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日本学術会議・分科会が公表した高レベル放射性廃棄物問題についての2つの「報告」

今晩(2014年10月3日)配信した「メルマガ金原No.1867」を転載します。

なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本学術会議・分科会が公表した高レベル放射性廃棄物問題についての2つの「報告」
 
 「3.11」からちょうど1年半が経過した2012年9月11日、日本学術会議は、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて(回答)」と題する「回答」を国の原子力委員会に提出して、高レベル放射性廃棄物の処分についての従来の(法律によって定められた)「地層処分」に代えて、「総量規制」と「暫定保管」という枠組みに転換すべきことを提言しました。
 
2012年10月1日(2014年1月18日にブログに再アップ)
2012/9/11 日本学術会議による高レベル放射性廃棄物の処分に関する「提言」

 
http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/35735563.html
 
 政府は、相変わらず「地層処分」からの転換を図る気配は見せず、経済産業省・資源エネルギー庁WEBサイトの中に「放射性廃棄物のホームページ」なるコーナーを設け、「理解促進活動」に相当な予算を使い続けています。
 
http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/
 
 とはいえ、政府も日本学術会議の「提言」を全く無視し続けることは難しい、と言うよりも、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」によって実施することになっている「地層処分」実現のめどが全くたたぬ以上、いずれ方向転換するしか方法のないことが、(少なくとも)官僚に分からないはずはありませんから。
 
 2012年9月11日の「回答」(提言)を公表して以降、日本学術会議では、「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」において検討を続け、去る9月19日、同委員会内に設置した「暫定保管と社会的合意形成に関する分科会」及び「暫定保管に関する技術的検討分科会」がそれぞれ取りまとめた「報告」を公表しました。
 いずれも深い関心をもって読み込むべき「報告」であると思います。
 少し長い引用になりますが、各「要旨」をご紹介します。
 
報告「高レベル放射性廃棄物問題への社会的対処の前進のために」
平成26年(2014年)9月19日
日本学術会議 高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会
暫定保管と社会的合意形成に関する分科会
 
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140919-1.pdf
(引用開始)
1 作成の背景
 日本学術会議は、2012年9月11日に、原子力委員会に対して、「回答 高レベル放
射性廃棄物の処分について(以下、「回答」という。)」を提出した。この「回答」の考え方に立脚して、さらに対処の方策を前進させるべく、2013年5月に「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」が設置され、その分科会として、当分科会(「暫定保管と社会的合意形成に関する分科会」)が設置された。本報告は、前述の「回答」に示された「総量管理」と「暫定保管」の考え方を大枠として、その方向付けの下に、社会的合意形成に基づいた解決の道を進むために必要な諸課題について検討し、その結果をまとめたものである。
2 現状及び問題点
 高レベル放射性廃棄物問題は、原子力発電を利用してきた世界各国のいずれにおいて
も対処が困難な問題になっている。そのような状況の中で、日本学術会議の提起した「総量管理」「暫定保管」「多段階の意思決定」「科学の限界の自覚」という論点は、「回答」に対する各方面の反響を勘案すると、この問題の今後の打開の方向性を示すものと考えられる。この方向で政策的議論を前進させるためには、対話と合意形成を促進する条件をまず探るべきであるが、そのような条件として大切なのは、(1)参加者の包括性と政策議題設定の共有、(2)議論の前提的枠組みの共有、(3)事実認識の共有、(4)規範的原則の共有、である。このような条件の大切さを自覚した上で、高レベル放射性廃棄物問題に直接関連する事項、及び、その周辺の関連する事項について、認識や共有された確認が積み上がっていくことが望ましい。
 そして、「総量管理」と「暫定保管」という方向性を具体的に実施していくためには、第一
に、適切な「暫定保管施設の数」を「事業者の発生責任」「(多層的な地域間の)負担の公平」という視点から考える必要がある。第二に、適切な「暫定保管の期間」を考える必要がある。第三に、「科学の限界の自覚」を踏まえた、科学的問題を検討する専門委員会の自律性と社会的信頼を確保する必要がある。第四に、「世代間の負担の公平」と「現世代の責任」を踏まえつつ、今後新たに発生する可能性のある高レベル放射性廃棄物(新規発生分)に対する責任のある対処が必要である。
3 報告の主な内容
 以上の考察を踏まえて、本報告では、とりわけ以下の諸原則が、今後の高レベル放射性
廃棄物問題への取組において、重要であることを指摘したい。
(1)総量管理、暫定保管、科学の限界の自覚という大局的方向・考え方の下に、多段階の
意思決定を通じて、高レベル放射性廃棄物問題に対処するべきである。
(2)総量管理の具体的在り方は、エネルギー政策において、原子力利用の将来像をどうする
のか、原子力に依存しないエネルギー政策を積極的に探るのか、原子力依存度の低減をどのようなテンポで今後進めるのかということと切り離せない。このことについての国民的合意を形成する必要がある。
(3)社会的合意を左右する大きな要因は「規範的原則の共有」の有無である。規範的原則
として大切なのは「安全性の最優先の原則」、「事業者の発生責任の原則」と「多層的な地域間の負担の公平性の原則」である。これらの諸原則に基づき、「各電力会社の配電圏域内での暫定保管施設の建設」を社会的な協議の出発点をなす大枠的原則として採用することが望ましい。
(4)規範的原則としての「世代間の公平性」と「現世代の責任」を共有した上で、「現在世代
の責任」を少しでも果たすために、暫定保管の期間は、安全性の確保という技術的側面と、政策形成をするためのモラトリアムの適切な期間という社会的側面から考える必要がある。技術的側面からは、より長期にわたって安全性を確保出来るとしても、社会的側面では、一世代に相当する30年を一つの期間として、その期間の間に、その後のより長期の政策選択についての判断をするべきである。
(5)科学的事実認識や技術的問題についての「専門家間の合意形成」が、それらについての
「社会的合意形成」につながることを保証しなければならない。そのためには、科学的知見の検討にかかわる専門家グループが、グループとしての自律性があり、社会の中の多様な立場に立つ人々から信頼される必要がある。また、「専門家の利害関係状況の公開」「専門家委員会形成に際しての公募推薦制」「各専門家への公的支援」という原則を採用する。
(6)原子力発電所の再稼働問題に対する総合的判断を行う際には、これから追加的に発生する高レベル放射性廃棄物(新規発生分)については、当面の暫定保管の施設を事業者の任で確保することを必要条件に判断するべきである。その点をあいまいにしたままの再稼働は、「現在世代の責任の原則」に反し、将来世代に対する無責任を意味するので、容認出来るものではない。
(7)政策選択肢を広げ、社会的合意形成を促進するために、政策案形成を担う中立公正の
進行役として、「高レベル放射性廃棄物問題総合政策委員会」(仮称)を設置する。
(8)多段階の意思決定を通じた社会的合意形成のためには、政策内容についても、政策決
定手続きについても、各段階においてその都度、「規範的原則の共有」を先行させ、それを枠組みとして、より具体的レベルの問題について取り組み、判断するという手順を採用するべきである(規範的原則の先行的共有の原則)。
(引用終わり)
 
報告「高レベル放射性廃棄物の暫定保管に関する技術的検討」
平成26年(2014年)9月19日
日本学術会議 高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会
暫定保管に関する技術的検討分科会
 
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140919-2.pdf
(引用開始)
1 作成の背景
 日本学術会議は2012年9月に取りまとめた原子力委員会からの依頼に対する回答「高レ
ベル放射性廃棄物の処分について」(以下、「回答」という)において、高レベル放射性廃棄物(使用済燃料と再処理後のガラス固化体の双方を想定)の暫定保管を提案した。しかし、暫定保管の提案は概念的なもので、保管期間を数十年から数百年とするなど技術的条件に大きな幅があり、保管の具体的技術的方法については検討を行っていなかった。また、「回答」に対して、原子力委員会は同年12月に見解「今後の高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る取組について」を発表した。この見解では暫定保管の考えに対応すると思われる概念として地層処分施設における回収可能性に言及した。
 本分科会では、国内外の使用済燃料やガラス固化体の保管施設とともに地層処分施設
における回収可能性を確保する技術を含めて技術の現状を把握し、安全確保を含む暫定保管技術や回収可能性を確保する技術に関する特性を整理するとともに経済性評価に関する知見を収集した。また、地震津波等に対する安全確保のために必要な施設立地において考慮すべき地盤・地質条件等の要件を整理した。さらに、様々に想定される暫定保管の形態を整理して暫定保管のシナリオ(保管対象、保管規模、保管期間等)の検討を行った。
2 現状及び問題点
 使用済燃料とガラス固化体の数十年にわたる貯蔵・保管は国内外で多数行われており、
主な貯蔵技術として、使用済燃料の場合は湿式のプール貯蔵、乾式のキャスク貯蔵とボールト貯蔵が、ガラス固化体の場合は乾式の金属キャスク貯蔵とピット貯蔵(技術的には使用済燃料貯蔵のボールト貯蔵と同等)が実用化している。地層処分施設において回収可能性を確保する技術は研究開発段階である。
 経済性は保管容量と保管期間によって変化する。使用済燃料保管の場合は、保管期間
が長くなるほど湿式よりも乾式貯蔵の方が有利になる。地層処分施設において回収可能性を確保する場合は、処分のステップの進行に応じて回収が困難になるのでコストが増大すると想定されるが、具体的な経済性評価は今後の課題である。
 安全性確保は、実用化されている数十年程度の保管に関しては閉じ込め機能等について
各種のモニタリング等の安全確保技術が開発されている。50年を大幅に超えるような長期間の保管を行う場合で、保管の継続が技術的に不適切と判断される場合には施設・設備の更新で対応することになる。
 保管施設立地に求められる地盤・地質等の条件については、地上保管の場合は、基本的
には他の原子力施設の場合と同様になる。地下保管の場合は、地上保管の場合に比べて自然現象による影響が緩和されるが、一方で、地下坑道の健全性確保や冷却機能の維持等安全性確保にかかわる追加的な条件を考慮する必要がある。また、深度が深くなるほど施設の建設コストが増大する。
 暫定保管のシナリオは、保管対象、保管期間、保管施設の容量、保管施設の立地場所
等の項目の組合せで構成される。本分科会の検討では、保管対象は使用済燃料とガラス固化体の双方を想定し、保管期間は50年から最大300年まで、保管容量は使用済燃料換算で数百トンから数万トンまで、施設の立地場所としては原子力発電所、再処理工場、独立立地点及び処分場で回収可能性を確保する場合とした。これらの項目の組合せの中から、技術的実現可能性を考慮していくつかの暫定保管シナリオに絞り込み、それぞれのシナリオのイメージを明確にした上で課題を整理した。
3 報告の内容
 本分科会での調査検討の主要な結果は次の項目にまとめられる。
(1)日本学術会議が提案した暫定保管施設には使用済燃料の場合でもガラス固化体の場
合でも基本的に乾式貯蔵技術が適している。キャスクやピット(ボールト)等の乾式貯蔵技術の経済性は、保管の期間や容量等によって変化するので保管シナリオに適した技術を選定する必要がある。
(2)安全性確保のための各種モニタリング技術等は実用化しているが、保管期間が50年を大
幅に超える場合には、施設・設備の更新による対応を準備しておく必要がある。
(3)暫定保管施設の立地に求められる地盤・地質条件は、地上保管の場合は、在来の原
子力施設の場合とほぼ同様と考えられる。地下保管の場合には、地層処分に準ずる必要がある。
(4)技術的実現可能性を考慮した暫定保管シナリオとして、使用済燃料の場合には、1)原
子力発電所に数百トンから数千トンを50年から100年程度保管する、2)再処理工場に数千トンから1万トン程度を50年程度保管する、3)独立立地点に数千トンから数万トンを最長300年保管する、4)使用済燃料処分場に数千トンから数万トンを最長100年程度(処分場閉鎖時までを想定)保管するという四つのシナリオ、ガラス固化体の場合は、1)再処理工場に数
万本を50年から100年程度保管する、2)独立立地点に数万本を最長300年程度保管する、3)ガラス固化体処分場に数千本から数万本を最長100年程度保管するという三つのシナリオを設定して課題を整理した
(5)上記した暫定保管シナリオは、いずれも技術的には実現可能性があるが、高レベル放射
性廃棄物処分場で回収可能性を確保する場合には今後の研究開発が必要であり、また他のシナリオにおいても50年を大幅に超える保管期間を想定する場合には安全性確保について更なる検討が必要である。
(報告終わり)

 「暫定保管に関する技術的検討」についての報告は、読み解くためにどの程度の技術的素
養が必要か、それすらよく分かっていないので、おいおい勉強することとして、とりあえずは「高レベル放射性廃棄物問題への社会的対処の前進のために」の方から読み込みたいと考えています。
 とりわけ、私が注目しているのは、
(3)「各電力会社の配電圏域内での暫定保管施設の建設」を社会的な協議の出発点
をなす大枠的原則として採用することが望ましい。
という提言、及び
(6)原子力発電所の再稼働問題に対する総合的判断を行う際には、これから追加的に
発生する高レベル放射性廃棄物(新規発生分)については、当面の暫定保管の施設事業者の責任で確保することを必要条件に判断するべきである。その点をあいまいにしたままの再稼働は、「現在世代の責任の原則」に反し、将来世代に対する無責任を意味するので、容認出来るものではない。
という見解です。
 
 前者は、「報告」本文では、「各電力会社配電圏域内に、それぞれの電力会社の原子力由来の配電量で按分した形で暫定保管施設を作る」ことを原則とする考え方と説明されているものです。
 要するに、東京電力原子力発電所が発生させた放射性廃棄物は、東京電力が電力を
配電している圏内に暫定保管施設を作り、福島県には作らないということかと思ったのですが、こういう言い方はやや正確性を欠くようです。
 原子力発電所を運営して発電している会社と電力を配電している会社とは完全にイコールではあり
ませんし、電力の売買・融通というこもありますから、「それぞれの電力会社の原子力由来の配電量で按分した」だけの高レベル放射性廃棄物保管施設を、各電力会社配電圏内に設置するという文字通りの意味でとらえる必要があります。
 もちろん、この原則が承認されるとしても、さらに、各電力会社配電圏内における「地域間の
負担の公平性」が問題となってくることは「報告」も指摘しているとおりです。
 実際、この部分を読んで私の念頭に真っ先に浮かんだのは、県内5箇所における関西電力
原発立地計画をことごとく断念に追い込んだ和歌山県内に、実はまだ関西電力が手放していない土地がある、というとても気になる情報です。
 とにかく、既に生み出してしまった放射性廃棄物をどう管理していくのかという問題は、いくら
反原発を主張している者であっても、絶対に避けては通れない問題ですから、いくら悩ましくても考え抜くしかありません。
 
 それに対し、今後発生する(かもしれない)高レベル放射性廃棄物(新規発生分)については、現在の政策判断で発生を阻止できるものであり、「将来世代に対する無責任」となる再稼働は容認できないという「暫定保管と社会的合意形成に関する分科会」の「報告」には、(そもそもどんな条件を満たそうが再稼働は容認できないという主張は主張として)非常に説得力が高いと思います。
 再稼働阻止の理論的枠組みの基本は、この高レベル放射性廃棄物の問題だと思いますの
で、今回の日本学術会議・分科会「報告」を十分に活用すべきだと思い、ご紹介しました。