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「慰安婦」問題に立ち向かう「強い意志」~大沼保昭氏と朴裕河氏の会見(2/23日本記者クラブ)を視聴して

 今晩(2015年3月1日)配信した「メルマガ金原No.2016」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。

 

慰安婦」問題に立ち向かう「強い意志」~大沼保昭氏と朴裕河氏の会見(2/23日本記者クラブ)を視聴して

 去る2月23日(月)、日本記者クラブにおいて、大沼保昭明治大学特任教授(東京大学名誉教授)と朴裕河世宗大学教授を招いた会見が開かれました。
 大沼保昭(おおぬま・やすあき)氏は、著名な国際法学者であり、また、アジア女性基金理事として、いわゆる「従軍慰安婦」問題に長年取り組まれてきた方です。
 また、朴裕河(パク・ユハ)氏は、日本文学研究のかたわら、いわゆる「慰安婦」問題についても積極的に発言し、また最新の著書『帝国の慰安婦』(日本版は昨年刊行)に対し、「ナヌムの家」の元「従軍慰安婦」から出版差止等が提訴されたということで話題となりました。

 このお2人の「慰安婦」問題についての見解・立場が必ずしも一致している訳ではないということは、以下にご紹介する会見動画を視聴すれば明らかですが、それにもかかわらず、このお2人が一緒に招かれたのは、日韓両国のいずれにも存在する、左派と右派というか、リベラル派と民族派というか、そのような極端な教条主義的見解とは一線を画し、様々な立場の者が参加した議論の機会を保障し、たとえ非常な困難が予想されるとしても、解決に向けた道筋を見出そうという姿勢に共通点があるということではないかと、私は、日本記者クラブ企画委員の意図を推測しているのです。
 
 なお、日本記者クラブの公式 YouTube チャンネルでこの日の会見動画を探したのですが見当たりませんでした。幸い、ビデオニュース・ドットコムに会見全編の動画がアップされていましたのでご紹介します。お2人が招かれ、それぞれしっかり発言していただいたからでしょうが、全部視聴しようとすると2時間17分もかかります。しかし、内容的にそれだけの時間を費やす価値はあると(視聴して)思いました。
 
慰安婦問題の解決」とは_朴裕河・世宗大学教授と大沼保昭アジア女性基金元理事が会見
 

 なお、日本記者クラブに「会見レポート」が掲載されていましたので引用します。
 
取り戻したい 関係改善に向けた意志
研究テーマ:慰安婦問題を考える

(引用開始)
 今年は、日本と韓国が国交正常化を果たして50年となる。しかし、島や歴史認識をめぐる問題で関係はこじれ切ってしまっている。どうやら関係改善の糸口は、旧日本軍による従軍慰安婦問題への対応に収れ
んされてきた感があるが、ここからどうすればいいのかが見えてこない。
 その意味で、この問題に長く携わってきた2人の話は貴重だった。会場はほぼ満員だったが、参加者も同じ思いだっただろう。両氏とも「政府間で突然合意ができても両国の国民は納得しないだろう」「政治
家には期待できない」と話したのが印象的だった。
 その上で大沼氏は、日本側が設立したアジア女性基金の活動について、日韓のメディア、NGOが正当に評価しなかったと批判した。全てが納得する解決策はもう難しいものの、韓国の元「慰安婦」だけにとどまらず、世界中の「慰安婦制度」の犠牲者の名誉回復に向けて視野を広げることが必要だと投げかけた
。考慮すべき指摘だと感じた。
 朴氏は、逆に「日韓の問題にとどめておきたい」と述べた。教科書問題で行ったように、元慰安婦問題にさまざまな意見を持つ人たちが参加する「協議体」を作り、議論の中身を公開することを提案した。それは、「日韓国交正常化まで14年かかったが、慰安婦問題は25年たっても解決できていない。せっかくな
ら欲張って両国の国民が新たな価値観を生み出し、日韓で共有したい」(朴氏)との思いからだ。
 大沼氏も朴氏も、さまざまな反発、批判にさらされながらもシンポジウムなどを開き、著書を通じて理解を広げようと努力している。その原動力は出口の見えない葛藤の中に積極的な意味を見いだし、関係改
善につなげるという「強い意志」だろう。われわれも、今その姿勢を取り戻さなければいけない。
東京新聞編集委員 五味 洋治  
(引用終わり)
 
 お2人の意見については、それぞれの著書をお読みいただくのが一番ですが、以下に、参考サイトをいくつかご紹介しておきます。
 併せて、アジア女性基金が活動を終えた後に残された「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」というサイトをご紹介した私のブログ(“慰安婦”問題を考える様々な視点(たとえば「アジア女性基金」)/2013年6月1日)もご参照いただければ幸いです。
 
大沼保昭氏】
(著書)
『「慰安婦」問題とは何だったのか―メディア・NGO・政府の功罪』(中公新書)

 
(参考サイト)
日本が誇るべきこと、省みること、そして内外に伝えるべきこと~「慰安婦」問題の理解のために
江川紹子氏によるインタビュー 2013年5月25日 12時35分

(抜粋引用開始)
 強制を示す文書がないから強制もなかったというのは、実にナンセンスです。文書は証拠の1つであって、あれだけ地域も年齢も境遇も違う人たちが、細部では異なる点はあっても、大筋のところで話は一致しているわけです。これは証拠がない、というのとは違う。文書がないから事実がないことにはなりません
。そもそも、そんな文書を作るはずもない。
 日本の民族、日本の国に誇りを持つことは大事なことです。誇りを持つに足る国だと思います。まず、そこははっきりさせましょう。特に、戦後の焼け野原から立ちあがり、豊かで安全で、自国より貧しい国には多額の経済援助、技術援助をする国を作り上げてきた。このことは、世界に胸を張って誇るべきこと
であり、もっと語られていいと思います。若い人たちにもぜひ誇りを持たせて欲しい。
 ただ、だからといってかつてやった戦争まで、自衛のためであって侵略ではなかったとか、南京大虐殺はなかったとか、それは違うでしょう。南京の被害者は30万人というのは嘘だとー嘘だと私も思いますが
ーそれをギャーギャー言うことで誇りを持たせようというのは違うと思います。
 日本が誇るべきは何か、を考えないといけないのではないですか。
(引用終わり)
 
【あの戦争と向き合う(中)】従軍慰安婦:もつれた糸、ほぐして 戦後の歩みこそ「誇り」
共同通信によるインタビュー 2014/08/19 16:00
 

(抜粋引用開始)
 
▽板挟み
 1995年に発足して募金を集め、首相のおわびの手紙とともに「償い金」を被害女性に渡した同基金
国際法学者としてサハリン残留朝鮮人など戦後補償問題に関わった大沼は、基金の構想づくりから立ち
会った。
 「政府が公式に謝罪し補償すべきだ」「償いの必要はない」。基金は正反対の意見の板挟みになった。「自宅に左右両派から抗議や脅迫の手紙と電話が殺到した」と苦笑する大沼は「左右」の主張を冷静に批
判する。
 日本軍の関与と強制性を認めた93年の河野談話を否定する動きには「『看護婦になる』などと業者にだまされた人が多い。日本軍は慰安所を黙認していた。法的、道義的に許されない行為に国家として関与
していたことの責任がある」。
 日本人の誇りを強調する勢力が、過去を反省する姿勢を「自虐」と断じることも危惧する。「戦争を反
省して、平和で安全で豊かな社会をつくってきた戦後の歩みこそが誇り」と力を込めた。
 ▽疲れ
 日本政府は65年の日韓基本条約で賠償は解決済みとの立場。国家補償を求めた主張には「自民党や官僚の抵抗を考えれば現実的な選択肢とは言えなかった。年老いていく被害者に何の償いも謝罪もないまま
でよかったのか」と問い掛けた。
 韓国では、支援団体やメディアが基金への批判を続ける中、多くの元慰安婦が償い金の受領を拒否。受け取った一部の女性は非難された。「自らが信じる『正義』だけを追求して、個々の被害者の思いを否定
するのは独善以外の何物でもない」と大沼は憤る。
 韓国側の強硬な態度が日本に「疲れ」を生んでいるとも言う。「謝罪の意思を示しても評価されないのでは、落胆やいら立ちが出てくる」。それがいびつな形で現れたのが最近の「嫌韓」論の高まりと分析す
る。
 大沼は韓国側の問題点を指摘しつつも、もつれた糸をほぐすのは日本側の思い切った対応と考える。「首相が被害者のところに行って深々と頭を下げてほしい。安倍晋三さんがやるはずがないというのが常識だが、だからこそ大きなインパクトがある。日本のため、東アジアのために決断をしてほしい」(敬称略

(引用終わり)
 
朴裕河氏】
(著書)
『帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い』(朝日新聞出版)

 
(参考サイト)
韓国で慰安婦問題に関する新しい本を出しました。ちょうど先日日本で講演の機会があったとき、この問題をめぐる日本での議論に添って本の内容の一部をまとめたのでアップしておきます。 
朴裕河氏 Facebook ノートより 2013年7月30日 11:37

 
慰安婦支援者に訴えられて(朴裕河氏)
ハフィントンポスト 2014年08月14日 13時09分

(抜粋引用開始)
 さる6月16日、ナヌムの家(注:元日本軍慰安婦の共同生活施設)に居住している元日本軍慰安婦の方々から、昨年の夏に韓国で出版した『帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い』を名誉毀損とみなされ、販売禁止を求めて訴えられるようなことがあった。(名誉毀損の刑事裁判、2億7千万ウォンの損害賠償を求める民事裁判、そして本の販売差し止め、三つの訴状が裁判所に出され、わたしにはこのうち差し止めと民事裁判の訴状だけが届いている。)刊行直後は多数のメディアがわりあい好意的に取り上げてくれた
のに、10ヶ月も経った時点でこのようなことが起こってしまったのである。
(略)
 しかし、事態が一段落したかのように見えた7月中旬、今度は『和解のために』への攻撃がはじまった。9年前に出した韓国語版は、翌年に文化観光部(政府)の「優秀教養図書」に選ばれていたが、例のナヌムの家の弁護士がその取り消しを求めていく、という記事が出たのである。そしてその記事が出た当日、文化体育部は早くも「選定経緯を調べる」とコメントを出した。この動きは、徴兵された朝鮮人日本兵の遺族ら、被害者団体と関係の深い研究者やナヌムの家の顧問弁護士が率いている。別の新聞が出したこうした記事を、朝鮮日報ハンギョレ新聞、両極の保守とリベラル系の両新聞が支え、ハンギョレ新聞は『
和解のために』が「日本の右翼を代弁」しているとまで書いた。
(引用終わり)  
※金原注 朝鮮日報ハンギョレ新聞の両社から攻撃を受けるというのは、日本で言えば、読売新聞と東京新聞の両社から厳しく非難されるようなものでしょうか。韓国でも日本でも、極端に意見が対立する問題について、第三の道を行くことは容易ではないということですね。