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朝日出版社第二編集部の販売戦略に注目!~伊勢﨑賢治著『本当の戦争の話をしよう―世界の「対立」を仕切る』を1章までWEB上で「立ち読み」する

 今晩(2015年1月16日)配信した「メルマガ金原No.1972」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
朝日出版社第二編集部の販売戦略に注目!~伊勢﨑賢治著『本当の戦争の話をしよう―世界の「対立」を仕切る』を1章までWEB上で「立ち読み」する

 朝日出版社という、朝日新聞とは何の関係もないのに、時々間違われて迷惑を被ったりする出版社があ
ります。
 私にとっては、買いはしなかったものの、篠山紀信氏の写真集『water fruit』(モデル:樋口可南子)や『Santa Fe』(モデル:宮沢りえ)で有名な出版社という認識しかなかったのですが、聞くところによると、語学関係の雑誌や書籍の版元として非常に著名な存在のようです。
 
 その朝日出版社に第二編集部というのがあるようで(第一編集部が語学関係で、第二編集部が一般書籍を担当しているのでしょうか?)、「朝日出版社 第二編集部ブログ」という、かなりユニークなブログがあることを最近知りました。
 
 朝日出版社から著書を刊行した著者の寄稿や講演録などが掲載されており、単なる新刊のプロモーションの一環というにしては「こり過ぎ」ではないかと思える優れたコンテンツがアップされています。
 さらに、このブログには、興味深い取組も見られます。
 
 実は、私がこのブログにたどり着いたのは、伊勢﨑賢治さんの新刊『本当の戦争の話をしよう―世界の「対立」を仕切る』の情報を検索していてのことでした。
 
 
 
 
 この1月15日に刊行されたばかりの新刊について、この第二編集部のブログには、「伊勢崎さんが「気がついたときには、こちらが丸裸にされていた」と語る5日間の講義録。扱うテーマは「テロリスト」との戦い、「自衛」と戦争の関係、国連武力行使のジレンマ、著者がかかわった国での核の問題についてなど。現場の迫力に触れ、日本内部の視点をちょっと抜け出て、生涯出会うことのない異なる価値観と出会う時、何がもたらされるか。それを体感できる講義を目指しました。「まえがき」と目次を公開いたします。全国の書店さんで、ぜひお手に取ってみてください。(編集部)」と紹介されていました。
 
『本当の戦争の話をしよう―世界の「対立」を仕切る』 まえがき 目次
 
 これだけなら、他の出版社のWEBサイトでも時々見かける、ごく普通のやり方ですが、驚くのは、発売前に、この新刊の「講義の前に」と「1章 もしもビンラディンが新宿歌舞伎町で殺害されたとしたら」が公開されていたことです。
 
 
 目次を読めば分かるとおり、この新刊は5章で構成されています。
 
まえがき
講義の前に――日本の平和って、何だろう?
1章 もしもビンラディンが新宿歌舞伎町で殺害されたとしたら
2章 戦争はすべて、セキュリタイゼーションで起きる
3章 もしも自衛隊が海外で民間人を殺してしまったら
4章 戦争が終わっても
5章 対立を仕切る
あとがき
 
 この内、「まえがき」「講義の前に」「1章」という、おそらくは全体の約1/4に相当する部分が刊行前にWEB上で公開されたのですから、これは相当に大胆な戦略だと感心した次第です。
 それで、この公開部分を読んだ私がどうしたかというと・・・すぐに事務所近くの書店に足を運んだのですが、嫌中嫌韓本は目立つ場所に山積みされていたものの、伊勢﨑さんの新刊は見当たらず、やむなく事務所に戻ってネット通販で注文しました。数少ない書店がこんな有様なので、いよいよ書店から足が遠ざかってしまうのもやむを得ない、などと慨嘆しています。
 
 それはさておき、私の場合は、朝日出版社第二編集部の戦略にまんまと乗った訳ですが、他の人はどうなんでしょうか?
 私のように、伊勢﨑さんの講演を2度まで聴講し、その内昨年11月の講演会の際には打ち上げで伊勢﨑さんのトランペットの腕前をかぶりつきの席で堪能させてもらったというような特殊なファンでなくても、1章まで読んで感心した人は、「2章~5章も読みたい」と思うでしょうから、買ってくれる確率は相当に高まるような気がしますので、この販売戦略は、(著者の理解が得られれば)かなり一般化が可能な手法ではないか、という気がします。
 
 さて、ということで、私はまだこの本の2章以降は読んでおらず(週明けには届くでしょうが)、読後感を書けるとしてもその後ということになります。
 ただ、1章まで「立ち読み」したところで、これは購入する価値があるという私の意見を皆さまにお伝えし、少なくともWEB上で「立ち読み」されてはいかがですか?とお勧めしようということです。
 
 「まえがき」にあるとおり、この新刊は、2012年1月から2月にかけて、延べ5回にわたり、福島市にある県立福島高校において、18人の2年生を対象として行った特別講義の講義録をもとにして加筆したものです。
 最後に「まえがき」の一節をご紹介しましょう。これで、あなたも注文したくなりませんか?
 
(引用開始)
 「平和」と「正義」の関係は一筋縄ではいかなくても、やはり、何の罪もない一般民衆が、自らがつくったのではない原因で命を落とすことは、何とか最小限にとどめたい。でも、その「脅威」の形成に、実
は、罪のない民衆自身も主体的にかかわっているとしたら。
 こんな自問自答が、日本に落ち着き、大学に身を置くようになって以来、日増しに強くなっていった。
僕自身、当事者としての「脅威」の実態を見つめる機会と仲間がほしかった。
 福島高校の彼らは被災者である。さらに、原子力産業というひとつの構造的暴力の被害者側にいる。ヘ
タなことを言ってガラス細工のように壊れちゃったら……。
 杞憂であった。
 彼らのほうが冷静で、かつ辛辣な観察にユーモアを添える余裕も持ち合わせていた。5日間延べ20余時
間に及ぶ授業のなか、僕自身が「日本人のありよう」を思い知らされる場面があったのだが、そんなとき
も、うろたえる僕を慮るおおらかささえ感じた。
 震災、そして原発事故という非日常のなかにいた彼らと、国際紛争という通常の日本人には非日常な世
界を、単に知識・情報の伝達ではなく、どこまで共有できるか。
 その試みは、予想以上にスリリングであった。
(引用終わり)
 
(付記)
 「朝日出版社 第二編集部ブログ」に掲載されているコンテンツには、この他にも色々お薦めできるも
のがありそうです。例えば・・・
大澤真幸「時評」 4. 原発問題と四つの倫理学的例題
 もっとも、中川恵一「放射線のひみつ」というような、全くお薦めできないコンテンツもありますけどね。