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陸上自衛隊は何のために砂漠戦の訓練をしなければならないのか?~西日本新聞の報道を読んで

 今晩(2015年2月7日)配信した「メルマガ金原No.1994」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
陸上自衛隊は何のために砂漠戦の訓練をしなければならないのか?~西日本新聞の報道を読んで

 2月3日付の西日本新聞朝刊に掲載され、同月5日の同紙WEB版にアップされた以下の記事には驚きました。
 
西日本新聞 2015年2月3日付 朝刊 
WEB版 2015年02月05日(最終更新 2015年02月06日 10時06分)
中東想定? 陸自、砂漠で対テロ戦闘訓練

(抜粋引用開始)
 自衛隊が昨年1~2月、米国西部の砂漠地帯で、中東での対テロ戦争多国籍軍の一員としての武力行使を想定したとみられる戦闘訓練を、米陸軍と共同で行っていたことが分かった。集団的自衛権の行使を限定容認した同年7月の閣議決定後も、安倍晋三首相が一貫して否定する中東での戦闘参加を連想させる。日本にはない砂漠での訓練が、国土を守る「専守防衛」の自衛隊になぜ必要なのか。「イスラム国」など過激派組織が勢力を強める中東・アフリカ地域で、米軍と肩を並べて戦う布石ではないのだろうか。
 防衛省によると、全国の陸上自衛隊部隊が北富士演習場(山梨県)で実戦形式の訓練をする際、敵役を担う陸自富士学校の部隊訓練評価隊約180人が渡米。米カリフォルニア州モハーベ砂漠にある米陸軍戦闘訓練センター(NTC)に、74式戦車や96式装輪装甲車を持ち込んで約1カ月間、米陸軍第1軍団の部隊と訓練をした。
(略)
 集団的自衛権の行使容認に伴い、自衛隊の海外活動が広がる見通しだが、安倍首相は昨年10月の国会で「イラク戦争やアフガン戦争のような戦闘に参加することはない」。今月2日の参院予算委員会でも「日本が(イスラム国への)空爆などに参加することはあり得ない」と述べた。
 ただ、離島侵攻など日本有事を想定した従来の日米共同訓練と、今回の訓練はまったく異なる。目的は何か‐。元防衛庁官房長の柳沢協二氏は「日本防衛の訓練でないことは明らか。自衛隊の活動拡大を目指す政治の動きを見て、自衛隊側が任務を先取りしたのだろう。政治が訓練をどこまで把握していたのか、実際にそんな任務を考えているのかが問題だ」と語った。
 防衛省陸上幕僚監部は取材に「今回の訓練の想定については回答を控える。あくまで日米が共同作戦を実施する場合に備え、米軍との相互連携要領を演練(本番さながらの訓練)したものだ」と説明した。
(引用終わり)
 
 なお、上記記事の中で(略)した箇所は、「軍事フォトジャーナリストで、この訓練を現地取材した菊池雅之氏」が見聞した内容についてのコメントを西日本新聞がまとめた部分ですが、要するに同氏は「同行取材者」であり、その公式Twitterで紹介されている主要著書のタイトル(『がんばれ女性自衛官』『新版 よくわかる!艦艇の基礎知識』『こんなにスゴイ最強の自衛隊』)から考えても、同氏自身が陸上自衛隊がそのような訓練を行うことに疑問を抱いているとは(少なくとも表向きには)考えにくく、西日本新聞の取材に協力し、写真を提供したことを後悔している可能性がありますので、あえて引用は控えました。興味のある方は(あるに決まっていると思いますが)リンク先でお読みください。
 
 ちなみに、「スクープ続報」と(WEB版では)銘打った以下の記事もお読みください。
 
西日本新聞 2015年2月5日付 朝刊  
WEB版 2015年02月05日(最終更新 2015年02月06日 10時53分)
「砂漠戦を自衛隊に指導」米陸軍公式サイト

(抜粋引用開始)
 陸上自衛隊が昨年、中東を模した米国の砂漠地帯の演習場で対テロ戦闘訓練をしていた問題で、共同訓練をした米陸軍側が、公式サイトで「イラクアフガニスタンに多くの派遣経験がある米軍部隊」が「砂漠での戦闘隊形や戦車演習について自衛隊を指導した」などと説明していることが分かった。国土を守る専守防衛自衛隊が、中東を連想させる演習場で戦闘訓練をしたことに、識者からは疑問の声が出ている。
 演習場は、カリフォルニア州の砂漠にある米陸軍戦闘訓練センター(NTC)で、広さは約3千平方キロ。米陸軍の公式サイトには、陸自富士学校の部隊訓練評価隊が共同訓練をした第1軍団第2歩兵師団第3ストライカー旅団戦闘団は「イラクとアフガンに多く展開され、次の歴史的な局面に備えている」と表記。M1戦車8両が陸自部隊の指導役を務めたという。
 演習場は、対ゲリラや暴徒などの訓練機能を備え、陸自が利用するのは初めてと説明。訓練後、陸自幹部が「米陸軍との統合は印象的だった。われわれは同じ目的を達成するために米陸軍と並んで戦える」と述べたと記載している。
(略)
 憲法に関する著作が多い伊藤真弁護士の話 自衛隊側が演習場を選んだわけではないと言っても、日本にない砂漠での戦闘訓練は憲法9条の下での専守防衛から逸脱するのは明らか。シナリオも、多くの国民が反対する集団的自衛権の行使が前提になっている。国会で安全保障法制をめぐる議論が続いており、政府は説明責任を果たす義務がある。
(引用終わり)
 
 一体、この共同訓練について、防衛省自衛隊はどのように国民に発表していたのか?裏をとってみることにしました。
 陸上自衛隊の以下のプレスリリースがそれです。これは全文引用します。
 
平成25年度米陸軍戦闘訓練センターにおける訓練の概要について
25.12.17 陸幕広報室

(引用開始)
 陸上自衛隊は、次のとおり平成25年度米陸軍戦闘訓練センターにおける訓練を実施しますので、お知らせいたします。
1.目 的
 米陸軍戦闘訓練センターに部隊を派遣し、実戦的な訓練環境の下、陸上自衛隊の練度を確認するとともに、日米が共同して作戦を実施する場合における相互連携要領を演練し、相互運用性の向上を図る。
2.訓練期間
 平成26年1月13日(月)~2月9日(日)
3.場 所
 アメリカ合衆国カルフォルニア州フォート・アーウィン
4.担任官
 富士学校長
5.訓練実施部隊
(1) 陸上自衛隊
 ア 富士学校部隊訓練評価隊基幹
 イ 人 員
   約180名
 ウ 主要装備
   89式5.56㎜小銃、5.56mm機関銃、12.7mm重機関銃、84mm無反動砲、87式対戦車誘導弾、74式戦車、96式装輪装甲車等
(2) 米陸軍
 ア 第1軍団第2歩兵師団第3ストライカー旅団戦闘団基幹
   (米国ワシントン州ルイス・マッコード統合基地駐屯部隊)
 イ 人 員
   約4,000名
 ウ 主要装備
   5.56mm小銃、81㎜迫撃砲、ストライカー等
6.問い合わせ先
 陸上幕僚監部広報室(03-3268-3111)
(引用終わり)
 
 「日米が共同して作戦を実施する場合における相互連携要領を演練し、相互運用性の向上を図る。」と言われても、米軍がそもそもどのような「作戦」を想定しているか知らないままで出向くなどということはあり得ず、それなりの砂漠戦の装備を携えて陸自カリフォルニアに行ったのでしょう。
 なお、共同訓練の写真を掲載することの多い陸上自衛隊公式Facebookをざっと調べてみましたが、この時の共同訓練の写真は見つけられませんでした。
 
 ネトウヨの皆さんがこの西日本新聞の記事に罵詈雑言を投げつけていることは言うまでもありませんので、一々引用などはしません。日本には鳥取砂丘があるのだから砂漠戦の訓練も必要という主張などは笑わせますが、そういう微笑ましい(?)コメントならまだしも、この種の投稿の何が気に入らないといって、生身の自衛隊員に対する敬意が全く感じられないことでしょう。
 これは、私たちも自戒すべきことなのですが。
 
 ただし、陸上自衛隊がアメリカ国内の演習場で砂漠戦を想定した訓練を実施したのがこの2014年1月~2月が最初かどうかは疑問があるところで、もしかすると、今さら珍しくもないことかもしれないのです。
 そうであっても、というよりも、そうであればなおさら、西日本新聞の今回の報道は賞賛に値すると思います。私たちは、自衛隊が何をしているのか?ということにもっと目を向ける必要があります。