wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

朝日新聞「吉田調書」報道は“誤報”だったのか?

今晩(2014年9月28日)配信した「メルマガ金原No.1862」を転載します。

なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
朝日新聞「吉田調書」報道は“誤報”だったのか?
 
 朝日新聞が記事を取り消した2大「誤報」の内、従軍慰安婦に関わる「吉田清治証言」はともかくとして、東京電力福島第一原発事故に関わる「吉田(昌郎所長)調書(政府事故調)」については、「不適切な用語の使用はあったかもしれないが、これは本当に誤報なのか?」という疑問が当初からありました。
 
 まず、そもそも、朝日新聞が取り消した記事とはどんなものであったかというと、朝日新聞デジタル「吉田調書」コーナーが今でも閉鎖されずに公開されており、トップページに以下のような断り書きが掲載されています。
 
http://www.asahi.com/special/yoshida_report/
 
(引用開始)
「吉田調書」をめぐる報道では、「命令違反で撤退」という表現に誤りがありました。読者と東
京電力の皆様に深くおわび致します。「命令違反で撤退」に触れた第1章1節の「フクシマ・フィフティーの真相」の該当箇所については画面上に明示(下線部分)しました。
調書報道については、今後さらに、朝日新聞社が依頼する第三者機関の視点で検証してい
ただく予定です。(全文公開しています)
(引用終わり)
 
 今でもWEB上で全文(取り消した部分は下線付きの赤字で表示)がそのまま公開されており、非常に「フェア」であると評価できます。
 
 問題は、「命令違反で撤退」という部分を取り消すということにとどまらず、木村社長が記者会見で次のように表明したことです。
 
朝日新聞デジタル 2014年9月12日 03時02分
吉田調書「命令違反」報道、記事取り消し謝罪 朝日新聞
 
http://www.asahi.com/articles/ASG9C7344G9CULZU00P.html
(抜粋引用開始)
 朝日新聞社の木村伊量(ただかず)社長は11日、記者会見を開き、東京電力福島第一
原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した、吉田昌郎(まさお)所長(昨年7月死去)に対する「聴取結果書」(吉田調書)について、5月20日付朝刊で報じた記事を取り消し、読者と東京電力の関係者に謝罪した。杉浦信之取締役の編集担当の職を解き、木村社長は改革と再生に向けた道筋をつけた上で進退を決める。
 朝日新聞社は、「信頼回復と再生のための委員会」(仮称)を立ち上げ、取材・報道上の問
題点を点検、検証し、将来の紙面づくりにいかす。
 本社は政府が非公開としていた吉田調書を入手し、5月20日付紙面で「東日本大震災
日後の2011年3月15日朝、福島第一原発にいた東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じた。
 しかし、吉田所長の発言を聞いていなかった所員らがいるなか、「命令に違反 撤退」という記述と見出しは、多くの所員らが所長の命令を知りながら第一原発から逃げ出したような印象を与える間違った表現のため、記事を削除した。
 調書を読み解く過程での評価を誤り、十分なチェックが働かなかったことなどが原因と判断した。
問題点や記事の影響などについて、朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」に審理を申し立てた。
(略)
(引用終わり)
 
 朝日新聞「吉田調書」の該当記事を読んで皆さんはどう思われたでしょうか?
 私は、上司の指示でバスに乗ったら2F(福島第二原発)に移動していたという社員もいただろ
うし、そういうことも踏まえれば、650人全員をひとまとめにして、吉田所長の「命令に反して」と決めつけるように記載したのは、たしかに適切な配慮が不足していたとは思いますが、感想はそこまでです。
 ところが、9月12日の朝日記事を読むと、「5月20日付朝刊で報じた記事を取り消し、者と東京電力の関係者に謝罪した」とあり、あたかも記事全体が「誤報」であるかのような誤た印象を与えかねないという重大な懸念をいだかざるを得ません。
 
 そのような危機感をいだいた「原発事故情報公開原告団・弁護団」による緊急記者会見が9月16日に開かれ、その模様がTouTubeで視聴できます。
 
20140916 UPLAN【記者会見】政府事故調 吉田調書 私はこう見る
 
http://www.youtube.com/watch?v=sWAxp9SmVk8
原告団・弁護団のリリースから)
政府事故調の吉田調書が、黒抜き部分はあるものの、政府によって公開されました。事故
発生後4日目の15日朝には、東電社員の大部分が福島第2原発に退避する事態が生しました。この退避について吉田氏が所長として指示したか、指示に反してなされたものかどうかが問題とされています。
 また、政府の事故調査委員会の報告書では、原子力設備管理部長を務めていた平成20
年(2008年)に、大津波の試算結果を知りながら武藤副社長と相談し、土木学会に検討を依頼し、対策を取らずに、先送りしたと批判されてきました。この点については、吉田氏と相談した武藤氏、会長であった勝俣氏、副社長であった武黒氏らが検察審査会によって起訴相当とされました。これは、福島原発告訴団の告訴を受けた判断でした。この点について、吉田氏がどのように弁明しているかも注目されます。
 このように、吉田調書はその内容においても、原発事故発生時の状況について極めて重要
な内容を含んでおり、市民の知る権利の観点からもその公開が強く要請されると考え、私たちは情報公開訴訟を提起してきました。
 我々の提訴も一つのきっかけとして公表された吉田調書とこれまでに明らかにされている東電
テレビ会議録画や政府事故調、国会事故調などの報告書、事故当時の政府関係者の証言なども突き合わせて、この事故の原因やこの事故がどこまで拡大する可能性があったのかなどの論点について、脱原発運動を継続してきた市民活動家、原子力にかかわる専門など各方面の方々にお集まりいただき、ひとりひとりコメントをする場を持ちたいと思います。」
 
 そして、弁護団の主要メンバーである海渡雄一弁護士が、問題の本質を詳細に検討した論考がいくつかのサイトにアップされていますので、是非お読みください。
 
事故原発への管理と対応がいったん放棄された事実を確認しなければならない―3月15日午前中に行われた、福島第1原発作業員650名の福島第2原発への移動は誰の指示によるものであり、どのような意味を持つものなのか―
PDFファイル
https://dl.dropboxusercontent.com/u/63381864/%E6%9D%B1%E9%9B%BB%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E8%A8%B4%E8%A8%9F/140916/%E5%90%89%E7%94%B0%E8%AA%BF%E6%9B%B8%E7%B7%8A%E6%80%A5%E8%A8%98%E8%80%85%E4%BC%9A%E8%A6%8B%EF%BC%92.pdf
NPJ通信
 
http://www.news-pj.net/news/7826
 
 さらに、一昨日(9月26日)、9人の有志弁護士が、朝日新聞に対し以下のとおりの申入れを行いました。全文引用しますので、これも是非お読みください。申入書は、いくつかのサイトに掲載されていますが、以下には「ちきゅう座」から引用します。
 
「吉田調書」報道記事問題についての申入書
 
http://chikyuza.net/archives/47619
(引用開始)
2014年9月26日
 
朝日新聞社木村伊量社長
「報道と人権委員会」御中
 
弁護士 中 山 武 敏
  同   梓 澤 和 幸
  同   宇都宮 健 児
  同   海 渡 雄 一
  同   黒 岩 哲 彦 
  同   児 玉 勇 二
  同   阪 口 徳 雄
  同   澤 藤 統一郎
  同   新 里 宏 二
 
                         記
 私たちは平和と人権・報道・原発問題などにかかわっている弁護士です。
 9月11日、貴社木村伊量社長は、東京電力福島第一原発対応の責任者であった吉田昌郎所長が政府事故調査・検証委員会に答えた「吉田調書」についての貴紙5月20付朝刊「命令違反で撤退」の記事を取り消されました。取消の理由は、「吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、『命令違反で撤退』という表現を使ったため」と説明のうえ、「これに伴ない、報道部門の最高責任者である杉浦信之編集担当の職を解き、関係者を厳正に処分します。」と表明されています。(9月12日付貴紙朝刊)
 貴紙9月18日付朝刊では「『吉田調書』をめぐる報道について、朝日新聞社の第三者機関『報道と人権委員会』(PRC)は17日、委員会を開き、検証を始めました。」と報じています。
 貴紙5月20日付紙面の「東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じた記事の主な根拠として、「①吉田所長の調書②複数ルートから入手した東電内部資料の時系列表③東電本店の記者会見内容-の3点だった。吉田所長は①で、所員に福島第一の近辺に退避して次の指示を待てと言ったつもりが、福島第二に行ってしまったと証言。②の時系列表には、①の吉田所長の「命令を
裏付ける内容が記載されていた。また、東電は③で一時的に福島第一の安全な場所などに社員が移動を始めたと発表したが、同じ頃に所員の9割は福島第二に移動していた。」ことを前記9月12日付記事に掲載されています。
 「命令違反で撤退」したかどうかは解釈・評価の問題です。吉田所長が所員に福島第一の近辺に退避して次の指示を待てと言ったのに、約650人の社員が10キロメートル南の福島第二原発に撤退したとの記事は外形的事実において大枠で一致しています。同記事全部を取り消すと全ての事実があたかも存在しなかったものとなると思料します。
 貴紙報道は政府が隠していた吉田調書を広く社会に明らかにしました。その意義は大きなものです。この記事は吉田所長の「死を覚悟した、東日本全体は壊滅だ」ということばに象徴される事故現場の絶望的な状況、混乱状況を伝えています。記事が伝える状況に間違いはありません。「命令違反で撤退」とはこの状況を背景に上記①、②、③を根拠事実として「所長の命令違反」との評価が記事によって表現されたものです。このことをみれば 記事全体を取り消さなければならない誤報はなかったと思料します。かかる事実関係の中で異例の社長会見が行われました。その中で記事の取り消し、謝罪がなされるなどいま朝日新聞の報道姿勢が根本的に問われている事態だと考えます。「吉田調書」報道関係者の「厳正な処分」を貴社木村伊量社長が公言されています。しかしながら、不当な処分はなされてはならず、もしかかることが強行されるならばそれは、現場で知る権利への奉仕、真実の公開のため渾身の努力を積み重ねてい
る記者を萎縮させる結果をもたらすことは明らかです。そのことはさらに、いかなる圧力にも屈することなく事実を公正に報道するという報道の使命を朝日新聞社が自ら放棄することにつながり、民主主義を重大な危機にさらす結果を招きかねません。
 「報道と人権委員会」が検証を始められたと伝えられていますが、上記の趣旨を勘案の上、あくまで報道の自由の堅持を貫き、事実に基づいた検証がなされることを求めるものであります。
                                           以上
 
賛同人弁護士 (略)
(引用終わり)
 
 なお、申入人となった9人の弁護士の他に、趣旨に賛同した弁護士が191人おり、あわせてちょうど200人になったのは多分偶然でしょう。
 私も賛同人になっていますが、「定員200人」とは聞いていませんでしたから。
 
 公開された吉田調書を含む政府事故調ヒアリング記録は、以下のサイトからダウンロードできます。
 吉田調書だけでも400枚を超えるものですから、読み通すのは大変ですが、おおげさではな
く、人類にとってかけがえのない貴重な記録であり、その公開のきっかけを作ってくれた朝日新聞に感謝することなく、批判の尻馬に乗る最低の人間にだけはなりたくないものです。
 
 
 ただし、吉田所長以外の東京電力幹部のヒアリング結果は一切公開されていません。主要な元役員が刑事告訴されたり、東電が損害賠償請求を起こされたりしていますので、政府が自主的に公開に踏み切る可能性は高くはないでしょうが、それらの事情をはるかに上回る公益性が認められることは明らかであり、強力に公開を求めていく必要があると思います。
 

(付録)
東電に入ろう(倒電に廃炉)』 作詩:ヒポポ大王(多分) 演奏:ヒポポフォークゲリラ(多分)
※この曲について書いた私のブログ
2012年1月8日(2013年2月3日にブログに再アップ) 
今さらながらの替え歌『東電に入ろう(倒電に廃炉)』のご紹介