それは交戦権の行使とは別の観念のものです。ただし、相手国の領土の占領などは、自衛のた
めの必要最小限度を超えるものと考えられるので、認められません。
(引用終わり)
 
 長々と引用しましたが、分かりやすく整理するため、以下に新旧「憲法自衛権」の見出しを抜き出してみます。
 
旧版「憲法自衛権
1.憲法自衛権
2.憲法第9条の趣旨についての政府見解
(1)保持し得る自衛力
(2)自衛権発動の要件
(3)自衛権を行使できる地理的範囲
(4)集団的自衛権
(5)交戦権
 
新版「憲法自衛権
1.憲法自衛権
2.憲法第9条の趣旨についての政府見解
(1)保持できる自衛力
(2)憲法第9条のもとで許容される自衛の措置
 ■憲法第9条のもとで許容される自衛の措置としての「武力の行使」の新三要件
(3)自衛権を行使できる地理的範囲
(4)交戦権
 
 以上で分かるとおり、旧版「憲法自衛権」「2.憲法9条の趣旨についての政府見解」のうち、
(1)保持し得る自衛力
(3)自衛権を行使できる地理的範囲
(5)交戦権(新版では(4))
については、若干の語句修正はあるものの、実質的な中身はそのままです。
 つまり、
(2)自衛権発動の要件
(4)集団的自衛権
を、新版「(2)憲法9条のもとで許容される自衛の措置」として、「7月1日閣議決定」の「3 憲法第9条の下で許容される自衛の措置」にそっくり置き換えたものです。
 
 要するに、従前の「憲法自衛権」の枠組の中に、「7月1日閣議決定」をそのまま流し込んだものであり、だらだらと長いだけで、ぎくしゃくとしてまとまりのない文章になっているのは、以上のような理由によることであって、防衛省担当官僚の無能さを示すものではありません。
 考えようによっては、「憲法自衛権」の文章改訂にあたって、わざわざ「今般、2014(平成26)年7月1日の閣議決定において、憲法第9条のもとで許容される自衛の措置について、次のとおりとされました」というリード文付きで閣議決定の内容をそのまま引用したということは、将来政権交代が行われ、「7月1日閣議決定」を改めて、それ以前の解釈に戻す新たな閣議決定が行われた際には、このページの「(2)憲法第9条のもとで許容される自衛の措置」を、「今般、20××年△△月□□日の閣議決定において、従来の2014(平成26)年7月1日の閣議決定による見解を改め、憲法9条のもとで許容される自衛の措置について、次のとおりとすることとされました」とした上で、閣議決定部分をそっくり入れ替えれば良い訳です。
 防衛省の官僚がそこまで見通しているかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、今回の「7月1日閣議決定」が、政府による憲法解釈の権威を著しく失墜させる愚挙であったことは、上記「憲法自衛権」の文章の構造を一瞥するだけでも容易に看取することができます。
 
 新版「憲法自衛権」のご紹介は以上のとおりですが、補足的に2点ほど付け加えておきます。
 
補足1 平成26年版防衛白書の記載について
 今月(8月)5日の閣議で小野寺防衛大臣から報告された「平成26年版 防衛白書 日本の防衛」における「憲法自衛権」についての記述も、当然のことながら、防衛省自衛隊WEBサイトとそっくり同じ内容に入れ替わりました。
 
平成26年版防衛白書
 http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2014/pc/2014/w2014_00.html
第Ⅱ部 わが国の安全保障・防衛政策
第1章 わが国の安全保障と防衛の基本的考え方
第2節 憲法と防衛政策の基本
2 憲法第9条の趣旨についての政府見解

補足2 「閣議決定の撤回はあるのか?」
 WEBサイト「マガジン9」に南部義典さん(慶應義塾大学大学院法学研究科講師)が連載している「立憲政治の道しるべ」の最新号「第49回 (再論)集団的自衛権の限定容認 新3要件とどう向き合うか?」(2014年8月20日UP)の最後の部分「閣議決定の撤回はあるのか?」を読んで感心しました。
 最後に、是非これを皆さんとともに未読したいと思います。
 
(引用開始)
閣議決定の撤回はあるのか?
 安倍内閣が、7月1日の閣議決定を撤回することは、政治論としてありえません。内閣総
辞職に匹敵するくらいの大事態だからです。現在の連立与党の枠組みが続く限り、閣議決
定は有効なものとして維持されていきます。
 国会には、閣議決定を無効とする権限はありません。仮に、そのような内容の国会決議を
行ったとしても、決議には法的拘束力が無いので、政治論としてはともかく、閣議決定の効
力には何ら影響を及ぼしません。
 そこで、本連載でもしばしば言及しているところですが、閣議決定の撤回は、新しい内閣の
手で成し遂げる必要があり、衆議院の多数派が入れ替わること(=政権交代)が不可欠に
なってきます。
 現在、議論が物足りない感じがするのは、閣議決定の撤回を明言し、政権獲得を主張
する政党が一つも存在しないことです。立憲フォーラムも然りです。憲法レベルで、新政府見解、新3要件をそのまま放置すれば、「権威ある政府解釈」としていずれ定着してしまうでしょ
う。放っておけば、国民意識もますます、消極的容認論に傾いていきます。
 閣議決定の撤回だけ求め、主張していても、議論はあさっての方向を向いてしまうだけで、
どうにも仕方ありません。撤回をどう実現するのか(本音はしなくていいと思っているのか、別の
理由でそれを主張しないのか…)、真正面からの議論を避けている局面ではないでしょう。
 次回の総選挙が、閣議決定を撤回し、旧政府見解に戻す最初で最後のチャンスになるの
ではないでしょうか。与野党ともに、細かな法律論に拘泥するばかりでなく、立憲政治を建て
直す、礎の部分を見失わないでもらいたいものです。
 それにしても、国会では長い夏休みがまだまだ続きます…。
(引用終わり)
 

(付録)
『西暦20X0年』 作詞:中川五郎 作曲PANTA 演奏:中川五郎