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憲法学者の矜恃~衆議院憲法審査会(6/4)における参考人質疑をじっくりと味わいたい

 今晩(2015年6月7日)配信した「メルマガ金原No.2114」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
憲法学者の矜恃~衆議院憲法審査会(6/4)における参考人質疑をじっくりと味わいたい

 約1週間、「志位和夫日本共産党委員長による質疑を読み解く」を連載している間にも、本来であればメルマガ(ブログ)で取り上げるべき材料がいくつかあった中でも、最も世間の耳目を集めたのは、6月4日(木)に衆議院憲法審査会で行われた参考人質疑において、自民・公明・次世代3党推薦の長谷部泰男氏(早稲田大学法学学術院教授)を含め、民主党推薦の小林節氏(慶應義塾大学名誉教授 弁護士)、維新の党推薦の笹田栄司氏(早稲田大学政治経済学術院教授)ら3人の参考人全員が、集団的自衛権行使を容認する安保法制を違憲と断じたことでしょう。
 ただし、Facebook別ブログにも書きましたが、長谷部泰男教授ほどの高名な憲法研究者の集団的自衛権についての見解を、議員数が激減した次世代の党ならともかく、弁護士資格を有する議員も多数所属する自民・公明両党の関係者が全く知らなかったなどということがあり得るのだろうか?というのが私の正直な疑問です。
 
 実際、昨年の3月28日には、日本記者クラブが長谷部教授を招いて集団的自衛権についての意見を聞き、すぐに動画がインターネットで公開されています。

(記者による会見リポート/抜粋引用開始)
 「憲法原理は国家の生き死にに関わることなので、そうそう変えてはいけない」。最も言いたかったのは
ここだろう。
 安倍政権が推し進める集団的自衛権行使容認の問題点を、難解な語り口ながら鋭く批判した。
 憲法解釈の変更で何が得られるのか。「その時々の政府の判断で憲法解釈が変えられるようになれば、
後の政府の判断で元に戻るかもしれない」
 そうした不安定さを「自己破壊的」と呼び、「政府の憲法解釈全体の将来を危うくしかねない」と警告した。批判は自民党首脳が最高裁の砂川判決をもとに言い出した「限定容認論」にも及ぶ。「素直にみれ
ば、判決は個別的自衛権の話をしたもの」とあっさり切り捨てた。
(引用終わり)
 
 この日本記者クラブでの会見の模様は、私もその後自分のブログでご紹介しました((増補版)日本記者クラブ・研究会の映像で考える“集団的自衛権”(北岡伸一氏、阪田雅裕氏、柳澤協二氏、長谷部恭男氏/2014年5月16日)。
 私はそこでこう書いていました。
特定秘密保護法についてはがっかりさせられた長谷部氏ですが、集団的自衛権についての様々な論点を説き明かしていく手際は、さすが一流の憲法学者の名に恥じないものだと思いました。
 そして、安保法制懇のメンバーには、このようなレベルの学者が1人もいなかったということをあらためて確認することになりました。
 ちなみに、長谷部教授は、「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人の1人でもあります。」
 
 そう、そもそも「今必要なことは、個別の政策に関する賛否以前に、憲法に基づく政治を取り戻すことである。たまさか国会で多数を占める勢力が、手を付けてはならないルール、侵入してはならない領域を明確にすること、その意味での立憲政治の回復である。そして、議会を単なる多数決の場にするのではなく、そこでの実質的な議論と行政監督の機能を回復することである。」と宣言して設立された「立憲デモクラシーの会」の、長谷部教授は設立時(2014年4月)からの呼びかけ人の1人なのです。
 「立憲デモクラシーの会」の設立については、もちろん私のブログでもご紹介しています(立憲デモクラシーの会が設立されました! ※追記あり/2014年4月18日)。
 
 それに、日本記者クラブでの会見動画に気がつかなかったとしても、あるいは「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人リストに気がつかなかったとしても、朝日新聞に不定期連載されていた長谷部泰男氏と杉田敦氏(法政大学教授/政治理論)の対談を全然読んだことがなかったとは考えられないけどなあ(結構大きな扱いの記事だったし)。
 少なくとも数百万人の人は長谷部教授の集団的自衛権に関する見解を読んで知っていたはずだけれど。
 自民党公明党の議員は読売、日経、産経、聖教新聞しか読んでおらず、朝日新聞は誰も読んでいないのだろうか?
 

 会員限定記事なので引用は控えますが、以下にご紹介する6月4日の衆議院憲法審査会で長谷部教授が述べられた意見は、ほぼ全て、1年前の朝日新聞で語っておられますよ。
 
 ということで、なぜ長谷部氏が6月4日の憲法審査会に、自民・公明・次世代推薦の参考人として呼ばれたのか、結局のところよく分かりません。
 政府の安保法制案を合憲だと言ってくれそうな憲法学者がいなかったのかといえば、菅義偉官房長官の言うように、「全く違憲じゃないという著名な学者もたくさんいらっしゃいます」という状況かどうかはともかくとして、最大数名くらいは「いないこともない」とは思います(専攻を憲法学に限らなければもっといますが)。
 ただし、長谷部泰男教授クラスの「著名な」学者が1人もいないということは断言できますけど。
 
(参考サイト)
明日の自由を守る若手弁護士の会
戦争法案は合憲って語る憲法学者、「たくさん」いるなら出てこーい

 とはいえ、自民・公明両党の中に、「官邸に一泡吹かせてブレーキをかけよう」という造反者がいたのではないか?というのはさすがにうがち過ぎで、残念ながらまあそんなことはないでしょうね。
 そもそも、衆議院TV(衆議院インターネット審議中継)によると、当日予定されていたテーマは「憲法保障をめぐる諸問題(「立憲主義、改正の限界及び制定経緯」並びに「違憲立法審査の在り方」)」というものであったようであり、最初の3人の参考人による基調発言は、このテーマに沿ったものでした。
 それにしても、この顔ぶれ(特に長谷部氏と小林氏)を見て、制度論だけで終わるはずがない位の想像はついただろうと思いますよね。まして、立憲主義もテーマなら、今正に立憲主義をゆるがす事態が進行しているのですから。
 
 
 長谷部参考人は特に立憲主義について、小林参考人憲法の保障(改正等)について、笹田参考人違憲立法審査制を中心に話をされています。
 長谷部教授の基調発言は、日本記者クラブでの会見のさわりを述べたようなものですが、その分、立憲主義とは何かを10分余りでコンパクトに説明されており、分かりやいと思いますよ。
 
長谷部恭男参考人 早稲田大学法学学術院教授) 9時 02分 12分
 

小林節参考人 慶應義塾大学名誉教授 弁護士) 9時 14分 15分


笹田栄司(参考人 早稲田大学政治経済学術院教授) 9時 29分 21分


 その後、自民党山田賢司議員、民主党中川正春議員、維新の党の小沢鋭仁議員、公明党北側一雄議員、日本共産党の大平喜信議員、次世代の党の園田博之議員が、この順番でそれぞれ15分の持ち時間の範囲内で各参考人に対する質問をしたのですが、最初の質問者・山田賢司氏(自民党)の質問は、あいも変わらぬ押しつけ憲法論に拘泥するもので、昨年2月26日の参議院憲法審査会で「憲法自体が憲法違反の存在」というばかげた発言をした赤池誠章議員(赤池誠章氏(自民党)の参議院憲法審査会(2/26)での発言から考える/2014年3月2日)とほとんど同レベルでした。自民党は、両院の憲法審査会にもっとまともな議論のできる有能な議員を配置する必要性を感じていないのだろうか?(よほど憲法をなめているということかもしれない)
 
山田賢司自由民主党) 9時 50分 16分
 

 ということで、現在特別委員会で審議中の安保法制が違憲かどうかについての意見を3人の参考人全員に求めたのは、2人目の質問者・中川正春氏(民主党)でした。
 中川委員が持ち時間の約2/3(10分)を過ぎた頃、「率直にここでお話聞きたいんですけども、先生方は、今の安保法制、憲法違反だと思われますか?それともその(許容範囲の)中に入ってると思われますか?先生方が裁判官となるんだったら、どのように判断なさいますか?」と質問したのに対し、各参考人は以下のように答えました(動画を見ながら自分で文字起こししてみました)。
 
中川正春民主党無所属クラブ) 10時 06分 15分
 

長谷部泰男参考人 安保法制っていうのは多岐にわたっておりますもんで、その全てという話にはなかな
かならないんですが、まずは集団的自衛権の行使が許されるというその点について、私は憲法違反であるというふうに考えております。従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつきませんし、法的な安定性を大きく揺るがすものであるというふうに考えております。
 それからもう1つ、外国の軍隊の武力行使との一体化に自衛隊の活動がなるのではないのか、その点に関しまして、私はその点については、一体化する恐れがきわめて強いというふうに考えております。従前の戦闘地域、非戦闘地域の枠組を用いた、いわばバッファーを置いた、余裕を持ったところで明確な線を引くという、その範囲内での自衛隊の活動にとどめておくべきものであるというふうに考えております。
 
小林節参考人 私も違憲と考えます。憲法9条に反します。9条の1項は、国際紛争を解決する手段としての戦争、これはパリ不戦条約以来の国際法の読み方としては、侵略戦争の放棄。ですから我々は、自衛のための何らかの武力行使ができると留保されています。ただし、2項で軍隊と交戦権が与えられておりませんから、海の外で軍事活動をする道具と法的資格が与えられておりません。ですから、自民党政府の下で、一貫して警察予備隊という第二警察としての自衛隊を作って。だからこそ軍隊と違って、腕力について、比例原則(を守ることととされている)、軍隊に比例原則なんかありません、軍隊は勝つために何やってもいいんですから、本来、世界の常識。比例原則で縛られて、警察のごときふるまい。だから、攻めてこられたら、我が国のテリトリーと周辺の公海と公空を使って反撃することが許される。例外的に、元から絶たなければいけない場合に、理論上敵基地まで行けるという、この枠組はずっと自民党が作って守ってきたもので、私も正しいと思っています。この9条をそのままにして、海外派兵、集団的自衛権ていうのは、色々定義はありますが、国際法ってのはまだ、法自体が戦国乱世の状態で、中心的有権機関なんかないわけですから、世界政府がないわけですから。ですから、それぞれが色々言って、およそのところからいけば、少なくとも、仲間の国を助けるために海外に戦争に行く、これが集団的自衛権じゃないという人はいないはずです。これをやろうということですから、これはもう憲法9条、とりわけ2項違反
 それから、先ほど長谷部先生おっしゃった後方支援というですね、日本の特殊概念ですが、要するに、
戦場に後ろから参戦するだけの話でありまして、前から参戦しないよってだけの話でありまして、そんなふざけたことでですね、言葉の遊びをやらないで欲しいと本当思います。これも恥ずかしいところです。
ですから、露骨に憲法(違反)。
 今、公明党と法制局が押し返してますよね。でも、あの通りだったら、何も集団的自衛権という言葉い
らないじゃないですか。個別的自衛権に押し戻したんですか?という疑問もあります。以上です。
 
笹田栄司参考人 ちょっと違った確度から申し上げますと、たとえば日本の内閣法制局は、ずっと自民党政権とともに、安保法制をずっと作ってきてたわけです。そして、そのやり方は非常に、本当ガラス細工と言えなくもないですけども、本当にぎりぎりのところで保ってきてるんだなあということを考えておりました。で一方、たとえばヨーロッパのコンセーデターのような、法制局の、日本の原型となりますが、あそこは、憲法違反だと言っても、時の大統領府なんかが押し切って「じゃあやるんだ」ということで、きわめてクールな対応を取ってきて、そこが大きな違いだったと思うんですね。ところが、今回私なんかはやっぱり、従来の法制局と自民党政権の作ったものが、ここまでだよな、というふうに本当に強く思ってましたので、お二方の先生のおっしゃいましたように、今の言葉では、定義では踏み越えてしまったということで、やはり違憲の考えに立ってるわけです。
 
 以上の発言を受けて、中川正春議員以降の質問者は、この問題に触れざるを得なくなったのですが、とりわけ安保法制に関する与党協議で公明党の代表を務めた北側一雄議員は、この点についてどうしても突っ込まざるを得ませんでした。
 ただし、裁判における証人尋問でもそうなのですが、自分にとって不利な証言をした証人に対する反対尋問ほど難しいものはなく、証言の信用性を減殺(げんさい)しようとして尋問しても、たいていは相手の主張をさらに固めるだけの逆効果にしかならないことが多く、まさに北側氏の質問がその典型です(北側氏は弁護士でもありますが)。
 北側氏への3人の参考人の回答はみんな参考になるので、是非視聴することをお勧めしますが(笹田教授の回答には思わずにやりとしてしまいました)、ここでは長谷部教授の答え(4分~)のみ文字起こしします。
 
北側一雄公明党) 10時 37分 18分
 

長谷部泰男参考人 先生ご指摘のとおり、憲法9条見ただけでは自衛の限界というのははっきりと分からないわけです。ただ、文言を見た限りでは、たとえ自衛が認められるとしても、極めて極めて限られているに違いないことは、それはだいたい分かります。でその上で、内閣法制局を中心として、紡ぎ上げてきた解釈があるわけでして、解釈というのは何のために存在するかというと、先生ご指摘のように、文言を見ただけで、条文を見ただけで分からない、分からない場合に解釈を通じて意味を確定をしていくということになります。従来の政府の見解というのは、我が国に対する直接の武力攻撃があった場合、かつ、他に代替する手段がない、必要性があるという場合に、必要な最小限度において武力を行使する、それが自衛のための実力行使だということを言っていたわけでございまして、これはまことに意味は明確であるというふうに私は考えます。ただ、昨年7月1日において示されていた限定的ながら集団的自衛権行使ができる場合があるのであるという変更がなされているわけなんですけども、その結果、一体どこまでの武力の行使が新たに許容されることになったのか、この意味内容が、少なくとも従来の色々な先生方のご議論を伺っている限りでは、はっきりしていない。文言を見ただけで分からないから、意味を明確にするために解釈をしているはずなんですが、解釈を変えたために、意味がかえって不明確化したのではないかというふうに私は考えておりますし、また先ほどの繰り返しになりますけれども、従来の政府の見解、ご指摘の憲法13条に言及された、その基本的な論理の枠内に収まっているかといえば、私は収まっていないと思います。他国への攻撃に対して武力を行使するというのは、これは自衛というよりはむしろ他衛でございまして、そこまでのことを憲法が認めているのかと、そういう議論を支えることは私はなかなか難しいのではないかというふうに考えているということでございます。 
 
 あと、順序はやや先後しますが、残る3党からの質疑の動画もご紹介しておきます。
 
小沢鋭仁維新の党) 10時 21分 16分
 

大平喜信(日本共産党) 10時 55分 16分


園田博之(次世代の党) 11時 11分 16分


 国会における参考人質疑がこれだけ注目を集めるのは非常に珍しいことです。せっかくこれだけの注目が集まったのですから、3人の参考人の意見そのものをしっかりと受け止める人を少しでも増やしたい。そういうつもりでこの記事をまとめました。