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「日米地位協定」すら守られていない日米関係をどのように考えたらよいのか~基地騒音賠償金の「分担」をめぐって

 今晩(2014年11月9日)配信した「メルマガ金原No.1904」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日米地位協定」すら守られていない日米関係をどのように考えたらよいのか~基地騒音賠償金の「分担」をめぐって
 
 天木直人さんのブログを読んでいて教えられた情報に基づいて調べてみたところ、以下のような記事を見つけて驚きました。
 
西日本新聞 2014年11月5日 朝刊
基地騒音賠償金、米側不払い 日本が112億円超肩代わり

(抜粋引用開始)
 米軍機などの騒音被害をめぐり、国に基地周辺住民への損害賠償を命じる判決が確定し
た全国13訴訟で、日米地位協定に基づき日米が共同で支払うことになっている賠償金の支払いを米側が一切拒否し、総額約221億円に上る損害賠償金の全額を日本側が負担していることが、防衛省への取材で分かった。米側に協定上は支払い義務があるのに、日本側
が肩代わりしている金額は少なくとも112億円を超す可能性が高い。
 地位協定18条は、米軍が公務中に損害を与えた賠償の負担割合を(1)米側だけに責任
がある場合は「米側75%、日本側25%」、(2)双方に責任がある場合は「均等に分担」-と定めている。米軍優位の地位協定すら守られず、国民にツケが回っている格好だ。
 防衛省によると、在日米軍基地や米軍が一時使用する自衛隊基地の騒音訴訟で、住民への賠償を命じる判決が確定したのは、嘉手納基地(沖縄県)3件▽普天間飛行場(同)1件▽横田基地(東京都)4件▽厚木基地(神奈川県)3件▽小松基地(石川県)2件-。賠償金は総額約169億1千万円で、訴訟に伴う遅延損害金を含めると約221億2千万円に上る。
 日本政府は「米国との協議の詳細を公にすると、信頼関係が損なわれるおそれがある」(20
09年の政府答弁書)として訴訟ごとの米側の分担額などを明らかにしていない。このため地位協定の規定から米側が負担すべき金額を試算。米軍専用の嘉手納、普天間、横田の3基地(横田は12年からは日米共同使用)は75%、その他の日米共同使用基地は50%の負
担割合で計算すると、少なくとも約112億6千万円(遅延損害金を除く)になる。
 米側が支払いを拒否している賠償金は、1993年の最初の確定判決から2013年の直近
の判決まで、日本側が全額を立て替え払いしている。防衛省は「日米地位協定に基づき米側に分担を要請し、協議を重ねている。しかし、分担のあり方について両国政府の立場が異
なり、妥結していない。今後も協議していく」(報道室)としている。
(略)
(引用終わり)
 
 おそらくこの報道がきっかけとなったのでしょうが、同日(11月5日)午後の記者会見において、菅義偉(すがよしひで)官房長官は以下のように記者の質問に答えています(記者会見動画の4分53秒~)。

「政府としてはですね、米国政府に損害賠償金等のですね、分担を要請するという立場
で、今日まで協議を重ねています。現時点に至るまでですね、日米間の立場は異なっておりですね、妥結を見ていない訳でありますけども、日本政府としてはですね、立場の相違、これを解決すべく協議を行ってまいりたと思います(語尾不明瞭)」「米軍の騒音訴訟の関係に基づいてですね、損害賠償等の日米地位協定に基づいて、分担金のあり方については、最高裁のですね、裁判を受けて以来、ずうっと米国と協議してきた訳ですけども、しかしそれは立場が違う中で、まだ解決を見てないから、それは交渉し続けるということです」
 
 1960年に締結されたいわゆる日米地位協定(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)18条(1つの条文だけで相当に長い)の中で、本件騒音訴訟に基づく損害賠償債務について関連する第5項のみ引用します。
 
第十八条
5 公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆
国軍隊が法律上責任を有するその他の作為、不作為若しくは事故で、日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権(契約による請求権及び6
又は7の規定の適用を受ける請求権を除く)は、日本国が次の規定に従つて処理する。
(a)請求は、日本国の自衛隊の行動から生ずる請求権に関する日本国の法令に従つて、
提起し、審査し、かつ、解決し、又は裁判する。
(b)日本国は、前記のいかなる請求をも解決することができるものとし、合意され、又は裁判
により決定された額の支払を日本円で行なう。
(c)前記の支払(合意による解決に従つてされたものであると日本国の権限のある裁判所に
よる裁判に従つてされたものであるとを問わない)又は支払を認めない旨の日本国の権限の
ある裁判所による確定した裁判は、両当事国に対し拘束力を有する最終的のものとする。
(d)日本国が支払をした各請求は、その明細並びに(e(i)及び(ⅱ)の規定による)分担案
とともに 合衆国の当局に通知しなければならない。二箇月以内に回答がなかつたときは、そ
の分担案は、受諾されたものとみなす。
(e)(a)から(d)まで及び2の規定に従い請求を満たすために要した費用は、両当事国が次
のとおり分担する。
(i)合衆国のみが責任を有する場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された
額は、その二十五パーセントを日本国が、その七十五パーセントを合衆国が分担する。
(ⅱ)日本国及び合衆国が損害について責任を有する場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された額は、両当事国が均等に分担する。損害が日本国又は合衆国の
防衛隊によつて生じ、かつ、その損害をこれらの防衛隊のいずれか一方又は双方の責任として特定することができない場合には、裁定され、合意され、又は裁判により決定された額は、
日本国及び合衆国が均等に分担する。
(ⅲ)比率に基づく分担案が受諾された各事件について日本国が六箇月の期間内に支払
つた額の明細書は、支払要請書とともに、六箇月ごとに合衆国の当局に送付する。その支
払は、できる限りすみやかに日本円で行なわなければならない。
(f)合衆国軍隊の構成員又は被用者(日本の国籍のみを有する被用者を除く)は、その公
務の執行から生ずる事項については、日本国においてその者に対して与えられた判決の執
行手続に服さない。
(g)この項の規定は(e)の規定が2に定める請求権に適用される範囲を除くほか、船舶の
航行若しくは運用又は貨物の船積み、運送若しくは陸揚げから生じ、又はそれらに関連して生ずる請求権には適用しない。ただし、4の規定の適用を受けない死亡又は負傷に対する請求権については、この限りでない。
 
 つまり、在日米軍基地もしくは日米共用基地の周辺住民の騒音被害について損害賠償を命ずる判決が確定した場合には、まず日本政府が原告に対して全額の支払いを行った上で、「日本国が支払をした各請求は、その明細並びに(略)分担案とともに 合衆国の当局に通知しなければなら」ず、通知してから「二箇月以内に回答がなかつたときは、その分担案は、受諾されたものとみなす」ことになっているのですが、米国はいまだかつて「受諾」したことがないということなのですね。
 
 実は、この米国による「(日米地位)協定破り」は、別に今頃になって明らかになったことでも何でもなく、以前から日本政府自身が認めてきたところでした。
 
 西日本新聞の記事にも引用されていましたが、民主党政権が誕生した2ヶ月後の2009年11月、社民党照屋寛徳衆議院議員が以下のような質問主意書を提出していました。
 
米軍の航空機騒音に係る訴訟における損害賠償金等に関する質問主意書
平成二十一年十一月二十日提出 質問第九二号

(抜粋引用開始)
一 日本政府が被告として提訴され、確定した在日米軍の航空機騒音に係る損害賠償・離着陸差止請求等事件の提訴年月日、原告数、政府が支払った損害賠償金(遅延損害金及び訴訟費等を含む)の総額、裁判確定年月日を事件毎に明らかにした上で、上
記司法判断に対する政府の見解を示されたい。
二 前項と同種の訴訟で現在係争中の事件につき、その事件名、事件内容を特定した
上で政府の見解を示されたい。
三 第一項指摘の確定裁判で政府
が敗訴し、原告等に支払った損害賠償金に関して、日米地位協定第十八条第五項に基づくアメリカ合衆国政府への分担請求(求償権の行使)について、自公旧政権下では、対米交渉の経緯、日本側の分担請求の理由、米側の分担請求拒絶の理由等が全く明らかにされないままであった。鳩山新政権が、「対等で緊密な日米関係」の構築を目指すのであれば、主権国家として日米地位協定第十八条第五項に基づく分担請求の経緯・状況について、納税者たる国民が納得のいく対米交渉を行い、その説明責任を尽くすべきであると考えるが、政府にその用意はあるか。
 また、政府は、自公旧政権下における前記確定裁判の損害賠償金分担請求について、対米交渉の経緯を明らかにされたい。その上で、日米地位協定第十八条第五項に基づくアメリカ合衆国政府への損害賠償金分担請求に関する鳩山新政権の見解及び今後の方針を示されたい。
(引用終わり)
 
 これに対する鳩山内閣の答弁は以下のとおりでした。
 
米軍の航空機騒音に係る訴訟における損害賠償金等に関する質問に対する答弁書
平成二十一年十二月一日受領 答弁第九二号

(抜粋引用開始)
一について (略)
二について (略)
三について
 米軍機による騒音に係る訴訟に関する損害賠償金等の日米地位協定に基づく分担の在り方(以下「本件分担の在り方」という。)については、我が国政府はアメリカ合衆国政府に対して損害賠償金等の分担を要請するとの立場で協議を重ねてきたが、本件分担の在り方についての我が国政府の立場とアメリカ合衆国政府の立場が異なっていることから、妥結を見ていない。アメリカ合衆国政府との具体的な協議の詳細については、これを公にすると同国政府との信頼関係が損なわれるおそれがあること等から答弁を差し控えたいが、政府としては、本件分担の在り方についての立場の相違の問題の解決に向け、今後とも努力していく所存である。
(引用終わり)
 
 つまり、11月5日の記者会見で菅義偉官房長官が答えた内容は、要するにこの「答弁書」を踏まえた「公式見解」を繰り返しただけという訳です。
 余談ですが、首相記者会見や官房長官記者会見で質問する記者は、事前に「質問通告」をしなければならないことになっているのでしょうね。そうでなければ、答弁用の資料を官僚が準備できないでしょうから。
 
 日米地位協定については、以前、前泊博盛さん編著になる『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』をご紹介したことがありました。
 
 
 それにしても、騒音訴訟判決に基づく損害賠償債務の「分担」についての「立場の相違」って一体何でしょうね?
 米国政府に直接取材して報道しようというメディアはないのだろうか?(もしも今までにあったのなら「知らなくてご免なさい」ですが)。
 
 実は、今日は、日本弁護士連合会が今年の2月に公表した「日米地位協定に関する意見書」と、その内容をより分かりやすく説明したパンフレット「日米地位協定の改定を求めて-日弁連からの提言-」(2014年10月)の概要をご紹介しようと思っていたのですが、そもそも現行の日米地位協定すら、「立場の相違」によって守ろうとしない米国政府と、事実上それを容認しているに等しい日本政府の姿勢について調べているうちに、これ以上書いている余力がなくなってしまいました。
 そこで、以下に意見書とパンフレットにリンクしておきますので、(長いものではありますが)是非時間をみつけてお目通しいただければと思います。
 
 
 
 しかし、日弁連がいかに日米地位協定の「改定案」を提言しても、よしんば、そのような「改定」がなされたとしても、「立場の相違」とさえ言えば守らなくても良いというのであれば、「むなしい」と言うのもおろかですね。
 結局、「立場の相違」というのは、米国が「戦勝国」であり、日本が「敗戦国」であるというこ
とに行き着かざるを得ないのかもしれず、だとすれば、これは実に根が深い。
 日米関係の原点をこのように解しながら、虚無主義や極右、極左に走らず、粘り強く状況を好転させようと奮闘している人々に対して、満腔の敬意を表するしかありません。